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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十一章 未完の解
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模造品

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 ハッピークリスマスですが、苦手な戦闘描写で少し気分が下がりがちです。クリスマスはいつもその後の年末のイメージが強くてなんとなくイメージが薄いのが個人的な意見ですので、クリスマス色皆無な部になってしまったことをお許しください(´・ω・`)

 次回の更新は今週金曜日28日20時となります! ハッピーメリークリスマス!



 ティエネスに連絡を入れたイリアは早速レオンが休んでいる病室まで移動する。


 病室の扉を開くと、窓際にあるベットの横に佇んでいるアゲートを発見する。

 一方のアゲートも、扉の音を敏感に聞き取り体をこちら側に向け、現状を報告する。


「イリアさん、レオンは無事ですが、未だに意識は戻ってないですね。護衛でもつけてもらえれば嬉しいくらいですかね?」

「ということは、まだダウンフォールとしての力は戻っていないのか?」

「えぇ、ノアの力が未だに作用しているようですから、危機感を持ったほうがいいでしょうね。それにこの情報が宴に知られているのならば、かなり危険な状況です」

「……そうだな…………お前も、ということか?」



 コクヨウ側にスパイであることを伝えたと確信したイリアは、アゲートに問い詰めるようにそう呟く。

 そして、イリアは右腕をアゲートにかかげるように突き上げ、警戒心をむき出しにして臨戦態勢に出る。


 そのさまを見たアゲートは、顔を顰めながらイリアに向かってこう尋ねる。


「……どういうことですか?」

「もうわかっているだろう? 区域Aのスパイはお前だ。白状しろ」


 その言葉を聞いて、アゲートは深々とため息を付きながら「いえ、そういうことではなく……」と続け、一瞬にしてイリアをすり抜けて病室の扉の前に移動する。



 そして、両腕を前に突き出すように、大きなシールド状のスポアを出現させ、どこからか出現した2つの攻撃を防いだ。


 イリアは、一瞬何が起きたのかわからなかった。しかし、その理解が追いつく暇もなく、イリアはなにかの衝撃に巻き込まれ、レオンが眠っているベッド側に大きく吹き飛ばされてしまう。


 視界から生じた情報と意識が混ざったとき、イリアは目の前で何が起きたのかを理解する。

 病室の扉が吹き飛ばされ、黒いフードの襲撃者2人が臨戦態勢のまま項垂れているようだった。

 だがすぐにそれは、項垂れているのではなく顔を隠すためにあえてそうしていることに気づくことになる。


 一方のアゲートも、両腕から盾のようなスポアを出現させていて、黒フードの襲撃者からの攻撃を受け止めている。攻撃を受けながら、アゲートは盾のような形状になっているスポアから肉片を撒き散らし、自分の後方にあるベッドを覆うように肉壁を作り出して、イリアに指示を出す。


「イリアさん、そこで待機していて下さい」

「何が起きている!?」


 イリアの混乱の声は、アゲートが作り出した肉壁に飲み込まれてしまう。

 真っ暗な肉壁の中で、イリアは突然の襲撃者に混乱しつつ、肉壁に触れないようにベッドに座り込む。



 肉壁が完全にイリアの視界を埋め尽くしたことを確認すると、アゲートはしっかりと襲撃者2人の方を見据え、幾つか質問をする。


「来ると思っていました。目的は、レオンですか? それとも、口封じですか?」


 襲撃者はそれに答えることなく、奇怪な音を上げながらアゲートと同じようにスポアを出現させる。

 右側の襲撃者は、背部から4本の触手を出現させ、ほぼ完璧なコントロールでアゲートに向かって攻撃を行う。


 それを視認したアゲートは両腕から微量のスポアを出現させて触手の攻撃を器用にあしらいながら、相手から見えない仙骨部に自らの力を集中させ、大きなスポアの触手を幾つも作り出し、床に落としていく。


 その奇妙な行動をみた襲撃者は、それでも冷静に機敏な攻撃を行い続ける。


 4本の触手をコントロールしている襲撃者は、常にアゲートと高速の攻防を続けているが、それを観察している左側の襲撃者も行動に出始める。

 左側の襲撃者は両腕を前に突き出すように掲げると、一瞬にして両腕が鋭利なブレード状に変形し、アゲートらの攻防の隙を突くように攻撃を仕掛けてくる。


 2人の息はピッタリであり、もはや1人の人物による攻撃と見紛うほどのコンビネーションである。

 片方の襲撃者の攻撃を回避するタイミングで、あえて1つだけ残された逃げ道に入り込んだアゲートに別の襲撃者が攻撃を仕掛ける、その繰り返しで徐々に消耗させていく戦法のようだ。


 対して、相手の攻撃パターンを汲み取ったアゲートは恐ろしいほどに冷静だった。逃げ道を1つしか作らずに2人で攻撃を行うのは、絶対に避けられない攻撃を続けるようなものだ。もはや出来レースに近い攻防の中、アゲートはこの襲撃者の目的について考えながら、危機的状況を打開できると確信している。


 数度アゲートが攻撃を受けたときだった。相手もラッシュをかけたいのか、4本の触手をうまく使ってアゲートに攻撃を仕掛ける。

 4本でそれぞれアゲートの手足を狙い、残った両腕でアゲートの体幹を切り捨てるように交差切りを行う。

 これを避けるためには全身で姿勢をズラしながら後退するしかない。


 その後退を狙って、もうひとりの襲撃者がブレードを構えて攻撃タイミングを見計らう。タイミングは本当にシビアで、フレーム単位での攻撃が必要となるものだった。

 それほどのタイミングを今まで襲撃者たちは成功させ続けている。恐らく、何かしらの邪魔が入ったところでこのコンビネーションを潰すことは不可能だろう。


 それを理解しているアゲートは、今度は避けることを考えず、攻撃がこちら側に着弾するタイミングで着弾箇所にスポアでの防御壁を出現させる対処を選択をする。


 対処を決めたアゲートは、目の前の4本の触手の攻撃を素早い後退で回避しながら、先程から攻撃が着弾している、後頭部と背部全体にスポアを出現させる。


 すると、直後に金属音のような鈍い音が鳴り響き、その次に背部にいたもうひとりの襲撃者が大きな仕草で吹き飛ばされる。どうやら、アゲートの取った対策は見事に功を奏したようだった。



「スポアは出現させた時に最も強く硬質化する……科学者らしい戦い方でしょう?」


 アゲートは挑発的に襲撃者にそう言うと、序盤から床に落としていた大量の触手をうねうねと動かしながら襲撃者に対して再び問う。


「誰の指示で襲撃を行っているんだ? コクヨウのメンバーさん?」


 その言葉を聞き、倒れ込んだ襲撃者は一瞬フリーズしつつも、すぐさま背部から攻撃が飛んでくる。

 その攻撃は、アゲートが作り出した歪な人型により防がれてしまう。


「これは……なんだ?」



 その人型を一瞥した襲撃者は流石に声を上げる。

 自らの触手が食い込んでいるのは、間違いなく魔が作り出した触手だった。しかし、それはなにかの生物のようにウネウネと気味の悪い蠕動を残しながらこちらを見据えている。まるでスポアの触手でつくった藁人形のようだった。

 しかし、魔単体ではこのような分身を作り出すことはできない。にもかかわらず、目の前にあるのは明らかにスポアの分身と言って差し支えない生物だろう。



「まさか、貴方もエノクということ?」


 今度は倒れ込んでいる襲撃者がぽつりと呟く。

 それを聞いたアゲートは、笑いながら大きくかぶり振る。


「いや、”僕”は間違いなく魔だよ。でも、僕は手元からスポアが離れてもそれをコントロールする事ができる。理論的に言えば、これは数十本の触手を人型に組んで、その一本一本を動かして動かす、からくり人形のようなものだ」


 それを聞いた襲撃者2人は、笑いながら臨戦態勢を解除し、化け物じみた戦闘能力を披露したアゲートに拍手を送りながら言った。


「全く、ここまでの化物だとは思わなかった。流石ね」

「お褒めの言葉、光栄ですよ。コクヨウのメンバーにそんなこと言ってもらえるなんて。でも、どうしてこんなことを?」

 その言葉に返したのは、触手をしまいこんだ後方の襲撃者だった。


「状況は、君たち第三の組織が思っている以上に複雑だからな。まぁ、私たちから言えることは少ないから、後はそっちで頑張ってくれ」

「なんだかよくわからないですけど、一応、敵ではないっていうことですか?」

「敵味方という概念すら曖昧だな。だが、さっきも言った通り、アンタたちが思っている以上に、関係や目的がごちゃごちゃしている。私たちは金で動いている身だから、クライエントのことは言えんがな」

「なるほど。つまりは、丸投げということですね?」

「あぁ、陰ながらアンタたちのことは応援しているよ」


 襲撃者はその言葉を残して、崩壊した病室の扉を優雅にくぐって消えてしまった。恐らく、その様子から、これ以上アゲートも攻撃することはないと承知しているのだろう。


 それは当然だった。この状況で襲撃者を追っても、自らがスパイでない証明にはならないし、そもそも首尾よく襲撃したくらいだから、追手が来ることも想定済みだろう。

 あの身のこなしから考慮して確保することは不可能だと判断したのだ。


 この状況でアゲートができることは唯一つ、現在完全に疑われているイリアに対して状況を説明し、次のプランに繋げることだった。


 そうと決まればすぐにアゲートは行動を開始する。まずは臨戦態勢を解いてイリアに弁解を図る。


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