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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第三章 三相の天使
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確認の知らせ

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 実はこのお話、奇数章と偶数章で読み進めたほうがいいので、これから見るよーという方はぜひ続きな感じで見たほうがいいかもしれませんね(*´∀`*)

 次回の更新は来週の月曜日20時です! 興味がある方はぜひぜひどうぞ☆(´ε`


 カーティスらがレオンを解放したのとほとんど同時刻、B-1にはとある人物が訪問していた。

 その人物は、長い経験を積んだような老婆で、高尚な衣服を身にまとい、いかにも聖職者という佇まいで杖をつき、B-1の扉を潜る。その傍らには、側近と思われる少女がおり、杖をつく老婆の身を案じるように支えつつ、イリアに話しかける。

 一方のイリアは、思わぬ訪問者に、驚いた調子を隠せず、深々と頭を下げた。


「メルディス様……どうして……」

 それは、人と友好的な関係を標榜するメルディス派の長であり、現魔天コミュニティを統率する最高指導者である。権力としては大統領ほどといったところだろうか。しかし、軍事的な力は乏しく、具体的な意思決定については現場の者に一任されている。

 彼女の訪問に、イリアはひどく驚かされた。仮にも襲撃があった直後であることから、メルディス派と敵対しているトゥールからの襲撃の可能性を考慮するのが妥当である。それなのに、わざわざ危険を犯してまで襲撃現場付近に来ることは、相当な事情があるということでもあるのだ。

 そんなイリアの緊張を助長するように、メルディスが嗄れた声で話し始める。

「イリア……イレースはおりますか?」

「B-2で、部下のアゲートと話をしております。少々お待ち下さい。それより、どうして、こんな時に……危険はご承知でしょう?」

 イリアの反応に答えたのは、側近の少女であった。

 少女はかなり幼いものの、イレースよりは少しだけ大人びた印象を残す人物だった。赤黒い髪の毛は非常に長く、気の強そうなストレートの髪を翻し、強い口調で話し始める。

「……宴はかなり活発な活動している。だから、ここにいるエノクεのことでイレース室長と会話する必要があると判断したのだ」

「ミズが説明してくれたけど、そういうことなの。で、イレースはどこなのかしら?」


 メルディスは、ニコニコしながらイレースとの会話を望んでいる。

 勿論イリアには中で何が起きているのかはわからないが、流石に最高権力者であるメルディスを待たせるのは気が引ける。

 イリアは迷ったが、B-2の扉を叩き、メルディスとの会話を促そうとした。

 しかし、そんなイリアの目に飛び込んできたのは、最終兵器であるエノクεをあやしているイレースだったのだ。


「イレース!? お前何をやってるんだ!!」

 尤もな反応であるが、今のイレースはカーティスがコントロールしている為、ほとんどその気持は伝わっていない。それどころか、カーティスには、老婆がメルディスであることすらわからない。

 だが当のイレースは流石にそのまま放置することはできず、意識化で入ってきたメルディスのことを説明し、状況を出来る限り的確にしてほしいと頼む。

「”実を言うと、エノクεの力の増幅が確認されました。このままで行けば確実にオーバーヒートを引き起こしてしまうので、一度この子を拘束を解きました”」

「危険性は……あるのですか?」


 カーティスのそこそこ出来た説明に、メルディスは怪訝な視線を浴びせる。

 それに対して、イレースはカーティスに一字一句同じ台詞を言うようにお願いして、話し始める。

「”危険性については現状はわかりませんが、統計的なデータから考慮して、危険性はそこまで高くないとは思います。ですが、エノクβの例もあるので100%安全である保証はありません。だからこそ、今度は信頼関係を結ぶ方針で進めていきたいと思うのですが、如何でしょうか?”」

「そう……確かに、エノクβのことがあったし、その方向も十分だと思う。それは、貴方達に仕事を分化させているので、貴方に一任します。ですが、エノクεはトゥール派に狙われるリスクがありますから、コクヨウのメンバーを2人つけましょう。くれぐれも、宴側にエノクεを奪われないようにしてください」

「”わかりました。必ず、守ります。それから、今日からこの子のことはレオンという名前で呼ぶことにしました。そのままの名前であれば、狙われる危険性も高いでしょう”」

 イレースは名前をつけたことに対して急ごしらえの理由を付与し、それに対してメルディスは納得した面持ちで笑う。

「そうですね。では、これからレオンのことをお願いします」


 メルディスは、柔らかな笑みを浮かべて、側近のミズとともに区域Bからそそくさと出ていってしまう。

 具体的なことについては、コクヨウのメンバーから聞いてほしいとのことで、ほとんど何も告げずに出ていってしまった。その為、どうしてわざわざメルディスが出てきたのかは不明のままであるが、それよりもイレースはこの局面を乗り切ったことに強い安堵を漏らした。

「はぁ……とりあえずは誤魔化せてよかった」

 しかし、それ以上にカーティスは不自然な訪問に疑問を感じていた。

「それよりも、どうして最高指導者がここに来たんだ? 内容的には危険を犯してここに来る必要なんてなかったぞ?」

「確かにそうだけど……元々結構、こういう感じで訪問することあったし……」

「こんな時に?」


 カーティスの言っていることは、イレースも感じていた。

 こんな危険な時期に、護衛をつけるという名目でここに来るのはありえない。危険を冒してまでここに来たのは、相応の理由があるということはイレースもわかっている。

 冷静に考えてみれば、誰もがこの不自然な訪問に疑問を抱くことはわかりきっている。だが、その場にいたイリアは、レオンが解き放たれたことにより、未だに取り乱しているようだった。

「……その、エノクεの危険性は本当にないのか? 同じ研究者としては、少々懐疑的だが……」

 それに対して答えたのはアゲートだった。

「イリアさん、あくまでも統計的データを元にしているので、100%とは言い切れません。しかし、外に出したことで力の値も相当安定しているので、可能性はかなり低いでしょう」

「……そう。でも、私は少し怖いわ」


 イリアはそう言いつつ、カーティスが抱きかかえているレオンを一瞥し、目を閉じてそれを視線から完全に外した。

 恐らくは相当な恐怖を感じているのだろう。未だに震えた腕を押さえつけつつ、無言のままB-1へと戻っていく。

 あまり説得に成功した雰囲気のない陰鬱とした空気に、カーティスはイレースに「何かあったのか?」と尋ねる。明らかに他の人物とは異なるイリアの声の調子に、強い違和を感じたのだ。

 すると、イレースはエノクβが起こした事件について話し始める。


「過去、エノクが原因となった大災害が1回だけあったんだ。エノクβが引き起こしたパンデミック、エノクβ事件、イリアはその研究の第一人者だった。だからこそ、エノクを解放させる危険性を知ってしまったんだろう」

「……それって、そんなに酷かったのか?」

「そうだね。エノクβはエノクγとともに封印されていたんだけど、ある日その封印が解けてしまって、エノクβの力の影響によって、見たこともない感染症のような症状を訴えるものが大量に出てきた。幸い、魔天の体の再生力により、それで死者が出ることはなかったんだけど、封印し直すために2人の魔が命を落とした……エノクが引き起こした唯一にして、最大規模の事件だった」

 それを聞いてカーティスは混乱するように「魔天は死なないんじゃなかったのか?」と訪ね返す。

「確かに死なない。だけどそれは、一般的に生活していればに限る。例えば再生することができないほどの損傷を受け続ければ十分死に至る。特に同じ魔天との戦闘では、困難ではあるが殺される可能性だってある。ついでに、甚大な被害がなくとも、体内の力を完全に使い切ってしまえば、自身の体を支えることができなくなって死に至る。死なないっていうのは、限定的な意味での言葉なんだよ。犠牲になった2人は魔天の中でも突然変異と言われる、幼児形態の魔だった。つまりは最高位の力を持つ2人が犠牲になって、力を封じた。裏を返せばそれほどの力を、ダウンフォールは持っている」


 カーティスは、その話が恐ろしく他人事に聞こえた。

 あまりにも、規格外の話しすぎて頭が追いついていないのだ。

 そして、更にイレースは語る。

「今まで封じられていたエノクβとγが突然動き出したのは、この前言った犯罪者”ノア”の仕業ではないかとされていた。だけど、明確にそれを証明することはできなかったことから、真偽は完全に不明だ。もう一つの仮説は、エノク自体が意図的に起こしたのではという話もあるけど、それにしてはあまりにも高度な力が作用していたから、この可能性は乏しいと言われてる」

「それで、βもγもいないんだろう? 話が噛み合わないぞ?」

「あくまでも封印し直しただけだ。って言うより、本体よりも降り注ぐ力を一旦止めるために力を使ったからね。だから本体はどこかに消えてしまった。だからこそ、魔天での交際が完全に規制された。そんな中生まれたのが、最悪最強の力を保有するエノクδだった。こういう研究機関の職員はもうやめてほしいと思ったことだろうね。頭痛い……」


 話が相当に錯綜してきたが、イレースもこの問題で頭を悩ませていることは明白である。

 それに、イリアがエノクの研究をしていて、なおかつその事件に巻き込まれたことがあれば、あの反応は至極妥当なところだろう。

 そう感じたカーティスは、複雑な表情で愛らしい表情を浮かべているレオンを見下ろす。

「確かに、抱いているだけで体が強張るような気がする……」

「それほど強い力があるからね」


 一方、レオンを抱いているカーティスの様子を見ていたアゲートは、対処案をカーティスらに尋ねる。

「で、どうします? イリアさんの言うとおり、絶対安全なわけではないですが」

 やや棘のある言葉遣いにカーティスは無自覚に顔を顰める。

 しかし、こんな時に喧嘩している時ではないと心に言い聞かせて、カーティスはアゲートの意見を尋ねる。

「アゲート君は何か意見があるのか?」

「……正直に言えばないですね。そもそもダウンフォールの力を完全に拘束する方法はないですし。一番の近道は、恐らくは分析をしてレオンの力を理解することだと思います」

「というと?」


 カーティスが更に深く尋ねようとした時だった。

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