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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第二章 半身の詩
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空白の助手


 前回が尻切れトンボ状態だったので、前回と重ねてみていただければ幸いです。

 前回から引き続き見ていただいた方はいつもありがとうございます(*´ω`*)

 これからは前書きの方に定例の挨拶をおいておくようにするので、これからも引き続き見ていっていただければ幸せです(*´∀`*)

 このお話の所々が変な切れ方がしているのですが、サブタイトルに合わせていることが理由です。このサブタイトル群は、その部分の伏線となっている部分を示している作り手のマーキングなので、これからも尻切れトンボになることがあるかもしれませんが、ぜひぜひ完結までご覧になってくださいね☆(´ε`

 先程、森のなかでストラスらを見失った、赤髪のボブをしたアレクシアと、ロリータ調の服を着たオフィリアである。2人は怪しまれないように、カウンター席に座り、適当なものを注文する。


「ねー、ここのお菓子、すごい人気みたいだよ」

 オフィリアは戯けるようにそういった。そして、適当なメモ用紙に「会話はNG」とだけ書き、アレクシアに見せる。そして、アレクシアはそれに従うように、表層的な会話を続ける。

「このショッピングモールで一番人気ですからね」


 一方、追加注文したアイスを頬張っているストラスは、聞き耳を立てるように2人の会話を聞いている。

 そして、声を潜めてルネに2人の存在を伝えた。

「あいつら、さっきつけてた2人だと思う。どうする?」

「僕戦えないよ」

「知ってわ。うーん……じゃ、俺がトイレ調べてくるから、お前はグルベルト孤児院へ行け。カーティスは元々グルベルト孤児院にいたらしいし、アイザックから情報もらってこい」

「僕の方きたらどうするのさ」

「”助け”を呼べよ」

「……そうだけどさ…………」

「折り合い悪いもんな。相変わらず」

 ルネはストラスの発言に思わず顔色を変える。

 そして、言葉を濁すようにドライマティーニを飲みきり、恨み言を呟きつつ伝票を手に取る。

「うるさいなー。もう、ほら、行くよ」

「はいはい。って、もう飲み終わったのかよ。相変わらずの蟒蛇」

 ストラスもそう言いつつ、追加注文していたアイスをぺろりと平らげ、テーブルに広がっている荷物を持ち、会計を済ませて店を出る。


 対して、それを観察していた2人は突如行動し始めたルネらに対して怪訝な気持ちを抱いたものの、すぐに反応してしまっては危険であると判断し、どちらを優先して監視するかを話し始める。

 最初に口を開いたのは、アレクシアだった。

「彼ら、二手に分かれるでしょうけど、どうするの? どっちを優先する?」

「男の方に決まっているでしょう。あの子どもみたいな方が、”エノク”について知っているとは到底思えないし」

「そうね。妥当な選択だと思う。でも、トゥール派はどうして”エノク”を保有しようとしているのかしら」

「……どうでしょう。正直、リーダーが考えていることなんて、私達にはわからないわ」

「それでも、貴方も宴に所属している。どうして?」

「革命でも望んでいるのかしらね。私はただ、”25年前の真相”を知りたいだけなのかも」

「宴の発端となった、”ザイフシェフト事件”……もう25年も経つのね。私がメルディス派にいたのも、その時かしら」

「貴方も苦労人なのね。まさか、あの事件にメルディスが関わっているなんて、笑えるわ。人間との友好的な関係づくりを標榜しておきながら、まさか、”エノクδ”を投棄するなんて、最低の所業よ」


 2人は呟くような会話の後、東トイレ前で話し込んでいるストラスらに視線を向ける。

 そして、ルネは荷物を持ってショッピングモールを後にするように、出口に向かってあるき始める。対してストラスは、人混み溢れる東トイレへと入っていく。


 それを視認したアレクシアとオフィリアは、早速行動を開始する。

 完全にストラスが東トイレに入ったのを見計らって会計を済まし、東トイレ付近を見張り始める。


 一方のストラスは、東トイレの中に侵入して、一頻り辺りを見回す。

 なんてことはない、一般的なデパートのトイレである。男性が使う小便器が3つ、個室が2つ、それぞれ洋式と和式が一つずつ存在するものの、窓は一切なく、換気扇のダクトが1つあるだけで、到底人が通れるとは思えない隙間である。ここを通って、人を移動させることは不可能であると考えるのが妥当だ。

 加えて、東トイレはショッピングモールで最も人通りが多い場所であるのか、異常なほど人の出入りが多い。


「(ルネの言うとおり、あの資料は嘘の記述があるのかもしれないな)」


 その様を見て、ストラスは不意にそう感じる。

 これほどの人がトイレを利用すれば、26分もの時間誰ひとりとして入らないなんてことはありえない。

 それを確認した後、ストラスはトイレから出て、駆け足でショッピングモールから脱出する。

 勿論、アレクシアらもそれに反応し、ストラスの後を追っていく。


 ストラスは、ショッピングモールから出た後、人通りが少ない道を辿っていき、そのまま郊外へと2人を誘い出そうとしている。


 一方、ストラスが繁華街から大幅に外れた頃、アレクシアらは、人混みに紛れてストラスの誘いに乗るかどうかを決め始める。

「……どうする?」

 アレクシアは、出来る限り冷静に、場数を踏んでいるオフィリアの指示を仰ぐ。

 すると、オフィリアは、臨戦態勢に入るように、一呼吸おいて、大胆な行動に出始める。

「勿論追う。戦闘になれば逃げればいいからね」

「それって、こっちの存在が認知されるリスクを一切考慮していないけど、いいのかしら?」

「ここで、彼らに認知されたとしても、こちらの戦力的に優位であるといえる」

 オフィリアの一言に、アレクシアは首を大きくかしげる。

「それはどうかしらね。彼、アーネストなんでしょう?」

「アーネストだからって、単体じゃ”宴”には敵わないと推測するのが妥当。片方は非戦闘員だし、戦力的には圧倒的にこちらに分があると言っていいでしょう。なんなら、拷問でもして情報ひねり出せばいい」

 オフィリアの分析に、アレクシアは未だに納得できない調子であったが、実戦経験豊富なオフィリアの意見に従い、ストラスの誘いに乗るように、人混みからどんどん外れていく。


 ストラスが繁華街から大幅に離れた所に移動し始めて十数分程度経過した頃だった。既に周囲は街といえるほどの場所ではなく、人っ子一人存在しない森まで来ていた。


「……もうそろそろいいか?」

 ストラスは、待ってましたと言わんばかりに追跡者2人に対して語りかける。

 一瞬、オフィリアらは迷ったが、ストラスが意図的に会話の場を設けていると判断した為、2人は堂々とストラスの前に現れる。

「随分と礼儀正しい奴らだな。どちら様ですかー?」


 ストラスの嘲笑が込められた言い方に、2人は一切反応せず、オフィリアは喋りだす。

「”エノク”について、知っていることを話してもらおう」

 それを聞いたストラスは、大きく口を開けて、笑った。続けて、「エノク」について話し始める。

「まーた”エノク”か。ということは、コミュニティの連中ってことだな? ったく、どうしてどいつもこいつもエノクエノクって、今度はなんだ? 人間でも滅ぼすか?」

「必要なことだけを答えろ。言っておくが、お前が我々に勝つことはできない。痛い目にあいたくなければ、エノクの所在を示せ」

「エノクなんて知らなーい。あの子達には一人ひとり名前がついている。ただの兵器だとしか思っていない奴らが、あいつらを操ることなんてできない」

「つまり、知っているのだな?」

「言っただろう? エノクなんてやつらは知らない」

「屁理屈だな。いいから、情報を出せ」


 一向に情報をせびる2人に、ストラスは説得は不可能と理解し、大きくため息をつき、顔に手をおいた。

 そして、殺気あふれる視線で2人を見据え、ぎろりと睨みつける。

「あんまり舐めるなよ」


 それは明らかに敵意を持った臨戦態勢である。ストラスが言葉を発したとともに、体中から無数の触手状のスポアを発現させる。具体的に言えば、両上腕、両大腿部、両肩甲からそれぞれ2本、骨体幹から3本、背面から3本、合計12本の触手が出現し、それぞれが独立して宙をかき乱すように蠢いている。


「(12本をあれほど完璧にコントロールするのか……噂通りの化物だな)」

 オフィリアは、率直にそう感じつつ、自身も臨戦態勢に入る。

 天であるオフィリアは、自らの表皮を力に変形させ、両腕を鋭利な刃物のように変形させる。

 一方のアレクシアも、大きな触手を一つだけ発現させ、オフィリアから大きく離れる。


「天と魔か。どうやらお勉強はしているようだな」

 ストラスはぽつりとそうつぶやくと、何時ぞやみた俊敏な動きでオフィリアに迫り左上腕から伸びる触手を突き立てる。

 対してオフィリアは、その攻撃に寸前で反応し、攻撃が当たる直前に表皮を硬質化させて致命傷を避けた。

 しかし、攻撃の衝撃までは吸収しきれず、大きく吹き飛ばされてしまう。勿論、すぐに受け身を取り、すぐに距離を置こうとする。


「天の力を皮膚に付与して攻撃を避けたか。だが、これはどうだ?」

 ストラスはその言葉とともに、背面部の触手を地面に突き立て、地中を弄るような音を響かせる。

 その数秒後、オフィリアの周りを取り囲むように触手が地中から出現する。

 鋭利な触手は、軋むような声を上げながら、円内部にあるオフィリアの身体に向かって伸び始める。


 オフィリアは冷静に床に伏せ、一方のアレクシアが大振りな一撃で地中から伸びた触手を切り落としていく。

「大丈夫ですか?」

「えぇ、今のところはね」

 2人は冷静さを装った調子で、地中に入った触手を切り落とすストラスを見据えるが、本当のところは相手の力量の遠く及ばないことを理解している。

 この時点で、2人は目の前から逃げることだけを考え始める。真正面からやりあえば絶対に相手が勝つ。そもそも殺す気で攻撃しているのならば、既に敗北していることは目に見えている。

 オフィリアは、荒っぽく呼吸する。そして、腕を大きく振った。


 対してストラスは、オフィリアの振った腕から現れた、弾丸のような物体を判別し、すぐにそれを避ける。

「(肉片を力でコーティングした弾丸か。方向がかなりばらついてるし、陽動目的……やっぱり実践慣れしてないな)」

 ストラスはすぐに、弾丸が薄い向かって左側に避ける。すると、それに反応して、アレクシアの大振りな一撃が放たれる。

 勿論、そこまで予期しての行動だ。背部の触手を用いてアレクシアの振り下ろしを受け止め、その拍子に舞い上がった粉塵に合わせて強烈な突きを2人に向かって繰り出す。


 オフィリアは、あの状況から攻撃が飛んでくるなど全く想定しておらず、その突きを寸前で大きく畝り、全く見当違いの方向へと飛んでいく。しかしそれは、意図的に外したといったほうが適切であるほど不自然な動きである。

「あの状態からこれほどの突きを出すなんて……」

 あらっぽい呼吸とともに、ぽつりと呟くオフィリアに対して、ストラスは何事もなかったような佇まいで、オフィリアを一瞥する。

 一方のアレクシアは、触手を完全に切断され、戦意喪失状態の様相を呈している。


「お前、訓練で力をつけたタイプだろ。実践で経験を積んでないのがバレバレだ。まぁ今はそんなことどうでもいいわけだ。もう一度聞こう。お前たちは何者だ?」

「……言わない。絶対に」

 オフィリアは、覚悟を決めるようにストラスを睨みつける。

 対してストラスは、両腕の触手を結合させ、おぞましい程の大きさを持つ触手を突き立てる。

「…………魔天は確かに死ぬのが困難だが、殺すことができないわけじゃないんだぞ? 最後だ。死ぬか、答えるか、どっちだ?」

「何処かで逃げる。幸いこの体だ。逃げ切る自信もある」

「答えないのか?」

「勿論。こっちにはこっちの事情がある」

「面倒な奴だな」


 ストラスは、困ったように顔を顰め、ため息をつきながら触手を体に戻し、会話の体制を整える。

「どうやらお前に何を聞いても無駄なようだな。なら、幾つか質問するから、答えられるものだけを答えろ」

「……」

 オフィリアは、沈黙を突き通す。

 それをストラスは、気にした素振りを見せずに話し始める。

「第一、お前は俺が”何者か”であるか知っているか?」

「どういうこと?」

「もっというと、俺が何に所属しているのかを知っているか?」

「……」

「ならクローズドクエスチョンだ。はいかいいえで答えろ」

「なぜ答える必要ある?」

「等価交換だ。お前も同じような質問をしていい。ただし3問だけだ。代わりに俺も3問だけにする」

「…………わかった。答えはイエスだ」

「契約成立だな。なら第2問、お前たちの目的は、”エノク”だけじゃない。どうだ?」

 オフィリアは一瞬、それに対してどう答えていいかわからなかった。

 それに対して答えることは、リスクともなりうる、その判断が顔に滲み出ており、混乱するような面持ちで、決断する。

「いいえ」

「本当か?」

「あれだけの力、見せられたら無事じゃすまないだろう。アレクシアにこれだけのメンタルあるわけないし、殺されてあの子だけ残すのはこっちとしても問題なの」

「だわな。じゃあ最後だ。お前らの組織は、俺たちに対して、社会的に抹殺しようとしているのか?」

「いいえ」

「本当?」

「大体何言ってんのかわからない。そこら辺、何の話かわからないんだけど」

 ストラスは、オフィリアの感情の変化を表情から読み取ることができなかった。そこから、オフィリアらは、「天獄」を社会的に抹殺しようとする存在とは異なる組織に所属していると推測する。


「ま、いいか。お前のことを信用しよう。じゃあ今度はお前の番だ。3つだけだが、正直に答えるから」

 とりあえず自分の質問を終えたストラスは、特に違和感を感じることなく、すぐにオフィリアに質問を振る。

 すると、オフィリアはあまりにも理解できないストラスの意図に、混乱を呈しながらも、質問をする。


「よくわからないが……じゃあ、エノクの所在を半分以上知っているか?」

「はい。もっというと、直近で生まれた子以外は知っている」

「それらの人物は、魔天コミュニティにはいないか?」

「はい。いないな」

「最後に、このルイーザに過去起きた、25年前の事件と絡んでいるか?」

「巻き添えではあったな。あ、はい」

「……あんた結構お喋りだな。その情報を開示するリスクについて、承知していないわけがないんだろ」

 オフィリアの尤もなセリフに、ストラスは苦笑した。


「残念だが、お前たちがエノクと総称している、あの子達を兵器として使うことは絶対にできない。だからこそ、ぺらぺらとこんなことお前に言うんだろう。ちなみに、今開示した情報はすべて真実だからな」

「じゃあ聞くが、お前が情報を開示することにどんなメリットがあるんだ?」

 その問いかけに対して、ストラスは特段気にすることなく、その場から立ち去ろうとする。


「そんなの自分で考えればいいじゃん。俺はもう帰るから」

 ストラスは、何も答えずに俊敏な速度でその場から消え去り、取り残されたオフィリアらの苦しそうな呼吸音だけが取り残されていた。



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