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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十三章 揺らぐ接触面
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激突-3

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 第3節目ですが、次回は少し長めに尺を取り、5節で終わらせられるようにしたいと思います。少しずつ工夫を加えていくことの重要さを体感しますね。

 次回の更新は金曜日22日20時となります! 次回もご覧いただければ幸いです(*´∀`*)


 一方、それを聞いたビアーズはズタボロ状態でケタケタと笑った。


「ふざけんじゃねーぞクソッタレ、俺は今最高にエンジョイしてんだよ。勝手にお家に帰りな」


 そう言ったビアーズの肉体は異常なものに変貌していた。


 下半身は通常の人型にとどまっているが、上半身はもはや化物のそれであり、大量のスポアと肉片にまみれた触手が何十本も空中を蠢いていた。更には背部から体を支えるスポアも出現していて、見ているだけで吐き気を催すほど凄惨な状態である。

 それを形容すると、何体もの死体を重ねたような異形の存在であり、今すぐにこの場から逃げ出したくなるほどの恐怖を感じさせるほどだった。


 それを見たイルシュルは、「どっちが怪物かわからない」と率直な感想をいだき、すぐさまその場から去ろうとする。

 しかし、気がつけば部屋中が、ペリドットの液体に飲まれてしまい、中はなにかの生物の体内のような光景になってしまう。


 今すぐにもこの場から逃げなければならないが、もはやここから逃げることは目の前の怪物をぶっ倒すことしか残っていない。だが、頼みの綱でもあるビアーズはすっかりセフィティナとの戦いに酔いしれているようで、歪な笑い声を上げながら猛攻を繰り広げている。



「あっちも楽しそうだ。僕らももっと、楽しもうよ?」


 迷うイルシュルに対して、ペリドットは楽しげにそう言い放つ。

 先程までとは違い、彼の周りには不定形の液状物が大量に瀰漫しており、その液体に生命が宿っているように不安定な動きを繰り返す。


「君ほど善戦したのは珍しい。だから、僕の能力を教えてあげる。僕は、どんなものでも創れる。例え、命でもね?」

 そして、彼の言葉に従うように、先程倒したはずの2体の怪物が再び出現する。


「この犬みたいな子はね、ネックっていうんだ。こっちの半分液体の子はアームだ」


 紹介とともに変形していくエネルギーは更に生命体へと変わっていく。

 そして、スライムのような形状に顔面のパーツが浮かぶ奇怪な化物と、下半身が液状になり天井からぶら下がる、胸部に顔が浮かんでいる化物、先程エンディースと戦っていた分身たちである。


「この子はレッグ、足元が覚束なくなるよ。そして、僕の後ろにいる子はハート、すべての中枢だ」


 ペリドットの紹介とともに、ハートと呼ばれた分身は一際不気味な笑みを浮かべて大口を開ける。

 そして、開かれた口からは大量の液体が流れ、それはまるで生きているように波を成し、ゆっくりとイルシュルの元に襲いかかってくる。


 それを見て、イルシュルは本気で目の前の存在が「常識に収まっていない」ことを理解する。

 もはや生物としての概念で説明できるかすらも危うい存在に対して、イルシュルはとにかく生きることだけを目的に行動することにする。



「迷うなイルシュル、ヤツを落とせ」


 次の行動を余裕なく思考するイルシュルであったが、それに助け舟を出すようにビアーズはそう叫ぶ。


 その言葉を聞き、イルシュルはすぐさまこの真下にある実験施設があることを思い出す。

 その実験施設は、魔天の生態に関する実験施設であり、そのエネルギーを抑制するためにDADが完備されている。もしそこに叩き落とすことができ、尚且エンディースの情報が正しいならこの窮地を打開しうるだろう。


 そうと分かればイルシュルは、持てる全エネルギーをスポアに表出し、とにかく床を攻撃し続けた。

 しかし、その間も分身から攻撃を受けることはまず間違いない。それをすべて避けきることは難しい。加えて、この管理塔-Mは極めて頑強に作られている。単体の火力で床を落とすことは不可能だろう。


 だからこそ、相手のエネルギーが必要になる。

 けれどもペリドットらは攻撃をこちら側に収束させすぎている。床を落とすほどの火力を持たせるには相手の攻撃も活用しなければならないことに鑑みれば、こちら側のアクションが極めて重要となる。


 そのためにも、イルシュルは器用に床に攻撃を行いながら敵の攻撃を床に当てるように行動を始める。

 そして、ペリドットが作り出したレッグが床を覆い尽くしていることから、床に対して攻撃を行っていることに気が付かなかった。


 だからこそ、ペリドットは無謀な攻撃を続けるイルシュルを嘲笑するように言う。


「レッグはすべての衝突を緩和する。攻撃しても無駄だ」

「そうだろうな。確かに……」



 イルシュルはニヤリと笑いながらそう告げる。

 その瞬間、大きな唸り声を上げて、床がミシミシと崩壊を起こし始める。レッグと呼ばれた分身に攻撃を当てた瞬間、半液体状のネックが大きくうなり、それが作用して床が劇的に崩れ始めたのだ。


 そしてそのまま、大きく床は崩れて、真下の実験施設に舞台を移すことになる。

 床が崩落し数メートルは落下したイルシュルとペリドットは、お互いに美しい受け身を取り、再び戦闘態勢に入っていく。


 通常の人型であるイルシュルは、簡単に復帰することができたが、ペリドットの分身たちは壁や床という依代を一旦失ったため、一度分身を解除し受け身に徹したようで、今は丸裸の状態になっている。


 そこで十分に時間を稼ぐことができそうだ、イルシュルはそう確信しながら、その場のDADを起動させる準備をする。


 この実験施設は、DADを一つの部屋区分で分けられていて、ちょうど落ちたこの部屋は部屋そのものをDADが機能する部屋である。

 つまり、起動すればその部屋の中のみDADが起動する。

 これを利用すれば、ペリドットのみにDADを適用する事ができる。


 それを知ってか知らずか、ペリドットはイルシュルに対して告げる。


「第二ラウンド開始ってこと? いくらやっても、さっきの二の舞だよ」

「だろうな。さっきと同じなら、な?」


 そう言いながら、ペリドットは隣の壁をぶち破って早速DADを起動する。

 一瞬にして室内は歪なLEDのライトが灯り始め、機械的な音を響かせながらシステムが起動し始める。それとともに、ペリドットの大量の液体はどんどん地に伏せていき、彼のエネルギーはすっかり無意味な液体へと変貌していく。

 それはペリドットも気づいていて、自らのエネルギーが無力化されている様子をただ黙って見つめた後、不安げな声で話し始める。



「これは……また、DADか。君たちも、これが好きだね」

「この状況で戯言とは随分な度胸だよ。一つ、聞かせてくれ。お前たちは一体……何を企んでいる?」


 イルシュルがDADが起動していない部屋から尋ねると、ペリドットはすぐに踵を返して、上方に向かって叫ぶ。


「α~、一旦撤退しよう。合流場所はいつもの通りで」

 相変わらず脳天気な声でそう告げたペリドットは、すぐにイルシュル側に向かい、胸ポケットから黒色の拳銃を向け、冷たく言い放つ。


「今回は君の勝ちにしておいてあげる。だけど、いつでも殺せる、それは心に刻んでおけ」



 温度のない言葉を残して、ペリドットはそのままどこかへ去っていってしまう。

 それに対して、イルシュルはこの場で始末できないか考えたが、彼の余裕さと上部で戦っているセフィティナがいることも考えれば、ここは言うとおりに待機したほうがいいのだろうか。

 幸い相手に敵意はないようで、このまま黙っていれば命は助けてもらえるだろう。


 そんな自問を繰り返しているうち、ペリドットはどこかへ行ってしまったようで、気配はパタリと消えてしまっていた。

 その時にようやく、イルシュルは自分の命が辛うじて生きながらえたことを理解する。


「とりあえず、エンディースと合流するか」



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