管理者の仮面
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
ここ最近はリアルが忙しいので、なかなか推敲がうまくできていないので、丸投げ状態で投稿されることが多く、少しずつ解消していきたいところです。投稿の方は滞りなくなされるはずです(´・ω・`)
次回の更新は来週月曜日21日20時となっております。次回もご覧になっていただける方がいましたら幸せです!
まさかの科白に対して全員が声を上げるものの、それを振り切るようにケイティは続ける。
「最初から話します。話の発端は2ヶ月前、カーティスが失踪する少し前のことでした。私が書庫で書類の整理をしていると、”移転計画”の資料を見つけたんです。見てみるとそれは、旧ザイフシェフト政府が握っていた魔天コミュニティとの関係や、当該事件にミラー家が関与したことが近いうちに発覚する可能性が高いことから、ちょうどミラー家が管理している方舟を爆発させ、過去の事件の証拠をすべて灰にしてしまおうという計画を企ていたのです。そして、その計画に賛同者がいたんです。それが魔天コミュニティのトゥール派でした」
それを聞いた全員は露骨に面倒くさそうな顔をして表情を乱す
ケイティはそれを確認してなお、話を続ける。
「トゥール派は、最高権力者の投票が近々行われることに対して、その票集めに躍起になっていました。そこで、彼らはミラー家の不祥事を利用することにしました。元々彼らは、人間に対してあまり好意的に思っていない連中の集まりで、あくまでも人間を道具として見ているスタンスを崩さなかった。しかし、ミラー家に対してはステークホルダー的な見方がメインであり、一定程度クライエントである我々のことを考えていてくれました」
「クライアントって随分な皮肉だな。それで、奴等はミラー家とこの街を吹き飛ばす計画に加担したのか」
ストラスの茶化すような言葉に対して、ケイティは口角を上げながら続ける。
「その通りです。彼らは自らの力を示すため、人間を粗方自分たちの力で狩り尽くしてから爆発させる予定でした。そうすれば、魔天は人間よりも上の存在であることを互いに周知することができる。そのことから、人間に対して否定的な者たちを丸め込むことができるからでしょう。一方のミラー家としては、自らが持っている資産を一旦、自らのライバル企業に明渡しを行い、つまりは吸収をあえてさせ、そのまま自らはそこで得た資金を使ってルイーザ外部へトンズラ、そのまま爆発させてライバル会社の社会的地位や株式的な価値を急落させることで企業的な立ち回りを有利にしようとしたのです」
「つまり、トゥールとミラー家が計画していたルイーザ破壊計画があったって言うこと?」
「そういうことです。私はそれを止めるために幾つかの資料を書庫から持ち出すことに成功しました。しかしそれが、トゥールとミラー家の警戒を強めることになってしまいました。ですから、私は更に慎重に情報の収集を行っていましたが、ここで問題が生じます。それが、カーティスの失踪と、メルディスを名乗る組織、便宜上Xとでもしておきましょうか。そのXが私に接触してきました、彼らはメルディスを名乗り、カーティスの失踪を使って貴方たち天獄を潰そうとしていました。このXの存在はミラー家も正体を知ることはできませんでしたが、つい最近彼らが何者であるかを調べることができました」
その言葉に唯一心当たりがあったのは、なぜかパールマンに成りすましを強要されたストラスだった。
「それが宴……25年前の事件と関係しているオフィリアだったって言うわけか?」
「そうです。過去の事件で関係していたXこと宴のリーダーであるエンディース、彼がメルディスを名乗った張本人でした。しかし、エンディースがメルディスを名乗ったも謎のまま。それは現在もわかりませんが、私はとりあえずその場で従うふりをしながら、貴方たちに助けを求め、今こうしています」
「話錯綜しすぎだ!!」
ストラスの言葉に対して、その場にいた全員が肯定した。
そして、呆れたように他の全員が各々の補足をする。
「ま、こういうことを見越してコミュニティ側も動いたんだろうな」
「天獄を潰せって宴が指示されているっていうことは、僕らのことを警戒してこの状況でトラブルに参加したんだろうね。動く団体が多ければお互いに隠れ蓑にできるし」
「ちょっと待て、俺たちの仕事を奪ったのも……」
「トゥール派かもねー。ミラー家と関わっていたのならば、仕事無くすのも余裕そうだし」
「それならどうして彼らはメルディス派を名乗ったんだ? あっさり看破されそうなもんだし、意味あるように思えないんだよな」
各々が自由に話し出すのを止めるように、ケイティが話し始める。
「問題はそこです。勿論、今話したことが今回の事件の大部分でしょうが、疑問がかなり多く残っているのも事実です。その中に、私の行動も入っているでしょう」
「それについて知ってるのがストラスだから多分あんまり疑問にも思ってないよ」
ルネが辛辣にそう言うとストラスは拳を握りしめながら言う。
「てめぇマジで……いやそれより、あんたの行動の真意、俺をパールマンにしようとして、尚且俺たちに疑似の指示までした。どういうこと?」
「それが伏線です。私は一連のことと、ミラー家がしていたことを償わせたいんです。しかし警戒心の強い私の父親を騙すためには第三の者の協力が必要……だから貴方たちの助けを借りながら、プランを考えました」
「そのプランの一環だったのか?」
「そういうことです。プランは単純、貴方をパールマンに見立てて、焦らせて情報を書庫外に移動させ、そこで情報をすべて抜き取るというものです。パールマンの恐ろしさは父もよく知っています。だからこそ、私がパールマンと接触しているように見せて、私に対して情報を求めてくる。そうなれば、父も情報を移動せざる負えなくなる。それを狙っています。それ以外にも、パールマンの正体を探るためでもあります」
意味深にそう言うと、彼女はパールマンという人物の厄介な情報を提供する。
「私は、パールマンという人物は、”少なくとも個人ではない”と思っています」
「どういうことだ?」
「多くの公的な書類に、パールマンが関わっているものが証拠であるのですが、それらの書類の殆どが、”パールマンという名前”が使われているのです。パールマンという人物は秘密主義者を徹底していて、誰も姿を見ていない。それなのに、名前だけ恐ろしく流布している。これは推論ですが、パールマンは、何人も名乗っている可能性が高いと思っています。これの炙り出しも目的に入れています」
この推論を聞き全員がそれを頭に留めながら、ストラスは更に「オフィリアっていうのは?」と言及を求める。
しかしその名前を聞き、敏感に反応したのはアイザックだった。
「オフィリアって……まさか、25年前の事件で誘拐された、彼女のこと?」
「そうそう……ってそうなの?」
「えぇ。アイザックさんの言う通りです。彼女は、この街で厄介な動きをしている張本人でありながら、宴にも背く行動をしているんです。それについて父も理解していて、オフィリアはパールマンと何かしらのつながりがあると考えているようです」
「だから、揺さぶりをかけたのか」
「そうです。しかしながら、私たちは宴が一体どの派閥に属しているのかをわかりません。彼らはトゥール派にしては不自然な行動を多くとっています。すぐにバレるメルディスの名前を使ったり、所属しているオフィリアの勝手な行動をしていたり、不自然だと思いませんか?」
「また話がややこしくなったな」
「普通に考えれば、宴はトゥール派閥に属しているということは派閥の中では比較的有名な話ですから、わざわざメルディスの名前を語る意味はない。疑問は尽きません」
かなり話が混乱してきたところで、ミラはケイティの意図を汲み取るように言う。
「ケイティさん、つまり貴方は、相手も一枚岩ではない、と言いたいのですね?」
「そうです。もしかすると、宴はトゥール側とは別に行動している可能性があり、更にその中でもオフィリアは特殊な立ち位置にいる、と私は思っています。更には、トゥール派にしても、パールマンがトゥール派として行動しているのかも謎めいてきています。なにせ、彼は常に姿を見せません。どのような目的で動いているのかすら、わからないのが現状です」
「このうかつに動けない状態でどうするか、ですよね?」
「一応は、アクションはしていますが……」
ケイティがそう言った瞬間、彼女のポケットの中にある携帯電話が声を上げ始める。
それを一瞥したケイティは、左手の人差し指を口元に起き、ゆっくりと電話をスピーカーホンにしながら通話する。
「はい?」
「ケイティ、パールマンについて今すぐ説明してもらいたい。トゥール派にしても、今回のプランから手を引く可能性が高くなっている。お前に接触したのも、こっち諸共始末するための布石かもしれん」
「……わかりました。すぐに戻ります」
「あぁ。頼む。方舟の起動キーはパールマンが握っている。できるだけ早くここから抜け出た方が良い」
「今すぐ資料棟へ向かいます。失礼します」
半ば強引に電話を切ったケイティは、すぐに次のアクションについて話し始める。
「さて、私はこのまま資料棟、ストラスさんが入った場所に向かい、資料を押収することを目指します。そこで、皆様にはそれぞれ、事の収束を目指して行動していただきたいのです」
「というと?」
「一つは、この街で何が起きようとしているのかを調べること、そしてもう一つは魔天コミュニティに入って何が起きたのかを調べること。お願いできますか?」
それを聞いていち早く反応したのはミラだった。
「ケイティさん、失礼を承知で言わせていただきますが、貴方は自分の仰っていることを十分ご承知でしょうか?」
「勿論、恐ろしく危険なことであることは承知しています。ですが、このまま手を拱いていては我々諸共吹き飛びます。それでも、良いのですか?」
「残念ながら、我々は今すぐにでもここから数百数千と離れた場所に移動できる手段があります。つまり、我々がこれを実行するには非常にリスキーである、ということです」
「……どういう意味ですか?」
「それ相応の対価を、ストラスに支払っていただきたい」
まさかの提案に全員がミラの顔を凝視する。
そして、その言葉に反論したのはケイティではなくルネだった。
「ミラ!? こんな状況でお金なんて……」
「この状況だからこそ、だ。俺たちは別に慈善団体じゃない。それ相応のスキルを持ってこの任務に当たらなければならないだろう。だからこそ、その価値として金銭を要求することは当然だ」
「状況的に言えば最低なタイミングだけどな。あ、でも俺は店を存続できるから最高」
「僕としてはどっちでもいいけど、ミラはどれくらい吹っかけるの?」
「天獄が存続できるくらいの金だ」
「なるほど。つまり、今回の事件が収束したあとも、スポンサーとしてつけ、ということですか?」
ケイティの優秀な解釈に対してミラは大きく首肯する。
「そういうことです。それでも構わないのであれば、我々も行動させていただきます」
「え、僕は別にそんなこと」
「うちの嫁も積極的に協力してくれるようなので、結果についてはご心配いりません」
「ん…………?」
「ついでに孤児院職員まで入るので、カーティス君のことも心配いりません」
「僕はカーティスだけに主眼を置くから」
「更には優秀なエージェントがつきますので、万が一の失敗すらも心配する必要はありません」
「出たよセールストーク」
「ここまでの布陣を組んでいるので、それ相応の報酬は必要となるでしょう。如何でしょうか、ケイティ様?」
さらっと二人称が格上げされたことを聞き、ケイティはけたたましく笑いながらミラのことを一瞥する。
「ふふ……いいでしょう。どうせ、ミラー家は一度潰れ、私が新たに事業を開発することになる。私がグルベルト孤児院や天獄のスポンサーになることを約束しましょう。いいですか?」
「ありがとうございます。それであれば、後ほど資料として提出していただけますか?」
「勿論です。お互いに、経営者として、フェアに行動しましょうか」
「それについては同意ですね。それでは、我々も専門家として行動させていただきます。全員、それでいいよね!?」
ミラの強引な指揮を呆れた調子でルネが肯定した後、その場にいた全員が各々の目的を持って強く首肯する事になった。
それを確認したミラは、早速次の行動の指示を行う。
「ということで、俺とルネはこの街で起きたことを調べる。アイザックとストラスは魔天コミュニティで起きたことを調べるんだ」
「異議あり。俺はコミュニティに行きたくありません」
即座にそう告げたストラスに対してミラは辛く告げる。
「人脈や知識からして、ストラスがコミュニティに行くことは確定事項だ。アイザックも、カーティス絡みならそっちのほうがいいだろう?」
「僕は別に問題ないよ」
「ストラス、お店が存続できるんだよ?」
「脅しかよ……あーあそうですか、わかりましたよ行きますよバーカ!」
「ストラスが優秀でよかった。そこで、魔天コミュニティに行くためにはミラー家御用達の転送装置があるが、流石にそれを使えば自ら的になるようなもんだ。だから、廻に送ってもらってくれ」
「この自由人が……」
「流石生粋の合理主義者」
各々がミラに苦言を呈することをもろともせず、ミラは続ける。
「各々の行動は各人に任せるが、あくまでもことの収束を目的として行動しよう。ということで、アイザックとストラスはとっとと店に戻って廻に接触してほしい。以上」
「この野郎後で絶対ツケとして払わせてやるからな」
「まーまー、ストラス、僕のこと守ってね?」
「そっちのほうがまだマシだな」
「んで、俺とルネは地下道に行って爆弾探しだ」
「……僕何も言ってないんだけど」
「それじゃ行動開始だ。ルネ、行くぞ」
自由すぎる会話のなかで展開されたとある事柄に対して、ケイティは一つ忠告を行う。
「ミラ様、方舟を見つけても触れないでください。あれは厄介な制御がかけられています。最先端のGPSが搭載されていて、指定の座標から少しでもズレれば起爆装置が起動します。更に解除するためには、管理者権限パスと爆破解除キーが必要になりますので、発見してもあまり意味がないかもしれませんよ?」
「見つけてどうこうするって話じゃないですよ。ま、アテがあるものでしてね」
「貴方のことですから、おかしな行動はしないとは思いますが、最新の注意を払って行動してください。それでは、私はこれで」
お互いに戒める意味も込めてプレッシャーを掛け合った5人は、それぞれ各々の行動に出始める。




