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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十一章 未完の解
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真実のふり


 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 まさかのインフルエンザでお休みしてしまっていたのですが、今日からようやくパソコンを付けられるようになったので投稿を再開します。申し訳ございませんでした(´・ω・`)

 この「真実のふり」というタイトルは、それっぽく見せている、というような意味で使っていて、ここで語られた真実が半分くらいですよーという意味だったりします。特にこのあたりから、キャラクターの会話文が多くなり描写が明らかに手抜きになっているので、これから直していきたい所存です。

 また、このタイトルはお休みした2つの部をくっつけて投稿しています。なので、次回の更新はそのまま金曜日です! 次回お休みすることはないとは思いますが、遅延はあるかもしれないので、先に謝罪申し上げます。



・区域A(閉鎖中)



 アゲートに言われて区域Aに向かったイリアは、全速力で現在閉鎖中の区域Aに足を踏み込む。


 様々な設備が倒壊してしまっているものの、いくつか使用できる機器は存在できることに加えて、防犯システムも停止しているため、密会には最適の場所となる。

 それも考慮して、アゲートと彼に協力しているアーロン・ベックはこの場所を指定したのだろう。随分と用意周到なことだが、ここまでトラブルに巻き込まれた以上とっとと真実を知りたい、その一心で、イリアはいつも使っていた職場の扉を開いた。


 区域Aはボロボロであったが、一番最初に目に飛び込んできたのはイレースのパソコンの前に座っている自らの師、アーロン・ベックだった。彼もこちら側に気づいたのか、すぐに視線が合致し、イリアから話しかける。


「ベック先生……これはどういうことですか!? どうして……」

「今からすべて話す。だが、状況は良くないし、お前からしたら荒唐無稽に近い話だろう。それでも信じてくれ」


 彼はなにかに追われるようにそう言うと、早速主題に入り始める。


「まず事の発端から話そう。時系列で羅列するが、最終的に結論はまとめる」


 ベックはそう前置きをして話し始める。


 今回のトラブルの発端は、25年前に起きたザイフシェフト事件である。

 厳密に言えばその少し前、ちょうど魔天コミュニティが危険性が非常に高いエノクδを旧ザイフシェフト、その隣国である旧リラに投棄した頃だった。


 当時、リラの研究機関「リユニオン」はエノクδを回収し、その力を目下研究中であった、魔天の力を人間に対して組み込みその恩恵を得る技術、通称「プラグ」という研究材料にしようとしていた。しかし、このときにエノクδが案の定暴走し、隣国ザイフシェフトに跨るほど甚大な被害を齎すことになる。

 このことに端を発し、特にザイフシェフト政府はエノクδという危険な存在を殺すことを秘密裏に計画していた。だがその危険性と凶悪さは過去の事件により明らかであり、今の技術でエノクδを殺害することはできなかった。


 そこで、ザイフシェフト政府は核兵器をもってエノクδを完全に葬ることを検討し、そのときに作成された核兵器の名前が「方舟」というものだった。


 「方舟」は単発で最高火力を叩き出せるように設計され、実験時の想定ではTNT換算でおよそ15キロトン程度のものを作成する予定であったが、実際に作成された「方舟」は単純計算でその1300倍に匹敵する20メガトンという規格外の核兵器が作成された。


 この制作に携わった研究者は、ザイフシェフト事件の主犯格である「ルイーザ」という人間側の研究者と、その協力者であった「パールマン」であり、パールマンは意図的に「方舟」を20メガトンなど異常な破壊力を備えたものに設計し、自らそのコントロールを行っていた。


 最終的に、「方舟」はあまりの危険性により頓挫し、完全に闇に葬られたが、パールマンは秘密裏に「方舟」を完成させ、旧ザイフシェフトの地下に保管することにしたのだ。

 このとき、パールマンは人間側の人材を幾人も丸め込み、「方舟」を安置するための場所までも、「実験闘技場」というカモフラージュの施設を作り、誰にも発見されないように徹底してその存在を隠蔽していた。


 けれども、「方舟」が完成する頃にはザイフシェフト事件が収束し、当時のことを知るものの殆どが死んでしまったがゆえ、その存在が具体的に認知されることなく、25年の歳月を「実験闘技場」の地下で過ごすことになる。その管理を、長くパールマン率いるイルシュル派と協力関係にあった「ミラー家」に任せ、すべての発端であるパールマンは「方舟」を切り札として隠し続けていたのだ。


 だが、それもここに来て急展開を迎える。

 それが、25年前の事件で魔天エネルギーや類似する自然神のエネルギーが特定の空間に飽和しすぎることにより発生した、「テンペスト」という現象がより強く観測されるようなったことで事態は一変した。


 従来までの「方舟」のコントロールでは維持できなくなるばかりか、このままではそう遠くないタイミングで「方舟」は「テンペスト」の影響をもろに受けて爆発してしまうだろう。

 「テンペスト」は、魔天コミュニティと旧ザイフシェフトの座標が次元が違えど同一の場所にあり、この災厄は次元を超えて同一の座標におけるエネルギーですら出現してしまう。しかしそれは、裏を返せば魔天コミュニティのなかに存在している魔天のエネルギーを無力化してしまえば「テンペスト」そのものを沈静化させることができる。


 そのためには、魔天コミュニティに存在している国家的なセーフティ、周縁に張り巡らされた魔天エネルギーを無力化するシステム「ウロボロス」の起動を行う必要がある。

 第三の組織は、「ウロボロス」を起動させるために現在奔走しているのだ。


 一連の話を聞き、イリアは到底信じられないといった調子で尋ねる。



「……第三の組織とは、何者ですか?」

「それについては、俺もよくわかっていない。というより、俺はアプローチの一環として組み込まれただけだからな」

「どうして承諾したんです?」

「メルディス側の不条理に気づいちまったんだよ」


 それを聞いてイリアは更に顔をしかめる。


「どういうことですか?」

「メルディスは、この方舟という厄災について認知している。それなのに、あいつは黙認と言わんばかり今回のトラブルを俯瞰して見すぎている。つまり、どういうことかわかるか?」


 ベックの言葉に、イリアは大きくかぶり振る。


「いえ」

「……恐らく、自らの手で起爆させるつもりだ」

「そんな……ありえません! どうして、メルディス様がその方舟を起爆させる必要があるんです? あの人は、今まで必死に人間との関係を作ってきた人物ですよ?」

「話はまだ終わっていない。パールマン、というより、イルシュル派が関わっていたのはそれだけじゃない。100年ほど前に起きた”サイライ事件”、名前くらいは知っているだろう?」

「……まさか、サイライ事件にもイルシュル派が関わっているというのですか?」

「そのまさかだ。そもそも、どうしてサイライという人間たちが集まったグループが、急に魔天についての知識をつけ始め、研究を推し進めるようになったのか、不自然だと思わないか?」

「イルシュルが……知識や実験体の提供を行っていた……そう言いたいのですか?」


 イリアの想定に対して、ベックは呆れた調子で首肯する。


「そういうことだ。イルシュル派は、メルディス側が人間と友好的な関係を結ぼうとしていることを知っていた。だから、その方針を崩すためにサイライという宗教団体に接触し、あえて魔天と人間に軋轢を生むようなことを仕向けた。魔天コミュニティという国家から、社会から、イデオロギーから人間という存在を完全に排除するためにな」

「でもそんなこと……イルシュル側にもかなりハイリスクだったはずです! 現実的にそんなことをするとは思いません!」

「だからこそ、方舟を20メガトンなんて馬鹿げた破壊力のものを作ったんだよ」


 その言葉を聞きイリアはゾッとする。


「…………方舟は、端っから、人間という証拠を灰にするために作ったものだった……そういうことですか?」

「そういうことだろうな。イルシュル側はサイライの後はミラー家と主に協力して、25年前のザイフシェフト事件を起こしている。そして、ミラー家は政界とも密接に関係している、まさに人間界の首領……イルシュル、というよりパールマンはその首領を体よく利用し、最終的に吹っ飛ばす予定だった。まさに悪魔の所業だな」

「もしそれを、現在のメルディスことベヴァリッジ様は知っていた……それならば、彼女が復讐として方舟を起動させてもおかしくない」


 それに補足するように、ベックは言う。


「そして、現在イルシュル派は、旧ザイフシェフトと旧リラが合併した、現在のルイーザに侵攻しようとしていた。それこそ、25年前に起きた事件の人間への報復として……」


 そこで、最悪の想定がイリアの頭をよぎる。


「つまり……メルディス様は、軍を抱えるイルシュル派がルイーザ、特に旧ザイフシェフト周辺に侵攻したタイミングとともに爆発させようとしていた……テンペストによる誤爆と見せかけて」

「ん、そういうことだ。それを食い止めるために俺たちが行動していたって言うわけ。ま~、俺もアプローチに組み込まれただけっていう感じだがな」

「そのアプローチっていうのは?」

「DADを強制的に起動させるための、第三の組織の計画だな。それについても今……」


 ベックがそれについて説明しようとした途端、何者かの足音が区域Aに鳴り響く。


「ったく……、今俺が見つかるわけにもいかない。一旦俺はここを離れる。俺たちの中継点の電話番号を渡すから、そっちから電話しろ。俺はそのアプローチでやることがある。一旦これで」


 ベックはイリアの言葉も聞かずに、番号の書かれた紙を押し付けながら窓から抜け出てしまう。

 一人残されたイリアは、不気味に響く足音に警戒心をむき出しにして扉を見つめていると、そこに入ってきたのは意外な人物だった。


「イリア? どうしてここにいるんだ?」


 出てきたのはメルディスの側近であるミズだった。

 彼女はたった一人で区域Aに赴き、何をしているのかをすぐに語りだす。


「それより、ダウンフォールについての臨床実験についての情報はどこだ?」

「どういうこと?」

「お前まさか、聞いていたのか?」

「一から説明してくれ。こっちはこっちで、ノアや第三の組織の対策で奔走している。何があった?」


 イリアの疑問に対してミズは早口で答え始める。


「エノクδが絡んでいることは知っているだろう? それに対してイルシュル側は、とある画期的な仮説を打ち出し、これに対処しようとしている。それは、ダウンフォールだったとしても、極端に疲労している場合に限り、DADが作用するらしい。だが、それの科学的証明はまだなされていないから、その情報を探すために来たんだ」


 それに対して、イリアは唸り声をあげながら疑問を呈する。


「そんなこと、ありえるのか? DADの理論から、ダウンフォールに対してはどんな要因が絡んでも作用しないはずだ」

「ところが、作用する一例が発見されたらしい」

「……意味がわからん」

「イルシュル派がそれについて臨床例を挙げたそうだ。それをメルディス側に指示し、指定のタイミングでDADを起動させてほしいとのことだが、DADを起動させるためには他の部分でも大きく影響するから、必ず科学的実証が必要となる。そのための情報探しさ。何か、それについて科学的なアプローチを教えてくれ」


 とりあえずは話を合わせることにしたイリアは、とっさにアゲートの机を指さした。


「エノクについてのデータは、その端末に入っている。その机の主はエノクについて専門に研究している研究員だからな。しかし、恐らくエノクがDADの影響を受けるという確証を得るためには、実際にエノクを利用した実験が……」


 そこで、イリアは第三の組織が考えていたプランについて気がついた。

 しかしそれをその場で公言することはできず、とりあえずこの場を乗り切るために話を進める。


「実験が必要になるが、今レオンは保護下にある。現実的とは言えないだろう」

「レオン?」

「あぁ、言っていなかったな。エノクεはレオンという名前になった。以降、レオンという名前で呼んでやってくれ」

「そうなの……了解した」

「ここにある情報は、ミズが適当に持っていって構わない。私は再び、第三の組織に対処をするために動かせてもらう。それでは失礼する」


 そそくさと区域Aから抜けようとしたイリアに対して、ミズは怪訝な調子で言う。


「区域Aのメンツはどういう動きをする予定なんだ? 具体的に」

「コクヨウと連携するため、一旦はレオンが入院しているフレックス病院に向かわせてもらう。それがどうした?」

「いや、今コクヨウはメルディスの傘下を離れてビアーズ・アーネストが指揮を執っている。だから情報が入ってこないから、少し気になってな」

「……なるほどね。ま、警戒するということを肝に銘じておこう。お互いに、健闘を祈る」

「あぁ、お互い様だな」



 イリアはそのまま区域Aを後にし、早速指定された電話番号に連絡する。


「……もしもし」

「イリアさん? これにかけてきたってことは、アーロン・ベックから話を聞いたようだね」

「第三の組織……何者だ?」

「話している時間はあんまりないから、アーロン・ベックから今回の話を聞いてこのアプローチに参加してほしい」

「あんたは何者だ?」

「君の国家の、手配書をみればすぐわかるよ」

「……ノアか」

「あったりぃー。ということで、僕はこっちのプランがあるから、動くね~。ばいびー」


 状況とは不釣り合いな、どこか楽しんだような言葉に違和感を覚えながらも、場所を聞けなかったことに呆れを覚える。


「協力してほしいなら場所くらい言えや……クソ野郎」


 イリアは悪態をつきながらも、ベックからもらったメモに書かれていた区域Bの文字を発見し、区域Bに向かう。



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