中立なる者たち
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
今回から13章となり、再びシーンが切り替わります。この物語におけるシーン変更は、演出というものがなく、時系列に沿ったものを意識しているためやたらと場面が切り替わってしまいます。こういう改善点を見つけていくのも、一つの醍醐味です(・∀・)
次回の更新は今週金曜日8日20時です! 次回もご覧になっていただければ幸いです(*´∀`)
・魔天コミュニティ ベルベット邸宅
イレースらとフーは、指定されたとおり2つのメモリートークンを持ってベルベット邸宅を訪れていた。
ベルベットは二家という役職に違わず、非常に大きな邸宅であるが、どこか人を寄せ付けず不気味な雰囲気を持っていた。最初に来客を出迎えたのは刺々しいバラのアーチである。吐き気を覚えるくらいの喧しい香りが鼻を突き刺す傍ら、あまりにもトラブルに乖離した佇まいに、フーは驚きを隠せない。
その邸宅を見て、特に敏感に反応したのはフーの方だった。
「しかし、これほどまでの邸宅とは……二家とは一体何者なんだ?」
「二家は不思議な仕来りが多いから、混乱するのは無理ないよ。さ、行きましょう」
ベルベットの荘厳な邸宅を見るとほとんどの者がそう言うだろう。イレースは何度もそのような体験を目の当たりにしている。確かに、二家という存在はこの国家の中でかなり特殊な位置にあるものだ。だからこその反応であろう。
そんなフーに対してひっそりとそう告げ、鬱陶しいバラのアーチをくぐり正門の扉を叩いた。
すると、その音に導かれるように扉が開かれる。
出てきたのは、当主フィリックスのパートナーであるメアリーだった。
肩ほどまでかかる若干の金髪と、淡いヘーゼルの瞳がとても美しい男性型の天であり、心地よさそうな声でゆったりとイレースとフーに告げる。
「こんにちは2人とも、よく来てくれましたね。イレースは特に、久しぶりだね」
「メアリーさんこんにちは、早速ですがメモリーボックスの閲覧をお願いしたいのですが」
「そうですね、ささ、どうぞ中へお入りください」
メアリーはとても丁寧な口調で、扉を握っている右手とは逆の手で館の中に招き入れ、天高くそびえるエントランスをくぐり抜け、最も近い応接室に通される。
応接室はもこれまた非常に豪華な佇まいであり、美しいシャンデリアと絢爛ながらも淑やかさを感じさせる落ち着いたインテリアの数々が整然と並べられていた。その中でもとりわけ目を引くのが、ソファとテーブルの一式である。
そのソファに、メアリーはすぐに、最も近いソファの前にたち、上座に2人を手で示した。
「さ、お座りください。事情についてはベヴァリッジから聞いています。メモリーボックスですね? こちらのサーバールームで閲覧可能になっていますが、規定により、閲覧は私ともうひとりの者しか閲覧は許されていません。なので、イレース、貴方がメモリーボックスを調べ、フーさんはここで待機していていただけますか?」
その言葉に、強く反応したのはイレースの方だった。
かなり厳格な規定があることについては知っていたが、この異常事態のときもそれを適用するのかと、イレースは驚きを隠せずにいた。
「……フーさんも、参加することはできませんか?」
「えぇ、一応は規定ですからね。メモリーボックスは中立的な存在がある我々であるからこそ管理できるものなので、その規定はかなり厳格です。なので、これは絶対に守っていただきます」
「えぇ……」
「ごめんねイレース。ま、フーさんは暇でしょうから、僕の家内が相手しますよ。フィリックス、どうぞ」
メアリーは優しい笑みを浮かべながら、当主であるフィリックスの名前を呼ぶ。
すると、扉は慌ただしく開かれ、不気味な笑みを浮かべているフィリックスが姿をあらわす。
「こんにちは~ふたりとも~。さ、メアリーたちはメモリーボックスへどうぞ。フーさんはここでお茶会でもいかがかしら?」
「なんでフィリックスさんもノリノリなんですか……フーさん、大丈夫そう?」
「それは大丈夫だが……」
一方のフーは、頭に疑問符を浮かべながらその問を受け入れる。
そのフーの眼前には、ノリノリのフィリックスがお菓子やお茶の一式を起用に展開したスポアに乗せてテーブルに並べている。
その奇怪な行動を視認した後、フーはひっそりとイレースに尋ねる。
「イレース、この人いつもこんな感じなのか?」
「うん……結構キャラの濃い人だから頑張って」
「……情報収集は頑張ってくれ」
冷静さを取り繕ったフーは、にこやかなフィリックスを一瞥し、イレースを見送った。
そしてイレースは、メアリーとともに応接室を後にし、館最奥のメモリーサーバールームへと向かった。
館は恐ろしく大きく、多くの蔵書が種類別にそれぞれの書庫に割り当てられているようだった。
ベルベットは、元々学術を司る天の家系で、アーネストとともにこの国家形成の一翼を担う存在である。しかし、あくまでも学術を担っているというのは「蔵書を守る」ことであり、それには相応の実力を有する存在と知識が必要となるのだ。
ベルベット自体の者は非常に少なく、この広い館に住んでいるのは当主フィリックスとそのパートナーであるメアリー、そしてその愛息であるヴェルタイン、25年前の事件に巻き込まれ、そしてベルベットに引き取られたルークの4人である。
明らかに、4人にこの館は広すぎるのだが、メアリーは特段不便さを感じていないようだった。
それを物語るように、道中にメアリーが小さく尋ねる。
「イレース、ここに来るのは久しぶりでしょう? 相変わらず、広くてごめんね~」
「そんなそんな……僕も、懐かしくて居心地がいいですよ」
「そう言ってくれると僕らも嬉しいよ。ま、僕はベルベットに嫁いだ身だからね、フィリックスにしか興味はないんだよね~」
「そういえば、メアリーは今回のこと、どれくらい知ってるの?」
イレースがそう尋ねると、メアリーはつらつらと話し始める。
「僕は二家会議には出ていないから、フィリックスに聞いただけなんだけど、ノアたちがトラブルを起こしたから、ビアーズがコクヨウの指揮を執るってことくらいかな~。詳しい事柄とかはよく知らーない」
「ビアーズ、父さんが?」
「あれ、知らないの? ビアーズがコクヨウを直々に統括しているんだよ~。本来、コクヨウっていうのはこういう第三者がコントロールするべきものなんだよね。コクヨウのメンツは、そもそもハクヨウで特筆した能力を持つ存在を集めたものだから、尚の事統率が取りづらい。ビアーズなら、きっと破茶滅茶な対策をとってくれているはずだ」
「父さんなら本当にそうしそう……」
「元来不思議な人だもんね。僕はキャノンと親友だけど、キャノンもキャノンで意味不明だけど~」
「キャノンは気まぐれって感じだもんね」
「そうさね~。さ、ここがメモリーサーバールームだよ。どうぞどうぞ~」
メモリーサーバールームにたどり着いた2人は、メアリーが扉を開いたことで、不気味に明点する光が扉の中を這いずり回っている。しかし、それをかき消したのはメアリーが落とした円形のなにかだった。
からんころんという鈍い音を響かせたのは、黒と白の円形の物体だった。おそらくはポケットからこぼれ落ちたものだろう。それをすぐさま拾い上げたメアリーは、何事もなかったかのように振る舞い、すぐにその物体を拾い上げる。
「あぁ、ごめんごめん。どうぞ~」
「メアリー、今のは何?」
「コイントス用のコインだよ。よく揉めるときに使うんだ。さ、調べよう~」
「……そう、それならいいんだけど」
イレースは、あまりにも不自然な動きをしたメアリーの落としたものが気になって仕方がなかった。けれど、それをこれ以上言及するのはおかしいとも感じていた。特段変な行動をしているわけでもないし、敵意を持って鼓動しているのでもない。
だからこそ、メアリーが変な行動に出たことに違和感が生じたのだ。
しかし、メアリーはさほど気にした調子もなく、大量の機械が鎮座する機器の前にイレースを座らせ、早速なんの情報を調べているのかを尋ねる。




