机上の舌戦
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
ここから、本格的にこの物語はバトルに発展しますが、このまま章を続けていいか悩んでいます。この先の戦闘が尋常ではないほど長いのですが、章区切りでいけば順当なんですよね……というわけで続行します(´・ω・`)
次回の更新は今週金曜日8日20時からとなります! 続き物なので、次回もご覧いただければとっても幸せです(*´∀`)
・管理塔-W 二家会議室
ビアーズの招集により、メルディス及びトゥール派それぞれの最高責任者が一堂に会することになる。しかしそこには、場違いなメンバーもちらほら見受けられた。
それはビアーズが連れてきたメンバーであるアゲートと、ついでにトゥール派が連れてきた、ゲリラ組織宴のリーダーであるエンディースである。それについては、開催主であるビアーズは織り込み済みであり、特段気にした調子もなく、司会進行を務める。
「皆、集まってくれたことに感謝する。議題の中心についてはもはや周知の通りだ。早速、迅速な対応について考えていただきたい」
「ちょっと待て」
ビアーズの進行を遮ったのは、トゥール派筆頭のイルシュルだった。
彼はアゲートのことを指さして怒涛の勢いで口走る。
「どういうことだ? これは二家会議だ。第三者の介入がある場合、それについては事前に告知する義務があるはずだ。そうだろう? ビアーズ様?」
挑発的なイルシュルのセリフに対して、ビアーズは続ける。
「だが、規定にはこうも書いていたはずだ。二家会議に第三者が参加する場合、予め承認の提出をしなければならない。しかし、緊急を要し、尚且国家安全保障に関することにのみ、この限りではない。つまり、この状況で許可を取る必要はない」
「しかし……彼はメルディス側の科学者だ。公平性を欠くことになるぞ?」
「問題ない。アゲート君は、信頼できるからな」
「それはビアーズ様だけであって……」
イルシュルがそんなことを口走ると、その眼前を不気味な肉片が通り過ぎた。
それは、ビアーズが部屋中に張り巡らせた不気味なスポアの肉のヒダである。
壁や床から出現しているスポアは、無数の槍のような形状に変形していて、その形相は剣山のようだった。そのなかの一本が異様な長さでイルシュルの頬を掠めている。
自らに何が起きたのかを理解したイルシュルは、喉元にある生命の危機を理解し、蛇に睨まれるような恐怖を感じた。
一方、そんなイルシュルに対して、ビアーズは笑いながら吐き捨てる。
「なぁ権力様、俺が二家って言うことを忘れてないか? いいか? お前のことを殺すことなんて容易いんだよ。既に国家滅亡の危機に瀕している。この状況で俺たちが指揮を取らなければ、二家という存在は途端に形骸化する。収束するまで二家が指揮を執る。反論はあるか?」
笑いながら、それでいて今すぐに人を殺しそうなことを宣ったビアーズは、更に大量のスポアを出現させながら異論を求める。
その言葉に異議申し立てを行ったのは、たった一人だけである。
それは、ビアーズの隣に座っているアゲートだった。
「ビアーズ様、再三言わせていただきますが、我々は言い争いをしたいわけではないのですよ。誤解を与える言動はお止めください」
「あぁ~、アゲート君に怒られちゃったよ。これからは注意するよ~」
「それでしたら、ぜひお話を続けてください」
「りょかりょか~」
まさかの申立人に、その場にいた全員が顔を歪める。正確に言うとベヴァリッジとアゲートを除く全員が、であり、対して2人は表情を変えることなく鎮座していた。
対してビアーズは何もなかったような顔で続ける。
「さて、状況については既に周知の通りだ。第三の組織として、ノアやエノクシリーズが活動している。目的は不明であるが、早急にこれらの問題の収束、具体的に言えば相手の戦力の無力化を行う必要がある。その具体案について、トゥール派は何かしらの手段を考案しているようだ。まずは、そちらから聞かせていただきましょうか。イルシュルさまぁ~?」
あまりにも自然に話を続けたビアーズから、話を振られたイルシュルは、すぐに説明を始める。
「あぁ……その前に、トゥール派は現在、ゲリラ団体である宴と提携を結んでいます。宴は、エノクδの襲撃にあったものの、その襲撃をなんとか退けました。そしてそれは、既存手段であり尚且、従来までエノクに対して効力がなかったとされるDADです。その証拠に、こちら側は2つ提示させてもらいます。一つは、ゲリラ団体宴のリーダーであるエンディースの証言です。エンディース、よろしく頼む」
イルシュルから話を振られたエンディースは、すぐさま立ち上がって自らの経験について話始める。
「メルディス、トゥール双方、我々は通常、いわゆるパブリックエネミーであるが、今回に関しては貴方たちサイドにある。それは十分に認識しておいてもらいたい。その前提とともに、話をさせていただく。我々宴は、現在エノクの確保を中心に活動している。目的についての言及はできないが、その活動の中でエノクδがスパイとして侵入していた。奴ら具体的な言及は避けていたが、恐らくは今議題の中心になっている第三の組織に所属しているのだろう。我々はやつと交戦し、なんとか生還することができた。それはうちの構成員が作ったDAD理論を用いた、いわば簡易的なDADシステムのおかげで、確かにエノクδはDADの影響を受けていた。その構成員の考察では、エネルギーを消耗させた状態ならばDADの影響を受ける、ということらしい。今の所、事象として起きたことだけであるが、恐らく、消耗させた状況であればエノクにもDADの効力が適用されるようだ。こちらからの意見は以上だ」
エンディースは早口でそう言うと、すぐにイルシュルに話を渡して座り込んでしまう。
しかし、それを憚るようにメルディス代表ことベヴァリッジは尋ねる。
「質疑応答などは可能でしょうか?」
彼女は上品そうな笑みを浮かべながらそう言うと、エンディースは再び立ち上がってベヴァリッジの言葉に返す。
「勿論だ」
「それでは質問です。これは、本当に、“真実の報告”ととってもいいでしょうか?」
「……どういうことだ? まさか、私が虚偽の報告をしているとでも?」
挑発的なベヴァリッジの言葉にイルシュルは苛立つように言う。
一方のベヴァリッジは特段気にした様子もなく笑う。
「えぇそういうことです。しかしそれは、パブリック・エネミーを主張するからではありません。私が聞きたいのは、その事象が本当に、“事実であるか”、ということのみですよ」
気味の悪いベヴァリッジの言い方に、エンディースはその意図について尋ねる。
「具体的に説明しろ」
「理論上、具体的に言えばDADはエノクに適用しないのですよ。そもそもDADというものは、体内に流れている魔と天のエネルギーがそれぞれ相殺し合うという性質をもとに、エネルギーを検知し、その値を相殺する形でエネルギーを出力するものです。つまり、そもそもエノクにはDADは機能しません。理論上は、ですがね。しかしながらこれは、エンディース様が嘘を言っている、というわけではありません。貴方の言っている情報は、相手の演技に踊らされている可能性がある、ということです。どうでしょう?」
ベヴァリッジはあくまでも冷静に、そして丁寧にそう言う。すると、続けて補足するようにベヴァリッジはエノクを専門としているアゲートに対して、「アゲートさん、なにか補足はありませんか?」と問いかけてくる。
「はい。僭越ながら申し上げますと、私もベヴァリッジ様と同意見です。しかし、私としても実際にそのような実験は行っていないので、100%その可能性を否定することはできません。もし仮に、この情報が正しいのであれば、かなり有益な情報になる。エノクの持っている莫大なエネルギーから作り出される異常な能力の数々を防ぐことに繋がるでしょう。そうなれば、第三の組織に対抗する手段になるかもしれません。ですが、ベヴァリッジ様の言う通り、もし仮に、これが演技なれば、我々は窮地に立たされることとなります。どうでしょう? ベヴァリッジ様」
「そうですね……確かにこの問題はとても魅力的ではありますが、それを立証している時間はありません。頼みの綱だったエノクεことレオンはエネルギーの供給がストップしてしまっています。臨床の場において立証することはできません。私としては、これは危ない橋だと思っています。そのため、決断は慎重に行いたい。そこで、皆様の意見も聞きたい。一人ひとり、どうでしょう?」
ベヴァリッジの提案に対して、各々が自らの意見を述べていく。
一番最初に述べたのは、アゲートだった。
「わかりました。それでは私から、意見を述べさせていただきます。私としては、この意見に乗るべきではないと考えています。今のところは、という補足をしておきますが」
「なるほど。つまり、作戦として主軸に組み込みつつも、現状で取れるデータを取得してから実行に移す、ということですね?」
「えぇ。エノクがもし、DADが適応するのならば、間違いなく大規模なDADを発動しなければならないでしょう。しかしそれはこちらにとっても諸刃の剣、丸裸にされるのは同じです。規模、時間、十分に考慮した上で発動するには情報が必要です。本当にエノクにDADが効果的なのか、それらの情報が確保する、それが最善案だと考えます」
「私もアゲートさんと同意見です。補足するとして、同時並行的に別の手段を探すことです。有効的な手段であることは認知していますが、アゲートさんの言う通り、これはかなり危険な賭けでもあります。その危険な賭けに出たとき、彼らにDADが効かなかった場合、我々は完全に負けになります。どうでしょう、トゥール派のイルシュル様、貴方はどうお考えになりますか?」
先見性の高い意見が飛び交う中、普段からこういう作戦会議を自分の意志でしてこなかったイルシュルはどのように意見していいのかわからなかった。
このまま意見を同調することが最も自分にとって楽な決断であるが、正直なところ、彼らの提示した案は、いわゆる「最善手」であり、それら具体的な手段についての考えが入っていない。
そこについて、イルシュルは尋ねる。
「……概ね同じだが、手段については?」
イルシュルが若干強張った声で話すと、それを静止するように、司会のビアーズは話し始める。
「手段については別で講じることにする。他の、エンディースさん? オタクはどうなの?」
「反社会勢力にも発言権を与えてくれるのか?」
「俺はパブリック・エネミーも大好物だぞ?」
一際気味の悪い笑みを浮かべたビアーズに圧倒されながら、エンディースは話し始める。
「……俺たちとしても、DADの起動は避けていただきたい。そのためにもできれば、別の手段を講じていただきたい。勿論、手段はない」
「ということでしたが、そういう感じで全員の意見は出尽くした。状況と意見に鑑みて、多数決の原理を適用しよう。それに則れば、アゲートくんの意見を採用させていただくことになる。しかし、それについて、次に手段を講じたい。さ、同じように各々の手段を話し合ってくれ」
ビアーズの声がけに対して、最初に挙手を行ったのはベヴァリッジだった。
「手段は、あるのでしょうか?」
「それを考えるのがこの時間だ」
「いえ、私はそうではなくて、この時間そのものが勿体無いように思えるのです。確証はないのですが、答えのない答えを出し合って結局出来レースになっているような気がするのですが、どうでしょう?」
「だが、この段階で俺たちはどうするべきか? ベヴァリッジ?」
「僭越ながら申し上げますと、今すぐ、第三の組織と話し合うべきではありませんか? この会談を聞いてると、どうにも”第三の組織を潰すこと”を目的に動いているように思えてなりません。メルディスとしての私ではなく、一人の科学者として意見させていただきますと、彼らと戦うなんて愚行に他なりません。私は、多くのエノクについてのデータを理解しているつもりです。それはアゲートさんも同じでしょう。そこに鑑みれば、どれほど我々がしようとしていることが愚かであるかは明白……公共の利益のためにも我々がしなければならないことは戦争の準備ではありません。必要なものは、対話であるはず。いかがでしょう? ビアーズ様?」
ベヴァリッジは、ビアーズが最も危惧していた指摘を行う。
相変わらず、非常に物事に対応しているのは流石と言わざる負えない。ビアーズは内心そんなことを思いながらベヴァリッジに称賛の言葉を渡したくなったが、「第三の組織としての」アゲートからの指示もあるため、早速プラン通りに行動を始める。




