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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十二章 標榜される三首
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順序的先入観

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 この前書きのところは、お知らせをメインに使っていたはずなのですが、いつの間にか内容に触れていました。なのでこれからは簡潔に本パートについて載せておきますね。

 BL回(内容も前回とほぼ同じ)です。飛ばしてもらっても支障がありません。

 次回の更新は来週月曜日4日20時となります! 次回からは13章と再び章が切り替わります。完結までお付き合いいただければ幸せです(*´∀`*)


・グルベルト孤児院 地下道 資料保管室



 地下道を探索していたミラとルネは、ケイティがティルネルショッピングモールに向かった頃合いで、目指していた東地区の資料室にたどり着いた。


 資料室は図書館といった内装で、整然と並ぶ大きな本棚が並んでいる以外にはこれと言ってなにもないように見える。

 しかし、ミラは資料室がはらんでいる不思議な違和感をすぐに気取った。


「んー? なんか変な場所だな」

「確かに、妙に変だよね」

 違和感を覚えたミラに対して、ルネも図書の一つを手に取りながら言う。


「資料室って言う割に、随分と一般的な書籍ばかり並べてるんだね」

「……ブラフか」

「恐らくね。さ、本物の資料室を見つけよう。僕は右側を探すから、ミラは逆側を探して」

「りょーかい」


 ミラとルネは手分けしながら図書館を漁り始める。


 2人が違和感を覚えた箇所は、この資料室の意義と書籍の噛み合わなさである。地下道の資料室は、少なくともこの地下道を作った旧ザイフシェフト国家に関する資料が保管されているはずである。にもかかわらず、この資料室には一般的な書籍ばかりが保存されていていて、本来あるはずの資料のほとんどが存在しないのだ。


 これは明らかに作為的なものであり、恐らくは本物の資料を隠すためのブラフであろう。2人がそう判断したのは、この資料室が秘密裏に作られた地下道にあるためである。


 地下道という一般人に目のつかない場所において、この資料室は情報の隠匿にピッタリの場所だ。にもかかわらず、そこまでカモフラージュとしていくつかの資料を置くということは、それ相応の理由があることを意味している。つまり、この地下道を利用するもののなかで、カモフラージュが必要であった人物がいるということである。その不自然さに感づいた2人は、早速資料室の中にある、本当の資料室を探しているのだ。


 あちこち探していると、お手本のように少しだけずれた本棚があり、その奥には怪しげな隙間が確認できる。恐らくは、秘密の通路的ななにかがあるのだろう。


「ミラ、ここだと思う。手伝って」

「おぉ、マジでお手本通りな地下通路」

「でも、もっとこう、鍵となる本を入れたら動くみたいなのが欲しかった気もする」

「面倒事が増えるのはやめていただきたい限りだ」


 ルネが謎めいた妄想を繰り広げている間に、ミラは紳士に自ら棚を動かし、強引に本棚を動かすと、カビっぽい臭いが漂ってくる地下室の入り口が出現する。


 真っ暗な地下室への入り口をそのままで視認することはできず、ルネは手に持っていた懐中電灯を照らして階段の下を確認しようとするが、残念ながら最奥まで確認することはできず、光は暗がりに飲まれてしまう。


「……どうする?」

「ここまで来て帰りましょうになる訳ないだろ」

「そうじゃなくて、危険か危険じゃないかって話だよ。冷静に考えて、こんな場所で更にカモフラージュを作るなんてありえない。恐らくはパールマンたちがここを作ったときに他の連中に見つからないようにここを作ったはず。それなら、厄介なトラップがあってもおかしくない?」

「それは同意するが、恐らくはないだろう。一連の施設にはそういう、防衛的なシステムやトラップはなかった。この下にあるとは思えない。それ以上に、気になるのはお前が言ったように、こんなところまでカモフラージュをしたことだ。それとこの不可解な地下道、どう考えるべきかって話だな」

「そうだよね。地下道である必然性と、幾つも張り巡らされたカモフラージュ、どういうふうにつながるのかな」

「もしかしたら、そいつの理由もわかるかもな。さ、とにかく進むぞ。しっかりと懐中電灯で照らせよ?」

「わかってるよ!」


 ミラの忠告に、ルネは張り切った調子で懐中電灯を構え、ゆっくりと階段を降りていく。

 地下は深いというよりは、長く続いているようでこのまま進んでいくと完全に別の区域に移動してしまうようだ。


 階段は恐ろしい程軋んでいて、今にも板を踏み抜いてしまいそうな感覚を覚えるが、どうやら階段はかなり頑丈に作られているようで、軋み声を上げているのは手すりの方のようだ。

 恐らくは踏み抜かないように作られているようだが、妙な居心地の悪さは拭えない。


「ルネ、踏み外すなよ」

「うん……」


 ミラがルネにそう指摘した瞬間、ルネの足は美しく最奥に着地する。


「ま、今ついたがな」

「見りゃわかるよ。ここからは僕が前に出るよ」

「気配もないし、俺が先導する。なんか普通に、書庫みたいだしな」


 そう言いながら、目の前にある扉を懐中電灯で照らすと、個室のような状態になっているようで、かなり狭そうだ。

 状況的に見ても、重要な資料がそのまま置かれているだけのようで、さほどの危険性はないと判断していい。


 お互いに判断は同じようで、ルネは特段反発することなく、ミラの牛とに隠れてひっそりと扉を開けさせる。


「お前、怖がりのくせに前に出ようとしてたのな」

「なんかこう後ろにいるのは苦手なんだよね」

「面倒くさい奴」

「早く進んでほら~」


 いつにもまして怖がりを発揮しているルネに呆れながら、ミラは書庫を開きしっかりと辺りを見回し、安全を確認した後にルネの手を引いて書庫を調べていく。


 書庫は本当に最低限の本棚しかなく、大量の資料が安置されているものの、残っている最低限の資料しか残っていないようで、さほど溢れかえっているというものではない。



「これが……一連のカモフラージュの意味か」


 ミラはそう言いながら、手にとった資料をルネに見せつける。

 それを視認したルネは、この資料室の不可解なカモフラージュの意味を理解する。


「ザイフシェフト地域の国家形成に関する資料……著者、アダムス・ブース……?」

「旧ザイフシェフトのしてきた不自然な行動の数々、この地下道やパールマンが関与していたにもかかわらず資料が少ないのも、こういうことだったって言うわけだな」

「つまり、元々この国家は現トゥールことイルシュルのお父さんが作ったっていうこと? 元々隠れ蓑としてこの国家を作ったの!?」

「まー落ち着け。そういうことだ。恐らく、目的はサイライ事件に通じている。旧ザイフシェフトはその時に国家として大きく飛躍したこと、そして25年前の事件との類似性から、一貫した目的があったんだろう。そもそも、どうしてアダムス・ブースを筆頭としたトゥール派は、サイライ事件と25年前の事件を起こしたんだ? それがすべての目的に繋がるだろう。そしてその目的は、推察するに人間と協働することを防ぐ意図が考えられる」

「……人間側が魔天を誘拐した事実があれば、人間への評判は確実に下るから、メルディスの計画を頓挫させる事ができる。だから、わざわざそんなことをしたの……?」


 ルネの考察に付け加えるように、ミラは更に続ける。


「それだけじゃないさ。メルディス側の計画が頓挫するっていうことは、次はトゥール派が政権を握る可能性が高まる。そんな下調べもせずに、人間と仲良し小好ししたいですなんて標榜していたことになるからな。信頼失墜も狙ってたんだろう。ただ、もう一つ意味はあると思う」

「もう一つ?」

「あぁ。サイライ事件、25年前の事件、俺たちが知ってる限り、誘拐されたのは前者ではベリアルとイェル、後者なら、グルベルトとルーク、スベルンだったはず。この5人にはとある共通点がある」


 名前を出されたルネは、ひとしきり頭を悩ませた後、嫌な関連があることに気づき始める。


「……どれも、戦闘能力が高い?」

「そうだ。全員、不自然なほど戦闘という部門においては外れ値……。ベリアルとイェル、ルークは潜在能力では最高峰となる幼児の魔天であり、グルベルトとスベルンはそれぞれコントロール能力に優れる。普通、こんなことはありえない。もし仮に、アダムス・ブースが、”誘拐してメルディス側の計画を頓挫させるため”だけならば、この連中は誘拐することがかなり困難なはずだ。どいつもこいつも一騎当千と言っていい。そんな奴らを誘拐させるか? それこそ、力の弱い魔天でも事足りてしまう。それなのに、奴らは恐らく作為的に化物ばかりを誘拐して事件に巻き込んだ。つまり、そこにも意味があるんだ」

「まさか……、もし、全員がメルディス側の魔天だったとするなら……?」

「同じことを思ったよ。少なくとも、全員トゥール派っていう感じの思想じゃない。確定はしていないがメルディス側だった可能性が高い。そして、彼らはトゥール派の敵になりうる……」

「邪魔者だったの……?」


 ルネは、徐々に整合していく非人道的な目的に恐怖を感じていた。

 元に、ベリアルとイェルは一度洗脳されかけ、精神的に強い傷を負うことになった。グルベルトは件の事件により魔としての命が絶たれてしまった。スベルンとルークは、相当な傷を受けて奇跡的にコミュニティに復帰している。

 少なくと半分の天才が狂わされたことになる。戦力の無力化という部分についてはかなり貢献したと言えるだろう。


「それに? この資料室……誰か入った痕跡があるしね?」

「……ん?」

「いやいや、この資料だけ外に出てるじゃん。明らかにおかしいでしょーよ。随分とうかつな奴だったんだな」

「え、でもでも、こんなところを知ってる連中なんて限られているんじゃないの?」

「ここ最近、魔天コミュニティが無駄に活発化していることを考えると、何かしらのあったのかもしれないな。ただ、かなり中枢のやつだろうな。それでいてこの雑さ……もしかしたら、誰かの命令でここに来ていたのかもしれない」

「誰かって?」

「知らねーっての。だが、その人物はかなり限られる。なにせこの資料室まで知っていて、尚且この資料を見たっていうことは、ミラー家に関係する者か、または魔天コミュニティのメンツのどれかか? だが時系列的に、これを見た奴がケイティさんならそのことまで俺たちに伝えているはずだし、アルベルトが見たのならそれをケイティさんが知っているはず。詰まりは魔天コミュニティの連中だろう」

「それなら、メルディス側の連中じゃないの? トゥール派はこのことを……いや、知ってるわけがないんだ。こんなことを共有する意味はないから、たまたま辿り着くっていう意味ではトゥール派のほうが多いのかな」

「パールマンが単独で動いていない場合は、な? メルディス側が調べていたっていう線のほうがまともだと思うけど」


 ミラの言葉を聞き、ルネも首肯しながら他の資料も調べていく。

 しかし、その多くが既存の情報ばかりで、新しい情報はアダムス・ブースが旧ザイフシェフトの国家形成に関わっていたということだけである。


「なんか、情報としてはこれくらいかな~」

「たしかにな。めぼしい情報はこれくらいだろうが、本当にこれからどうすべきか悩むところだ」

「爆弾処理班とか呼ぶ?」

「俺としてはそうしたいが、信じてもらうのも時間がかかるし、コミュニティの連中がどういう動きをしているのかわからない。派手に動いていることがバレればしれっと爆発してもおかしくない」

「しれっと爆発されたら堪ったもんじゃないよ……でも、爆発処理班の人ならなんとかなるかな!?」

「どうだろうな。対策済みだろう。解除しようにもあの管理者パスがないとだめだろうし、その管理パスはトゥール派の連中が持っているんだろう。全く、アルベルト・ミラーもどうして爆破権限パスなんてものを貰ったんだか」

「そうだよね……GPSで位置を少しでもずらしたら爆発するっていうことは、設定で指定位置をズラせば爆発できちゃうし、多分爆破権限パスなんて必要ないよね……」

「あの人、絶対ケイティさんがいなかったらもう事業失敗しているな。遠隔操作で一瞬で爆発できるようになってるなんてゲスなやつだ」

「どっちにしても当てがなさすぎるよ。一旦、孤児院に戻ろう?」

「それもそうだな~」


 ルネの提案に対してさっぱりと答えたルネは、サラッと資料をポケットに入れて、ルネとともにいま来た道を戻っていく。


「持ち出そうとしているけど、いいの?」

「大丈夫だろ。流石に」

「もしかしたら、それもマイクロチップ入ってるかもしれないよ?」

「それもそうだな。トラップかもしれないし」


 ミラはそう言いながら、資料を一枚一枚スマホにおさめて、そのまま帰宅する。



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