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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十一章 未完の解
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在り来りな偽証たち

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 この第11章は今まで積み重ねてきた伏線を回収して、この物語の背景に触れる重要な章なのですが、現段階で不自然な点もままある状態なので、とりあえずは完結させて完成品で帳尻を合わせるような感じになりますね。連載の難しさを肌で感じる1年でした。

 次回の更新は金曜日24日となります! クリスマスイブとは全く関係ありませんが、次回もご覧いただければとっても幸せです(*´∀`*)


「それじゃあ、僕らは予定通りメモリーボックス閲覧のためにベルベット邸に出向くことにして、イリアたちはコクヨウと連携してもらってもいい?」

「異議申し立てをしてもいいか?」

「……どうしたの?」


 イリアの行動の真意をすぐに察することができたイレースだったが、それに対して上手く答えを出すことができないでいた。


 イリアはベルベット家の分家に当たるソロモン家の人物である。それを考慮すれば、この状況でメモリーボックスを閲覧するのはイリアの仕事でもあるだろう。つまりメンバーの組み方が明らかにおかしいのだ。それについてはイレース自身も理解している。そして、イリアの出した決断が正しいことも理解しているつもりだった。


 しかし、アゲートがスパイだとどうしても信じられない気持ちがあり、そこから逃れようと非現実的な回答をしてしまった。


 そのイレースの心境を察しているのか、イリアは若干呆れ気味に笑い、ひしひしと説得するような言葉を羅列する。


「メンバーチェンジだ。私とイレースがメモリーボックスをチェックし、フーとアゲートでコクヨウとの連携を行う。それでいいだろう?」


 イリアの提案に対して、イレースはぐぬぬと言いたげな顔で表情を曇らせるが、それに異議申し立てを行うのは明らかに不自然であるし、非合理的である。そう心に言い聞かせようとした時だった。

 それに対して声を上げたのはアゲートであり、彼は想像の斜め上を行く提案を行う。


「イリアさん、私から一つ提案なのですが、今度はイリアさんと私でコクヨウ側との連携を行いませんか?」

「……どういうことだ?」


 この提案は流石のイリアも動揺を見せる。その意図が全く読めないからだ。


 この状況でこの提案をするということは、少なくともアゲートも自分がスパイと疑われていることを理解しているようだ。そして、その目的はイレースの監視をすることであろう。

 その根拠として、アゲートは多くの時間イレースと行動を共にするように立ち回っている。それは、イレースから得ることのできる情報が多いゆえの行動と推測できる。


 それならば、是が非でもアゲートはイレースと行動したいはずだ。それなのに、それを放棄し、尚且更にスパイであることについて言及される可能性が高いイリア側につくという提案は、アゲートにとってはむしろの不利なことだろう。


 結局、そのよくわからない意図を探る意味を込めて、イリアはアゲートに意見を求める。

 一方のアゲートは、特段焦った調子もなく、淡々と答える。


「私とフーさんでは、不測の事態への対処は困難でしょう。失礼ですが、フーさんも随分と余裕のない表情をしているのがその証拠です」

「う……」


 痛いところを指摘されたフーは、黙っていた顔を歪めて表情を伏せる。

 それを視認したアゲートはさらに続ける。


「それに私がはいるとなると、更に対処も困難になるでしょう。何分新人なものですから、ベテランのイリアさんと私が組んだほうが円滑にことが運ぶのではないでしょうか?」

「……いいだろう。組み合わせは私とアゲート、イレースとフー、そうしようじゃないか」

「不躾な提案、失礼いたしました」

「いや、寧ろその組み合わせのほうが円滑だろう。イレースもそれでいいな?」


 若干怖い笑いを浮かべながらイレースにそう尋ねたイリアは、早速行動に移し始める。

「それなら早速行動しよう。アゲートは私とともに、コクヨウと合流する。イレースとフーはベルベット家にいってメモリーボックスを調べること。それでいいな?」


 いつの間にかその場を仕切ったイリアの言葉に対して、イレースは浮かない表情で首を縦に振り、早速行動を開始する。


「じゃあフーくん、ベルベット邸に向かおうか」

「あぁ、よろしく頼む」


 2人はそういいながらそそくさと相談室から出ていってしまい、取り残されたアゲートとイリアが室内のなかに残されていた。



「イリアさん、一ついいですか?」


 取り残された2人の中の沈黙はアゲートによって切り落とされる。


「なんだ?」

「一度レオンの様子を見に行きたいのですがよろしいでしょうか?」

「どうして?」

 喋り方に棘があるイリアのことを特段気にすることなく、アゲートは自らの考えを述べる。


「今の彼はエネルギーの生成ができません。それならば、何かしらの危機にさらされる可能性は大いに有り得るでしょう。先程、トゥール側にトークンを頂きましたが、彼らが100%メルディスと同じ方向に行動しているとは到底思えません」

「つまり、どういう可能性があるんだ?」

「レオンについて狙っていた宴が、ここまでパッタリと行動を潜めていることが少し気になるんです。もう、おわかりですね?」


 不気味な言い方をしたアゲートは、イリアから視線をそらさずに深刻な表情を続けた。

 アゲートが言おうとしていることは明白である。レオンのことを狙っていた宴は最初の襲撃以降は息を潜めている。

 そのことから考えて、彼らはこちらの様子を伺っており、レオンを奪うことのできるタイミングを見計らっているのだ。


 確かに、このままここから立ち去ってしまえば宴にとってまたとない機会になってしまう。それは絶対に避けるべきだと判断したイリアは、疑いの目を一切緩めることなくアゲートの提案に同意する。


「わかった。様子を見よう。だが、具体的な案はあるのか?」

「そこが問題です。一番はコクヨウ側がここに集まってくれて、護衛みたいなものを付けてくれることですけど、そんなことは難しいでしょう?」


 アゲートの提案を聞き、イリアはむしろ好都合であることに気づいてしまう。

 アゲートは状況的にほぼスパイであると言っていいだろう。こちら側に有益な行動が多いということについても、裏を返せば情報を収集しやすくするための策略となっていると考える事もできる。


 それならば、この場でアゲートのことをあぶり出したほうがいいかもしれない。コクヨウについては連絡を取れば集会場所などどうとでもなるだろう。

 この時点でイリアは、アゲートをこの場で追い込むことを決め、早速行動に出る。


「いや、連絡を取れば大丈夫だろう。アゲートの言う通り、この場で集会したほうがいいかもしれないな」

「できますか?」

「今連絡を取る。お前は先にレオンの所へ向かってくれ」

「ありがとうございます。それでは、先に向かっています」


 アゲートはそのまま頭をぺこりと下げ、ゆっくりと相談室を後にする。


 残されたイリアは、コクヨウのうちどの人物に連絡を取るかを考える。

 冷静に考えれば、現在コクヨウを統括しているフラーゲルに連絡を取るべきなのだが、フラーゲルはコミュニティ内屈指に信頼できない人物の一人である。

 そんな人物に「区域Aにはスパイがいます」なんて情報を口にすることはできない。というより、状況的にスパイであることはまだ確定していないというのが厄介である。


 限りなく黒であるのは目に見えている。

 アゲートの経歴では、人間社会で暮らしていたことはないと記されていて、純粋に魔天社会で生きてきた人物であると書かれていた。にもかかわらず、アゲートは明らかに人間社会でしか知りえない情報を知っていて、なおかつそれを隠していた。


 この状況で嘘をつくということは、スパイでありそれを悟られないようにするための苦肉の策であることは明白だ。しかし問題はそこではなく、アゲートがどの組織に所属していてなんのために行動しているかだ。

 そこを明確にしない以上、未確定の情報を流布することはかなりの危険行為だ。


 それらを考慮すれば、連絡する人物はコクヨウの中でもたった一人になる。

 コクヨウを統括するリーダーである、ティエネス・シーボームだ。彼は二家のアーネストの分家に所属しており、イリアもその人柄をよく知っている。

 情報を漏らすことなく、かつ適切に今回のトラブルに対処してくれるだろう。現在は不在であるようだが、遠距離からフラーゲル含む他のメンバーに指示をすることはできるだろう。


 行動がある程度決定したイリアは、早速行動にでる。

 自らの通信端末を使ってそそくさとティエネスに連絡をかける。


 一定のコール音の後、ティエネスは冷静な声色で電話に出る。


「イリアか? コクヨウのことは今フラーゲルに一任しているが……何かあったのか?」

「厄介な情報が入ったから、先にティエネスに伝えておこうと思ったんだ。先に聞いていいか? 今、あんたは何をしているんだ?」

「別途に仕事が入ってる。こっちも重大な仕事だからな」

「……エノクδのことについては聞いているだろう? それ以上に危険な仕事なのか?」

「それについてはフラーゲルから聞いている。今は具体的に言及できないが、俺が関わっている仕事についても、その事件に関わっている。話せる状態になれば、しっかりと情報の共有をするから、今はフラーゲルを信じてくれ」

「あんたがそう言うってことは、信じてもいいんだな?」

「大丈夫だ。多分」


 若干陰りが生じたティエネスに対して、イリアはすぐに情報を述べることを決意する。


「区域Aの職員に、どの組織に所属しているかはまだわからないがスパイがいる。あんたから、直々にこれからの指示をフラーゲルに出せ」

「なるほどなぁ? お前がそれほど言うならわかった。聞こうじゃないか」

「あぁ。現状コクヨウは、ノアの襲撃を食らってフリーズ状態だ。これからは区域Aとコクヨウが連携して、保護しているエノクεことレオンのことを保護、そして事の収束を目指す。その上で、今からフレックス病院に集まって欲しいということを伝えてほしい」

「俺はその時の対処を考えるってことか?」

「そういうことだ。宜しく頼む」

「全く、礼儀のなってないやつだなお前は。すぐに連絡を取る。1時間ほど待機だ」

「了解。できる限り迅速に対応してくれ」


 イリアは強引に言伝だけ残してそのまま通信機を切る。


 ティエネスとは同じ分家の関係ということもあり、コクヨウの中では比較的砕けて話すことができる稀有な人物の一人だった。

 彼もまた25年前のザイフシェフト事件に関わった関係者の一人であり、今回のトラブルを調べるために何かしらの行動をしているということは聞いていたが、その代理人として駆り出されたのがフラーゲルだった。

 絶妙に信じられない人物であることをティエネス自身認識しているようであり、あのような反応をとったようだ。


 とりあえずはティエネスに連絡をすることができたため、イリアはそそくさとアゲートが待っているはずのレオンの病室まで移動する。



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