足りない黒白石
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
実は近々とても大切なイベントがあるので、ここからスタートして4つほど部が適当になります。この部は特に手抜き感がすごいです。更新自体は止まらないので、次回も見ていただけるととっても幸せです!
次回の更新は来週月曜日28日20時となっています(*´∀`*)
・旧国境区 天獄事務所
ミラとルネが方舟を発見している頃、ストラスとアイザックは旧国境区にある天獄の事務所に戻っていた。
天獄は、元々はストラスがサイライ事件の後、ともにサイライを潰した天であるアロマとともに設立した便利屋である。その時の資本金を補填し、事実上オーナーとなったのが廻で、その下で経済的な事務及び経営戦略を考慮するCEOとなったのがアロマだった。
当初これに同意していたストラスだったが、アロマが経営のすべてを握り、なおかつ徹底的な利潤追求により、ストラスはすぐさまこの体制をとったことを後悔することになる。特にこういう、利益が全く上がらないときに限ってアロマは「新しい事業の提案」をしてくる。
その割には浪費家なアロマは、旅行にばっかり行っているため、現場の面倒事には巻き添えを喰らわない。相変わらず狡猾なやつだとストラスは思うしかないのが辛いところである。
そんなこんなで事務所に到着した2人は空っぽの室内を見渡してみる。
事務所の中には誰もおらず、オーナーである廻と避難していったミライが遊んでいたオセロが堂々と鎮座しているばかりで、他にはなにもない。
一方で、そのさまを見たアイザックはオセロのコマを抱えながら、破損している盤面を一瞥して率直に感想を述べる。
「なにこれ」
「うちのオーナーとのんきな事務員がぶっ壊したオセロだ」
「あぁ、今話題の隅っこ動かせるやつだっけ? ほとんど別ゲーのやつ」
「そうらしいが、だからといって盤面を剥がさなくてもいいだろう? 全く、うちのバカ事務員め」
ストラスが悪態をつくと、アイザックは笑いながらオセロの盤面に白石と黒石を2つずつ乗せる。
「ねーストラス、廻さんが来るまで遊ぼうよ」
「お前は負け試合をしたいと思うか?」
「だーかーら、ハンデをつけるって。角を2つとった状態からスタートってどう?」
一瞬、ストラスはその提案を聞き結構なハンディだと思いながらも、すぐにこのゲームが隅の4マスを動かせることに気づき大きくかぶり振る。
「いやいや、これマス目動かせんじゃねーか。角もクソもあるか!」
「チッ」
「お前ー! 負け試合で勝って楽しいのかこの野郎!!」
「まー、流石に相手にならないか」
「おいこら喧嘩売ってんのか!?」
「それなら、手詰まり状態でもストラスだけコマを置けるっていうのどう?」
「いや、それできる頃には俺完全に終わってんだろ」
「ほらほらーたまに付き合ってほらー」
「まー、暇だし別にいいか」
どうせ時間もあるのだし、ストラスはやる気満々のアイザックンに付き合い、黒石側の位置に座り、最初の一手を打つ。
「後攻じゃなくていいの?」
「俺はオセロのセオリーとか知らんから意味がないな」
「ま、言って僕もオセロあんまりしないんだけどね。うちの子たちは結構オセロ好きな子が多いけど、ほとんどフギンとムニンが相手しちゃってるし」
「あぁ、そういえばアイツらはお前のところにいるんだもんな。25年前の被害者の会でも形成してんのかよ」
悪態をつきながらも、オセロを進めていく2人は、コミュニティ内部に入ってからすることを明確にしていく。
「それよりも、国家側に侵入してどうするの? アテとかないと僕らも捕縛されるよ」
「情報ならアテはある。問題は見れるかどうか」
「なにそれ」
「あのコミュニティには、ほぼすべての情報を保存するメモリーボックスっていうシステムがある。アレは単純なストレージじゃなくて、コミュニティ内部の電子機器の情報をすべて自動閲覧し保存するものだ。いわば、自動ですべての機器の傍受と保存を一つで可能にする厄介な装置だ」
「それさー、色々いいの?」
「だめに決まってんだろ。個人でのメールの送受信や果はエロビデオの閲覧履歴とかも覗ける。ただそういう情報はすべて一定時間を過ぎれば削除されるが、メモリーボックスを管理する者たちが判断した情報に関してはそのまま永続保存される。そんなプライバシーのない機器が公になっているのは、このメモリーボックスの閲覧制限がかなり厳格につけられているからだ。これは、誰であっても当時の最高権力者2名の許可と、原則として最高の中立機関である二家の誰かの立ち会いが必要になる。大体は、ベルベット側のメアリーが閲覧制限者として立ち会うことになるがな」
そのことを聞き、アイザックは死んだような瞳でつぶやく。
「なるほどね。絶対見れないじゃん」
「そうなんだよねー。見るためには現メルディスとトゥールそれぞれの管理者権限を与えられたメモリートークンが必要になる。外側のやつが覗くのは無理だな」
「よくそんな状態でアテとか言ったね」
「だーかーら、いいか? 俺たちは確かに外部のものだが、一つアプローチがある。25年前の関係者で、今ベルベットにいるヤツがいるだろ!?」
「あ、角とったりー」
渾身のアプローチを華麗にスルーしたアイザックは、呆れた声を上げながら続ける。
「ルークって言うことでしょう? でも、それって都合よくメモリーボックスを閲覧する人がいなかったら頓挫するよ?」
「それについては祈るしかないな」
「ていうか、君は二家のアーネストとしてなにか、特別待遇とかないの? メモリーボックスを許可無しで覗けるとかね」
「ねーよ。あくまでも中立機関出し、俺たちがそんなことやったら職権乱用だろ?」
「王族並みの人権のなさだね」
「やめろ」
まさかの発言にストラスは咎めるも、常識なさそうにアイザックは更に盤面を見下ろしながら白石を打つ。
「どちらにしても、時間か、リスクか……どちらかをとらなければいけないかもしれないね」
「方舟か。確かに爆弾と一緒に夜をともにするのは遠慮したいところだな」
「もし仮に、テンペストが影響しているのならば、魔天コミュニティでもエネルギーを使えば誤爆の可能性が高まる。一旦、ノアたちと協力する方が良いのかもしれないね」
「もう嫌……」
「さて、この状況でどう行動するのが利口か……悩むところだね」
「もう廻に爆弾処理してもらおうぜ、それでオールオッケーだろ」
「所定の位置から少しでもずれたらそのまま吹き飛ぶ爆弾だからなぁ~。爆発に巻き込まれることも考えられるし、確率は五分五分、失敗したらすべて消し飛ぶことを考えるとあまりにも勝率が低すぎる」
「クソ野郎……厄介な置き土産残していきやがって」
「どうでもいいけど、ストラスもう詰んでるよ」
すっかり置ける位置のなくなった盤面を一瞥すると、ストラスは大きくため息を付きながら、ハンディとして「手詰まり状態でも石を置くことができる」というルールに則って、最後に残った黒石を起き、やるせなく笑う。
それに続いて、アイザックも白石を置ききって、盤面でストラスにとどめを刺し、凄惨な盤面を一瞥しながら、ある不自然な部分に気がつく。
「なんか、石、足りなくない?」
「あ?」
「だって、僕もストラスも盤面すべてのマスに石をおいた状態で、手持ちに石が残っていない。これは普通のオセロを壊して作ってるなら、割れた盤面の分、8個のコマが余るはずなんだよ。でも、なにもない。どうして?」
「そういえば、途中で何個かなくなっちゃったんだよな。4つくらい」
「足りてないじゃん」
「捨てられた可能性も」
ストラスのその想定を壊すように、後方から現れた廻は、盤面の石を取りながら、アイザックの頭を撫でつつ言う。
「あのあと、更になくしちゃったからそれでも遊べるようにこうしたんだ。ミライの意見だけどね」
「廻さん、久しぶり!」
「あー、アイザックは久々だね。しかし、歳を重ねれば数十年っていうのは随分と曖昧な時間に感じられるよ。何年前だっけかな?」
「25年前ですよー」
天獄のオーナーである廻は25年前の事件で少しだけアイザックと関わり、同じく事件収束に関与した人物である。普段は滅多に天獄にも顔を出さないため、アイザックとはその時以来会っていない。
「もうそんな時間になるんだね。君も少し、より良い意味でこどもっぽくなったね」
「ありがとうございます」
父親基質な廻の言葉に、アイザックは露骨に恥ずかしそうに顔を背け、本題に入っていく。
「えっと、話は聞いてますか?」
「ミラから聞いてるよ。なんか、魔天コミュニティに送ればいいのね?」
「うん。ちょっと迷惑かけちゃってごめんね?」
「お安い御用よそんなの、出る場所とかはどこにすればいい?」
「ストラス、どこがいいの?」
「ベルベット邸宅の中で!」
「はいはい。ストラス、君もたまにはお父さんたちに挨拶してくるんだよ?」
「嫌だわー、本当に嫌だわー」
そのさまをみてケタケタと笑った廻は、何かを思い出すように「そうだ」とポケットから取り出し、アイザックの手のひらにそれを握らせる。
それは、小さな巾着だった。握ってみると、中に2つほど、円形の薄い物体が入っていることがわかる。
「これは?」
「俺からのお守り。手詰まりっていうときに見てみるといい。メッセージを残しておいたから、後で見るんだよ?」
「なんだかよくわからないけど、ありがとう!」
「うんうん、気をつけるんだよ? んじゃ、2人ともまとまってねー」
若干意味深な調子の廻をおいておいて、2人は隣に並び、ゆっくりと廻の前に立った。
それを確認した廻は、優しく微笑みながら、右手を目の前に掲げ、一種の明転を起こしてそのまま2人は消えてしまう。
完全に転送できたことを確認すると、廻は小さな体をソファに落として、壊れたオセロの盤面を一瞥し、「さて、俺も動こうか」と呟いた




