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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十三章 揺らぐ接触面
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激突-2

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 「激突」の区分2ですが、この戦闘はもうちょっと頑張るべきだったと今更ながら後悔しています。ここから変えると大分変化が起きてしまうのでやっていませんが、改変候補ですね。

 次回の更新は来週月曜日18日です! 次回もご覧いただければ幸せです!


 その感想は極めて的を得ていた。


 粉塵から現れたのは、恐らくペリドットのエネルギーから出現した無数の異形の一つである。

 それは、天井からぶら下がる人型の化物であるが、その半分が液体で歪んでいて、もはや人としての原型を留めてはいない。一応は人をモチーフにしているようだが、異形の存在は首がなく、胸部に顔が浮かんでいるようで、そこから手足が人型上に伸びている。


 ひと目見たただけで夢に出てきそうな風貌であり、首をなくした人間が代わりに胸部に顔がついたような気味の悪いものだった。

 そして、怪物は大量の触手のようなものを体中から出現させていて、吐き気がこみ上げてくるほど狂気的な造形であった。


 この異常な化物に対峙することになったエンディースだったが、自分の足元が何かによって歪まされる。

 すると、ペリドットは相変わらず退屈そうに、エンディースの足元を指さした。


「それも僕のものだよ。足元は気をつけたほうがいい」


 その言葉を聞き、即座に視線を落とすが、それが事態をさらに深刻にさせた。

 今まで安定していたはずの床は途端に液状に変化してしまい、まるで雨が天に上がるように奇怪な動きをさせて多くの触手を展開していく。


 すぐに、その正体についてエンディースは知ることになる。

 辺り一面に広がった肉塊地味たものには、幾つか手足のようなものが転がっている。そして、広がった肉塊の節々に眼球や鼻、口などの顔面パーツが浮かび上がっている。

 恐らく、これは出現させた分身の体を液状にして床を覆い尽くしたのだろう。


 もはや生物として活動できていることに疑問が出るほどの戦い方であるが、これほどまで異形の行動に出て未だ殺されていないのが不思議である。

 その疑念を振り切るように、エンディースは両腕を組んで大きな刃を作り、そのまま体を回転させ、辺りに広がる大量の触手を切り落とし、そのままの勢いで眼の前のペリドットに大振りな一振りをお見舞いする。


 しかし、ペリドットに纏わりついた分身は、無数の触手でその一振りをキレイに受け止め、胸部の顔は歪な嘲笑を浮かべる。


「もう少し、周りのことを観察することを覚えようね」


 加えて、受け止められたエンディースの一振りは、半ば液状になっている触手により完全に動きが止まってしまい、動かすことすらできなくなってしまっている。

 この動きに、エンディースは見覚えがあった。この後に行われるのはおよそ一つだろう。


 その見立ては実に的を得たものであった。不気味に歪んだ嘲笑は、大口を開けながらけたけたと笑う。

 そして、その大口からゆっくりと形成されたスポアの塊は、一瞬にして鋭利に変形し、そのままエンディースに向かって射出される。この攻撃は、ほとんどエンディースが前回ペリドットから受けた攻撃と同じものだった。

 このエンディースの記憶が、少しの間の生存につながることになる。


 行動が制限される直前、エンディースは自らの刃と腕を分離させていたことから、この攻撃を受けずに済む。しかし、それに畳み掛けるように床一面に広がる肉塊が規格外の触手を出現させ、大きくうねり続けている。


 もはやこの攻撃の掻い潜り続け、尚且攻撃に転じることは困難を極める。正確に言えば、手数が圧倒的に足りない。すべての分身は完全に独立して行動する上、コンビネーションも完璧に行い、尚且すべてがこちらの攻撃を無力化し、それでいて行動を完全に停止させる事もできる。


 そこで、エンディースが下した決断は、「撤退」である。攻撃を掻い潜ることに徹すれば、逃げることは可能だろう。幸い、ペリドットは圧倒的な力を用いて完全に油断している。隙きを付けば十分付け入ることはできるだろう。


「イルシュル! 地点Mで落ち合うぞ!!」

 エンディースはイルシュルに対してそう叫ぶと、自らの残っている力をすべてスポアに転換し、見境なく攻撃を行う。

 これに対して、ペリドットは興味なさそうに攻撃を分身で受け止めながら、攻撃を囮にして逃げたエンディースを一瞥し、残ったイルシュルと2体の化物を眺める。



「簡単に言ってくれる……」


 一方のイルシュルは、四足歩行の分身と、天井を這いずり回る分身の相手をしていて必死だった。


 イルシュルは、軍事力を統率するものとして相応しい技術力の持ち主だった安定して攻守ともに優れるイルシュルの攻撃スタイルは、全身をスポアでコーティングしながら、両腕のスピア状のスポアで攻撃を行うものだった。

 しかし、それ以上に、四足歩行の分身と天井を這いずり回る分身のコンビネーションは厄介だった。


 四足歩行を行う分身は兎に角スピードに優れていて、手数で攻めていくタイプの攻撃スタイルである。それとは対照的に天井を這いずり回る分身は、2本の大振りなスポアを体中に動かし、一発でも攻撃を当てれば致命傷を負わせることのできる殺傷力を秘めている。

 つまり、四足歩行の分身で陽動を行いながら、上部を這いずり回る一発の大きい分身の攻撃を当てるという戦略である。


 理屈は単純であるが、問題はこのコンビネーションが極めて高い精度で行われることである。

 特に四足歩行の分身は、恐ろしい俊敏さで絶え間なく攻撃を行い、それに合わせて天井の分身が不定期に攻撃してくる。厄介なのは、天井の分身の攻撃タイミングである。基本的に天井の分身は攻撃のタイミングがランダムであり、その攻撃を読むのは難しい。幸い、攻撃動作そのものがかなり鈍足であるがゆえ、回避することはたやすいものの、これ以上俊敏な四足歩行の分身の攻撃を受け続ければ確実にこちらがスタミナ切れになる。


 それを回避するため、イルシュルはエンディースの判断どおり、地点Mに向かおうとする。

 この場合、地点Mはそのまま管理塔-Mのことを指しているのだろうが、この攻撃の渦を掻い潜りながらそこまで移動するのは困難を極めるだろう。とにかくスピーディーな攻撃の乱立にまともに反撃の余地すらも存在しない。


 これほどまでの手数に圧倒されながらも、イルシュルはなんとかその攻防について来れていた。


 しかしそれは、時間が経てば確実にかられてしまうことを意味していることと同義である。

 とにかく、すぐにでもこの場から逃げなければ明日生きることはできないだろう。

 それを痛感したイルシュルは、スピア状の自らの両腕をスローイングナイフのような状態にし、ゆっくりと攻撃を見定める。


「(……2つの分身に攻撃を当てるには、冷静に……当てる)」


 此処から先はタイミングである。ほぼ同時に両腕のスピアを各分身に必中させ、無理やり隙を作り出し、脱出の糸口につなげようとしているのだ。


 だがこれは、ほぼ同時に攻撃を与えない限り隙は生まれない。加えて、この機会を逃せば

後方にいる2体の分身の攻撃も追加されることになるので、更に脱出が困難になる。

 失敗は許されない。たった一度のチャンスにすべてを賭けるしか、この戦場から生き残ることはできないだろう。


 イルシュルは冷静になり、大きく息を呑む。

 その間も、辺りは恐ろしいスピードで這いずり回る四足歩行の化物は今にもこちらを噛み殺そうと言わんばかりの調子で攻撃を開始する。


「(この攻撃だ)」


 真正面から迫ってくる化物は、恐るべきスピードでイルシュルに距離を詰め、前足を上げウィリーのような体勢になり、腹部から槍状のスポアを幾つも出現させ、それをすべてイルシュルに向かって放たれる。

 攻撃そのものは単調であるが、その剣山の如き攻撃を受ければ、他の攻撃を避けることができなくなってしまうだろう。その後の現象を予見するように、天井に這いずり回っている分身は、一際大きなスポアを出現させ、両腕に携えている。

 それで何を行おうとしているのかは馬鹿でも理解することができる。その上、上部のスポアは今までと比べると3倍近い。かなり鈍足そうに思えるが、何よりその大きさから攻撃を回避することは難しい。


 決めるならばこのタイミングでなければならない。


「(確実ではないがここしかない!)」


 それを覚悟したイルシュルは、すぐさま横転しつつウィリー状態の怪物を回避し、上部の怪物が攻撃を行った瞬間、両腕のスポアを各怪物に投げつけた。


 それは見事に2つの怪物の頭部を射抜き、その瞬間に両者のスポアは完全に停止し、そのまま2つの怪物はドロドロに溶けていってしまった。そして、溶けた怪物たちはそそくさとペリドットの足元を伝い、そっと彼の肉体に溶けていってしまった。

 そして、残った2体も溶けていき、同じように完全に消えてしまった。


「あらら、殺したんだ。流石、トゥールトップ、武人ですなぁ」


 ペリドットは、相変わらず嘲笑地味たことを口走りながら、手をたたく。

 その状態に、イルシュルは睨みを利かせるものの、そのまま攻撃を行うことはせず、ビアーズに声を掛ける。


「ビアーズ様!! 一旦撤退しましょう!」



 そう声をかけたときだった。イルシュルは、ビアーズに起きた異形の佇まいに、目を丸くする。

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