家族だから
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
この部分は、今まで巻いてきた奇数側の伏線を幾つか回収しているのですが、ここで出てくるとある技術については、カットされている部分に出てきているので、なんと初登場です。もうすぐこの作品を連載して1年になるので、こういうミスがあったのに気づいたのはつい最近でした。やっぱり連載って大変ですね……
次回の更新は今週金曜日3月1日の20時となっています! 物語ももうすぐ佳境、終わりを目指してがんばります!
・魔天コミュニティ 二家-ベルベット邸宅
ノアがビアーズと接触しているほぼ同刻、ベルベット邸のメモリーボックスサーバー室の中では、突然降ってきたストラスとアイザックが、室内にいるイレースやメアリーから怪訝な瞳を向けられている最中だった。
「ったく廻のやつ……落ちるから俺を先に転送したのかよ……」
キレイに床に叩きつけられたストラスの上には、続いて転送されたアイザックが上品な座り方で座っている。もはや何が起きるのかを知っていたような座り方であるが、その下にアイザックのすべての体重がかかっているため洒落にならない。
「ストラス、大丈夫?」
「そう思ってるんならとっととドけ!」
アイザックは失笑したように表情をほころばせ、すぐにストラスの体から降り、そそくさと周囲を見回した。
すると、アイザックは最初に端末をイジるメアリーと視線がぶつかり、誤魔化すように笑った。
「あはは……不法侵入じゃ、ないですよ」
「これはこれは、まさかワープで不法侵入なんて素敵ねぇ。貴方、名前は?」
メアリーはアイザックと目を合わせた瞬間、楽しげに笑ってそう尋ねる。
優しそうな瞳であるものの、怖いくらいの無表情さを漂わせているようにも見える。それを見たアイザックはすぐにストラスを叩き起こし、自らの前に突き出す。
「ストラス、ガンバッ」
「この野郎」
「ん~? あらあら、僕の見間違えかな? 久しい子がいるじゃないか」
「あ……、お久しぶりメアリー、今すぐ人を殺しそうな顔してるけど、なにか?」
「いやいや、君がここから出ていってとてつもなく久しいからね。今すぐ、ビアーズに突き出してもいいね?」
「いやいやいやいや、ちょっとまってホント」
ストラスは露骨に慌てふためきながら自分がここに来た理由を述べる。
「コミュニティでも起きてるんだろう!? 厄介事が!」
「あぁ、そいつのことね。君も巻き込まれ組かい? このイレースも、可哀想に巻き添えを食らったんだよ」
「イレース? なんか聞いたことがあるようなないような……」
聞き覚えがありそうな名前に、ストラスは名前を反復した後、目を丸くしてイレースのことを一瞥する。
一方でイレースは、突如降ってきた青年と少年に驚きを隠せないといった調子で、同じようにストラスらを一瞥する。
しかし、そのイレースよりも反応を強めたのは、意識化に出てきていないカーティスの方だった。
「先生……?」
カーティスの言葉はイレースにしか届かない。
それを察知したイレースはすぐにカーティスに対して尋ねる。
「カーティス? なにかあったの?」
「イレースちょっと変わってくれ。大切な人なんだ」
説明不足なカーティスの言葉に、イレースは疑問符を浮かべるが、何時になく声が震えているカーティスの異変を悟ってとっとと自らの意識をカーティスに明け渡す。
そして、人格が入れ替わったカーティスは、イレースの体のままストラスの後ろに隠れるアイザックに抱きついた。
すると、連鎖的にアイザックは変な声を上げる。
「うにゃ!?」
「先生!! 俺だよ!! カーティス!」
「え!? え……? カーティス? 本当に、カーティスなの……? 僕の知っているカーティスじゃないんだけど……」
訝しげにイレースの体をしたカーティスに目を細めるアイザックであるが、満更嘘だとも思っていないらしい。
それを確認したカーティスは更に詰めにかかる。
「本当なんだよ!! 先生……いや、父さん、俺はカーティス・マクグリン、父さんの息子だ!!」
「カーティス……?」
「お願い、信じてくれ! こんな身なりだが、俺は確かに父さんの息子だ!」
まさかの科白にイレースは内心「こんな身なり……」と急にディスられた自らの身体に若干のコンプレックスを再認し、露骨に落ち込んだ調子で黙り込んでしまう。
対してカーティスは、そんな流れ弾に当たったイレースのことなんて知らず、更にアイザックに自らの小さな体を押し付ける。
「……カーティス、エプロンがうまく、結べるようになったんだ」
すると、今度はアイザックが不思議なことを口にし、その場にいた全員は呆気にとられる。
けれども、その中で唯一カーティスは、大きくかぶり振った。
「嘘つき。固結びしかできないくせに……」
アイザックは過去の癖から、エプロンを必ず固結びにしてしまう癖があった。
何度も直そうとして結局そのまま放置されたエプロンのことを知っているのは極僅かである。それを確かめる行為にしたのだ。
それが成功したのを聞き、アイザックは事切れたように安堵の息を漏らし、自らの背丈よりも低いカーティスを抱きしめた。
「カーティス……お前なんだね……?」
「うん……父さんの自慢の息子だ」
「そうだったね。カーティスはいつも、僕の自慢の息子だったよ」
「信じて……くれたのか?」
「勿論。カーティスのことをいつも信じているよ」
カーティスの口から出た一言は、その場にいる全員が感じていることであろう。
客観的に見れば酷く荒唐無稽である。なにせ、外見的に全くの別人が息子であると語っているのだから。
それでもアイザックはカーティスのことを信じているようだ。
しかし、それに対してストラスはムードをぶっ壊す一言を口走る
「感動の再会をしている最中悪いが、本当にカーティスなのか? 外見、違うんだろう?」
「全然違うね」
「冷静すぎんだろ。その子がカーティスだって保証はないんだろう?」
「確かに確証はないけど、カーティスだろうね」
「だから、んならどうしてこんな状況なんだよ?!」
謎にもめ始めた2人をカーティスは不安げな表情で観察している。
当然であろう。特にメアリーとストラスはとても混乱した調子だった。だが、その表情を凍りつかせることを、アイザックは口にする。
「ニューロン受容体通信人格交換、魔天コミュニティの科学者が考えた、人格を別の肉体に組み込む技術だ。魔天の肉体への同調性と電子的なラグを極限まで0に近づけた技術革新により可能性が見出された悪魔の技術……ていうのが、あったよね?」
何やら小難しいことを口走ったアイザックに対して、カーティスとストラスは首を傾げたものの、意識化に現れていないイレースと端末をイジっていたメアリーは大きく反応する。
特に、最初に反応を示したのはイレースだった。
勿論イレースはカーティスを介して会話することしかできないため、一旦は人格を交代してアイザックに尋ねる。しかし初っ端からそのことについて言及すれば話が整合しない可能性がある。
それを考慮して、イレースはアイザックに対して自己紹介をする。
「その名前……やはり、サイライの研究者である貴方とカーティスは関係していたんですね。お久しぶりですアイザック・マクグリンさん、僕はイレース・アーネストと申します。僕はサイライ事件に巻き込まれた一人で、貴方にお世話になったんです。覚えていますか?」
それを聞いたアイザックは、一瞬表情を怪訝さで満たすものの、すぐに態度を翻し挨拶をする。
「勿論覚えているよ! あのときは、助けることができなくて、ごめんね」
「いえ、貴方に救われた魔天はとても多いと思います。改めて、ありがとうございました。ですが、今はそのまま昔話を楽しむこともできません。アイザックさんが言っていた、ニューロン受容体通信人格交換、通称“トランスニューロン”、どこでこの名前を知ったんです?」
「過去、ベヴァリッジさんからこの技術について聞かされました。あの人は、リラの高度な通信機器を欲しがっていました。それがあれば、トランスニューロンの技術を完成させることができると。それに対して人間側が承諾したとかって話は聞いてるけど、恐らくは、ザイフシェフト政府が承諾したんだろうけどね。詳しいことについては知らないけど、サイバー的な部門での貿易時に行われて完成したんだと思う。で、この技術はある程度この社会において一般化したの?」
「全くしていません。このトランスニューロンは特にその、分離型がひどく批判されて結局はお蔵入りになりましたよ。ま、実際の運用は複製型か、転送型のいずれかでしょうが、分離型の存在によって地位を失った技術であることは間違いありませんね」
イレースとアイザックの知能指数が高そうな話についていけないストラスは苦言を呈するように尋ねる。
「あのさぁ~、一般人の俺にもわかりやすく説明してくれないか? 大体なんだ? そのトランスニューロンっていうの」
「正式名称はさっき言ったようにニューロン受容体通信人格交換、つまり、人間の神経細胞の動きを別の体で再現しようっていう試みだ」
「……つまり?」
「簡素に言うと、“人格を別の人に入れ込むことができる”って言うこと。基本的に、僕らの人格っていうのは脳の神経伝達によって行われるものだと考えられていて、それを数字に換算して人間の感情を演算により作り出す技術なんだよ。んで、これにはさっきイレース君が言っていたように3つの型が存在する。一つは複製型とよばれるもので、端的に言えば脳のクローンを作ってそれを専用の装置に入れて神経データを把握する方法だ。んで、転送型っていうのが皮膚から装置を使って脳波を観測して転送装置に転送する、転送型だ。まぁ人道的じゃないよね」
「エグいな……」
「エグいのはここから。これが頓挫した分離型っていうのが特にひどくて、対象の脳を物理的に取り出して、それを機械につなぐっていう方法。最悪でしょう?」
「俺吐きそうになるわ」
「うん。恐らく、考えられるのは転送型だ」
ほぼ手段について断定したアイザックに対して、ストラスは理由について尋ねる。
「どうして?」
「この3つのモデルには、それぞれメリット・デメリットがある。複合型はそもそも、クローンという形を取るから、確実性にかける。一方で分離型は確かに強力な人格交換が可能だけど、人格を完全に食ってしまうというデメリットがある。これで行えば、正常な人格交換がなされづらい。このことから、最もリスクの少ないモデルは転送型なんだ。イレース君、首元を確認してもいい?」
「……なるほど、見てもらってもいいですか?」
アイザックはそう尋ねながら、自らの首元をアイザックの前に晒す。
すると、それを見たアイザックはイレースの首元にある大きな傷を触りながら続ける。
「あったよ。イレース君の首元に、何かを入れたような小さな傷がある」
「そこから、転送用の機械を?」
「恐らくね。それにこれは、縫合したっていう感じじゃない。恐らくは、もっと高次な技術を使って君の体に入れているね」
「……それなら、誰がこんなことを? どうして、カーティスまで巻き込まれてしまったのでしょうか?」
「問題はそこだ。どうしてそうまでしてカーティスを巻き込む必要があったのか、というところだ。カーティス、お前はなにかわからないのかい?」
一方、突如話を振られたカーティスは、すぐにイレースと人格を入れ替え、すぐに話し出す。




