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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十一章 未完の解
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協力者

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 次回の更新が今年最後の投稿となります。そこでキレイに切るためにも、若干薄い感じになってしまいましたが、このまま投稿となります。やたら改行の多い部分ですが、ご容赦いただけると幸いです。

 次回の更新は大晦日31日20時となります! 今年最後まで、お付き合いいただけると幸せです!


 ※遅延により、29日0時の更新となってしまいます。申し訳ございませんでした。




「イリアさん、無事ですか?」


 一方のイリアは、響き続ける轟音を聞くばかりで状況が一切把握できなかった。

 視界も黒色のスポアの肉壁が覆い尽くすばかりで、そこからの情報もほとんどない。状況がうまく飲み込めていないイリアは、すぐにアゲートに現状を尋ねる。


「アゲート……一体どうなっている? どうして、私を守った?」


 イリアの率直な疑問に対して、アゲートは冷静に続けた。


「私は確かに、スパイとして区域Aに侵入しましたが、目的は貴方たちを守るためです。まぁ、プランでは室長ことイレースさんだけでしたけどね」

「……味方、として認知していいのか?」

「そう信じてもらえれば、私としても好都合ですね。イリアさん、状況は今イリアさんが思っている以上に深刻です。だからこそ、イリアさんの協力が必要なんです」

「どういうことだ? ちゃんと説明しろ」


 イリアの言葉を聞き、アゲートはもの一つ考えた後、すぐに伝える、


「私が今この場で全て伝えるより、イリアさんはとある人物に接触してもらいたい」

「とある人物?」

「えぇ。今すぐに、現在機能を停止している区域Aに向かってください。そこで、イリアさんの恩師が待っているはずです」


 その言葉を聞いてイリアは驚愕する。

 そこで待っている人物は、彼の言葉に従えばその人物はイリアの師匠であるアーロン・ベックであろう。それならば、アーロン・ベックはアゲートらと同じ組織に所属している可能性が出てくる。

 もうなにがどうなっているんだかわからないが、イリアは一先ず冷静にこの状況を俯瞰しようとする。


「それは、ベック先生のことか?」

「そうです。彼からこのトラブルについて聞いてください。私はコクヨウ側と一緒に行動しますね。恐らく、私のことは既にコクヨウ側に伝わっているでしょうから、それについての対処もしなくてはいけませんからね。今すぐ、区域Aに向かってください」

「……信じていいのか?」

「それは今の私から言及できません。なぜなら、今この状況で私の言っていることが正しいという証拠はありませんから。だから、貴方に判断していただきたい」


 アゲートはあくまでも冷静である。

 この状況で、確かにアゲートの言葉が正しいとは限らない。それをこちら側の判断に委ねるということは、かなり難しい選択でもあるだろう。相手側からすれば確実に信用させなければならない状況であるはずなのに、これほどまでに冷静に対処しているのは若干怖いが、それが彼の実力であることを思い知る。


「……お前を信じる。救われた身だからな」

「ありがとうございます。”僕”は、イレース室長やイリアさんの味方です。今は何も言えなくても……皆を守ります」


 アゲートの言葉に、イリアは非論理的な感覚を抱き始める。

 恐らく、彼が言っていることは本当なのだろう。アゲートの一人称が変化したのがその証拠のように思えた。


「あぁ。私も、いや、私たちもお前のことを信じている。疑って悪かったな」

「この状況ですべて信じてもらうなんて土台無理な話です。イリアさん、どうかお気をつけて……」

「そっちもな。コクヨウは厄介だぞ」

「ご忠告ありがとうございます」


 イリアは、自らの意思に従ってアゲートの言葉を信じ、すぐに区域Aに向かい始まる。



 一方で取り残されたアゲートは、早速コクヨウが来るまで、「第三の組織」としての役割を果たすために、一度その中枢であるノアに連絡を入れる。


「ノア、瑪瑙(アゲート)だが、イリアさんとベック先生を接触させることに成功した。橄欖石(ペリドット)たちの首尾は問題なさそう?」

「やーやー瑪瑙(アゲート)、こっちの首尾は問題ないねぇ。宴は予定通り、トゥール側にデモンストレーションを伝えている。作られた出口に向かって移動させているが……不条理なる管理人はうまくコントロール出来ないだろう。まだまだ厄介な状況は続いている」

「こっちはこっちで、僕がスパイであることがバレたみたい。目的どおりには進んでいるけど、あまりいい状況ではない。今からコクヨウがこっちに来るみたいで、その時にどのように動かすかっていうのがこっちの課題だ。どうする? この状況で僕が拘束されたら厄介なことになるよ」

「その状況からひっくり返すのは難しいだろうね。コクヨウは完全にメルディス側にあるだろうし、そこで全てを説明することは不可能……まぁ君の対処に任せるよ。君のエージェントとしてのスキルは信用しているしね」

「できるだけはぐらかしてみるけど、失敗したときの考慮はしてね。それじゃあ、基本的にはプラン通りで行動する。それじゃあバイバイ」

「はーい、気をつけるんだよ~」


 あまり良くない状況を確認してアゲートはコクヨウが来るのを待つことにした。

 とりあえず目的もなくアゲートは、眠っているレオンの横に移動し、彼のエネルギーが完全に停止していることを確認する。


「(成功しているようだね~)」


 アゲートは一応ちゃんと進行しているプランに安堵するが、その安心もつかの間である。隣の椅子に座り込んだ瞬間、慌ただしく破損した扉の周囲に気配が生じる。



 恐らくはコクヨウが到着したようだ。これにはさすがのアゲートも息を呑む。全員を相手にする実践能力は自分には存在しないし、かと言ってここまで来てプランを投げ出す事もできない。

 その不安が現れたのか、アゲートはすぐに立ち上がりゆっくりと扉の近くへ移動する。



 すると、微かな音と同時に凄まじい速さの攻撃が飛んでくる。

 それを寸前で受け止め、アゲートはすぐに通路に出る。


「……これは、どういうことですか? コクヨウの皆様」


 アゲートは寸前で受け止めた槍のようなスポアを投げ飛ばしながら、先程までプレハブにいた4人のコクヨウメンバーを一瞥する。その中で、変形したバートレットはアゲートの言葉に挑発的に返してくる。


「行動どおりだよ。区域A職員が、まさか敵側のスパイだったとはね」

「お言葉ですが、私はスパイではありませんし、この攻撃がレオンに当たる可能性だってあったと感じました」

「受け止めておいて何いってんのさ。非戦闘員がこの攻撃が受けきれるわけがないでしょう?」

「私も研究者ではありますが、危険な研究に従事する故戦闘は心がけております」


 苦しい言い訳であることを認識しつつ、アゲートはそう言ったものの、それに対して答えたのはハートマンだった。


「貴方、実力の割に随分間抜けな言い草ね。不意をついたバートレットの攻撃を無傷でやり過ごすなんて離れ業、初めて見たわよ?」

「個人として見れば、コミュニティ屈指の実力者であるバートレットの不意打ちの打ち返すとか、もはや怪物に匹敵するでしょ」


 補足したキャブランの言葉を聞き、バートレットは更に肉体を変形させて臨戦態勢に入る。


「スパイには粛清を。それがコクヨウのルールだからね」


 そう口走るバートレットは、異形の右腕を突き立ててアゲートを一瞥する。

 一方のアゲートは、真っ直ぐな瞳で自らの弁明を行う。それは、弁明というよりは、自らの意志の強さを標榜するようなものだった。



「私はスパイであっても……イレース室長やレオンを守ります」

「スパイであることを肯定するんだね?」

「貴方に、スパイであると思われても、ということです」


 バートレットは、突き立てた右腕をアゲートに向けながら「そう、さようなら」と無慈悲な言葉を浴びせ、振り下ろす。

 その最中も、アゲートは瞬き一つすることなく、真っ直ぐな視線でバートレットを見つめていた。



 しかし、その攻撃が振り下ろされることはなく、バートレットはケタケタと笑い始める。


「やめやめ! お芝居は得意じゃないんだよね!」


 笑いながらそう言ったバートレットは、ぺろりと笑いながら舌を出す。



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