嘲る揺籃
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
ココ最近はかなり多忙なのですが、なんとかお休みすることなく続いていてちょっと安心しています。そして、この物語が年内完走するためには、12月毎日更新しなければならないような気がします。最悪年度終わりになりそうですが、もう少しだけお付き合いしていただけると幸せです。
次回の更新は来週月曜日12月10日20時更新となります! 次回も続けてご覧になっていただければ嬉しい限りです(*´∀`*)
すると、手渡されたマップを眺めながら、ストラスはアイザックに尋ねる。
「お前はいいのか?」
「僕は覚えてるからいいよ。今は難しいけど、またここを調べるときに使ってよ」
「つまり、働けってことな。頑張りますか」
「それより、ここは懐かしいね」
どうにもつながっていない会話の羅列を振り切るように、アイザックは続ける。
「この場所、忌々しいサイライの研究施設に似てるんだ。まぁ、明らかに模して作っていることは確かだ。設備、留意している点、全てにおいて共通している」
「……サイライ、思えば、人間が魔天の力を流用しようとした発端だもんな。ある意味、お前は一番の被害者だろう」
ストラスの言葉を噛みしめるように、アイザックは過去の出来事が逡巡する。
100年ほど前に起きた宗教団体を模した「サイライ」という機関は、現在の魔天を利用したすべての技術の始祖となるものであり、同時に実験体とした魔天への非人道的な仕打ちや洗脳、その他多くの行為により、ストラスを始めとする幾人かの魔天から怒りを買うことになった。
そしてそれは魔天だけにとどまらず、魔天と深く交流していた当時のアイザックもこれに強い反感を抱くことになった。
そもそも、アイザックは「サイライ」の中核にいる人物の子息であり、組織の中でもかなり地位の高い人物だった。
「サイライ」は、元々は魔天を偶像化した多神教の宗教であり、その発展により科学や生物学が求められるようになった。そして、生物学的に解明されている魔天と接触するようになっていった。
これがちょうど、アイザックの父親の世代であり、アイザックの父親は魔天コミュニティなるものを発見し、そこで実験体の取引を行ったらしい。そこから、「サイライ」は宗教というより、エビデンスを重視する科学的な団体へと大きく変貌を遂げた。
狂気的な変化をすることになった「サイライ」は、その社会的地位を更に底上げするために、魔天を人間に組み込む実験を行うようになる。
それは「プラグ」と呼ばれる技術へと改良が重ねられ、魔天が扱うスポアを人間が扱えるようになる、再生能力が大幅に向上するなど様々な恩恵を受けることになった。しかし、このプラグと言う技術を用いることは、極めて重い副作用も存在していた。
その最たる例が「人格変容」である。当時原因について解明されることができなかったが、後にこれは流用した魔天エネルギーの持ち主のエネルギーが、人間のエネルギーを超えてしまうことで、神経伝達物質がメチャクチャになってしまい、それが原因となり人格の変容として現れるようだ。
アイザックは、秘密裏にこの事実にたどり着き、この性質をうまく活用して「サイライ」を壊滅させることを決意する。しかし、この情報だけでそこまでの結果に結びつけることは不可能だった。だから、アイザックは同じ目的を持っていたストラスに接触を図り、計画に組み込み結果的には「サイライ」を壊滅させた。
そこまで考えが巡った後、アイザックはストラスに一つ質問をする。
「ねぇ、サイライ事件で囚われていた魔天は”ベリアル”とイェルだけだったはずだよね?」
「それ以外にいたか?」
「もう1人、いたはずだ。名前はわからないけど……、だけど、彼は取引によって実験体にされたのではなく、自分から進んでサイライに収容されたような感じだった気がする。気味の悪い子だったよ。君は面識がないだろうけど、最初は何も話さずただサイライに留まり続け、最終的には壊滅のタイミングを見計らってどこかへ消えてしまった」
アイザックからの聞き慣れない情報に、ストラスは首を傾げる。
「そんな話聞いてないぞ? どうして言わなかった?」
「あのときのゴタゴタは君も知っているとおりだ。それについての情報共有より、時の状況を優先したまでだ。だけど、今になって彼のことを思い出したんだよね。彼は、謎の多い子だったなぁ」
しみじみそんなことを述べたアイザックは、特に深い考えはなさそうである。
そんなアイザックに対して、ストラスは話を促す。
「いや、そんなアルバムの紙くずみたいなものじゃなくて、情報をくれよ。ソイツが何かしらの鍵になる可能性だってあるんだ」
「あぁ、そうだよね。その子は、わりと僕との会話には耳を傾けてくれて、彼の身体検査も僕がしたんだ。でも、その結果があまりにも異常だったから、結局その子は実験体として利用されることはなかったんだ。だから彼はとりあえず座敷牢に入れとく感じになったんだけど、そのときも気味の悪さを覚えるほどだった。何も喋らずにただ黙ってどこかを見ているようでね」
「ごめん、なんで薬漬けのカプセルに打ち込まれなかったのかを教えてくれ」
「端的に言うと、体内のエネルギーがおかしかったんだよ。わかりやすいように、彼らの体内エネルギーを概数で出してみたんだけど、ベリアルやイェルに比べて2倍近いエネルギーが体内にあることがわかった」
その話を聞き、ストラスは凍りつく。ベリアルやイェルは魔天の中で最高位のエネルギー量を誇っているはずだ。概数とはいえ2倍に近いエネルギーが存在しているということはありえないのだ。
その思考を読み取ったのか、アイザックはくすりと笑い続ける。
「君と同じことを思ったよ。魔天のレベルを大きく逸脱するエネルギー量、それがあの小さな体に宿っている、もはや意識によるコントロールでは不可能だろう。恐らくは、あの精神的に不安定とも見える行動は、莫大なエネルギーに影響されたものでもある。つまり、彼を実験体にするのは危険を通り越して無謀だったってことね」
「いやもっと詳しく調べろよ。科学者だろ? お前くらいに優秀だったら解析できたんじゃないのかよ」
「原因わかってたら流石に共有しているでしょーよ。全くわからなかった。ただ、普通じゃないってことしかわからなかったし、細かく調べることもできなかった。ぶっちゃけ、エネルギー量だけで見ればダウンフォールに片足突っ込んでる感じだし、ダウンフォールから比べるとより実践的なレベルのものだ。下手に刺激したらこっちが一瞬でミンチになってるところだったんだからね」
「なら共有しとけや、たまに無能になるよなお前」
「認めはするけどとんでもないブーメランだからな。で、彼の消息はいい感じに不明。どこいったんだろうねぇあの子」
「話を逸してんじゃねーぞ」
あらぬ方向に話をそらしたアイザックに対して、ストラスは真顔でそうつぶやいた。