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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十二章 標榜される三首
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系譜の収束地点

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 今回のパートは、なんと完成版にて大分変わることが決定している部分です。その一方で、このパートは今までの伏線を多く回収する部分でもあるので、要検討です。

 次回は今週金曜日2月1日金曜日の20時となっています! 完走までご覧いただければ幸いです(*´∀`*)


・ミラー邸宅 資料館


 ミラ組とストラス組がそれぞれアクションを起こしている頃、ミラー邸宅に戻ったケイティは、慌てふためいている父、アルベルトを軽蔑したような眼差しで一瞥した後、すぐに表情を翻し、大きく首を鳴らしてアルベルトの言葉に耳を傾ける。


「ケイティ、現状どのような状態なのかを説明してほしい」

「話は相当長くなりますが、少し丁寧に進めます。ハミルトンらトゥール派は今回の壊滅計画を頓挫としているようですが、秘密裏にパールマンが行動しているようです。つまり、彼らの報告には明らかな嘘が含まれているということです。恐らくは、諸共我々を破壊してしまおうとしているのでしょう。交渉決裂、という意味です」

「なんだと!? それではなぜ、お前はパールマンと協力してオフィリアという奴らについて調べさせているんだ!?」


 すっかり冷静さを失っているアルベルトに対して、ケイティはその意図について述べる。


「だからこそ、時間を稼ぎました。パールマンは、魔天コミュニティで暗躍しているゲリラ団体である宴のことを調べているようで、パールマンは秘密裏にこの街で動いているようでした。そして、宴もこの街で活動している……恐らくはそれを調べるため、パールマンはここで活動しているようです。それをたまたま、私が掴み、相手の行動を遅延させるために約束を取り付けました」

「……どうやって?」

「方舟の爆破権限です。更に、ミラー家が所有している情報を開示することも脅しとして利用しました。ここから大切なことは、パールマンの目的の把握です。なぜ、パールマンはミラー家に対して、”天獄への経済制裁”を加えながら、秘密裏に動いているのか、検討も付きませんから」

「なるほど……方舟を起爆させるにはこちら側の持っている爆破キーが必要になるからか。それは名案だ。ケイティ、お手柄だな」


 取り乱したと思ったら安易な考えでそう告げたアルベルトに、ケイティはなんとか騙せたという気持ちと、同時に重大なことに気がついていないアルベルトに嘲笑も感じたが、どちらの感情も表情筋に埋め、すぐに続ける。


「まだ十分とは言えません。私がした行動はあくまでも相手の行動を遅延させることです。ここからどう動くかはこちら次第です。なので、ここで一つ、経営者として一翼を担っている私からの提案なのですが、よろしいでしょうか?」

「……畏まっていうということは、それほどリスキーな選択肢ととっていいのか?」

「えぇ。単刀直入に言いましょう。ベヴァリッジと取引をしましょう。メルディス側もトゥール側が25年前の事件に関与した証拠がほしいからでしょう。パールマンの不意をつくためにはそれしかありません」


 ある程度のことを覚悟していたアルベルトであったが、最も考えたくなかった対処法に彼は大きく唸る。


「……それ以外に方法は?」

「あるのであれば、私が聞きたいですね。この状況……、トゥール側が攻め込めば、こちら側としては確実に壊滅です。しかし、方舟の爆破権限がこちら側にある以上はこれを有効活用しなければなりません。ですが、これはあくまでも”トゥール側が爆発させることができない”というアドバンテージに過ぎず、明確にこちら側に実益が及ぶことはありません。これは、いわば状況的アドバンテージ……活用しない限りは破滅するだけです」

「しかし……それはミラー家が一連の問題に関わっていたことを示すことでもある。今まで積み上げてきたものをすべて失うことだぞ?」

「お父様、たいへん申し上げにくいのですが、今の状況は喉元にナイフを突き立てられた状態です。この状況を打開するためには、こちら側もそれ相応のダメージが必要です。もはやノーリスクで生き残ることは不可能……今パールマンの活動が遅延している間に行動しないと一気に窮地に立たされます。ご決断はお父様に任せますが、是非とも、多くの物事を考慮したご決断をお願いします」


 冷たく言い放ったケイティの言葉を聞き、アルベルトは事切れたようにため息を付き、ケイティに意見を求める。


「ケイティはどうすればいいと思う?」

「既に申し上げた通りです。残念ながら、現状これ以上考えることができません。それでは、私はこれで」



 辛く言い放ったケイティはとっとと部屋から出ていってしまい、そのまま扉から出ていってしまう。


 アルベルトの経営的センスと、先見性は非常に乏しいものだった。今回の水爆の件についても、状況的アドバンテージでもなんでもないことについて一切気づいていない。そもそも、「爆破管理キー」など、この方舟という水爆を起爆する上では不必要だ。


 あの水爆には、所定の座標から少しでもずれたら起爆する、いわば逆セーフティシステムが組み込まれている。しかも厄介なことに、この座標設定を管理するためには、パールマンが所持している「管理者キー」が必要となる。

 裏を返せば、管理者キーがあれば、この逆セーフティシステムの座標設定を変更することで、いつでも起爆することができる状態なのだ。それに加えて、管理者キーがなければ爆弾の解除も行えない。

 つまりアルベルトは、方舟をコントロールするために必要不可欠なものをパールマンに奪われてしまっているのだ。元々、方舟はパールマンが旧ザイフシェフト国家を利用して作り出したもので、その目的は不明瞭である。なにせ、ステークホルダーのミラー家にもその存在が知られないように立ち回っていたことも考えれば、確実に「ミラー家の資料や人間をまとめて葬るためのもの」であることは確定的だ。


 これだけ厄介な状態に陥っていて、それをうまく認知できていないアルベルトに対して、ケイティはほとほと呆れていた。いや、もはや呆れを通り越して怒りすら覚えるレベルだった。

 一歩、判断を誤れば狩られることを全く理解できていない。だからこそ、「今まで積み上げたものをなくしたくない」などとバカげたことが言えるのだ。


 これ以上、喉元に触れたナイフに気づいていない死刑囚を演じることはただの阿呆であろう。ケイティはそう思いながら、ゆっくりととある場所に連絡を入れる。


「準備はできましたか?」

「あぁ。こっちはこっちで、今はボスが奔走している。抜け出るには十分だ」

「それは結構です。こちらもすべてをお話しましょう。貴方も、すべてを話してくれるのですね?」

「勿論。そちらが裏切らなければな」

「えぇ。それでは、お待ちしています。場所は、貴方たちが煮え湯を飲まされたカフェにでもしましょうか」

「……お見通しということか」

「それでは、私も向かいます。どうぞ、お気をつけて」


 ある人物に約束を取り付けたケイティは、ひっそりとカーティスのことを案ずる。


 ケイティとカーティスの出会いは、グルベルト孤児院が行っていた学習会であった。いわゆる留守家庭子ども会に近いもので、学習の補填というよりは家に帰っても両親がいない共働き世帯などはこれを利用することが多い。


 ミラー家に生まれたケイティは、幼い頃から経営者としての英才教育を受け、その傍らあまりにも経営的センスの乏しい父親の補助をしていた。母親も既に逝去していたため、頼る人もいないケイティは、グルベルト孤児院という支えを経て生きてきた。


 その時に出会った、というよりケイティが最も惹かれたのがカーティスだった。同い年ながらに人生を3周したかのような達観した価値観と、何より優しい彼に惹かれるのは恐らくケイティだけじゃないだろう。

 しかし、その中でもカーティスが異常に大人びている理由にまでたどり着いたのはケイティだけだろう。


 ケイティがカーティスの出自を知ることになったのは、職員のフギンとムニンの会話である。話によると、フギンとムニンも25年前の事件と関わっていて、その被害者たちで形成されたのがグルベルト孤児院だったようだ。



 それらのこともあり、ケイティは25年前の事件について秘密裏に調べることにした。そこで出てきた驚くべき事実の連続に震えることになる。


 そもそも25年前の事件、通称「ザイフシェフト事件」は、ルイーザの原型となったザイフシェフトという国が行った魔天誘拐事件であり、それを兵器運用するというものだった。しかし本来、人間は魔天よりも遥かに力の劣る存在で、通常では魔天を誘拐することなどできないものだと考えられていた。

 だが、それは稀代の天才科学者であったアイザック・マクグリンが作り出した魔天エネルギーを相殺する「DAD」という技術と、魔天コミュニティ内部の者の協力により可能になり、これらのトラブルが生じたという。


 けれども、これら一連のトラブルは明確な目的が存在せず、計画というにはあまりにもお粗末なものだった。そんなズタボロの計画が採用されたのは、隣国である旧リラとそれが保有する最悪の厄災である「エノクδ」の参加、そして今回のトラブルにも絡む魔天コミュニティの厄介者「ノア」の影響もあり、お互いがお互いを隠れ蓑にする意味もあり遂行されたものだと考えられる。


 ここまで調べたケイティは、この25年前に起きたザイフシェフト事件が、100年前の悪魔宗教団体「サイライ」が引き起こした事件、通称「サイライ事件」と多くの部分で共通している事に気がついた。

 サイライ事件は、人間が魔天についての知識が飛躍的に向上する要因になったものであるのと同時に、「魔天が誘拐される」、「誘拐された魔天が人間と組み合わせることで兵器として利用される」などの共通点が多くあり、これがザイフシェフト事件と何かしらの系譜であることをケイティに確信させた。


 ここまでこの2つの事件に共通点が多いことは、ケイティでもすぐにわかった。この2つにはそれだけではなく、「ミラー家が関わっている」ことと、「ミラー家とともに協力した者がいる」ということも共通していて、まるで同じ目的を持った事件が繰り返されているように。

 そしてこの事件には、魔天のとある一族が関与していた。それは、「ブース家」というものであり、現在のトゥールことイルシュルの父親であるアダムス・ブースがその権力を強めたという国家側の家系である。

 狡猾で多くの者をコマとしか見ない黒い人物であったアダムスは、相応の技術力を持つ人物で、現在のメルディス側のベヴァリッジと政権を争い、最終的には政権争いに敗退し、その後行方不明になった。


 つまり、時系列を整理すると、100年前に起きたサイライ事件とその75年後に起きたザイフシェフト事件は、時差こそあったものの、同一の目的と主体によって引き起こされたものであり、それを裏から手引きしていたのが当時のトゥール派アダムス・ブースであった。

 アダムス・ブースは、当時ベヴァリッジが計画していた「人間側との協同した国家形成及び連携」を頓挫させるため、「魔天に対して人間という存在が危険なものであることを認知させる」という目的で2つの事件を画策した。


 アダムスは人間側には、さも自分たちが魔天を裏切り、人間側について戦うように演出しながら、実は魔天の世界から人間を完全に排除しようとしていたのだ。

 一方の魔天からすれば、人間が魔天を誘拐して兵器運用したという事実のみが伝わることになる。それらを察知した世論がどのように動くかは簡単に予想できる。恐らく多くのものが、「こちら側に敵意のある人間と協同して国家を形成するなんてありえない」というものに動くだろう。

 そして、これらの事件により事態は急激に動くことになる。だがそれは、ベヴァリッジが標榜していた「人間との協同」を阻害することにつながったものの、結局彼女の政治的功績により徐々に推し進められてしまい、結局は今のような状態になってしまう。つまりベヴァリッジが政権を握るという状態になってしまった。


 結果的に、アダムス・ブースのやったことは無意味に終わってしまったことになるが、彼の目的はそれだけではなく、もう一つの目的があったのだ。

 というのも、このサイライ事件とザイフシェフト事件で誘拐された魔天は、どの人物も「極めて戦闘能力に優れたメルディス側の魔天」だったのだ。


 特に、その中でもサイライ事件で誘拐された魔天は、現存している魔天の中でも最強とされる人物で、一人は英雄メルディスとトゥールの息子だったのだ。

 つまり、アダムス・ブースは、これらの2つの事件を「魔天に対しての、人間のネガティブキャンペーン」ということの他に「自分の派閥以外の強力な力を持つ魔天の排除」の意味も含んでいたのだ。

 おかげで、メルディス側の強力な人材はほとんど残らず、今日の魔天コミュニティでは多くの戦力がトゥール側に存在するという、確固たる軍事的な地位をトゥール側に与えることに寄与したのだ。


 そして、これらの事件でアダムス・ブースの指示を受け、実際に行動していたのが、現在のトゥール派参謀のパールマンである。そして、パールマンは最強の威力を誇る水爆、方舟を作り出した人物でもある。



 これらのことを調べ上げたケイティは、今回のトラブルがサイライ事件、ザイフシェフト事件の系譜で作られた水爆、方舟から生じた一連のトラブルに対して、魔天のメルディス派、トゥール派、そして便利屋天獄に関係している第三の組織がお互いの利益と目的に応じて行動したことで、お互いの目的や意図が互いの行動で隠れてしまうという最悪の事態を引き起こしたのだ。


 そのため、今の状況を整理することが必要不可欠であるのだが、如何せん今回のトラブルにまつわる情報が欠如しているがゆえ、どれがどの問題に関わっているのかを明確にしない限りは意味がない。


 それを明確にするために、ケイティは先程約束を取り付けた、ティルネルショッピングモールに向かう。



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