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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十章 因果律の不協和音
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饕餮の舟葬

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 この部分のタイトルはとても悩みました。忘れないようにタイトルを伏線として覚えているのですが、前分と合わせて考えていたので、結構付け焼き刃になってしまいました。完成版に自分でも期待します。

 次回の更新は来週月曜日17日20時となります! 次回も見てくださる方がいれば幸せです(*´∀`*)



 大きな闘技場は競技用ドームほどの長方形状のもので、かなり多くのことに利用できそうな大きさを持っていた。

 床と壁はコンクリートがむき出しのまま使われているものの、ある程度の耐久力を与えるために特殊な加工がされているようだが、今ひとつ使用されている材料はわからない。しかし、一つ言えるのはこの加工は明らかに闘技場としての役割を担っているとは思えないということだった。


 というのも、単純に傷がつかないようにとか、破損が生じないということに焦点化しているわけではないようで、暗がりとホコリに包まれた床をじっくりと調べてみると、過去の傷跡と思われる激しい戦闘の痕跡が深く残されていた。


「これが25年前の傷だろうが……」


 ストラスは大量に残る傷跡に対して、強烈な違和感を覚えていた。


 確かに、実験でこの闘技場が用いられていたことを指し示す傷跡は大量に残されているのだが、それにしてはおかしな傷跡が無数に確認できる。

 まず実験として用いられるということは、少なくとも魔天の類の実験であることはまず間違いない。それは今までの資料の中からも確認されたとおりだった。


 しかし、残っている痕跡の大半は、明らかにスポアでつけられたものとは違う。言うなれば鈍器のような物体で何度も殴りつけられたような傷跡である。そんな傷はスポアではつかないし、何より不自然なのはその傷跡の深さである。


 傷跡が浅すぎるのだ。大量につけられている傷は数ミリ程度の物がほとんどであり、とても実践でついたものとは思えない。まるで、トンカチかなにかですべての床に傷をつけているようなものだ。それにどのような意味があるのかもわからず、ストラスは微かな違和感を抱きながらも更に闘技場を調べていく。



 一方、発電機を探していたアイザックは、自分の想像する発電機を求めてだだっ広い闘技場をさまよっていた。アイザックは元々、この闘技場の真上にある研究棟の研究員をしており、この地下道に精通しているが、闘技場に関することはほとんど関与していなかった。


 というより、この闘技場という施設が整備されたのはごく最近で、25年前の事件の直前に整備された部分だったため、内部の人間でも不明な点が多い。そもそもどうしてここに発電機が設けられたのかすらも謎であるが、発電機はわかりやすく入り口から最も遠い壁際に置かれていてぴかぴかと鬱陶しい光を上げていた。


 どうやら、発電機は起動しているようだ。

 しかし、そこで多くの疑問が巻き起こる。その疑問を確かめるように、アイザックは近くにあった闘技場の照明のスイッチを切り替える。


 発電機はこの地下道全域と、各施設機関の電力を供給している。この発電機がついているということは、少なくともこの闘技場の電気は供給されているはずだ。

 それなのに、どうやらこの闘技場の電気は供給されていないようだ。では、この発電機はなんの電力を作っているのだろうか。


 一番最初に考えたのは、セフィティナらがカーティスの肉体維持のために使用している機械であろうが、どう考えてもこの大きすぎる発電機では不釣り合いだろう。なにか別のことに使用していることは間違いないが、それがなにかがわからない。


 更に、アイザックは発電機の周りにホコリが溜まっていないことも発見する。よく見れば、他のところもホコリが不自然に溜まっているところと溜まっていないところがあるように見える。恐らくは、何者かが周辺に侵入しているのだろう。その目的は今のところ不明であるが、状況的にはセフィティナらがその正体である可能性が高そうだ。


 だが、それならば不自然な点も出てくる。これほど大規模な発電機を利用しているということであり、ここまで大きな発電機を利用するのはそれ相応の不利益も出てくるだろう。

 この発電機は非常用であり、起動すれば強制的に設定されている範囲に電力が供給されるはずだ。それを解除するためには旧ザイフシェフトの管理者IDが必要になる。そのシステムが今なお生きているかは不明であるが、ここまで施設が生きていることを考えればおそらくはまだ使用可能であると考えて間違いない。


 セフィティナらは25年前で内部にまで絡むトラブルの当事者であることに鑑みると、この発電機を利用した可能性は薄い。それならばどうしてここが動いているのかという疑問に戻ってくるが、今は一旦それのことは無視して、他の部分を探すことにする。



 各々が闘技場を調べ、入口付近で一旦合流すると、互いに違和感を述べまくる。

 まず最初に話し始めたのはストラスだった。


「とりあえず俺から違和感を言うぞ。闘技場につけられた傷は意図的なものである可能性が高い。小さな傷跡が大量にあったが、実践での傷跡は殆ど無い。それこそ、俺がスベルンと戦ったときについたような傷がメインだな」

「それって、誰がどんな意図があってつけた傷なの?」


 アイザックの尤もな疑問に対して、ストラスは即座に首を横に振る。


「知らん。そこはお前が考えてくれ」

「役割分担ってことね。じゃあこっちの情報も。発電機はついていたけど、電力が供給されている場所が別にあるようだ。この施設の電力供給を変えるためには管理権限が必要だから、セフィティナたちが変えたものであるとは考えにくい。誰か別の奴らがこれに関わっている可能性が高そうだ」

「まだ関わっている奴らがいるのか?」


 ストラスが茹だるような声を出すが、アイザックは何も反応することなく続けた。


「言うように関わってる奴らが多すぎる。今明確な奴らは、グルベルト孤児院と天獄、コミュニティのほとんどの派閥、そして25年前の人間側の関係者だ。恐らくはそれで全てだろうが、もっと情報収集をしたほうがいいかもしれない。同時並行的に他の部分を調べていくことが大事なんだけど、ヒントがなさすぎるし」

「ここまでやるってことは綿密に計画を立てているか、はたまたかなり多くの団体が関わっているかだろうが、どちらにしても下手に踏み込めば寝首をかかられる可能性が高い点が強いのがなぁ。結局はカーティスを見つけることが最短ルートに思えるがな」

「もし、今回の事件に僕らが予見していないもう一つの存在が関与していないならそれでいいさ。気になるのは、セフィティナのメモに残っていた”方舟”っていうキーワードだ。なんか、すごい嫌な予感がするんだよね。この言葉」

「なんか、あんの?」

「いや、ただの勘だよ。でも、エネルギー飽和のテンペストと極端な発電機の異常、テンペストに関係していると思われる方舟、なんか、怖くない?」

「俺はお前みたいに学があるわけじゃないから、その感覚はわからないが、お前が不吉に感じているのなら、俺も不吉だよ」

「こういうとき、勘っていうのは働いてほしくないところだね。とにかく、急いだほうが良さそうだ」

「そうだね。次の発電機に向かおうか」


 次の方針に向かおうとしたとき、アイザックの携帯電話が鈍く鳴り響く。

 しかし、持っていたのはストラスであったため、ストラスが電話の主を確認する。


「ミラから連絡だけど、どうする?」

「出てよ」

「はいはい」


 電話の主がわかった瞬間に興味をなくしたのか、アイザックは再び発電機について考えるように黙り込んでしまう。

 それを見て、ストラスは何度めかのため息をついて電話を耳に当てる。


「ミラか? どうしたんだ?」

「ストラスか? 今ケイティさんと合流する予定なんだが、お前たちも一旦戻って欲しい。それくらい情報らしいからな」

「よく話は見えんが、一旦戻ればいいの?」

「グルベルト孤児院で待ち合わせしよう。相談室で待ってるからな」

「了解、今から戻るから、大体30分くらいで戻るから」

「気をつけて戻れよ」


 一瞬の電話を切ったストラスを見て、アイザックは停止した動きを活発に動かして彼の手を引いた。


「ストラス、早く戻ろう。おぶって!」

「ふざけんな歩けバカ」




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