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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十四章 厄災の母体
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交渉の示唆

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 この回、新しい章であり割と大事な話をしているのですが、投稿直後に少し読み返してみると、「アイラ」は実在の地方名なので直そうか少し悩みましたが、時間的猶予の問題でそのまま投稿となります。ウィスキー大好きマンとしてはそのままが好ましいというのも…。

 次回の更新は来月4月1日月曜日となります! 次回もご覧いただければ幸いです!


・ルイーザ ティルネルショッピングモール 東エリア



 ティルネルショッピングモールの中で最も有名な店は、「グランデミルフィーユ」を提供しているダイニングカフェ「サン・クレーター」である。落ち着いた佇まいの店には普段から人が多く出入りするものの、今日に限って、8つ並んだカウンターには一人の女性が座っていた。


 その女性は、いつの日かパートナーと並んでそこに座ったことがあり、その後、こっぴどく尾行相手(ストラス)にボコボコにされてしまった。

 そんな女性のとなりに、如何にも上品な佇まいをしているケイティが腰を下ろす。


 ケイティは、淡々とした口調で「アイラをロックで」と注文を取り付け、ひっそりと女性に対して話しかける。


「オフィリアさん、随分とお早いご到着でしたね」

「あら、私は取引には遅れたことないわ。今回の件についても、貴方のお父様への依頼も迅速だったはずよ?」

「そうですね。”私の関与しないところで”、天獄の仕事を潰すように仕向けたのも、貴方たちのボスだった、ということを知ったのはつい最近です」

「それについては、アルベルトの管轄ですがな。さ、取引を持ちかけたのはアンタの方だ。とっとと済ませよう」



 ケイティの取引相手である宴所属のオフィリアは、ケイティに対してそう尋ねる。

 それに対してケイティは、凛とした調子で自らの提案を尋ねる。


「勿論です。ですがお答えするには、ご提示した条件が必要です。なので、お話いただけますか?」

「あぁ、用意している。だが、ミアという人物の経歴についてはわからなかった」


 オフィリアはそう言いながら、一つの茶封筒をケイティに渡しながら更に続ける。

 一方のケイティは、すぐさま茶封筒を開封しながら、幾枚もある書類をしっかり確認し、オフィリアの言葉に耳を傾ける。


「ミア、25年前の事件をきっかけに、どこからともなく降って湧いた種族すら不明の人物。彼女の情報の殆ど存在しない。意図的だろう」

「……わかりました。それではお話しましょうか。どうします? 一連の流れについてはもうご存知でしょうから、端的に貴方がわかっていない部分を聞いて、それについてレスポンスさせて頂いても、いいでしょうか?」

「それでいい。手始めに、あの事件の首謀者は、何が目的だったんだ?」


 かなり焦った調子でそう尋ねたオフィリアであるが、対してケイティはあくまでも冷静である。

 それを証明するように、サン・クレーターの店主が持っていたロックグラスを受け取り、「チェイサーはお水でお願いします」と丁寧に告げ、一服するようにグラスに注がれたアイラを口に含む。


「首謀者の目的、ですか? 貴方は首謀者が、誰だと思ってそれを言っていますか?」

「……旧ザイフシェフト科学者、ルイーザと、宴の前身となった組織のリーダーであるケルマータ、ではないのか?」

「えぇ、その通り。そして25年の月日は流れ、あの事件を引き起こしたゲリラ組織は、当時のケルマータの片腕だったエンディースに引き継がれ、再編されました」


 回りくどくそういったケイティに、オフィリアは呆れた調子で急かしていく。


「一体、何が言いたいんだ?」

「至極、単純な話ですよ。貴方の言う首謀者は確かに、25年前の事件により貴方のことを誘拐し、厄介事を次々と引き起こしました。だが、彼らはどうしてそんなことをしたのでしょうか? オフィリアさん、貴方はどのような見立てでいるのですか?」

「それを、聞いたつもりだが?」

「貴方の考えが聞きたいのです」


 含みのある言い方に、オフィリアは怪訝な視線をぶつけるものの、ケイティは一切躊躇を見せずに、再びアイラを口に含む。

 恐らくは、こちらが語らなければ何も話すことはないだろう。それを理解したオフィリアは、自らの考えをストレートに述べ始める。


「……魔天の力を更に研究するため?」

「そうでしょうね。それも一つです。しかし実際には、彼らもまた駒の一つ。考えてください。人間が魔天を相手取るのはあまりにも無謀です。DADがあったとしてもそれは変わらないでしょう。あまりにも無謀です。それを承諾するほど彼らも馬鹿ではない。ある程度の勝算と報酬があったからでしょうね。そしてこれらを仕組んでいたのは、トゥール派のブース家、現トゥールであるイルシュルの父親アダムス・ブースでした。アダムスは、ケルマータやルイーザの野望を利用して、25年前の事件を仕組みました。その本質は、人間との協同を標榜するメルディスの政策を潰すこと、そしてメルディスの戦力を割くことでした。つまり、貴方を始めとする、あの事件の被害者たちを巻き込むことが目的だったんです。如何でしょう?」


 あまりにも凄惨な事実を告げられ、オフィリアは驚きを隠せない。

 しかし、その後すぐにその情報の信憑性について尋ねる。


「その話を信じる根拠は?」

「情報のソースはミラー家が保有している各種資料の通信データです。どうしても信じられないというのならば、後にお送りしますが、冷静に考えてみればわかることです。被害者の魔天はすべてメルディス派だった、それは本当に偶然ですか? そして、あの事件で魔天の人間の評価はどうなりましたか? すべて、今の話に収束するはず。それは貴方も理解しているでしょう?」

「……わかっている。確かに、あの事件が原因で一時期トゥールが政権を握ったのは知っている。だが、信じたくない」

「気持ちはわかりますが、それが信じであるのならば、それを受け取らなければなりません。他はありますか?」


 オフィリアはケイティの言葉に対して、不服そうな顔で首を鳴らすが、更に質問を続ける。


「ケルマータは、どこに?」

「それについてはわかりません。ルイーザはそのまま死に、ケルマータも行方知れず。それについてはまぁいいでしょう。最も私が気になっているのは、事件の首謀者であるアダムス・ブースも、同じく行方不明になっていることです」

「どういうことだ? 今の話なら、アダムスが首謀者であると知る人物はほとんどいないはずだろう?」

「私も、同じことを思いました。少なくとも、状況を考慮すればアダムスが首謀者であるとわかっているのはほとんどいないでしょう。しかし状況的には、アダムスは誰かに首謀者であることがバレてしまい、消されたと考えることが妥当だと思います。では、誰かがそんなことをしたのでしょうか?」


 徹底的に自ら言葉を繋ぐことを避けているように見えるケイティに対して、オフィリアは諦めた調子で言う。


「事件の関係者……それも、あの事件の中枢にいた人物か? それか、あの事件解決に奔走していた、天獄の連中?」

「どちらも考えられますが……、私は前者である可能性が高いと見ています。天獄の皆さんは、性格的にそこまで報復を強いるタイプではないでしょう。論理的確証は薄いですが、彼らが魔天コミュニティ屈指の権力者であるアダムスに繋がるのは正直思えません」

「どうかな? ストラス・アーネストは二家の跡取り息子だろう?」

「そうですね。その話がもし、アーネストにまで行っているのならば、これは単純な与太話では済んでいないでしょう。いくらトゥールのトップだからといって、アーネストの逆鱗に触れれば社会的地位も物理的にも瞬殺でしょうしね。これらのことから、私は”内輪もめ”が最も近いのではないかと考えています」

「ケルマータが、殺害した、ということか?」


 オフィリアがそう確認すると、ケイティは首肯しながら、チェイサーの水を口に含み、自らの考えを続ける。


「ケルマータは野心家です。人間を自らの飼い犬にするため、ミラー家に対しても様々な厄介事を持ち込んできました。そして、死亡が確認されたのは人間側の協力者であるルイーザのみ。我々ミラー家としても、ケルマータにお支払いした”ツケ”を請求するために彼の所在を調べましたが、とんと彼についての情報が出てこないんですよ。そして、ほぼ同時期に、アダムスは消えている。どうにも関与があるように見えてならない。そうでしょう?」

「なるほど……」

「貴方の望む、真実は見つかりましたか?」


 自らの情報を喋ったケイティは、オフィリアに対してそう尋ねる。

 すると、オフィリアはある程度自分の知りたかった事実を把握したことに満足したのか、首を縦に振って席を立とうとする。



「あぁ。どうやら、私がしてきたことは無駄じゃなかった。私がどうして、25年前の事件に巻き込まれ、その背景でこの国家がどのようなことをしていたのか……それを知ることができて本当に良かったよ。ありがとう、ケイティ嬢」

「いいんですよ。私も、宴の皆さんの経歴について知ることができてハッピーです」


 ケイティはそう言いながら、歪な笑みを浮かべてロックグラスのアイラに浮かぶ、少しだけ小さくなった氷をガリガリと噛み砕く。

 そして、ケイティは「ところで……」と口にしながら、オフィリアから受け取った書類を取り出し、とある書類を一瞥した後、それを彼女に見せつけながら言う。

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