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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第二章 半身の詩
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留置の爆弾

 一章とはまた別の視点からのスタートとなります。

 やや見にくいところがあるとは思いますが、お楽しみいただければ幸いです。



 同刻 ルイーザ旧国境区


 大国ルイーザは、旧ザイフシェフトと旧リラとの間に国境であった森が存在する。その森の片隅に、一部のものしか利用しない便利屋「天獄」があり、2ヶ月ほど前までは人々は一ヶ月に数度の割合で便利屋を訪れていた。

 ちょうど2ヶ月ほど前から、天獄に来る仕事が急激に減少した。というよりほとんど仕事がない状態になっていた。その為、天獄を経済的に管理している事実上のCEO、アロマは他のメンバーを連れて、慰安旅行という名の「サボり行為」に出始め、今現在天獄で働いているのは戦闘などに従事するストラスと、事務員のルネだけになってしまった。


 そんな絶望的な状況の中で、天獄にはとある依頼が舞い込んでくる。

 それは、ザイフシェフト南エリアにあるショッピングモールでいきなり消失したカーティスという青年を探してほしいというものだった。

 依頼人はカーティスの幼馴染で、カーティスがいた「グルベルト孤児院」のスポンサーである大企業の令嬢、ケイティ・ミラーという人物である。彼女はカーティスを発見すれば着手金の10倍出すが、もし発見できなければ社会的に抹殺するという条件を提示し、天獄はそれを受け入れた。

 ケイティ・ミラーは、着手金として一般的なジェラルミンケース一杯に詰め込まれた紙幣と、今回の事件に関してケイティが自発的に調べた資料を残してそのまま去っていった。


 その資料を見た事務員ルネは、鮮やかな金髪碧眼を携えて、恨み言を言うように、無駄なお洒落を決め込んだストラスに対して尋ねる。

「にしても、こんなリスキーな仕事受けなくても良かったんじゃないの?」

 対してストラスは、面倒なスーツを引き裂くように脱ぎ捨て、一番ラクな私服に着替えつつ、ルネの言葉に返す。

「お前も気づいているだろ? ここ2ヶ月で仕事が完全に消えた。大方、裏側で手を回しているやつがいるってことだ。ここで仕事を完璧にこなすのは奴らに一矢報いることになる。さ、早速行動だ行くぞ」

「え? どこ行くの?」

「旧ザイフシェフト南エリア屈指のショッピングモール、ティルネルショッピングモール」

「資料にあった場所だね。で、どうやって行くの? マリウス、いないけど」


 ルネのその発言に、ストラスは押し黙ってしまう。

 マリウスとは、「天獄」の中でも唯一ワープ行為を行える人物で、他のメンバーとともにバカンスに行ってしまっている。

 旧国境区から、ストラスが口にしたティルネルショッピングモールまでは、公共交通機関を介すれば2時間ほどだろうか。その場にいたルネとストラスは、深刻な顔色で互いの顔を見合わせる。

「…………バス」

「はい。じゃあ、だいぶ遅くなりそうだね」


 ルネはぽつりとそう言いながら、必需品その他もろもろをカバンの中に入れ、依頼人ケイティ・ミラーが調べ上げた資料を手に持って、建物から外に出ようとする。

「ほら、いこー」

「悪いなルネ」

 ストラスはルネに謝りながらも、自らの支度を進め、そのままの勢いで「天獄」を後にする。



 舗装されているのかいないのかわからない道をそそくさと歩きながら、ルネはぽつりと呟く。

「あーあ、やっぱり僕も南エリアで暮せばよかったかなー」

 ルネは森の石ころを蹴飛ばしながら、笑みを浮かべながら恨み言を吐く。

 一方、それに対してストラスはあくまでも冷静に返す。

「ミラの職場とも近くなるなら、それでもいいんだぞ? マリウスに迎えをつかせればいいしな」

 ミラとは、ルネの配偶者であり、子どもの頃から二人暮らしをしている仲である。

 当のミラは、旧ザイフシェフト南エリアにて、「グルベルト孤児院」を営んでいて、社会的な地位を持ち仕事をしている。今回の依頼人であるケイティ・ミラーは、ミラからの紹介を強引に取り付けたのだ。勿論、依頼人が完全に途絶えたことが原因である。

 そもそも便利屋「天獄」は国側に明確な許可を得ているわけではなく、ほとんど黙認状態で営まれている。つまり相当なアウトロー状態で運営されている為、いろいろな界隈から目をつけられている状態だ。

 そんな「天獄」でルネが事務員で働いているのも半分慈善行為であることを知っているため、ストラスはあえてそんなことを言ったのだ。

 しかし、ルネは恨み言とは裏腹に、笑いながら大きく頭振った。

「いや、もう森のなかじゃないと暮らせないよ。都会の喧騒はだめだわ」

「お前らしいな。確かにここに慣れれば都会にはいけないっていうのはよく分かる。もう面倒事はゴメンだ」

「いや、今まさに面倒事に巻き込まれかけてるじゃん、僕ら」

「それはあるなー。”また”エノクシリーズが絡んだことに巻き込まれたりしてみろ。俺たちなんて真っ先に面倒事に巻き添えだ」

「その時に有給使うね」

「こいつ……」

 ルネの悪気ない科白に対して、ストラスは呆れた調子で返す。



 二人の間に小さな沈黙が生じた。

 その数分程度の沈黙の後、ストラスは、足を止め、ルネに対してこう告げる。

「つけられてるな。感じから、魔天の類だろう」

「……やっぱり、件のトラブルには魔天コミュニティが絡んでいるの?」

 ルネは冷静に状況を分析すると、ストラスは無言のまま首を縦に振る。

「距離の詰め方、気配の消し方、訓練を積んだ連中だろうな。めんどくせーのにつけられたな」

「どうする? 倒せる?」

「いや、逃げるぞ。足を挫いたふりをして、俺がおんぶするから、それで一気に下山する。そこから先はタクシーだ。この時点で手を出してこないってことは、ある程度俺たちを泳がせておきたいんだろう。流石に市街地で目立つ行動はしないだろうから、それで十分なはずだ」

「おっけー」


 2人はその会話の後、ルネが派手に石に蹴躓いてすっ転ぶ。

「随分派手にいったな」

「うるちゃい……あ、結構これ痛い」

「こりゃひどいな」

 演技とは程遠い割とガチな転倒に、ストラスは失笑しながら予定通りおんぶする。

 彼の持っていた荷物をとりあえず乱雑に持ち上げ、ルネを背負って移動を始める。

「できるだけゆっくり動くが……最初に言っとく、ごめん」

「はいはい」


 ルネの言葉を完全に聞き取る前に、ストラスは一瞬の沈黙をはさみ異常な瞬発力を発揮し、一気に森を下り始める。

 そのスピードは到底人とは思えないスピードで、尾行していたと思われる存在が二人を簡単に見失うレベルのスピードで、尾行者を簡単に撒くほどのものであった。

 2人はそのままタクシーを使い、場所を攪乱させた後最寄りのバス停からティルネルショッピングモールへと向かった。

 バスがつく頃には、すっかり追手を撒いている状態だった。そんな状態で、2人はそそくさとバスに乗り込む。


「なんとか、撒けたな」

 ストラスは自販機で買った水を飲みながら、隣で唐揚げを頬張っているルネに向かってそう言うと、ルネは口をモゴモゴさせながら首を振る。

「いや、あいつらも来る可能性があるでしょう」

「どういうこと?」

 ストラスがそう尋ねると、ルネは唐揚げを飲み込み、ゆっくりと自分の考察について話し始める。

「だってタイミングが良すぎるよ。僕らはミス・ケイティの依頼を受けて、早速事件が起きた場所であるティルネルショッピングモールに向かった。その最中、恐らく魔天の類のものに尾行された。十中八九、何らかの関係があるものであると考えるのが無難だし、行く先なんて大体想像つくでしょ。どうやら、とっとと調べて帰ってくるのが利口っぽいね」

 ルネはあくまでも冷静にそう説明し、残った唐揚げを再度口に運んでいく。

 対してストラスは、納得するように水を飲む。

「……ね、彼ら、何者だと思う?」

 唐揚げを咀嚼しながら、ルネはストラスにそう尋ねる。

 すると、ストラスは顎に手を当てながら、先程に感じた気配を思い起こす。そして、そのまま自らが感じたことを喋り始める。

「検討つかん。だが、それなりの手練であると考えられるだろう。ほとんど気配を殺してたし、足音も殆どなかった」

「なんで君は気づけたの?」

「勘」

「…………そう」

「あいつら、たしかに気配と音は消せてるんだけど、行動に対する周りの配慮がない。その微妙な感覚が勘だって言うことだ」

「さすが歴戦の戦士だね~」

「まぁ、分析力皆無だからな、お前たちと違って。俺は俺の力で戦うさ」

「なら僕も、自分のできることをするさ。でも、”もしかしたらもうしている”のかも……」

「それは否めないな。全く、あいつら、厄介な奴らだ」

「たしかにね」


 ストラスの言葉に、ルネは大きく首を縦に振った。

 そして、暫くの間素敵なバスの旅が続くことになる。



 一方、すっかりストラスとルネに撒かれてしまった尾行者は、異常なほどな俊敏さを見せたストラスの身体能力に、自分たちが相手にしようとしている存在の力量を痛感する。

 尾行者は2名、片方は美しい赤髪のボブを翻した20歳程度の女性と、ロリータ調の服を身に着けた10代の少女である。

 2人は若干舗装されていない道に堂々と現れ、ルネが演技とは言い難い転倒を起こした場所を見下ろし、ロリータ調の少女がぽつりと言葉をつなぐ。

「……奴ら、何者なの? ボスはエノクを持つ存在であると言っていたが……」

「あなたの力でも感知不能なのかしら? オフィリア」

「わからない……どういうことなの? でも、あの男の近くにいた少年みたいな子は、よくわからないわ。男は魔であることは確かで、恐らく顔を見るに”アーネスト”の血筋でしょう」

 それを聞き、赤髪の女性は驚愕の表情を浮かべる。

 そして、そのまま「アーネスト」について続ける。

「まさか……あのアーネストがこんな辺鄙なところで便利屋をしてるなんて……考えられない」

「不思議じゃないよ。貴方は、”アーネスト”について、どこまで知っているの? アレクシア」

「3番目に誕生したエノク、”エノクγ”を封印した、魔の中でも屈指の戦闘能力を持つ一族と言う事しか知らない。オフィリアはどこまで知っているの?」

 オフィリアは、それを聞き瞳を閉じて、深々とため息をつく。

 そして、一呼吸おいてゆっくりと口を開いた。

「……一族すべての力を結集させれば、今現在の”宴”に匹敵するらしい。それもかなり信憑性が高い。だからこそ、私達は彼らを引き入れなければならない。いい? 早く彼らの監視に戻らなきゃ。恐らくは予定通りティルネルショッピングモールに向かっているはず、私達も行くわよ」

「わかった。できるだけ、戦闘は避けましょう。彼らに勝てるとは思えないわ」


 それに対して、オフィリアは「同意見よ」という言葉だけを残してティルネルショッピングモールへと向かった。



 一章から引き続きご覧になっていただいた方は、誠にありがとうございます。

 ここから第二章ということで、これからは一章ごとに視点が切り替わります。基本的には、一章組と二章組が章ごとに切り替わり、監視カメラでこの物語を追っていくような形になると思います。

 また、ここから更新速度が一定になると思います。詳しいことはブログの当該記事をご覧になっていただければ幸いです。

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