不合理な意図
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
この物語が終わったあとに、後書きか何かで書こうと思っていたのですが、この「不条理なる管理人」は私の趣味をまとめたお話の二部になっていて、全体を通して、この回でメインに動いている2人が中心でした。
ですが、あまりにもBL色が強すぎるため、このお話の中でも、この2人の回が結構カットになっています。完成版は別の場所で公開を考えていますので、少し話が突飛になっている箇所があります。どうかご容赦ください。
それでは、次回の更新は今週の金曜日25日20時となっています。次回もご覧いただければ幸いです(*´∀`*)
・グルベルト孤児院 地下道
グルベルト孤児院を出たミラとルネは、ストラスらから引き継いだ地下道の探索キット一式を抱えて地下道の入口に立っていた。
相変わらず不気味な色彩を浮かべる地下道の入口は、大口を開けながら錆びついた鎖を項垂れるように伸ばしている。いかにもホラー感たっぷりな佇まいであるが、ミラはそんなのお構いなしといった調子でマスクの準備をしている。
一方のルネは、謎の巻き添えを喰らい死んだような目つきでミラを一瞥する。
「……行きたくないんですけど」
「どうして?」
「いやいや、絶対なんかデるよここ。人だって沢山死んでるんでしょ……?」
「方舟が起動すればみんな仲良く死ぬな」
「そりゃーそうだけどさ……ていうか、それならなんであの状況で報酬を要求してんのさ。命かかってんならさ、そんな黒い事言わなくてもいいのに」
悪態をつくルネに対して、ミラは懐中電灯を放り投げながら言う。
「そんなこと言って、金欠な奴らが言ったって痩せ我慢にしかならんだろ。ていうか、俺のポリシーとして、相応の技術には相応の対価を支払うのは当然のことだろう?」
「うぅ……」
「折角、近代社会の貨幣という概念があるんだからそれくらい利用させてもらおうぜ。さ、俺たちは早速その方舟とやらを拝みに行こう」
「ピクニック気分じゃんもう」
すっかりノリノリのミラに対してルネは若干の不安さを感じつつも、暗がりに塗れた地下道へと進んでいく。
地下道の中は、意外にも空気はあり通気口はしっかりと生きているようだ。しかしその一方で、通気口が存在しない場所があり、そこでは酸素ボンベが必要になりそうだ。
だがここでもう一つ疑問が生じてくる。その疑問を、ミラは懐中電灯の薄明かりに照らされるルネに対して尋ねる。
「なぁ、この地下道、そもそもどういう意味で作られたものなんだろうな」
「どうって?」
「わざわざ地下道に作る必要性があったのかって言う話だよ。こういう施設なんてそれこそ、どこか適当に人里離れた場所でやればいいんじゃないの?」
「それもそうだけど、じゃあ何が考えられるのかな。ミラの言う通り、この地下道はなにかしらの意味合いがあったのかもしれないけどさ、手間との釣り合いが取れるようには到底思えないよ」
「そこが妙なんだよ。地下道っていうのは作るのが相当大変だし、何よりこんな街中の下に作ることにはリスクしかない。つまり、この地下道は逆の順序を辿った可能性が高い」
その言葉を聞いて、ルネは尋ねる。
「それって、地下道があってその上に街を作ったって言うこと?」
「そういうこと。そして、それには魔天コミュニティが関係しているということだ」
「どうしてそんな事がわかるの?」
「一度、ミラー家の資料で見たんだが、この地下道を作ったのはかなり前のことで、その時にはまだザイフシェフトという国家は、大きく発展する前だった。つまりその上に街を作ることになった可能性がある。それらの資料にちょくちょく出てきた名前が”アダムス・ブース”、現在魔天コミュニティのトゥールに位置する権力者、”イルシュル・ブース”の父親だ」
この事実に対して、ルネは「それって……」と驚愕する。
「この国家は、サイライよりも前から魔天コミュニティが絡んでいたって言うこと?」
「そういうこと。ま、冷静に考えれば、違う次元だけど同じ場所にあるなんて、普通信じられないだろう? それを平然と理解して貿易までしてるなんてありえないっしょ」
「確かに……でも、ミラー家は転移装置があるんでしょう? それじゃあミラー家ってそもそも何なの?」
「正直謎の多いところだなここは。ミラー家に関する資料自体も、具体的なところはサイライ周辺あたりの時系列のことしか残ってない。そして、この旧ザイフシェフトが台頭し始めてきたのもその頃だ。その理由は25年前の系譜に鑑みれば、魔天絡みのトラブルだろうが、それ以前から魔天がこの街、もっと言えばこの地下道を隠れ蓑にしていたのかもしれないな」
「……そういえば、次元が違うっていう話は、僕はよくわからないけど、考えてみれば次元を超える転移装置なんて作ったの誰なの?」
その言葉を聞き、ミラはとある不自然な事実に辿り着く。
「確かに、かなり違和感だな……。魔天コミュニティに現在流通しているコンピューターはそのほとんどが旧ザイフシェフト製、つまりは人間が作成した設計をもとに作っている。しかし、次元を超える転送装置を人間が作れたとは思えない。それなら魔天コミュニティが設計を行った可能性があるが、技術力が整合しない。それだけの技術力があれば、コンピューターを作るなんてワケないだろ? 確かに、アプローチがぜんぜん違うからなんとも言えないけど、どちらにしたって技術力に伴っていないような気がするんだが、どうだろう?」
「それはそうかもしれないけど、それなら転送装置なんて誰が作ったの……?」
「魔天に絡み、そんな事ができそうなヤツなんて、あいつらしかいないだろ」
「まさか……ノアさん?」
「だろうな。あのトラブルメーカー、自然神やついでに創造神のお友達が多いだろうし、次元間を移動できる転送装置とか作れても違和感はないだろう。なんなら、方舟の1億倍くらいある水風船とか作ってもおかしくないだろうしな」
「20メガトンの1億倍の水風船ってもはやなんなの?」
乱雑なネタを呟いたミラに悪態をつくルネだったが、近くに転送装置のアプローチを考えられそうな人物について一人思い当たる節を述べる。
「空間に対しての専門家は、身近なところでいうと廻かな? それなら天獄と関係あるし、魔天ともかなり接点があるよ!」
「廻ねー、創造神の中でも空間を支配できると言っても、それを機械に流用するなんて、廻一人の力じゃ無理だろう?」
「まー、同じく創造神の”ラスクとハオス”なら出来そうだよね。研究大好きだし」
「自然神と創造神のお友達なんて、俺たちからすればそれくらいだろうしな。全く、今回のトラブルが魔天のみだったことがむしろ良かったのかもしれないな」
「こんなトラブルに巻き込まれておいてよくそんなこと言えるよね」
「否めないが、このまま平和ボケして爆発に巻き込まれるよりはいいんだろうな。あ、ここが実験闘技場らしいぞ」
「えぇ~、ここ?」
「ほら早く行くぞ」
露骨に入りたくなさそうなルネを引きずりながら、ミラは実験闘技場の扉を開きゆっくりと暗がりの世界を一瞥すると、とりあえず誰もいないことを確認し、早速闘技場の中に入っていく。
闘技場の中はかなり暗く、懐中電灯を片手にミラは最奥で等間隔で光を放つ発電機に近づいていく。そのミラの背部を全力で掴みながらルネも共に進み、真っ暗なあたりをキョロキョロと探っている。
そんな状態であっても、ミラは一切気にすることなく発電機を調べていく。
「このバカでかい発電機、話によればこの地下道に幾つもあるみたいだな」
「こんな大きなものが沢山あるの?」
「俺は専門家じゃないからわからんが、ここまで大きければ複数の発電機なんていらないんじゃないのか?」
ミラはそういいながら、自らの背丈の倍はある正方形上の発電機の撫でる。
その様を見たルネは、率直に疑問を呈する。
「どのくらいの電力を供給できるのかな? 少なくとも、このエリア一帯の電力は供給できそうじゃないの?」
「そういうものは全くわからないな。だが、もし仮に、この発電機が過剰な電力を供給するのなら、これは恐らくカモフラージュだな」
「方舟を管理するだけの発電を行うものって言うことね。でもそれなら、カモフラージュをしなければいけない理由があるっていうことでしょう?」
ルネの疑問に対して、ミラはつらつらと答え、発電機付近を調べていく。
「それなら簡単だ。方舟を管理しているのが誰か、っていう話だな」
「……あぁ、一番最初にここを造ったときに人間を欺くためだったのか。方舟を作ったのは、パールマンの一派だったらしいし、それを隠すためにこのカモフラージュをしたのかな?」
「そういうことだろうな。でも、この方舟がもし25年前に作られたものならば、どうしてそれを起爆せずにちんたら25年もここに放置したんだろうな。なんか、いやーな意図があるような気がした」
「……具体的に?」
ルネがそう尋ねると、ミラは大きくかぶり振りながら、自分が思っている違和感について述べ始める。
「なんていうか、今回のトラブルは、”合理的な意図”と”不合理な意図”が混在している気がうする。例えば、パールマン一派の行動だろう。計画的に方舟を作ったり、遡ってメルディス側の策略を潰すために行動していたりっていうのはわかるが、25年前に作った水爆を放置するのは、それらの合理的な行動をすべてかき消すくらいリスキーな行動だろう」
「手間もコストもかかるし、放置するのは確かに危険に思えるよね。切り札として、と考えても危険極まりない行動だ」
「それに、宴の立てたプランもちょっと変だ」
「天獄に対して、っていうこと?」
「そう、まとめれば宴がやっていたことは、今回のカーティス失踪を利用して、強盗で奪った金をケイティさん経由で天獄に渡して社会的に潰すということ。パッと見ればそこそこ理にかなっているように思えるが、このプランは結構穴だらけだ」
改めてそれを聞き、ルネは「確かに」と口にしながらミラの言おうとしたことを代弁する。
「このプラン、ケイティさんがちゃんと役割を全うしなければすべて崩れてしまう……現に、僕らはケイティさんの協力があってここに至った。それに、これが崩されれば相手は一気に窮地に陥る可能性が高い。それなのに、彼ら、首謀者であるパールマンは実行させた可能性が高い。確かに、すごい不合理に思えるね」
「加えて、彼らは自らをメルディスと名乗ってしまっている。こんなバレっバレの嘘とかつく意味ないし……あ、いや、あるのか」
考えを口にしていたミラは、一つの仮説に行き着くことになる。
「これがばればれの嘘だというのは早計か。宴が100%トゥール側についているとは言えないから、宴はあえて計画をこのように改ざんして実行した可能性だってある」
「なるほどねー……でも今の所、なんとも言えないね」
「そうだなぁ~、もう少し事態が好転しないと不確定なことが多すぎてわからん」
ミラはそう言いながらも、地下闘技場の一部分が不自然に変色している部分を発見する。
「ま、こっちはこっちで進んだっぽいな」
「これが、方舟の安置所?」
「だろうな。俺が先に入るから、懐中電灯で中を照らしてくれ」
「待って、僕が先に入る。もし何かあっても、”僕なら”大丈夫だから」
ルネの提案に、ミラは少しだけ躊躇いながらそれに承諾し、変色している床を調べ、ハッチになっている部分を引き上げ、ゆっくりと懐中電灯で伸びるハシゴを照らし出す。
「気をつけろよ? ドジなんだから」
「否定しないけどうっさい!」
悪態をつきながらも、ルネはそそくさと鉄格子を下り、不気味に光り輝く大きな塊を目撃する。
暗がりばかりでよく見た目はわからないが、とりあえずその場は安全であると判断し、「大丈夫だよ」と声を上げる。
すると、ミラはルネがかかった時間の半分程度の時間ではしごを降り、不気味な地下の世界をゆっくりと見回す。
そして、付近にあった電源ボタンを押し、それに合わせ辺りは定点する光をかき消しながら、蛍光灯がついていく。
「……これが、すべてを破壊する方舟か」
2人の眼前に出現したものは、地下道を覆い尽くすほどの方舟だった。
形態としては横長であり、長方形状の闘技場の地下を埋め尽くす楕円形の金属製のボディと、2人のちょうど正面に光る制御ディスプレイ、その側面に中の核物質を取り出すゲートが設けられている。
特筆すべきはその大きさであり、横幅はおよそ10メートル、縦となるともはや視認することができないほど巨大である。
「こんなものが爆発すれば、沢山の人が……」
「こいつ、本当に20メガトンで収まってるか怪しくなってきたな」
「どういうこと?」
「ちらっと文献で読んだ水爆の大きさとぜんぜん違う。俺が見たものは全長8メートル程度で、威力は20メガトンよりも大きかった。これは、その数十倍だろう」
「そんなものが爆発すれば……どうなるの……?」
「俺が知るわけない。だが、ほぼ確実にこのルイーザという国は焦土と化すだろうな」
「そんな……じゃあどうするのさ?」
「さー、爆弾解除の専門家でも呼ぶか?」
状況的に笑えない冗談であるが、そんなことを呟きながらもミラは早速ディスプレイの前に立ち、電源ボタンを入れる。
「ちょっと、大丈夫なの!?」
「何かしらのエラーを起こさない限りは大丈夫だろうな。ここに来た不審人物がこのディスプレイを動かして起爆するのなら、プランもクソもあったもんじゃないからな」
「そうだけど……」
「んー、それにしても随分とバカでかいのが気になるな~」
ミラは少し疑問を感じつつも、立ち上がったディスプレイを一瞥し、唐突に要求される管理者パスワードを見て呆れた調子で話し出す。
「コイツは駄目だな。管理者パスが必要だ。恐らくは失敗してドカンだな」
「……そうだよね~、でも、これと言って、新情報はないね」
「そうでもないぞ」
ミラはそう言いながら、ディスプレイを切りながら側面にある核物質を取り出すハッチのような部分を指差した。しかしそこは、ハッチというよりはなにかの出入り口のようで、ちょうど南京錠で閉ざされてしまっている。
「恐らくは、これは核兵器というよりは、それを管轄するコンピューターとコンテナのようなものだろう。だからこんなバカげた大きさなんだろうな。それで、わざわざコンテナを使った二重構造にしたっていうことは、何かしらここに隠したものがあったんだろうな」
「それって、何?」
「知らねー。ま、この南京錠をぶち壊すのは流石に怖いから今はやめとくが、アイザックからもらったマップで、もう一つ気になるところがある。東地区の下、資料庫ってところだ」
「あー、もしかしたらなにか手がかりがあるかもしれないね」
「とてもつもなく楽しそうだな」
「そんな事あるか!」
ルネのツッコミをけらけらと笑いながら、ミラは早速東地区地下、資料庫へと向かい始める。




