嘘つき者
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
病み上がりからの投稿が正常に行われてとても良かったです。本当に良かったです(´・ω・`)
今回は少しだけ短いですが、この部分で11章は終了となります。物語は収束地点に向かい始めているということで、長々とした部分が多くなりがちで、これについても改善していきたいところです。
ということで、次回の更新は来週の月曜日14日20時となります。12章でもお付き合いいただければ幸いです(*´∀`*)
イリアがアーロン・ベックと合流する数時間程度前のことだった。
トゥール派のイルシュルにゲリラ組織「宴」の代表であるエンディースが接触していた。
「イルシュル、あんたのプランは既に崩壊している。だからもうそろそろ、別の方向にシフトしたほうがいいんじゃないのか?」
「……そもそも、今回の発端はお前たちの不備だろう? 随分と、お門違いなことを言うんだな」
「貴様だって随分なことを宣うじゃないか。こっちがゲリラであることをいいことに、アウトローな調べ物ばかり押し付けやがって……。で? その成果は出ているのか? 最初の、ルイーザ壊滅計画を」
イルシュルの元々の計画では、25年前の事件関係者の組織票の獲得のため、ルイーザ全体に侵攻する予定だった。その発端となったのは、同じく25年前の事件の際に残った資料や機関などの残滓が明るみになりかけたことで、その管理をしているミラー家に保存されている資料が何者かによって流失したことだった。
元々、25年前の事件は確かにイルシュル率いるトゥール側が関わっていた事件である。しかし、あの事件の本当の犯人は、現在のゲリラ組織「宴」の原型となった組織の首謀者であるケルマータという魔だった。
ケルマータは、元々イルシュル側の魔であり、メルディス側の「人間への失望」を抱かせるために行った25年前の事件の筋書きを自らで行使し、人間を下僕するという私利私欲のための行動となった。
つまり、25年前の事件、通称「ザイフシェフト事件」は元々イルシュルらが作った計画を、ケルマータという魔がその計画を奪って自らで行使した結果の出来事である。そして、ケルマータの復讐をしようとしているのが、今イルシュルの眼の前に座っているエンディースである。
イルシュルとエンディースは、互いに利用し合う関係を続けていた。
イルシュル側からすれば、実際に行動役として「宴」を利用して、最悪すべての罪を着せてしまえばいい。
エンディース側からすれば、ケルマータを失う原因になったルイーザ全体、そして天獄への復讐を行うため、情報収集やゲリラ組織という立場上不可能な事をするために利用していたのだ。立場的にはエンディースらのほうが圧倒的に弱いものの、「宴」はイルシュル始めとするトゥール側に様々な圧力をかけていた。
というのも、トゥール側が行ってきた今までの不祥事は、闇に葬られたままになっている。人間に初めて魔天を渡し、メルディスが図ろうとしていた「人間との友好的な関係づくり」を邪魔しようとして行ったサイライ事件のことを始めとする、人間絡みの事件に関与した証拠を「宴」は握っていた。その情報を盾に交流を今までしていたが、「宴」にエノクδが侵入していたことを問われ、「宴」は窮地に立たされることになった。
しかし、イルシュル側もトゥール側が今までしてきた情報を持っているため、これでようやく対等の立場で話せる、といった状態である。
だが、そんな状態でもお互いに馬鹿じゃない。今現在、エノクδの驚異に晒されているもの同士、まずはそちら側の対処を充実させる必要がある。その手段として、エンディースは一つ十分な証拠のある手段について講じていた。
そんな状況であるのだが、若干口喧嘩のようになってしまい、イルシュルは息巻いて答える。
「その計画を頓挫させかけているのは、貴様がエノクδを内部に入れたからだろう」
「残念ながら、恐らくやつは第三の組織だ。エノクδは自らが計画しているプランについて触れていたし、団体で魔天コミュニティに復讐をしようとしているのかもしれないぞ」
「……つまり、トゥールやメルディスの中にも、やつのスパイが入っているということか?」
「それについては知らん。だが、ここで収束させておくのが最も適切だろう。どうだ? エノクに対処することができるのか? お前たち自慢の軍事力でな」
そう言われたエンディースは、苦しく声を上げて言う。
「……無理だ。単体でこちらの4倍の戦力を有する化物を相手取るなんて、不可能だろう」
「だからこそ、こちらの情報が必要のはずだ。エノクについて、有益な情報を見つけた。知りたいだろう?」
「その情報の真偽は?」
「眼の前で見ているのに真偽も糞もあるか。従来まで、エノクはDADの影響を受けないという通説だったが、これは体内のエネルギーが低い場合に関してのみ、DADの影響を受けることがわかった。つまり、ある程度消耗させていればDADの適用をして無力化可能である、ということだ」
「つまり、ウロボロスを起動できれば、エノクδの力を無力化できると?」
「可能性はある。ただ、詳しい発動条件はわからない。それでも、無力化できることは確実だ」
「不完全な情報でウロボロスを起動させることなんてできない。失敗すればこちらが丸裸だ」
「それ以外にあるのか?」
エンディースの言葉に、イルシュルは押し黙ることしかできない。
冷静に考えてみれば、エノクδという怪物に対抗するにはそれくらいしかなく、相応のリスクを負ってでも食い止めなければならない。もし仮に、本当にエノクδにDADシステムが機能するのならば、エンディースの言う通りそれくらいしか手段はないだろう。
苦しみながらもイルシュルは、自らで決断することを放棄するという選択肢に出る。
「……二家含む会議で決める。今すぐ、そのセットアップを行わせてもらう。ただし、お前たち宴は少しの間活動を控えてもらう。これ以上、勝手な行動をされてはトゥール側の地位も危うくなる」
「それについては了承する。迅速な対処が完了次第、こっちはルイーザへ侵攻させてもらう。それでいいな?」
「勿論、その時は事前に打ち合わせをする。いいか? 最初に指定したルールを遵守する、これが決まりだ」
「それでいい。とにかく、俺はこれで失礼する。こっちはこっちで、エノクについての対処を行うことにする。それと、エノクεについては、どうするんだ? 当初の予定通り、回収してこちらの戦力にするのか?」
「いや、状況は変わった。第三の組織がエノクεのエネルギーを無力化してしまった。戦力としてはもう期待できないだろう。一旦は無視して構わない。今は、エノクδやノアが中心に動いている第三の組織の対処が先だ」
イルシュルの焦りにまみれた言葉を聞き、エンディースは嘲笑地味た調子で頭を下げ、そのまま、足早に管理区域から外れた簡易集会場を後にする。
そして、そのまま自らが最も信頼するミアと合流し、一連のことを話していく。
「トゥールは二家を含む会議で方針を決めるようだ。俺たちはどうする?」
「……我々は一旦、拠点をルイーザに移しましょう。恐らくDADは起動します。ここにいては私たちの本来の力が発揮できない可能性がありますし、本来の貴方の目的であるルイーザ壊滅は遠い夢のままで終わるでしょう。あわよくば、貴方がトゥールになるかもしれない」
「ミア、もし、俺がこの願望を達成できるまで、傍で見守っていてくれるか?」
ケルマータの言葉に対してミアは微笑みながら首をこくりと縦にふる。
不気味に、人形のような表情のまま。




