合成の誤謬
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
結構あるあるだと思うのですが、完結する見込みが無いのに次の話のプロットを作ろうとしてしまうことがあります。浮気している暇があるなら、この物語に没頭したいものですね。難しい話です(´・ω・`)
次回の更新は来週月曜日12月3日20時です! 次回も続けてご覧になっていただければ幸せです!
「……なぁ、天獄を潰そうとした連中って、誰なんだ?」
「いや、そこがわからないんだって。まぁ魔天であることは確かだけど……」
ルネの言葉に対して、ミラはその情報の不可解な点を指摘した。
「魔天であるっていうのはケイティさんの情報からだろう? でも、それなら幾つか不可解な点が出てくるぞ。相手は、天獄の仕事を潰している。つまりそれは、この社会である程度社会的な地位を持っている者たちと結びついていなければならない。少なくとも今回の状況を作り出すには、魔天と人間の双方の力がかからなければ、こういう状況にはならないだろう。そして、25年前の事件も同じく魔天と人間が組んでトラブルを引き起こしていた。なにか、偶然では片付けられない共通点であるような気がする」
「それって、25年前の事件に関わった連中が今回のトラブルを起こしたってこと?」
「可能性はあるっていう段階だな。だが、あの事件と関わっていることはまず間違いないだろうな。偶然ここまでの共通点があるとは思えないし、セフィティナもマリウスも、ついでにベリアルだってあの事件に関わった。確実に、何かしらの関係がある」
「……あの事件は、収束していないのかな」
「収束はしただろう。だが、あの事件をきっかけに何かしらのトラブルが、今回のことを引き起こした。それを頭に入れて考えていこう」
諭すようなミラの口調に、ルネは小さく頷き、ストラスが襲撃にあったことを伝える。
「そういえば、ストラスが天獄を潰そうとした連中と思われる2人と交戦していたね。そいつらはエノクに関する情報を探していた。もしかしたら、その人たちが天獄を潰そうとした連中なのかも」
「そいつら、エノクに関する情報を探していたってことは、エノクが集結している天獄を一旦崩壊させて、エノクを取り込もうとしたってことか?」
「いや、それは早計だ。単純にエノクに関しての情報が取りたかったのかもしれないし、そもそも崩壊させたからって、マリウスたちを取り入れるのって不可能だと思う。エノクの危険性については相手も認知しているだろうし、もっと大掛かりに動くでしょう? それなら、別の可能性を考えたほうがいい」
「なるほどなぁ。”新しいエノク”がいたって言うことか?」
ミラの言葉に、ルネは微笑とともに首肯する。
「そう。もしかしたら、魔天コミュニティは”新しいエノク”が誕生していて、何かしらのアプローチを考えたいっていう可能性が一番かなとは思う。それ以外だと、エノクを仲間に引き入れたかったとかかな。だって、エノクなんて、コミュニティの中でもかなり極秘の情報だったはず。そんな情報を嗅ぎ回っているってことは、国家の中枢にある人物たちなのかもしれない」
「……の割には、目的について露骨にバレるようなこと言ったり、隠密な行動ではなかったり、迂闊な点が多すぎる気もするがな」
「そうなんだよね。ストラスの勘がやばすぎるっていう可能性もあるけど、尾行だって結構バレバレだったみたいだし」
「それはストラスが馬鹿すぎるだけだ」
「確かにね~……、そういえば、どうして僕らは尾行されていたんだろう?」
ルネが呟いた微かな疑問に、ミラは疑問符を浮かべる。
「普通に、天獄を潰そうとして汚い金を掴まそうとしてるんだから、それが順調に進んでいけるか確認していたんじゃないの?」
「尾行が問題じゃないよ。タイミングと対象だ。あのときの状況を見れば、作戦の一番初期の段階だったはずだ。それなら社会的失墜を狙った敵側のプランがこちら側にバレる可能性はかなり低い。あの状況で敵側のプランがこちら側に伝わる一番のリスクは、ケイティさんが一連のトラブルについて僕らに報告すること。それなら、あのタイミングで敵側が僕らを尾行するのは明らかにおかしい。尾行対象は僕とストラスだけど、ストラスは相手側に顔が割れているだろう? 実地経験も才覚も化物レベルの相手を尾行するなんてリスクが高すぎるんだよ。現に、尾行はストラスにより看破されている。それは相手も十分想定していたはずなんだ。だから、あのタイミングで尾行するのならケイティさんの方なんだ」
「それなのに、奴らはお前たちを尾行した……なにか、意味がある可能性が高そうだな」
ルネはそれを聞いて大きく首肯する。
「なんだろう……一連のことを考えると、すごい、ズレを感じる。絶妙に変な違和感っていうのかな。計画的に見れば、随分と一貫しているような気がするのに、節々で、っていうかやっている人で変な違和感があるね。同じ組織にいるはずなのに、あえて逆行したことをしているような、変な感じ」
「それ、敵側も一枚岩ではないってこと?」
「もしかしたら、尾行していた人って、何かの”スパイ”だったり?」
「飛躍し過ぎな気もするけど、なんかそういう可能性もありそうで怖いな」
「それ以外だったら、ストラスがなんか情報を持っていたとか、僕らの動向を知る必要があったとかかな。でも、どれもリスクに見合っていないっていうか、ケイティさん尾行してもいいじゃんってなるしね」
「まぁ、相手がストラスであり、尾行は困難っていうのは、それを十分理解している前提があってのことだから、確定はできないな」
「どっちにしても、ここでわかることは限られていると思うし、ケイティさんとかと合流したほうがいいんじゃないかな? 彼女と連絡できるそう?」
突如話の方向が急展開し始め、ミラは大きく唸る。
「なるほどな。彼女が何を知っているのか、想像もつかんが、とりあえず連絡してみよう」
「……ねぇ、どうしてケイティさんを天獄に紹介したんだっけ?」
ルネは、思い立ったようにそう質問する。
すると、ミラはほとんど間を置かずに答える。
「えぇ? 確か、ケイティさんから直接依頼したいって話だったな。でも、なんか父親のアルベルトさんには報告するなって釘を刺されたし、変な依頼だなと思いながら紹介したことを覚えている」
「だとするなら、父親であるアルベルト・ミラーに知られることが彼女にとってデメリットとなる可能性があるよね。彼は25年前の事件に関わっていた痕跡があったし、アルベルト・ミラーも今回のトラブルに関わっているかもしれない」
「それは考えられるな」
「若干便乗気味だけど、君って結構アルベルトと親しくなかったっけ?」
「ステークホルダーだからな。媚くらい売っておかないとな」
「なるほどね……汚い金も貰ってたんだね」
ルネが見下すような表情でミラを一瞥すると、彼は焦ったように笑った。
「いやぁ、ビジネスっていうのはそういう」
「別に何も言ってないけど」
「お前を養う金もそういうところから入ってたし」
「だから何も言ってないでしょ……ていうか、今回のトラブルと関係が……あれ、ないわけでもないのか」
「どういうことだ?」
そこで、ルネはすぐに関係性について考察する。
「ミラー家は25年前の事件で資金的な援助をしていたって資料にあった。そして、ケイティさんはそのことをこちらに知らせてきて、しかもアルベルト・ミラーにはそれを告げるなといった。つまり、ケイティさんは今回の事件にミラー家当主であるアルベルトが関わっていることを何かしらの情報から確信していて、それを調べているっていう解釈もできる」
「なるほどねぇ。アルベルト・ミラーはかなり汚いことに手を染めてる感じだったし、まぁ確実になんかあるな」
「実際真っ黒だからね……ミラは、彼らのことについてなんか知らないの?」
「ルイーザ全体の経済的、政界的にも結構顔のきくやつだからな。あくどいことにも相当手を染めている。具体的に言えば、政界的に都合のいいように経済を動かしたり、政界のやばめの情報の隠匿とかな。ま、俺たちも利用するだけ利用して切り捨てようって算段だったけど」
社会的に危険な位置にいるアルベルトだけではなく、まさかのミラ自身のやばめな考え方に、ルネはため息を付く。
「聞いてる限りだったらちょっと怖いよ。ミラが」
「セフィティナ、アイザック、フギンもムニンも同じ意見だ。ついでにサファイアも」
「25年前の被害者の会かな? そういえば、サファイアは今グルベルト孤児院で働いているんだよね。どう? いい子にしてる?」
ルネは思い立ったようにサファイアのことを口に出す。
するとミラは、「いい子っちゃいい子だよ」と意味深な言葉をつぶやき、ルネは苦笑いしながら、本日二度目のため息をつく。
「ろくでもなさそうな感じだけど、とりあえずは戻ろうか。ここで得られる情報は少ないだろう」
「そうだな。次の情報源はケイティさんか。とりあえずは約束でも取り付けられればいいがな」
「そこはミラ次第だから」
「コイツ……」
そんなこんなで、2人はカーティスの新居を後にする。