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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第九章 嗤う鵜篝
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歪曲した黒曜石

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 最初の方に名前が出てきていた「コクヨウ」が本格的に出てくるのですが、序盤は表記ゆれが起きていて、漢字だったりカタカナだったりしていますが、以降はカタカナで統一したいと思います。こういう細かなところも、完結後に手を加えていきたいですね。

 次回の更新は今週金曜日10月5日20時となっております! 興味がある方はぜひぜひどうぞ!☆(´ε`


 一方、寄宿舎から集会場-Xに向かい始めたフラーゲルとイレースらは若干駆け足で目的地に向かい始める。その途中、イレースはいつの間にか消えてしまっているネフライトのことについて尋ねる。


「そういえば、ネフライト君はどこに行ったの? 護衛してくれていたはずだけど」

「あぁ、ネフライトなら一旦別の仕事にあたっている。イレースが寝ている間に、宴の襲撃があったから、それについて調べている」

「襲撃があったの? どうしてそれを言ってくれなかったのさ」

「別に言うことでもないし、伝えるタイミングがなかっただけだ。ついでに、こっちには襲撃の処理があったし。けっこう大変だったんだぞ」

「それは申し訳ないけど、言うべきことでしょうそれは……敵はどんなやつだったんだ?」


 イレースがそう尋ねると、フラーゲルは魔天コミュニティ内で警戒すべき人物をまとめた資料の一部をイレースに手渡して、それについて説明する。


「エンディース、25年前に発足した宴の母体となった組織に所属していたとされる犯罪者だ。口ぶりからすると、今の宴はエンディースがボスになっているようだ。なにか心当たりでもあるかしら?」

「……僕はエンディースっていう人について何も知らないけど、他にもこの資料に載ってるような人物はいるの?」

「その場にいたホリスとタウンゼントっていうのは、元々ハクヨウに所属していたらしいが、もうひとりのミアっていう奴は見たこともないやつだな。少なくとも、国家側が認知している人物ではないということだ。それよりも、エンディースだろう。敵側が明確になったことで行動しやすくなったし、ことも収束に向かい始めているのかもしれないな」

「本当にそんなこと思ってるの?」

「思ってるわけねーだろ。こっちも面倒事は嫌いだから、とっとと終わって欲しいってだけ。イレースもこんな面倒事に巻き込まれるのは嫌だろう?」

「そりゃそうだけど、僕はもうちょっと懸命な考えを持ちたいからね。君と違ってね」

「そういうところは変わらないのねぇ。まぁ別にいいけど」


 フラーゲルの今一つ安定しない口調とともに大きく鼻を鳴らす。その内容はなかなか適当なものであるが、それこそが彼女の対応が適当な対応をしていることを示している。


 イレースはフラーゲルと旧知の仲であるため、彼女の性格は十分に理解している。その性格を考慮すれば仕方がないのだが、状況を見てものを言ってほしいと強く感じていた。

 そもそも、本来であれば爆睡していたとしても、被害にあったイレースらに襲撃について話すことは義務である。それなのに、フラーゲルはそれについて一切話すことはなく、婉曲的な愚痴をこぼされたら嫌な気分にもなる。

 イレースはそのストレスを一旦自らの胸の中に落とし込みながら、フラーゲルに対して質問をする。


「コクヨウは、どっちの味方なんだ?」


 それは、現在のイレースの不安を体現するようなものだった。

 コクヨウは確かに、最高権力者に直結する存在であるものの、その実態としては癖の強い人物が多く、現在の最高権力者であるベヴァリッジすらも持て余すと言われている。フラーゲルはそのサブリーダー格であり、全体としてどのような傾向があるのかを知っているはずだ。

 その意図を持って質問したイレースだったが、返ってきたフラーゲルの返答はひどく異質なものであった。


「さぁ。私にはさっぱりちゃん」

「……嘘でも僕らの味方って言ってほしかったよ」

 彼女の立場を考えると、そんな回答をするなんて思ってなかったイレースは凄惨なものを見るような顔でフラーゲルを一瞥した。

 一方のフラーゲルはというと、それに気がついているようで、かすかな笑みを浮かべつつ更に続ける。


「あっはっは、まぁこの場は、イレースたちの味方であるっていう風にいうべきだったわね。でも、イレースの知っての通りうちの組織は面倒な連中が多いから、行動のコントロールなんてできやしないのよ。でも、私はあんたのことを守るつもりだけどね。一応は友人だしね」

「そう言ってもらえると嬉しい限りだけど……なんか君の言うことはどうにも信用できないのはなぜかな?」

「そんな事言うなら守らないわよ。でも、ネフライトはあんたのこと結構気に入ってたっぽいし、戻ってきたら安泰じゃないの?」


 フラーゲルがネフライトの名前を出したことで、イレースはふと彼のことについても疑問が沸き起こる。

 特別枠とはいえ、ネフライトの名前は今までの魔天コミュニティできいたことがないものだった。つまり、一切の経歴が謎なのである。それを採用したベヴァリッジに直接聞いてもいいのだが、内部的なことに関してはフラーゲルのほうが適切であることはまず間違いない。

 その予想をそのままフラーゲルに伝えると、彼女はネフライトのことについて話し始める。


「ネフライトなぁ……あの子は戦闘じゃ強いんだけど、ちょっと見境なさすぎるのが問題なんだよな。ちょっと持て余している感が強いっていうのはある」

「いや、僕は経歴について聞いてるんだけど」

「経歴は知らん。連れてきたのはティエネスだから、あいつから聞けばいいんじゃないの?」

「コクヨウって組織としては失格だと思うんだけど君はどう思う?」

「素敵な組織だよね!」

「……組織ってなんだろうね」


 相変わらずの組織体制に呆れた調子で答えたルネであったが、呆れ返った直後に集会場に到着する。

 集会場は非常に簡素な佇まいで、プレハブと形容して差し支えないほどの心もとなさである。おそらく、集会場の次につけられた「X」というものは、緊急時の集会場という意味なのだろう。


「素敵な家屋だね」

「予算の都合でこんな荘厳な佇まいに住めるなんて泣いちゃうわね」


 フラーゲルの辛辣な言葉をこぼしながら、プレハブの扉を開き手で招き入れるような仕草でイレースらを室内に招き入れる。

 室内は大きな円形のテーブルがあり、その中で4人のメンバーがこちらを向いている。しかし、そのどれも退屈そうに各々のことをしている。


「まぁ一人ずつ紹介するわ。適当な話もしてもらって。じゃあハートマンからね、時計回りで」


 フラーゲルの言葉に反応したのは、円形のテーブルの中でちょうど3時の位置に座っていたハートマンという美女が上品そうな佇まいで微笑みかける。外見年齢は20代前半といったところだろうか、随分と凄みを感じさせる荘厳さを孕んでいるようにも見える。

 彼女の一挙一動を据えるイレースであったが、ハートマンは特に気にすることなく、ケタケタと笑った。


「イレース室長ですよね? お会いできて光栄ですわ。お初にお目にかかります、コクヨウのハートマンと申します。以後、お見知りおきを」


 慇懃無礼とも思える口調とともに、ハートマンは深々とお辞儀をする。

 それに習って、イレースも同じように頭を下げる。

 ここに来てようやく、イレースは自らの肉体を完全にコントロールでき、快適な調子で頭を下げる。


「こちらこそよろしくおねがいします」

「素敵な殿方ですのね。私は主にコミュニティ内部の調査を担当していますので、直接的な護衛に携わることはないかもしれませんが、これからもよろしくおねがいします」

「かたっ苦しい挨拶もそれまでにして、キャブランに回して」

「はーい」


 ハートマンは柔らかな言葉で隣のキャブランという中性的な人物を手で示した。

 すると、キャブランは大あくびでイレースを一瞥すると、ひっそりと頭を下げ、ハートマンと同じように挨拶をする。

 上品そうなハートマンに対して、キャブランは随分と神経質そうだ。外見年齢は10代で、黒色の長めの髪はやや重たい印象をこちらに与える。その一方で、ハートマンを見る表情は随分と優しいものに思えてならない。


「……どーも。ハートマンのバディです」

「この人あんまり人と話さないんですよねぇ。ごめんなさい」

「いえいえ、キャブランさん、これからも宜しくお願いします」

「じゃあ次、バートレット」


 次に立ち上がったのは、8時の方向に座っているバートレットという青年だった。ハートマン同様、上品そうな佇まいで笑っているが、腹の中を見せない不気味さを持つ人物である。


「こんにちは。バートレットです! よろしくイレースさん」


 気さくな調子ではあるものの、バートレットの不気味な皮膚感は明確に警戒が感じられる。というのも、痩せ型でひょろりとしているにもかかわらず、彼の衣服はどこか凸凹している。恐らく常にその肉体を変形させているのだろう。これほどまでの肉体コントロールを行い続けるのは相当神経を使う作業だろう。

 やはりコクヨウという団体はこの社会の中でもかなり異質な存在であることを再度認識させられたところで、イレースはバートレットの差し出された手を握り返す。


「同じくよろしくおねがいします」

「僕は護衛でもあるから、ハートマンたちよりは接する機会があるかもしれないね。こっちの寝ている子は、僕のバディのジャーメイン、ほら、早く!」


 完全に爆睡を決め込んでいるジャーメインと呼ばれたのは、バートレットと同じくらいの年齢であり、完全な男性型であるようだ。しかし寝ているため、バートレットの言葉に対して一切言葉を返してこない。

 その様を見たバートレットは、呆れた調子で笑いながら「ごめんね」とイレースに語りかける。


 今の所、その場にいる人物はハートマン、キャブラン、バートレット、ジャーメインの4人であり、現在判明しているフラーゲルとネフライトを含めれば、6人そのメンバーが判明しているが、残りの4名が所在不明のままだ。それについて、イレースは率直にフラーゲルに尋ねる。


「……フラーゲル、残りの4人は?」

「残念ながら、リーダーティエネスを除く残りの3人は私もティエネスでも持て余すからな。招集をかけても集まらん。今いるメンツは比較的まともな奴らだから、安心しな」

「……安心……?」


 不穏な言葉に対して、イレースは首を傾げていると、バートレットがクスクスと笑いながら話し始める。


「コクヨウは仲間意識を持ってるほうが珍しいからね。基本的に、互いのバディしか信用しないし!」

 それに補足を行ったのは、フラーゲルであった。


「気に入らないと判断すれば見事に突っつかれる連中がいるから。イレースなんて、取って食われるんじゃないの~?」

「まって、一応僕護衛対象なんだよね?」

「残念ながら、厳密に言えばエノクεが護衛対象だ」


 フラーゲルはそのまま、イレースにひっついているレオンを一瞥し、不気味な笑みを浮かべた。

 それに対して、レオンは更にイレースの体を抱え、恐ろしいものでも見たような表情でフラーゲルをにらみつける。


「ちょっと、この子はεじゃなくてレオン! 何度も言わせるなよ」


 イレースは、フラーゲルに対して釘を差すようにそう言うと、フラーゲルは悪びれる素振りも見せずに笑い、レオンのことをコクヨウに紹介する。


「ほらみんな、この子が護衛対象のレオン君だよ~。εっていうコード名はもう使われていないから、レオン君で覚えてねー」

「あらー、可愛い子ね。キャブランもそう思うっしょ?」

「そうさね。利発そうな子だよね。心なしかイレース君に似ているような気もしなくもない」

「そういえばそうね。確かに、なんとなく似ている気も……」

「でも、君みたいな真面目そうな子が護衛対象でよかった。面倒くさそうな子じゃなくて」

「バートレットも、ここの佇まいで結構喧嘩っ早いからな。イレース、気をつけろよ」


 コクヨウの自由気ままな振る舞いに対して若干辟易とさせられながら、イレースは冷ややかな視線を浴びせつつ、レオンを自らの身体で庇うように前に出た後、これからの方針について確認するために、プレハブの最奥にあるホワイトボードを用いて現状の説明を始める。



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