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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十四章 厄災の母体
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罪悪の残滓

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 なんと、この部分は大人の事情により二分されました。この次の部分が推敲が必要だったという理由でした。このペース配分のズレは今後の課題ですね。

 次回の更新は来週月曜日15日20時に公開されます! 次回もご覧いただければ幸いです!



 慰霊碑からリユニオン跡地は車で数十分程度の山奥に位置しているが、その場所まで車で行くことはできず、途中で車を置かなければならない。

 そのため、ミラとルネはリユニオン跡地近くのギリギリ舗装されている道に駐車し、ズタボロの道を山狩りのように進んでいく。


「しかし、リユニオンがこんなところに非人道的な研究所を持っていたなんてしれたら、色々な失墜になるわな」

「ミラがいた孤児院もリユニオンが経営していたんでしょう? どうだったの?」

「俺があそこにいたの5歳までだぞ? 覚えているわけないだろ」

「特段思い出に残るようなこともなかったんだね」

「そりゃな。そっからはお前の子守がメインだったんだしさ、特段ないよ。小さいときからお締め交換したりしてたし?」

「それは勘弁してよ」

「お前のおむつ……」

「やめろ」


 エノクδの母体としてのルネは、あの事件後に旧国境区に作られたログハウス、現在のミラとルネの自宅に隔離されることになった。


 ルネは暫くの間、一人でログハウスに隔離され、定期的に来る小間使いが彼の面倒をみるという流れであった。その間にリユニオンは、ルネのエネルギーをコントロールする術を講じていた。

 そこで、リユニオンはとある発見をする。


 リユニオンが抱えていた孤児院に所属していたミラが、どういうわけかわからないが、ルネのエネルギーを安定させる作用があることを発見し、急遽ミラをルネとともに住まわせるという対処を行ったのだ。

 以降、ミラはルネの子守をしていたことから、ミラにとってルネは子どものような存在でもあるのだ。


 そのため、ミラとルネの関係はやや特殊である。単純な恋人や家族ではなく、教師や友達のように離れた関係という側面もあるため、時折このように衝突してしまうこともある。

 一方で、それもかなり長い間続いているので、お互いに対処は知っている。だからこそ、ルネは自分の黒歴史に触れかけたミラを制止ながら、軽くミラの脇腹を小突いた。


 そんなこんなでリユニオンの残骸にたどり着いた2人は、おどろおどろしい雰囲気を発している廃屋の門の前に立ち、各々感想を述べる。


「汚っな」

「爆心地かなにかだなこりゃ。てか、随分と破損がひどいな」

「この壊し方は、クリスタルかな。女の子みたいな顔でやることがエゲツないんだよ」

「ノアにしつけてもらうべきだったな」


 お互いに悪態をつきながらも、廃屋の周りを歩き回る。


 リユニオンの残骸は、円形の棟が3つほど並んでいる形跡があるが、そのほとんどが破壊されてしまっている。侵入できそうな建物は、最も奥の棟であり、その棟には「実験解体場」と書かれている。どうやらここは、ルネが実験を受けていたところのようだ。


 それに敏感に反応したのはミラの方である。


「おいここ……もしかして、お前が囚われていたところか?」

「そうだと思うけど……あんまり覚えてないけど、ここから中に入ろうか。入り口はここしかない」

「オレハカエリタイヨ」

「僕が先に入って、安全確認するから、合図したら中にはいってきて」

「拒否権は?」

「ラフロイグと引き換えならいいよ」


 ルネの忠告に対して、黙るしかないミラは暗がりに消えていくルネを一瞥しつつ、本当にこんな所に手がかりが落ちているのか不安になっていた。

 ぱっと見ると、証拠があったとしても、既に瓦礫に埋まっている頃合いだ。生存していたとしても、風や雨曝しにより読めない状態になっている可能性がかなり高い。無駄骨になるということは目に見えているが、それ以外に手段がないのだから仕方がない。


 ミラのそんな気持ちを遮るように、暗闇からヘッドライトの光が反射し、ルネの声が響き渡る。


「おーい、大丈夫っぽい!」

「合流するからそこにいろよー」

「できるだけ早く来て」

「相変わらずだなこいつ」


 適当な悪態をつきながらも棟の中に入っていき、すぐさまヘットライトの光を掲げながら立ち尽くすルネを見つけ、ルネとともに棟内を調べ始める。


 2人が入ったのは、実験体を閉じ込めておくための独房のような場所だった。壁は完全に崩落していて、進める場所が限定されるものの、ここから内部に進めそうだ。

 しかし、独房の中は過去の虐殺事件を彷彿とさせる凄惨な状況があった。というより、もはや独房であるのかすらわからないほどの焼けただれたような痕跡が大量に残っていて、原子爆弾が投下されたのではないかと思うほどの惨状である。


 状況を冷ややかに見つめるミラに対して、ルネは状況がよく理解できていないのか、興味なさげに独房から出て、きょろきょろと通路を確認し、崩落した片方を視認した後、どんどん先に進んでいってしまう。


「おい、怖がりのくせに進むなよ」

「多分、こっちに資料室がある。なんとなくここは覚えているから」

「資料室が生きてればな」

「生きてるはずだ。そこを見ればわかるよ」


 意味深なルネの発言に疑問符を浮かべつつ、ミラは率先して進んでいってしまうルネに必死に食いついた。

 まるで何かに導かれるようだった。恐らく、意識しない潜在的なところに、ここに関する記憶があるのだろう。それを辿っているのであれば、ここは邪魔をしないのが最善だ。

 そう判断したミラは、押し黙ったまま、瓦礫をすり抜けていくルネの背中を追っていった。


 数分程度瓦礫をすり抜けていくと、巨大な金庫の扉のようなものが出現する。どうやら、ここがルネの言う「資料室」であるようだ。



「なんだこれ。銀行か?」

「同じようなものだと思う。すべての棟の中で、ここだけ生き残っているのはこの資料室のおかげだ」

「……なるほどね」


 ミラがワンテンポ遅れて相槌を打ったのは、資料室の扉を見て、その必要性を察しただけではない。

 反応を示したのは、頑強な扉が薄く開かれたからだった。そして、それだけではなく、そこから漂ってくる強烈な死臭と鉄錆の臭い、扉に付着した細胞片と血が、ここで何が起きたのかを物語っていた。


 ここは、独房付近である。

 そのことを考慮すると、ここは分身たちによる虐殺事件の最前線となった可能性がかなり高い。そして、この大量の血肉の臭いは、その残骸である。

 未だに立体的に残る不気味な気配の数々は、そこで起きた禍々しい悪夢を語っているようだった。



「この中に、なにかがある」

「んじゃ、とっとと終わらせるぞ。心霊スポットを探検するタイプじゃないんだ」

「うん、出来るだけ早く終わらせるよ」


 ミラはルネが何を思っているのかをすぐに理解した。だが、流れ込んできた彼の感情を受け止めることは今できず、知らんふりを決め込むことを選択して、みずから積極的に扉の中に入っていくルネとともに進んでいく。


 資料室は、ミラの言葉通り「銀行」のようで、貸し金庫のようにいくつもの金庫が残っていて、恐らくはすべてに資料が入っているようだ。

 勿論すべての金庫に鍵がかかっていたが、風化してしまった南京錠ばかりであり、簡単に壊せそうだ。


「ミラは右半分をお願い、僕は左側を探すから」

「だいぶ、骨が折れそうだなこりゃ」

「関係なさそうなやつは全部無視してやればすぐだよ」


 ルネはそう言いつつも、かなり浮かない調子でどんどん金庫の鍵をぶち壊していく。




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