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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第九章 嗤う鵜篝
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巡る伏線

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 今回も少し遅延が発生してしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいですが、なんとか更新することができました。次回もご覧になっていただければなお幸せです!

 次回は来週月曜日10月22日20時となっております! 興味がある方はぜひぜひどうぞ!☆(´ε`


 レストラン「フラグメンツ」は、魔天コミュニティの中でもごく普通のレストランである。区域A職員で普段から利用しているため、緊急時に対応するための集会場所として利用している。場所としては不特定多数の者が利用するため情報を抜かれる可能性が高いものの、筆談等を利用することで漏洩を防ぐことができ、待ち合わせ場所に利用したりして安全性の高い場所に行くなどの利用方法で使っている。

 今回の場合、待ち合わせ場所として利用する予定であり、いち早く「フラグメンツ」についたイリアは、他の三人の到着を待っていた。


「イリアさん、おはようございます」


 若干持て余した調子になっていたイリアに対して、現実感を与えたのはアゲートだった。相変わらず中性的な佇まいで余裕げな笑みを浮かべているアゲートに対して、イリアはため息を付きながら話しかける。


「あぁおはよう。とりあえず情報共有は他の2人が来てから行うから」

「わかりました。室長は?」

「イレースなら、コクヨウ側に行っている。どれくらいの情報や戦力が得られるかは不明であるが、行かないよりはマシだからな」


 それを聞いて、アゲートは首をかしげながら尋ねる。


「コクヨウって、一応は私たち側なんですよね? それなのにちょっと情報共有ができてなさすぎじゃないですかね? 私が世間知らずすぎるのでしょうか?」

「まぁ、この国家そのものがあまり出来たものではないからな。この国の歴史的背景を考慮すれば仕方がないことだ。それでもうまく回っているのは、この種族の性格的特性とかもあるのだろう。つくづく、魔天という種族は特殊なものだ」


 それを聞いてアゲートは上品そうに笑う。


「そうですね。魔天という種族そのものはかなり特殊ですよね。この種の根源はどこにあるのでしょうか。それについても、我々が調べていきたいですね」

「そうだな。しかしながら、この魔天コミュニティはその特殊性ゆえ、生物学的な発展をしてきたが、それでもその肉体や性質を完全に理解することができなかった。そんな状態にありながら、エノクαレポートなるものが出てきたからな。わからないことだらけだ」

「不思議が沢山ですね。それに今回のトラブルにも、エノクが関わっているって言いますし、うまく行けば私達の研究もはかどりますね」

「捗る前に、いろいろ吹き飛ばなければいいがな。あの厄災についてはもう二度と巻き込まれたくない」

「なにか、あったんですか?」


 アゲートの言葉に、イリアは首をかしげる。

 エノクβ事件については、ほとんどの者が知っているはずなのに、アゲートはまるで何も知らないような顔で訪ねてくる。

 それに対してイリアはかなり怪訝な表情で尋ねる。


「あの事件について知らないのか?」


 その言葉に、アゲートは少しだけ表情を変えた後、すぐに笑いながら続ける。

「β事件のことなら知っていますが、私はその事件については実際に体験していないので」

「……あぁ、そうか。まぁ最悪なことが起きたって話だ。君からしたら、結構他人事かもしれないがな。まぁなんだってそうだ。醜悪な事件や凄惨な災害は、体験を持って頭の中に食い込むもんだ。脳は複雑、心はその数十倍複雑だからな。仕方がない」

「とても説得力があるお言葉です……」


 アゲートはずいぶんと物憂げな表情を浮かべた後、黙り込んでしまう。

 そんな中、ベスとフーが到着する。


「イリア、アゲート君、結構待った?」

「とりあえずみんな無事で良かった」


 各々が久しいといった調子で落ち合い、イレースを除いた4人が一旦集結することになる。

「とりあえず、移動しようか」


 イリアのその提案に、3人は無言で首肯する。

 4人が向かった場所は、「フラグメンツ」からほど近い簡易集会場である。簡易集会場は不特定多数の者が利用する、いわば公共の施設に近い性質を持つものだった。勢力がいくつか分散している魔天コミュニティにおいて、このような不特定多数が利用可能になっている集会場は数多く存在している。


 簡易集会場はオフィスの一室のような作りで、異常なほど簡素である。その中の円形テーブルに、4人はそれぞれ座り、イリアが現状を報告するまで全員が重苦しい表情で各々を見据えていた。


「みんな、とりあえずは無事で良かった。何かしら襲われた者はいないという認識でいいか?」

 イリアの問いかけに、全員は相変わらずの調子で首肯する。


「各々、今回のトラブルについてなにか気づいたこと、調べたことがあれば教えてほしい。私の方からは最後にまとめさせてもらう」


 イリアが続けてそう言うと、最も早く挙手をしたのはアゲートだった。

 早速、アゲートは自らが調べた内容を話し始める。


「私はエノクαレポートを調べてきました。コントロール手段等について新しい情報はありませんでしたが、エノクγについて、詳しく考察した資料を発見しました。著者は不明ですが、文体からエノクαレポートの”主”と呼ばれる人物のようです。解読は困難を極めるものの、エノクγの能力については解読できました」


 恐らく、アゲートが解析したものはエノクαレポートに残されていた、特に難解な文章である。というよりも、見たこともない言語が使われており、その解読にかなりの時間がかかっている部分だ。

 そのようなことから、アゲートの発言に対してイリアは、嬉々として尋ねる。


「どんなものだったんだ?」

「はい。エノクγは空間に対して作用する唯一のダウンフォールであるようですが、本質的には生成を司るダウンフォールと同様のようです。つまり、γは唯一物質ではない”空間”を作り出すことができるというだけで、その空間は特定の一次元、つまり僕らが住んでいるこの世界のどの座標からも出現させることができるようです。端的に言えば、自分で作り出した空間を介して、擬似的なワープをすることができるということです」

「なるほど……それなら、危険性は乏しいと言えるのか?」

「いえ、そういうわけではありません。あくまでも著者の考察であるので詳細は不明でありますが、γのエネルギーはかなり特殊で、空間を生成するという性質から、他のエネルギーと性質が異なるようです。一般的な魔天エネルギーは、物質化して固定されていない相を持って出現しますが、γに限り、そのままエネルギー体として出現させることができるようです。そのエネルギーは桁外れの力と、未知の性質を持つそうでかなり危険な性質を持つそうです。故に、γは他のダウンフォールと並び、危険な存在であることは変わらないそうです」


 アゲートの説明に対して、補足したのはフーだった。


「しかし、それなら逆に他のエノク以上に警戒心を持って行動したほうがいいかもしれない……すべてが未知なら、対策のしようがない」

「勿論です。エネルギーの性質を理解していないと危険です。ただ、戦闘能力として起用しているかどうかは不明です。これらの情報をすぐにコクヨウに流して対処を待ちましょう」


 このアゲートの意見に対して、ベスは混乱した口調で言う。


「……ねぇ、本当にそれで解決すると思うの?」

「というと?」

「だって、こんなに複雑なトラブル、簡単に解決するなんて思えない。現状確認すらあやふやなのに、ここであれこれしたって話が解決なんてしないわ。エノクδが動いているのなら尚更……」


 嫌味っぽくベスがそう言うと、イリアはそれに対して即座に反応する。

「ちょっと待て。どうしてそのことを知っている? それは、今のところは上層のものしか知らないはずだぞ?」

「さっき、メルディス様直々にメールが入ったのよ。喫緊の脅威であるからって、すぐに関係者にはほとんどこの情報が出回っているわ。そうよね?」


 ベスの発言に対して、イリアを除く2人が首肯しつつ、更にそれに補足をする。


「トゥール側にしても同じだけど、エノクδの襲撃があったことで2つの派閥が二家を中心に共闘に近い形を取るみたい。だけどそれでも、エノクδに敵うかどうかは微妙なところでしょうね。私たちみたいな非戦闘員は早く避難したほうがいいと思う」


 かなり切迫した調子のベスに対して、アゲートとフーは冷静に現状を分析している。


「確かに、俺たちのような非戦闘員は逃げたほうがいいかもしれないが、シェルターでは設備が整ってないし、ギリギリまでここで補助をしたほうがいいと思う。アゲート君はどうだ?」

「私としても同様の考えです。確かに私たちは非戦闘員ですから、戦闘について貢献することができないですが、その補助くらいはできるはずです」


 2人の言葉に対して、イリアはこれが強制参加じゃないことを明確にする。


「3人共、確かに今回のことは極めて危険だ。ベスの言うこともわかる。だからここからは、各自で行動を決めてほしい。2人の言う通り、君たちは非戦闘員だ。だからこそ、今回の件について参加するもしないも自由だ」


 イリアがそう言うと、ベスはいち早く反応し大振りな仕草で立ち上がった。


「……それなら、私はシェルターに避難する。私にできることなんて少ないし、足手まといになるわ」

「そうか。それならベスはシェルターへ避難して収束を待ってくれ。アゲートとフーはどうする?」

「私はイリアさんとともに参加させていただきます。足を引っ張らないように慎重に行動しますが」


 尋ねられたアゲートは即答する。

 それを見たフーも、同様の意見だった。


「俺もアゲート君と同意見です。俺だって、守りたいものくらいある」


 その光景を見たベスは、若干バツの悪そうな顔で「ごめんなさい」と述べ、そのまま去っていってしまった。恐らくはその場の空気に飲まれてしまったのだろう。


 重苦しい空気の中、イリアはとりあえずベスをフォローする。


「2人とも、ベスのことを責めないでやってくれ。こんな状況だ。誰だって自分の命は惜しいからな。自分の命が絡んでいる以上はシビアにいったほうがいいし」

「勿論ですよ。私も、ある程度危険が迫れば逃げたくもなりますしね」

「アゲート君と同じで、俺も怖いものは怖いが、イリアさんや室長だけ負担を掛けるのも嫌ですから」

「ありがとう。危険なときはすぐに逃げてくれ」


 イリアが現状を皮肉るような一言に対して、アゲートは首をかしげる。


「基本的には、私たちが戦うことはないとは思いますが……やはりかなりの危機が迫っているという認識で構いませんか?」

「あぁ、そうなる可能性はかなり高いだろう。今はまだ勢力が水面下で動いている状態であるが、それが顕著に行動し始めればそうなる可能性のほうが高くなる。勿論今後どうなるかによって対処を変えなければいけないけど、可能性考慮としては十分必要だろう」

「そうですか。それなら、本当に現状把握がかなり重要になりますね。今回のトラブルにしても、幾つもの場所、要素が混じり合っているので複雑化していますよね。一体どこに問題の根があるんでしょうか」


 アゲートの言葉に、イリアは起きている問題をまとめていく。


「起きている問題をまとめていこう。この場での発端は、宴による区域Aの襲撃だった。その後も宴は襲撃を続け、エノクεことレオンのことを付け狙っていた。しかし、その宴にはエノクδが所属しており、国家側はエノクδによる復讐を目的にしているのではないかと考え、これを喫緊の脅威として捉えている。こんなところだろうが、実際に宴が何を目的とし、どのように行動しているのかわからない以上はエノクδへの脅威に怯えることになる」


 イリアのまとめを聞き、フーは若干嫌味を言うようにエノクδの話を補足する。


「エノクδの投棄は、メルディス様が決められたことだったが、やっぱりあれは失敗だったのだろうか。でも、あの決断がなければ、ザイフシェフトで起きた事件がここで起きていたかもしれないし、難しいところだ」

「まぁ決断しなければならなかったのは事実だったさ。エノクδが恨みを持っても仕方がないだろう。だが、私たちもむざむざと殺される義理はない。できることはやろう」


 イリアの発言にアゲートは早速エノクδについてイリアに尋ねる。


「エノクδについて、人格的なデータとか残ってないんですか? プロファイリングとか、専門家ができるくらいの資料があれば、相手の行動を先読みできるかもしれませんし」

「残念ながら、エノクδについての情報は彼のダウンフォールとしてのエネルギーのみだ。それも、対処することはほぼ不可能な上、一瞬で全軍事力と並ぶほどの軍勢を作り出せるというとんでもないチートを備えているって言うことだけだ。敵が明らかに敵意があった場合に正面衝突すれば確実にこっちが吹き飛ばされる」

「そうですか……状況は絶望的ですね」


 アゲートの後ろ向きな発言に、イリアは大きくため息をつく。状況としてはアゲートの言葉通り絶望的であり、あまりの手立てのなさに息も絶え絶えにならざるを得ない。



 そんな凄惨な状況の中、イリアの通信機に連絡が入る。


 それは、コクヨウのバートレットだった。その一報に対してイリアは大袈裟とも言える声で詳細を尋ね、すぐに通信機をしまい込み、慌てながら2人に説明をする。


「イレースがノアに襲撃された。とりあえずは無事らしいが、レオンに特別な封印を施されたらしくてすぐに調べなければならない。一旦はフレックス病院に搬送されて治療を受けているから、すぐにそこに向かう。君たちも一緒に来てくれ」


 2人はイリアの説明に対して驚いた調子で首肯しつつ、すぐにイリアとともにフレックス病院に向かう。



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