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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十四章 厄災の母体
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朽ちた根源

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 100%趣味で構成された部分でしたが、こういう会話は本当に書いてて楽しいのでそのまま採用しています。書いていたときは変更する予定だったんですが、時間もないですし(^q^)

 次回の更新は来週月曜日8日20時となっております! 次回もよろしくおねがいします!


・同刻 グルベルト孤児院



 地下道から戻ってきたルネとミラは、閑散とした職員室の来賓者用のソファに寝転がり、露骨に疲れたような声を上げる。


「あー、もうこれでよくね? 俺たち頑張ったじゃん」


 なかなかグレーゾーンな発言であるが、それを聞いたルネは咎める気にはなれなかった。

 どうにも、今回の問題はどこに終着点を持っていけばいいのかわからない。一定方向の因果を持つわけではなく、円環的な因果を持つこの厄介事は、どこが明確な終わりであるのかよくわからない。

 ルネはその疑問を体現するように、「そうだね」と肯定する。


「んー? らしくないな。てっきり頭ひっぱたかれると思ったけど」

「実際、今回の問題ってどうやったら”解決”って言えるのかな?」

「確かにな。しかし、ここまで複雑になれば、因果律なんて概念は大嘘に感じるよ。この事象が何らかの原因があるのなら、この枝分かれしまくった原因の根源はどこにあるんだろうな」

「因果律……?」


 ルネはミラの言葉を掻っ攫うようにそういうと、なにか閃いたように紙とペンを持ってミラに尋ねる。


「ミラ、収束地点は、ここだよ」

「何?」

「確かに、これは無数の原因に制御された複合的な問題かもしれない。だけど、その全てはとある一点に収束するんだ」

「……方舟、か」

「そういうこと! 状況は恐ろしく複雑でも、すべてのトラブルの中心地は方舟という水爆だ。魔天コミュニティはアレを爆発させる権限を持っていて、ノアさんたちはテンペストによって爆発する可能性のある方舟を止めるために動いていた。それ以外の空白に仮説を渡すのなら、魔天コミュニティが方舟を何らかの作戦に組み込んで爆発させることとするなら、トラブルの根源はまさに、超巨大水爆である方舟であることになる」

「なるほどねぇ。それで、方舟を管理していた旧ザイフシェフト、ひいては25年前の事件の根源を調べようってことか?」

「そう!」


 それを聞いてミラは若干怪訝な調子でトラブルに付いて言及する。


「あのなルネ、俺はそいつには反対だ」

「でもそれしかないよ」

「それじゃあ手段については? 旧ザイフシェフトそのものと言っていい地下道についてはほとんどめぼしい情報はなかった。方舟の制御に関するものに限定すればな。それでどうやって制御する手段を考案する気だ?」

「まだ探していない場所はあるよ。元々、方舟は旧リラが、エノクδという怪物を殺すために作成したものだって書いてあった。それなら、確実に、あそこにあるはずなんだ」


 ルネが提案したのは、25年前の事件で旧ザイフシェフトと旧リラが共同して兵器開発を行っていた、「サイライ事件」があった場所を起点として作った「リユニオン」という施設の捜索だった。

 リユニオンは、50年ほど前に起きたエノクδ暴走事件により完全に機能を失ったものの、その残骸は未だに存在し、方舟の起源であるプロトタイプもそこで作られている。何かしらめぼしい情報はある可能性がある。


 しかし、リユニオンの残滓は今まで手を付けたことのない領域であり、その場所にどのような危険性があるのかわからない。

 その危険性について、ミラは考えていた。


「だが、あそこは有名な心霊スポットだぞ? 落書きして喜んでいる大馬鹿者すら近付こうとしないいわば、札付きだ。危険であるとしか思えないんだよ。もし、あそこに行くのなら用心棒くらい雇わないと嫌だぞ?」

「あれ、守ってくれないの?」

「ものには限度ってもんがある。俺一人の力じゃな、不測の事態には対処不可能だ。いつもなら鬱陶しいくらい引っ付いてくる用心棒も残念ながらいない。危険極まりない。ストラスもいない。お前にもわかっているだろう?」

「大丈夫だと思うけどな~。だって、この状況で具体的な危険って、恐らく魔天コミュニティが中心だと思うし、今が攻め時だと思う。ね? 調べてこよう?」


 そこまで説得しても、ミラは不服そうに首を縦に振ろうとしない。

 それを見たルネは、別の理由で拒否的な反応をしていることがすぐにわかった。


「……ね、行きたくないのって、僕が理由だよね?」

「当たり前だろ。俺は人格が歪んでるからな、お前の傷つくことはさせたくないし、する気もない」


 ミラがそう言い切った瞬間、職員室の扉が慌ただしく開き、若干顔の赤いケイティがミラの寝転がっているソファの前に飛び出てくる。


「お二方、新しい情報です。宴に所属しているオフィリアという人物、ストラス様に襲撃した人物ですので、ルネ様は知っておられるかとは思いますが、この人物がメルディス側のスパイであり、25年前の事件を探っているようです。新しい情報も少々ありますので、改善の足しにはなるでしょう」


 結構な早口で話しているケイティに対して、ミラとルネは顔を見合わせ、大きく疑問符を浮かべる。


「ケイティさん、飲んでる?」

「えぇ、嗜む程度ですが」

「……この匂い、アイラかな」

「は?」

「いやいや、昼間っから飲むものじゃないよ」

「流石、酒豪ルネ様ですね。テキーラサンライズも少々嗜みました」


 気分がノッているのか、ぽろぽろと自らのことについて述べ始めたケイティに対して、ミラはルネに小さく耳打ちする。


「おい、テキーラサンライズってなんだよ?」

「テキーラとオレンジジュースを混ぜて、更にザクロのシロップを入れて作ったカクテルだよ。アイラから比べればジュースみたいなもんだよ」

「……アイラって?」

「美味しいやつ」

「いい加減にしろ」

「アイラモルト・ウィスキーのこと。あの感じだったら、ロックかストレートだね」

「……何があったんだよ」

「ストレス溜まってるとか?」

「なるほどね?」


 やたらと長いひそひそ話が終わった後、ミラは率直に、ケイティに対して新しい情報について尋ねる。


「ケイティ様、リラックスしている最中申し訳ございませんが、その重要な補足情報についてお話ください」


 ミラは今までで一番胡散臭い敬語を用いながらそう尋ねる。

 すると、ケイティはペットボトルのお茶を詰め込むように扁桃腺に押し付けた後、喘鳴じみた声を上げながら話し出す。


「申し訳ございません。オフィリアは間違いなく、メルディス側です。彼女は、ゲリラ団体宴の目的を”25年前の事件の復讐”と言いました。つまり、彼らがしたかったのはこのグルベルト孤児院や天獄を、方舟でお月さま辺りまで吹っ飛ばすことだったんです。そして、その利害が一致したトゥール派と手を組み、今回のトラブルを引き起こしたようです」

「そうですか……なら、星になる前にこちらが手を打つまでですね」

「勿論です。現在、宴はエンディースが中心となって行動しています。そしてエンディースは、前任者であるケルマータに対して強い執着を持っていました。復讐を働いてもおかしくありません。補足ですが、ミラー家の情報では、ケルマータとあの事件の首謀者であるアダムス・ブースは行方不明になっています。これらの情報を考えると、話はかなり見えてきます」


 断定したケイティに対して、ミラは補足するようにその可能性を提示する。


「アダムスとケルマータは、何かしらの勢力によって排除された。もしくは、仲間割れか、ということですね?」

「えぇ、だからこそ彼らはその根源たるこの街や、貴方たち天獄を潰そうとした。ミラー家はその仲介役となってしまった、そういうことです」

「やはり、ミラー家が天獄の仕事を排除していたんですね?」

「そうです。まぁ、私がそれを知ったのはつい最近ですがね。それこそ、エンディースから貴方たちに脅しをかけろと指示された後、ストラス様と一緒に資料を覗いたときの父親の挙動を見たときですが」

「かなり、秘密裏に進められていたということですか?」

「徹底的にこれについては隠していましたから、私とカーティスが親友同士だと知っていての行動でしょう。流石に、こればかりは容認しかねますね」


 かなりの怒気をはらんでそう言ったケイティに対して、ミラは疑問符を浮かべながら尋ねる。


「……どうして、それらの情報を今まで黙っていたんです?」

「幾つか理由があります。まず、この情報の真偽がかなり曖昧であったということです。話自体がなされたのは音声データであったのですが、相手は私が貴方たち側についたことは、天獄が動いた時点で明らかになっています。つまり、あえて音声データを残したというブラフの可能性も考えられました。さらに、この情報が貴方たちに伝わってしまえば、確実にそれを踏まえた行動を起こすはずです。そうなれば、私の父は証拠を消すことに奮闘するでしょう。なぜなら、これらの情報が表に出ている可能性が高い中、私のプラン通り”25年前の関与の証拠を公開する”というアクションをしない可能性もある。だから、ある程度準備が整い、それがアルベルトに明らかにならないこの状況でなければなりません。ごめんなさいね。変に話をごちゃごちゃさせちゃって」


 本格的に駒の差し合いになってきたことに驚きながらも、ミラはケイティの考えるプランについて尋ねる。


「ケイティ様、恐らく現状、今回のトラブルのハブ的な存在となっているのは貴方でしょう。ある程度の知略も優れる貴方のプランを聞ききたい。我々はそれを実行させていただきます。どうでしょう?」

「そう言って下さると円滑です。私のそもそものプランは、ミラー家が抱えている資料を私が確保するのと同時に、方舟の管理権限をどうにかして書き換え、爆破不能の状況にすることです。そして、それらの障壁となる者たちをできる限り遠ざけてきました。そして、今このプランを実行するに値する場面であると判断しています。オフィリアから得た情報によると、魔天コミュニティでは現在、第三の組織と真っ向から対決している状況だそうです。つまり今、この街はもぬけの殻……活発に動けるタイミングは今だけでしょう」

「それについては同意見です。動くなら今しかない、だが、そこから先の手段が大切になりますよ。方舟は旧国家に関わる存在だ。国家権力的に、爆弾処理班を要請するわけにも行かない。活発に動けば確実にそのまま起爆されてしまう。秘密裏に、かつ俺たちだけでしなければならないこの状況では何かしらの糸口がなければ不可能です。それについてはどうでしょう?」


 それを聞き、ケイティは手を上げて苦笑する。


「問題はそれです。一応は、アルベルトがパールマンと交渉するでしょうが、何にしろ、我々は方舟という存在の情報が殆ど無い。こっちが持っているものは爆破させる権限だけ。それだけでは設定は変えられない。それに加えて旧ザイフシェフト地下の情報はすべて抹消されている。なにせ、制作に着手したのがあのパールマンであればこの場に残っている証拠はありません。つまり、こちらは完全に手詰まりです」

「楽しい冗談ですね」

「えぇ。笑いで心筋が軋みそうですよ。ですが、一つ情報がありそうな場所があります。まぁ、そこにあるかどうかすらもわかりませんが……」

「それ、リユニオンですか?」


 ミラが一番そうであってほしくない所の名前を口にすると、彼女は驚いた調子で話し始める。


「驚きました……どうして、リユニオンのことを?」

「25年前の事件だけではない、と言えばいいでしょうかね。しかし、どっちにしても、ルネとの話し合いでもその名前は出てきましたよ。調べる場所にしてはうってつけです。心底遠慮したいですが」


 苦い表情でそう言うミラとは対照的に、ルネはそれに乗り気でケイティに話し出す。


「ケイティさん、僕もリユニオンしかないと思っています。だから今から、調べてきますね」

「そう言っていただければ嬉しいですが……ミラさんの表情筋が死にかけていますが、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよね!」

「ダイジョウブジャナイヨ」

「他に、なにか調べることとか、ありますか?」


 急に片言になったミラを放置しながら、ルネはケイティにそう尋ねると、ケイティは思い出した様に話し出す。


「それについてなのですが、オフィリアから、”25年前の事件の概要について”詳細に調べた資料の提出を求められました。リユニオンには、恐らくアダムスブースがサイライ事件に関わった資料もあるかもしれませんから、それについても確保よろしくおねがいします」

「わかりました!」

「ルネさん、ミラさん、ありがとうございます。私はこちら側で手筈を整えます。どうか、お気をつけて」


 ルネとミラにそれぞれ礼儀正しく最敬礼をした後、ケイティはそそくさと出ていってしまう。

 ルネは、アイラとテキーラサンライズを引っ掛けたようには思えないほど、凛とした背筋でグルベルト孤児院を後にしたケイティを見送ると、すぐさまミラの手を引きながら「リユニオン」に向かおうと急かす。


「ほら、もう逃げられないからね」

「……なるほど?」

「そのまま帰れというフリか?」

 未だに渋っているミラを拒絶するように、ルネは繕ったような笑みを浮かべていう。



「花屋さんに、よってもらってもいいかな?」

「……あぁ。そういえば、この時期だったもんな」

「うん。今電話するから」

「わかった。支度するか」


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