黒幕
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
今回から11章となります。相変わらず、偶数パートは短いのですが、内容があまりにも趣味丸出しなのでカットされたものが多々あったりします。このため、重要な伏線が消えていたりするので、完成版ではこれら含んで作成する予定です。
次回の更新は金曜日21日となります! 次回もご覧いただければとっても幸せです(*´∀`*)
・魔天コミュニティ フレックス病院
2つのメモリートークンを受け取ったイレースらは、一度情報の共有を行うためにレオンが休んでいるフレックス病院に集まることになった。
その道中、イレースはイリアに「アゲートがスパイの可能性がある」ということを伝えておき、それと同時並行的に、もしアゲートがスパイであるのなら、どのような事が目的なのかを考えていた。
まず、アゲートがもしスパイであるのなら、その目的と所属組織が問題となる。
彼は2ヶ月ほど前から区域A職員として働いていて、その功績もかなり大きいと言えるだろう。
つまりは彼はスパイとして動いているのならば、こちら側に対してのメリットも相当大きい。彼の専門であるダウンフォールについて有益な情報を落としているし、そもそもスパイというものは情報を盗むためのものである。情報をこちらに渡すのは明らかに逆効果だ。
それならば、アゲートはスパイではなく、こちら側の味方である可能性だってある。
しかしそれはあまりにも楽観的な考えである。現に、アゲートが掴んだ情報量は非常に多く、それこそ他に知れ渡れば危険な情報も多い。少なくとも、コミュニティの科学的な部分の情報は軒並み筒抜けになっているということでもある。
これらを考慮すれば、アゲートがこちら側に近い、別の機関に所属しているという楽観的な考えは難しいだろう。
それに、アゲートほど優秀な人物がここに来て、文化的な問題でスパイである可能性が示唆されてしまったのだが、逆に言えばそれほどの落ち度しか彼にはない。
恐らく、そんなミスをするということは、彼は元々人間側の文化で暮らしていて、多くの文化を共有していたため気づかなかったのだろう。
それについてはこちらに分があるといえるが、単身彼が乗り込んでいるとは思えない上、かなりの実力であることも考慮しなければならない。
状況的に、アゲートはかなり黒に近いが、ここから状況を好転させるのがかなり難しいと言えるだろう。ただでさえ、ほとんど尻尾を見せなかったアゲートが更に不審な行動を見せるとは正直思えない。
追い詰めるためにはもう一押必要になるのだろう。
そう考えたのとほぼ同時に、先を歩いていたアゲートがイレースに声を掛ける。
「室長、何かありましたか?」
「え。どうして?」
「いえ、先程から黙っているので」
それを聞いてイレースは少々どきりとさせられる。
今まではひときわ優しかった彼の言葉が妙に刺々しく聞こえるのは気のせいだろうか。
そんな不安な気持ちを押さえ込み、イレースはそっと尋ねる。
「ちょっと考えごとをしてたんだ」
「もしかして、メルディス側のスパイのことですか?」
もはやこちらの考えを察しているかのような言葉に、イレースは大きく咳き込みそうになるが、その動揺を押し殺して苦笑する。
「あはは……アゲートくん、よく僕のことを見てるよね」
「そうですか? でも私は結構、室長のことを信頼していますし、素晴らしい方だと思いますよ。だって、すごく思慮深いですし、奥ゆかしいですしね」
「え、そうかな……アゲートくんに言われるなら、ちょっと自信持てる気がする」
「それなら私も嬉しいです。それで、室長はスパイいると確信しているんでしょう?」
「うん……あれ、スパイのこと話してたっけ?」
まさかのタイミングで舞い込んだチャンスに、イレースは必死になって尋ねるが、アゲートは特に気にすることもなくかぶり振る。
「いえ、メルディス側にスパイがいるということは少し考えれば私にもわかります。レオン襲撃時のタイミングは完璧でしたし、室長たちのお話からメルディス側にスパイがいるとみてまず間違いないでしょう。問題はそこからで、誰が、そしてどの部分に属するスパイなのかが大切ですよね」
美しいほど筋が通ったお話に対して、イレースは更に話を促す。
今できることは、できるだけ話を引き伸ばして彼がボロを出すのを待つことだった。
「アゲートくんは、誰がスパイだと思ってるんだ?」
「そうですね……この状況において、スパイである可能性があるのは、あのとき宴に完璧なタイミングで指示することができた人物に限定されるでしょう。そう考えると、私と室長、イリアさん、フーさん、メルディス様、その側近のミズ様の6人が被疑者でしょうか。そこからどう捌いていくかは考え方によりますかね」
可能性のところにしっかりと自分を含む人物を入れているあたりが理知的であるが、それが妙に不気味にも思えてくる。
「その中で、一番可能性が高いのは誰だと思う?」
「これは言っていいんですか?」
アゲートの気味の悪い発言に対してイレースは問いかける。
「それは、どういうこと?」
「ここだけの話なので、室長には言いましょうか。この中で最も可能性が高い人物は2人いるでしょう。一人は私、もうひとりは現メルディス様でしょう」
その言葉を聞いて、イレースは驚愕する。
あまりにも、怖い。この場で自らを対象として疑念を向けるようなことを言うなど、普通では考えられない。
だが、それだけではなく、イレースは自分の考えから抜け落ちていた、最悪の被疑者を見失っていたことに気づいてしまう。
「……根拠とか、聞いてもいいかな?」
「えぇ。まず私がスパイである可能性については最も高いと言えるでしょうか。私はまだ新人ですし、今回のトラブルと運悪くぶつかってしまっていますから、状況的に一番疑われやすい状態になっていますね。メルディス様については、レオン襲撃時のタイミングがあまりにもドンピシャだったことでしょうか……、状況的にはどっこいどっこい、どちらも確証に値する程の証拠はありません。判断は、室長含み、多くの人が結論をだすべきでしょう」
「スパイじゃ、ないんだよね……?」
「証明できないじゃないですよ。ですが、どう思われても、私は自分の仕事をしますけどね。室長のことも守ります。で」
真剣な面持ちで飛び出た言葉により、イレースはアゲートのことをどう考えればいいのかわからなくなる。
彼は本当にスパイなのだろうか。確かに状況的に見れば、彼がスパイである可能性は高い。それは間違いないのだが、それならばどうして彼はここまで手助けするようなことを言うのだろうか。彼の采配はいつも、コミュニティ側であると言える。レオンのときも、メモリーボックスのときも。
もし、アゲートがスパイであるのならば、本当に、こちら側に有利なスパイである可能性もあるのだ。
そんな思考を読み取った、潜在意識にいるカーティスは、突っ込むようにイレースに尋ねる。
「ちょっと聞きたいんだけど、こちら側にメリットのあるスパイって何?」
「……なんだろうね。正直僕が聞きたいよ」
「おい」
「いや、僕も信じられていないんだと思う。アゲートくんはすごく優秀で、いい子だったから」
「スパイっていうのはそういうんじゃないの?」
「そうなのかな……もう、何を信じればいいのかわからないんだよ」
「追求するとかはどうなんだよ」
「無理に決まってるでしょう。アゲートくんは論理性も高いし、アドリブ力も高い。仮にスパイだとするなら、ある程度論証を固めておかないと逃げられるよ」
「まぁそこは俺の範疇じゃないし」
「少しは君も考えてくれると嬉しいです」
「考えることは俺の専門じゃないからな」
突っぱねるカーティスにさほど期待することもなく、イレースはアゲートの言葉に返していく。
「アゲートくん、もし君がなにか、僕らの言えないことがあったとしても、信じている。仲間として」
飛び出た言葉はとても論理的とは言えない言葉だった。それは自分自身、彼のことを信じていたい気持ちがそのまま形になったようだった。
自分でもこんなこと言っていいのか本気で疑問だったが、イレースは彼のことを信じることを選択したのだ。
一方、アゲートはそれを聞いて少しだけフリーズしたのち、笑いながら話す。
「ふふ……、室長、優しいんですね。私も室長のことを、信じています」
妙に意味深な一言であるが、深く意味について囚われることはなく、イレースらは目的地のフレックス病院の控室に到着する。
病院内の片隅にある相談室を借りて、一度情報の共有を行う手はずになっており、威圧感漂う狭さの室内に、イリアとフーが重苦しい顔色で座っていた。
恐らくイリアは、フーにアゲートがスパイである可能性が高いことを告げているのだろう。演技が得意ではない彼は動揺が露骨に浮かんでいるように思える。
一方のイリアは不気味なほど冷静であり、手足を組んだまま瞳を閉じて待機している。
そのさまはどこかのボスのようだった。
「皆一旦集まったようだね。そっちは何かしらの情報は出てきた?」
イレースは現実逃避するようにノアの情報探っていたイリアとフーにそう尋ねる。
すると、イリアは呆れた調子で首を横に振った。
「残念ながら、皆無だな。既存の情報以外に目ぼしいものはない。やっぱりコクヨウらと協働してノアを始めとする第三の組織の目的や正体について探ったほうがいいだろう」
予想通りの答えが返ってきたことを確認すると、イレースはすぐに次の行動方針について確認する。




