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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第九章 嗤う鵜篝
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黒白色の割符

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 今回のタイトルは強引に後の伏線にしてみました。実は一箇所だけ、このタイトルの伏線を本編でやっているのですが、あまりにも影が薄かったのでここで伏線とします。

 次回の更新は来週の月曜日26日20時となります。次回もご覧になっていただけると幸せです(´・ω・)


 まず、ノアという存在が姿を表したのは、エノクβとγの封印が弱まったことが原因である。当時はエノクβの暴走事故が生じた直後であり、その強すぎる力の対策として作成された魔天エネルギー阻害システム、通称つなぎ封印が施された一週間程度過ぎた頃だった。


 つなぎ封印は、魔天エネルギーの性質を解剖した当時の学者らにより作られたシステムであり、体内で生成されるエネルギーを物理的に阻害するため、魔の力をコーティングした壁に幽閉することで、あまりにも力技すぎるため新しい手法が考案されるまでの「つなぎ技法」としての側面が強く、どれほどエネルギーを阻害し続ける事ができるかは未知数だった。そのつなぎ封印が施された後、およそ1週間程度は何事もなく経過していた。


 しかし、実態はエノクが体内にエネルギーを留めているだけで、封印の効力はほとんどなかったのだ。それを知らせるように、ノアはエノクが幽閉されている建造物を破壊し、エノクを多くの者の目の前でどこかに消し去ってしまい、そのまま自らも姿を消した。


 この時点で、ノアと交戦した兵隊のほとんどが生存していたものの、その肉体には不気味な模様が付けられていた。

 その模様はどのような原理かは不明であるが、つけられた者のエネルギーの生成が完全に止まっており、その模様が消えるまでエネルギーが作られることはなかった。しかし消えてからはエネルギーが戻り、命に別状はなかったようだ。

 つまり、ノアは極めて高い戦闘能力と危険性を持ちながら、誰一人殺すことなく目的を遂行したのだ。それが彼の心情なのか、それとも気まぐれなのかはわからないが、その力の危険性から、彼はこの魔天コミュニティの最高レベルの危険性を持つ人物として指定された。


 ノアは人型で10代程度の少年のような佇まいをしている他には、体中に同じような模様が刻まれているとのことだ。その模様は自在に体から離れ、まるで触手の如く使い方ができるようで、模様が刻まれた魔天は前述の通りエネルギーを完全に阻害されてしまうため、戦闘はほぼ不可能の状態になってしまう。


 この能力に加えて、ノアは自らの外見を簡単に変える能力と、どんなに攻撃をくらおうが即座に回復する強力な再生力を持つという。その再生力は魔天を遥かに凌ぎ、首をもがれようが再生して行動するとの報告がなされている。


 これらの情報を、現メルディスは科学的に解説したのがこの資料であるらしく、いろいろなアプローチでこれらの現象を紐解いている。


 まず、すべてのエネルギーを阻害する「模様」であるが、この模様は原理こそ不明であるもののエネルギーを吸収する効果があるらしく、対象のエネルギーがなくなった場合、その生成そのものを阻んでしまうという。この模様に関してはそもそも解析してもよくわからないという結果にしかならなかったが、幸いこれに近い形で新しい封印式を用いることに成功したため、それについての功績が大きかったと言えるだろう。


 問題はここからであり、ノアはその奇怪な能力を用いてとあることを残している。


 それは、これ以上公共の利益としてエノクを利用するな、という警告だったのだ。これを犯せば今度は本気でこのコミュニティを潰すということを言い残している。


 このことから、コミュニティではノアに対して「戦いではなく対話をすること」というルールが生まれた。そもそも戦闘では絶対に勝つことができないのは目に見えているので、会話による説得を試みろというものだった。



 この書籍をまとめれば、「こちら側の力をすべて無効にする力を持っており、なおかつ対処法も存在しないから、戦闘なんてやめて対話しろ」ということが科学的根拠を添えて説明されているだけである。


「……イリア、まともな情報が手に入らないが、大丈夫なのか?」


 あまりにも悲惨な情報を目の当たりにし、フーは苦笑いを浮かべながらそういった。

 確かに、ロクな情報がないと言えるが、今までのノアの扱いからして想定通りの情報であろう。


「まぁ想定通りだ。元々、こいつに勝つとかそういうもんじゃない。今大事なのは、この化物がどうして今になって動き出したのかってことだ」

「そうだな……、ノアが動くキーになったのは、何なんだ?」

「さぁな。私には検討もつかないが、彼の発言と状況を見るに、2パターン考える事ができる。一つは、私たちが知らないだけで、この国家が再びダウンフォールを利用した形をとった可能性があるということ。そしてもう一つ、それとは別にここに来なければならない理由があるか、どっちかだろう」


 イリアの考察に対して、フーは自らの考えを述べる。


「どっちも考えられるな。ダウンフォールの利用を悟ったっていうのにしても、相手の価値観によって大分変わるし、かと言って他のトラブルにしたって、そんな事件とか起きているか? 仮に起きてたとしても、もうちょっと話題になってるっていうか、知られているだろう」

「強烈な違和感はそれだ。ノアが動いているのなら、イレースの言う通りここまでコソコソ動かなくていい。総合すると、ノアは”隠密行動しなければならない理由があり、何かしらのトラブルが生じたのかもしれない”って言うことだろうが、それに該当するトラブルってなんだ? 今の私たちでは知りえない情報だろう。それならば、こっちに奴らを止める方法はない」

「……そうなるな」

「さて、どうするかだ……今回のトラブル、どうやら今までの魔天コミュニティを取り巻く事件の中で最も厄介で危険な事件になるだろう」


 ことの重大さを改めて噛み締めた後、イリアは一つの提案をする。


「ここでのトラブルが生じたのならば、ノアが今回の件に首を突っ込んできたことを考えて、このコミュニティ内になにか知っている奴がいるはずだ。そいつを探す方針で行こう」

「そうだな。で、アテはあるのか?」

「トゥール側の連中がなにか隠しているかもしれない。そこからだ」

「なるほど……骨が折れそうだ」


 イリアはそう言いながらも、このメルディス側にスパイがいることを常に考えていた。もし、ノア側のスパイがこちら側に加入しているのならば、これほど厄介なものはない。状況の劣悪さは、トゥール側に情報を知るものがいること以上に厄介な状態になっているだろう。

 もし、一つ喜ばしいことがあるのならば、その情報がメルディス側にいることで得られるのであれば、こちら側もその情報について知る事ができるということくらいだろう。それ以上に、デメリットのほうが多いためスパイがいる事自体が危険である。なので、スパイを特定することは急務だった。


 しかし、目の前のフーもスパイである可能性は捨てきれない。これについては、確実にスパイではないイレースとカーティスと協議することを決めている。イリアはそれを頭に入れて早速行動に出る。


「とりあえずは、イレースたちと合流してだな。いくぞ」

「わかった。その前に、トイレに行ってきていいか?」

「できる限り早くしてくれ」


 イリアの許可に、フーは申し訳なさそうにトイレへと向かう。その途中、フーは出会ってはいけないものに遭遇してしまう。



 それは、未だに電話している調子のフラーゲルだった。鈍く蠢く腕をひらひらと伸ばしながら、電話の奥の人物に話しかける。



「プランは順調よ。このままいけば、十分貴方の想定通り事が運ぶわ。どうかしら?」

 フラーゲルの言葉に対して、電話の人物は冷たく言い放つ。

「何が起きるのかわからない、そう言っておいただろう? この世に完璧な計画はないのだから、今回は君についてもらった。バックアップは常にしておいてくれ」

「あらあら、随分と心配性なのね。まぁ私は、貴方の指示に従うだけね……そうそう、予定通り、レオンにノアが封印をつけたわ。それだけは最重要項目だから、伝えておくわね」

「わかった。これから先、妨害も入るだろうが君も気をつけて」


 電話の主の言葉に対して、フラーゲルは歪に笑った。


「わかったわ。ボス……」


 電話はそこで途切れ、フーはとっさに身を隠し、息を殺しながら、ひっそりとトイレへと向かっていった。




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