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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十一章 未完の解
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曖昧な停戦

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 今年最後の更新が真面目な回で申し訳ないのですが、どうぞご容赦くださいませ。3月からこのお話を連載しているのですが、遅延は幾つかありましたが、お休みすることがなかったので、私としては上々な結果になったのかなと思っています。

 この物語は、年が明けても普通に連載され続けるので、ご覧くださる方がいましたらとても幸せです。物語は6割は進んでいるので、今年度までには完結を目指したいと思います。来年もぜひぜひ、よろしくおねがいします!


 次回の更新は来年1月4日金曜日20時となります! 来年もよろしくおねがいします。良いお年を!


 すると、ハートマンはバートレットに呆れたような調子で声をだす。


「全く、貴方少し位私のプランに従ってくれてもいいんじゃないの?」

「だって! 彼は絶対に口を割らないよ!?」

「見りゃわかるけどねぇ」


 バートレットの悲痛な叫びに対して、パートナーのジャーメインはそそくさと言葉を漏らす。


「なら、いいじゃないの? さっさと協力を仰げば」


 コクヨウの不思議なやり取りに対して、アゲートは首をかしげる。


「どういうことですか? スパイじゃないと信じてくれたって解釈していいんです?」

 アゲートが都合の良い解釈をしていると、ハートマンは大きくかぶり振る。


「そんなわけないじゃない。貴方はスパイで確定よ!」

 それに補足するように、キャブランが口走る。


「まず、先程も言ったけど、バートレットの攻撃を受け止め、尚且彼の攻撃を目前にして瞬き一つしないとか、訓練された兵士でもおかしい。少なくとも、君が研究員とは言い難い。それに、君は冷静すぎる。全てにおいて、君は明らかに研究員ではない」

「それなのに、君は命を投じて自らの使命を全うしようとした。恐らくは、今回のトラブルに絡むスパイ……状況的に考えれば、第三の組織のスパイだろう。違うの?」


 徹底的に状況を読まれているアゲートは、少し混乱するように尋ねる。


「どういうことですか? どうして、攻撃を止めたんです?」

「行動の通りだ。我々コクヨウは確かに、君がスパイであることを確信しているが、君に協力を求める方針を取っている。勿論、拒めば全力で拘束する」


 キャブランの言葉に、バートレットは皮肉っぽく言う。


「ま、拘束なんてできるかビミョーだけどね」

「4人でやりゃなんとかなんだろう。隠し玉がなけりゃな」

「まぁそういうことだから、協力よろぴくってこと!」


 フリーダムすぎるコクヨウの振る舞いを振り切るようにアゲートはその協力内容について尋ねる。


「具体的に何をすればいいんです?」

「それについては、私から話しましょう。我々は、第三の組織がコクヨウと主目的は同じベクトル、つまり近い主訴で動いていると判断しています。根拠として、スパイである貴方がこちらに対して破壊的な行動を一切とっていないこと、第三の組織の行動が、宴やトゥール側に対しても牽制を行おうとしていると解釈できる行動が多いからです。具体的には、区域A職員ほど国家の内側に食い込んでいるスパイがいるのに、第三の組織がここまで回りくどく行動しているということでしょう。彼らは単純な破壊行動や復讐をしたいのではなく、何かしら別の目的を標榜して行動していると判断できます。それなら、貴方を懐柔したり、それか監視したりするほうが効率的である、そう判断したのです。如何でしょう?」

「……つまり、私を監視対象として第三の組織の目的を調べたい、ということですか?」

「そういうことです。貴方は馬鹿じゃないし、能力にも優れるスパイです。殺すことは現実的ではありませんし、貴方の先程の言葉から、敵対しているわけでもなさそうです。なので、お互いフェアに協力しませんか?」


 まさかの提案に対してアゲートはうまく利用しようと考えるが、どこまでのことを開示していいのか悩んでくる。

 第三の組織の目的は確かにコクヨウの目指す着地点に通ずるものがあるが、一方でコクヨウは十分敵にもなりうる。すべての情報を開示するのは危ない橋を渡ることと同義であろう。

 こここそ、こちら側の臨機応変な対応が求められる。


「……いいでしょう。協力しましょう。ですが、ここですべての目的を話すことはできません。貴方たちの行動に対して、できないことはハッキリとできないと言いますし、できることはします。それでいいのであれば協力しましょう」


 とりあえず臨機応変な対応に困り果て、アゲートは妥協覚悟で自らの本音を述べる。なにか本で見た心理テクニックのつもりで行っていたが、返ってきた反応は意外なものだった。


「勿論それで構いませんわ。こちら側としても、貴方含む第三の組織を敵に回すのは最悪ですし、お互いにフェアと言った以上はフェアにいきたいですもの」

「……それはどうも」

「あ、その疑り深い目、信用してませんね? こっちも今回のトラブルを解決しようとしていますから、こちらもそれ相応の対価を支払いますよ?」

「これについては信用してもらって構わない。ま、今すぐにこちら側の言い分を完全に信頼してもらおうとは思わないが、アンタをお咎め無しにする代わりにある程度こちら側に有益な行動もしくは情報を渡してもらおうか。まずは、ここで何をしていた?」


 唐突に生じた問に対して、アゲートは少し間を開けて答える。


「具体的な行動は言えませんが、私の目的は区域Aの職員を守ることを目的に動いています。そして、その対象にはレオンも含みます。なので、私はその目的に応じて行動させていただきます」

「目的の理由は言えないの?」

「そこまでは、今の段階では言えません」

「どこまで、具体的にどの段階にいけば開示できる?」

「そうですね……具体的には、このトラブルが収束するまでと言えるでしょう」

「このトラブルとは、この文脈においてどのような意味がありますか?」


 代わる代わるに飛んでくる質問に対して、アゲートは率直に答えつつも計画の根底に関わる部分以外については開示していく。


「……一連の、とだけ言及しておきましょう」

「随分話してくれるんだな」

「貴方たちがどの勢力に属しているのか、それが問題ですから」

「一応、我々はメルディス様に仕える存在ですが、最も優先すべきは国家の安息です。故に、現在我々はビアーズ・アーネスト様の命令によって行動しております。いかがでしょう?」

「コクヨウ側も、随分とお話頂けるのですね」

「勿論、”フェア”をモットーにしておりますから」


 ハートマンは上品な笑みを浮かべながらそう言うと、それに合わせるように音もなく忍び寄ってくる者がアゲートに対して告げる。



「コクヨウはフェアな組織だからな。ま、実態からすればフェアっていうよりは自由人の塊だがな」


 現れたのは、それこそ先程の話で出てきたビアーズ・アーネストだった。

 凄まじいオーラを放つビアーズは、やる気なさそうに首を鳴らす。

 そして、その前後の言葉に合わせるようにハートマンは言う。


「ビアーズ様、何かありましたか? 直々に参戦してくるなんて」

「んー、もうそろそろ二家が動く頃かなって思っただけ。こういう、国家側が絡む事柄っていうのは、二家がメインに対処するのが習わしだからな。具体的に言うと、今回のトラブルはメルディス側も、トゥール側も関わっている可能性が高い。だから直々に俺が指揮し始めたんだよね~」

「口調が完全に過去のそれになっていますが」

「ということでこれからはアタシが常にコクヨウにつくので~そういう感じでいいですか~?」


 吹っ切れたような声に対して異論を唱えるものはおらず、ある程度方針を決められたコクヨウは本格的に活動を始めるようだった。


 勿論、それにはスパイの可能性が濃厚なアゲートへの対処も入っている。

 しかし、ビアーズは意外なことをアゲートに対して告げる。


「アゲート君、君のことを利用するという方針を打ち立てたのは私だ。調べているうちに、トゥール側が宴や人間側と関わっていること、それに対してメルディス側が黙認していたことが明らかになっている。つまり、今回のトラブルは2つの派閥の出来レースの可能性もあるってことだな。権力者争いなんて、端っからなかったか、それともメルディス側が何かしら企てていたかってところだな」

「どういうことですか?」

「今回の一連の問題は、トゥール側がメルディス側に喧嘩をふっかけるような話だったが、いつの間にか事はデカくなっていて、宴やエノク、第三の組織やらが絡み始めた。だが、事を考えていくと、順序は逆だった可能性がある。事の発端は、この国家そのものの問題であり、その問題が第三の組織の目的につながるものだった、そう考えれば君の行動の辻褄は合うだろう。だからこちら側にしても極端に敵対することもない。つまり、中立的なコクヨウと、君たち第三の組織は何かしら通ずるものがあるのではないか、ということ。どうでしょう?」


 論理的確証は薄いものの、すべての目的を把握しているアゲートは、ビアーズのその分析の殆どが的中していることに驚きながらも、コクヨウが具体的にどのような方向に向かっているのかがわからないため、特段それを表現することなく首を傾げる。


「今具体的な言及はできません。それを差し引いても、私がどこの機関に所属しているのかが不明瞭な時点で、貴方の解析は的外れの可能性もありますよ?」

「いや、君が第三の組織であることは確定的だ。なにせ、君の情報はなさすぎる。このコミュニティに関わりも薄すぎる。だからこそ、君はスパイとして侵入することができた。それに、これについても若干の作為性を感じているんだよ。区域Aはメルディスが管轄する組織だ。あの化物がスパイを入れるとは思えない。何かしら、彼女も意図があって君を組み込んだのだろう。何を企んでいるんだか~」


 それについて、アゲートは同じ疑問を抱いていた。メルディスの話を聞くと、到底区域Aに侵入することはできないレベルの警戒網が敷かれているはずだ。それなのに、こうしてスパイとして侵入することができるのは何かしらの要因があると思われる。


 今までアゲートは、同じ第三の組織として行動しているティエネスのおかげであると認識していたが、どうも話を聞くと、メルディスがそんなことでスパイを易々と内部に入れるとは思えない。本当ならば、侵入するという前提が崩れているはずなのだ。


 それもなく侵入することができているのは、メルディス側が何かしらの意図を持ってスパイを入れたことになる。状況からして、明らかな矛盾が生じているが事実から考えればそういうことだ。

 その疑問を抱えたまま、一方で目の前に迫っている決断に対して、アゲートは正直に答える。


「……どうやらはぐらかすのも無意味なようですね。私は確かに第三の組織のスパイとして行動しています。コクヨウ側に一定の協力をすることについても承諾します。ただし、先程も述べたとおりですが、私はあくまでも私の目的に沿って行動します。それを十分にご承知の上で」

「あぁ、それについてだけど、私と一緒に行動してもらう。そのかわりに、私は君の行動の指示に従って動くことにする。君の手となり足となりましょう」

「それはどうもありがとうございます」

「全く感謝の感じられない感謝、ありがとー。ということで行きましょうーか」

「早速私の目的の範疇外なんですけど」

「まずは君とタイマンのお話がしたいのよ~。ほらほら、いきましょー。残ったコクヨウメンバーはここで作戦会議と、レオンを守ってあげて」


 自由人全開なビアーズは、アゲートの手を引きながらコクヨウに指示を出し、そそくさとフレックス病院から抜け出て、どこかへと向かい始める。


 その際、アゲートは気づかなかった。ビアーズに自らの細胞片が採取されていたことに。




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