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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第二章 半身の詩
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虚偽的な数列


 楽しいバス旅が終わり、ストラスとルネは早速ティルネルショッピングモールへ向かった。しかし、2人共美味しいものに目がなかったことが災いし、ティルネルショッピングモールで屈指の人気を誇るスイーツ「グランデミルフィーユ」を食べに東エリアを訪れていた。

 そのスイーツが販売されているカフェは、非常に瀟洒な作りになっている。規模としてはとても小さく、カウンター席が8つ、所謂カップル用に設けられたペア席がガラス越しにショッピングモールを一瞥できる用になっていた。


 ストラスらは、ガラス越しのペア席に案内され、早速一番人気のスイーツを注文する。

「グランデミルフィーユ2つお願いしまーす」

「それと、スイートベルモットもお願いします」

「飲むのかよ」

 さり気なくお酒を注文したルネに対して、ストラスは笑いながら道中で買ってきた多量の週刊誌を取り出す。

「まーねー、やっぱりお酒がないと……」

 一方のルネは一切悪びれることなく週刊誌を手に取る。


 そして、2人は週刊誌を黙々と調べ始める。

 実はティルネルショッピングモールに着くやいなや、ルネは今回の事件にについて、他の事件との関係を調べることを提案した。

 発端となったカーティスという青年の失踪事件なのだが、状況は一先ずおいておいて、身代金目的以外の誘拐事件となると、他に類似した事件があると踏んだのだ。とりあえずは手っ取り早く事件を調べる事ができる週刊誌を片っ端から調べることになった。


 週刊誌を調べ始めて20分ほど経過したときだった。適当に流し読みしているからか、2人合わせて10冊の週刊誌を調べ終えた2人は、あまりにも有益な情報がなく、苛立ちを隠せずにいた。

 最初に、その苛立ちを発露させたのはストラスの方だった。


「糞がー! 何もねぇじゃねーか!!」

「本当にねー……」

 同情的な視線を向けるルネに対して、ストラスは自分が見ていて一番腹立たしい記事をルネに見せつける。

「見ろよこれ、”少年少女の風俗店摘発! 性の導き手はヤクザだった!?”じゃねーよこれ! 写真は軒並みモザイク、信憑性皆無、こんなんで金もらってんじゃねぇ!!」

 ここ最近仕事がほとんど入ってこないことから、適当すぎる記事に対して怒りを露わにする。

 すると、それに活気されるようにルネもちょっとイラッとした記事を同じように紹介する。

「本当だよ。こっちも見てよ、”伝説級の銀行強盗! 消えた1億円を探せ!”だって! ”先月行われた紙幣の移送時に1億もの大金が強奪された。あまりにも鮮やかな犯行から、現代の1億円事件と言われている”なんて、馬鹿としか言い様がない……」

「2億減ってんじゃねーか!! こんなゴミみたいな記事で金もらいやがって……」

「これくらいなら絶対僕でも書けるって。お金の大事さをわかってないな」

「記事の低レベルさはおいておいて、誘拐に関する記事なんてほぼなかったな。つまり、カーティスの誘拐事件は他の事件と関係ないと考えるのが妥当だろう」

 すっかり話が変わり始めていたことに対して、ストラスはとりあえず軌道修正を行い、少し冷静に分析しようとする。

 すると、ルネはガラス越しにショッピングモールを一瞥し、ストラスに対して同意する。

「そうだね。他の事件と関係がないっていうことは、カーティスって言う人に何か理由があったとか? でも、金銭目的じゃないとすると、やっぱり怨恨とか?」

「さぁ、その点については全然わからないな。ミス・ケイティからの資料に何か書いていないのか?」


 ストラスの言葉に、ルネは思い出すようにショッピングモールへの視線を外さず、資料をストラスに渡す。

 それを見てストラスは怪訝に思いつつ、資料の2ページ目を読み始める。

「えーっと、”8月9日14時57分、ティルネルショッピングモール二階東階段トイレにて、カーティス・マクグリンは、トイレに行くと言い残して男子トイレに入ったが、その26分間カーティスがトイレから出てくることはなく、痺れを切らしたケイティ・ミラーがトイレに入り、失踪していることが判明した。その間、トイレに入った人物はおらず、トイレの中には外に出入りすることはできない。まるで神隠しのように不自然な失踪を遂げてしまったカーティスは、今に至るまで手がかりは存在しない”らしいぞ。失踪して一ヶ月経ってることになるな」

 ストラスが資料の一部分を読み上げた後、店員が大人気の「グランデミルフィーユ」とルネが頼んだスイートベルモットを運んでくる。


 おすすめのミルフィーユは正方形に切り取られたパイ生地が3層になっていって、パイ、生クリーム、カスタードプリンの順番で重ねられている。普通のミルフィーユよりも名前通り遥かに大きく、ボリュームたっぷりのスイーツだ。

 一方、今までショッピングモールに視線を向けていたルネは、嬉しそうにミルフィーユを一瞥した後、食前酒として用いられることの多いスイートベルモットを口に含み、ミルフィーユを口に運んでいく。

「あー、美味しいなぁ。なんだっけ? 依頼人の人がトイレで消えたんだっけ?」

「興味関心が消えてるな。大体依頼人の人ってなんだ」

「あんまり人を覚えることが苦手でね」

「失踪した人間が自分を探してくださいってくるか?」

「来ないですねーすみませーん。でも、さっきの記述明らかに不自然な所があるよね」

「どういうことだ?」

「さっきから、そのトイレ見てたんだけど、26分も人が入らないなんてありえない。この10分間に、もう3人もトイレに入ってた。その資料見たとき、誰も使わないようなトイレだと思ったんだけど、実際のところそうじゃなくて、人通りが多いところのトイレだったから、記述がおかしすぎるでしょう?」

「確かに……でも、たまたまその時に人が来なかったんじゃないの?」

「無理あるでしょ。こんだけ大量の人がコンスタントに通ってるだろうしね。まぁ一概に絶対ウソだとも言い切れないけど、違和感のある記述だよね。それに伴い、ミス・ケイティは痺れを切らしてトイレに入ったって言っているから、これも嘘の可能性も出てきた」

「お前の言うとおり、嘘の記述が入ってるのなら、どうしてこんな資料作って、俺達にわざわざ攪乱しようとしているんだ?」

「そこだよ。彼女らは、ジェラルミンケースいっぱいに紙幣を持って、しかもそれを着手金としている。間違いなく見つけてほしいって言う気持ちがありながら、嘘の記述をしている場合、どういうことは考えられるかな」


 ルネは、そこまで話すと、考えを濁すようにミルフィーユを口に運ぶ。

 そして、金銭の出処について、つぶやくように口にする。

「いくら富豪のご令嬢だからって、ジェラルミンケース一杯の紙幣なんて用意できるのかな」

「確かに……」


 カーティスとともにショッピングモールにいたというケイティ・ミラーは、グルベルト孤児院のスポンサーであるミラー家の一人娘であるらしく、ザイフシェフト南エリアを統率している資本家である。

 そして、依頼人に来たのはケイティ一人だけである。ケイティはカーティスと同い年であるため、20歳ということになるが、冷静に考えていくら資本家の娘であるからといって、これだけの大金が出てくることは考えにくい。


「ねー、ジェラルミンケースに入ってた紙幣って、1万?」

「確かそうだったと思うけど」

「一般的なジェラルミンケースに入れられる金額って、大体万換算でいけば1億程度だよね」

「……先月、紙幣移送中に1億もの紙幣が奪われた事件があったって記事があったよな……?」


 ルネは、先程文句をつけた週刊誌の当該箇所を開き、詳細を確認する。

「”紙幣を入れたジェラルミンケースを積んだ移送車を襲った謎の人物たちは、下記のジェラルミンケースを1つ奪い、逃走した。あまりにも現実離れしたその動きは、本当に人だったのだろうか? 本週刊月曜日は、国家権力が絡んでいる可能性も考慮して取材を続けていきたい”、何かしらの、関与があったのかもしれないね」

「待て、このジェラルミンケース、俺が受け取ったのと全く同じだぞ!」

「もしかしたら、嘘のほうが濃厚かもしれませんな」

「でもそれなら、どうしてこんなリスクを背負って着手金を用意したんだ? それに、人が消えているのは紛れもない事実だし……意味分からない」

「流石に情報が少なすぎるけど、依頼人は、仕事を完了できなければ”社会的に抹殺する”って言う条件を出したんでしょう? もしかして、こっちが本当の意味だったのかもしれないね。だからこそ、莫大な着手金をリスクを冒してまで用意して、後に引けないようにした。つまり、2ヶ月くらい前から仕事が一気になくなったのと何らかの関わりがあるっていうことだ」

「野郎……俺たちの食費を……」

「ちなみにこのミルフィーユはどうするの?」

「経費だ」

「あ、追加注文いいですかー?」

「とろけるプディング抹茶アイスを。ルネも食べる?」

「勿論、あ、ごめんなさいドライマティーニも」


 経費とわかった瞬間、箍が外れたように注文し始めた頃合いで、新たに2人の来店者が現れる。


 ここまでご覧になっていただいた方全員にお礼申し上げます(*´ω`*)

 今回は若干中途半端な終わり方になってしまいましたが、場面的なきりが良かったため、今回はここまでとなります。

 また、以降の投稿では、3000から5000文字程度の構成にしていきたいと思っています。少しでも興味を持たれた方がいましたら、ぜひぜひこれからもご覧になっていってくださいね(*´∀`*)


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