収束と展望
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
今回かなりの遅延があった理由は、この部分を途中で切るか、切らないかという部分で、結局そのままつなげて投稿となりました。この配分は、今後も悩みのタネとなりそうです。
次回の更新は来週月曜日4日20時となります。次回もまたご覧にただければ幸いです(*´∀`*)
「わからない。記憶がひどく曖昧で」
一応話を振られたものの、カーティスは自身に、というよりもイレース含むこの状態に対して認識が曖昧である。そのため、ストレートに首をかしげる。「何があったの?」
その理由について、尋ねられたカーティスの代わりに、メアリーが答え始める。
「それについては僕が説明しようか。この際だし」
「その口ぶりからすると、なにか知ってんだな?」
「ストラスにも若干絡む話かもしれないね。まず、イレースについて話そうか。彼は今、君のシステム上の弟という感じになっている」
「は!?」
「まぁまぁ今説明するさ。イレースは、サイライ事件に巻き添えを食らった後、彼の才覚は二家に相当するものとされ、そのままアーネストに引き取られた。イレースは元々ベヴァリッジが後見人だったんだけど、実はイレースには厄介な過去がある。それはイレースも傷つくこと……だからベヴァリッジはその記憶を吹き飛ばすために、最近導入された想起阻害システムを作った。んで、つい最近それが完成し、ベヴァリッジは悲願は果たされたというわけ……。ま、その記憶っていうのは、僕の口からは言えない。これは、恐らくこの国家の中で最も重い機密になる」
それを聞き最も反応したのはイレースだった。
当然であろう。これらの事柄はすべてイレースに通ずるものであるのだから。
「それって……どういうこと……?」
「勿論、言えない。それを聞きたかったらベヴァリッジに直談判だね」
メアリーの言葉に入ってきたのはストラスである。
「その情報、メモリーボックスに入ってんじゃねーの?」
「入ってないよ~。この情報は、重度機密情報に指定されている。電子的なデータは存在せず、紙媒体のみ!」
「……どういうこと?」
「両派の権限者の許可と、この二家の当主全員が重度機密情報であると判断した場合、メモリーボックス含む全ての電子機器の情報から抹消される。そういうこと!」
メアリーはあどけてそう言ったものの、妙な薄気味悪さを感じさせる口調だった。
その奇怪さは、詳細を知るストラス以外にすらその言葉のニュアンスを感じさせるほどだった。
「……二家全員が、そう判断した、それほどの機密事項か?」
「勿論。僕ら全員が、判断した。それだけ」
「なるほどなぁ? この非常事態にすら、言えないと?」
「僕の口からは言えない~」
あくまでもケロッとしているメアリーに対して、アイザックは疑問を呈すようにストラスの手を引く。
「どういうこと?」
「……二家っつうのは特殊だ。特に当主の4人はそれぞれ意志を持つ。共感なんて能力持ち合わせてる連中は一人もいない。全員各々の意志をもって決断する。俺はビアーズとキャノンの実子だが、子どもの俺からしてもアイツらは頭のネジが外れてるどころの騒ぎじゃねー。そういうのが、二家だ」
「……だから?」
「絶対にメアリーは言わない。それに、メアリーがあそこまで頑なになるってことは、イレースっていう子が抱えている秘密は恐ろしく重い。そして、ベヴァリッジがこれまでしてきた不可解な事柄についてもそれに根があるのならば更に厄介なことになるぞ」
「ちょっとまって、ベヴァリッジがしてきた不可解な行動って何?」
ひそひそ話のままそう尋ねるアイザックは、新しいベクトルから生じた情報について厄介な整合が出てくることに嫌な予感を覚えていた。
「なんだ、お前気づいていないのか? ベヴァリッジは軍略に優れている。そんな人物が、今まで人間にドンパチされて黙っていた。おそらくは何かしらの理由がある。ついでに、方舟についても知っていたはずだ。やつの情報収集能力は破格だからな。黙り込んでなにか計画を立てていた可能性だってあるわけだ。まぁ、件のことに絡んでいることは不明だな」
「……ベヴァリッジは、今まで何もしていなかった。そして、つい最近、イレースの記憶を消すことに成功した。偶然ではない……?」
「と、考えたほうがいいだろう。つながりは不明瞭だがな~」
新しい情報を聞き入れ、アイザックは最悪の想定にたどり着く。
「ベヴァリッジが、今回のトラブルに関わっている可能性……十分にあるんだ」
「は?」
「それも、かなりアウトローな部分に絡んでいる可能性が高い」
「どういうことだ?」
「最初、ケイティさんを利用して天獄を潰そうとする計画、これを行ったのは宴であり、トゥール派だと思い込んでいたけど、実は違ったのかもしれないんだ」
「バカにもわかりやすく説明してくれよ」
「宴はメルディスの名前を名乗った。僕らの状況を考えればこれは、嘘だとバレる意味のないもの。むしろこれはトゥール側にいるという疑念すらも抱かせる可能性もある。だから最初から疑問だったんだ。どうしてそんなことをしたのか。仮に、宴を動かしていたのがメルディス側だったとするのならば、これは繋がってくる。メルディスにしても宴にしても、名前を名乗ることで、どちらの派閥についているのかを撹乱した。僕らの状況からすると、宴は単独で動いているか、トゥール派、メルディス派、またはどちらにもついている4択だった。これを撹乱させるための行動……むしろトゥール派に傾倒していると誤解させるための措置だったって言うこと」
「……端的にいうと、あのとき名前を名乗らせる意味がないからメルディス派に所属しているって言うこと? それはちょっと早計じゃないの?」
「宴の現リーダーはエンディース、彼は恐らく、25年前の事件の真相を求めている。あんな形で元リーダーであるケルマータが死ねばそうなる。それを考えると、宴を動かしていたのは最後者、メルディスもトゥールも宴を利用していて、宴もそれを利用していた。そういうことだろう。つまり、宴とメルディスの間に良からぬ関係があることが明瞭になったと言っていい」
それを言われ途端に現実味が増したのか、ストラスは死んだような表情で続ける。
「で、どうするんだ? あの怪物が敵対しているなんて考えたくないぞ?」
「現実は非情なもんだよね~」
「お前随分と他人事じゃねーか」
けろりとそう言うアイザックに対して、ストラスは冷ややかな視線を浴びせる。
その一方で、アイザックは特段気にした調子も見せずに、まさかの言葉を口走る。
「え? もう僕はカーティスを見つけたしこの問題から離脱しようとしているんだけど?」
「あ!? お前随分なこと言うじゃねーか。大体、今回のトラブルはてめぇも十分関係してんだよ。今更下りるなんてナシだぜ相棒!?」
「いやいや、僕一般人! うちの息子も民間人なの! とっととカーティス連れて帰るよ。もうここにいる意味なんてないんだし」
ツラツラとそう述べたアイザックに対してストラスはスポアを出現させながら続ける。
それは、恐らく感情的になり冷静さを失っているようだった。確かに、親として息子を守りたい気持ちもわかるのだが、まずカーティスの肉体が見つかっていない以上、これは明らかに悪手である。
珍しくそこが頭に入っていないことに対して、ストラスは露骨に怒りを表す。
「おいこら、八つ裂きにされるかこのまま楽しくピクニックを楽しむか、どっちかにしろよ?」
「それは素敵だ。君も一緒にピクニックといこうじゃないか。そのまま一緒に帰ろう、それで無問題、そうでしょう?」
挑発的な視線でそう告げたアイザックに対して、ストラスは、右腕を槍状に変形させたスポアを纏わせながら、脅すように言う。
「そいつはあの街の下で狸寝入りを決め込んでいるクソッタレを無視する前提だ。いいかアイザック、俺はお前のことを信頼しているし、ベリアルと同じく家族だと思ってる。だが、これ以上バカなことを宣うならその首を掻き切ってもいい。わかるか? 俺は別に快楽のためにお前の首が欲しいわけじゃない。欲しいのは収束だ。ベリアルと一緒に楽しい日常に戻れればそれで無問題、そういうことだ」
「勿論それは素晴らしい収束地点だ。だが、僕らにできることはなんだ? 具体的に言ってほしい。別に僕は義理と人情で動いているわけじゃない。僕には僕の、大切な子どもを守るという信念でここまで来た。僕にとって街の人間が死のうが別にどうでもいい。僕の性格は知っているんだろう? 僕らが動かなくたってことは収束する可能性がある。それまで、僕らはバカでかいイビキを聞かなくていいところで、人生ゲームでもしてればいい。そうじゃない? 結果として、僕らが生きていればいい。その結果が大事だ」
「知ってるさ。お前がプラグマティスト気取った単なるワガママなチビってことはな。だが、実用主義を掲げるなら、この戦場に出向くべきだ。結果として、孤児院が吹っ飛ぶ可能性があるんだからな?」
「……どうしても?」
「あぁ。もし仮に、ベヴァリッジが動いているなら、否が応でもお前やミラ、ルネの力が必要になるだろう。俺にとって、お前がリアリストでもプラグマティストでもどっちでもいい。だが、俺はベリアルとの生活が大事なんだ。それにミラも、こっちに仕事を振ってる。今回のことを全うすることが俺たちにできる最善の策だろう。おーけー?」
「そうだけど、折角カーティスが無事だったのに……」
いつにもなく冷静さを欠いているアイザックに、ストラスは更に続ける。
「らしくない。考えても見ろよ。カーティスの体はどこにあるんだ? それにすらもわかっていない。だからこそ、俺たちは今回のトラブルを解消する必要があるんだ。頼むよアイザック」
「確かに……」
「な? だからお願いだよ。黒幕探しに付き合ってくれよ~」
「…………まー、君がそこまで言うのなら? 別に付き合ってもいいかな」
若干ツンデレ風な口調をしながら、アイザックはすっとカーティスの方向に目を向ける。
一方、カーティスとイレースは急遽勃発した喧嘩に対して驚いているようで、とりあえず2人を落ち着かせようと声を掛ける。
「2人共、どうしたんだよ……? 大丈夫?」
「あ~こっちのトラブル、大丈夫。とりあえず、俺達がここに来たトラブルに関して説明する。んで、俺たちもこのトラブル解決のために行動するから、相互扶助として協力してもらいたい。いいか? カーティスくん? イレースくん?」
「俺は別にいいけど……イレースとメアリーさんは、大丈夫?」
カーティスはとりあえず2人にそう尋ねると、メアリーは楽しげに「別にいいよ~」と続け、イレースは「僕も大丈夫」と続けた。
それをしっかりとカーティスとアイザックに伝え、それを確認したストラスは自らに起きた一連の出来事を伝える。
「俺たちは25年前の事件の発端の地である街から来た。そこで、カーティス、君についての捜索依頼が届いたんだ。それはケイティさんからの依頼であり、ついでにそれは魔天コミュニティのゲリラ団体である宴だった。そいつらは自らをメルディスと名乗り、俺たち便利屋天獄を潰そうとしたんだ。それは恐らく、奴らをコントロールしている連中が俺たちのことを潰そうとしてきた。そこでとっとと事を調べているうちに、一連のトラブルには25年前の事件で作られた水爆、方舟が街に埋まっているって言うことに行き着いたんだ。んで、カーティス探しとトラブルの根源を探しに俺たちはここに来た。簡潔に言えばこんな感じか。どうだ? お宅の情報と整合するか?」
それを聞いてイレースは大きく唸る。
「まさか、人間の世界でもそんなことが起きていたのか……そして、カーティスが消えたのも同じ時期、ここで繋がった。それならカーティスがキーマンになる可能性が高い。でも、状況を考えればカーティスと繋がっているのは第三の組織が濃厚だ。くそ、わからないことが多すぎる」
イレースの言葉に、同意するように、アイザックは続ける。
「もし、第三の組織ことノアたちがカーティスのことを巻き込んだんなら……、本気で慰謝料を請求する」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。俺たちが要求するのは慰謝料なんてカテゴリーのものじゃない。明確な損害賠償だ。ついでに、とびっきりデカい大穴を作ってやる」
ストラスはそう言いながら、桁外れに大きなスポアを出現させケタケタと笑う。
「あいつ、25年前の事件からよくやってくれる。人をノーギャラで雇いやがって、次こそは大金を払わせてやる」
文句しか出てこないストラスに対して、イレースは一体何があったのかを尋ねようとしたが、どうせろくでもないことしか返ってこないのだからと考え直し、次の手について話し始める。
「あの、具体的な案として、なにか考えられます?」
「考える役目はこっちのチビの仕事だから」
「とにかく、第三の大馬鹿連中の動向と目的の把握が最優先だ。その鍵は、カーティスがどう関与しているかってところ。カーティスの体をとっとと探し出したほうがいい」
「お前それは私情が入ってないだろうな?」
「それなら代替案を出すんだね。僕が嫌なのは、文句だけ言って具体的なことを言わないやつだよ」
「あぁ~、そうだな。そいつがいい。で? カーティス探しのアテはあるのか?」
「そこなんだよ。カーティスの本体がどこにあるか、そこが大事なんだよね~。ごめん、何も浮かばない」
アイザックは笑いながらそう言うと、全員が呆れた調子で互いの顔を一瞥する。
完全に手詰まり状態に陥った各々を見て、助け舟を出したのはメアリーだった。
「さて、そこでだ皆の衆。カーティス探しと同時並行的に、イレースのことについて探ってみたらいいじゃないか。イレースには2ヶ月前の記憶が無いんだろう? だから、イレースのことを調べればいいんじゃないのかな?」
「どういうこと?」
「言葉通り。イレースの過去を調べる。その手段については君たちで考えるんだね」
「……なるほど? それなら、君のパピーに聞けばいいんじゃないの? アーネストのご子息お二人さん?」
メアリーの提案にアイザックは、ちらりとイレースとストラスのことを眺める。
一方でストラスは、一瞬でその提案をかぶり振る。
「ふざけんな。どうせろくな情報が出ないさ」
「……だから、代替え案は……」
「わかったわかったクソ野郎、これも? 大馬鹿との楽しい生活がかかってるんなら別にいい。糞が!」
「イレース君はそれでもいいの?」
「あ、……うん。あんまり好ましくないけど」
「どうして二家のちびっ子はこうも家出ばっかりするんだよ」
「お前もあの家に入ればよく分かるってもんだ」
途端に喧嘩に発展しそうな連中をケタケタと笑いながら、メアリーはその状況を静止する。
「やめなさいな。全く、可愛い顔が台無しだよ。ほら、隣でフー君が待ってるんだろう? 引き連れて”空白の時間”までハイキングだ。行ってきなさい。あ、メモリーボックスはいつでも見れる状態にしておくから、いつでも戻っておいで」
「メアリー、感謝したいが随分とらしくないことするじゃんか」
「おや、今すぐ取り下げてもいいんだよ」
「いやーメアリー様素晴らしい限りです。それでは俺たちはこれで」
「分かればよろしい」
メアリーの若干怖い言葉に対して、異議申し立てをしたのはイレースだった。
「メアリーさん、僕からいいかな?」
「どうぞどうぞ」
「アイザックさんとストラスさんがここで公に活動するのは若干怖い。僕らは普通に、フーさんとともに戻って、2人にアーネスト側の情報収集をお願いしたい」
「それは妙案ねぇ。んじゃ、手分け決定。アイザックとストラスはアーネスト側にゴーイング、イレースたちはとっとと公に戻って行動する。以上~解散~」
メアリーはそう言いながら手をぱんぱんと鳴らし、そのまま椅子をくるくると回しながら首を鳴らしている。
それを合図に、全員が各々の目的のために室内から出ていってしまう。
それを確認したメアリーは、ポケットから先程落としかけた、黒色と白色の円形のコインを空中に投げる。
「全く、あの子たちもまだまだツメが甘いねぇ。僕は”イレースに2ヶ月前の記憶がない”なんて、知らないんだよ。この段階ではね」