表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不条理なる管理人  作者: 古井雅
第八章 鶉衣を纏う王
39/169

厄災を齎す暴威

 先日から続く北海道地震のさなか、ご覧になってくださる方がいましたら感謝します。北海道は全体的に流通に問題が発生して多くのものが購入できない状態ではありますが、ライフラインがある程度復旧してきているので、回復に向かっているのではないでしょうか。台風21号の影響もありますので、日本全体を通して災害への警戒を忘れないように生活したいものです。

 現在、予定通りこの物語は更新できていますが、状況により難しい場合があるので、その場合は随時告知させていただきます。継続してご覧になってくださる方がいましたら、改めてお詫び申し上げます。


「俺関係ないからな」

「わかってるって。お勤めご苦労さま」

 ルネはミラに労いの言葉を述べた後、今までアイザックが話してくれたことを説明し、思い当たる節を尋ねる。


 すると、アイザックの言葉から一つ一つ事柄を解体し始めた。


「なるほどね。今の所、一番のヒントはフギンとムニンを口止めした4人の人物だろう。4人いるってことは、俺たちの近くにカーティスの失踪に絡んだ人物がセフィティナを除いて最低3人いることを示唆している。それが誰かを突き止めたほうがいいだろう」

「一人はセフィティナであると確定しているから、周辺人物、この天獄のメンバーであると想定したほうがいい。とりあえず、ここにいる全員を外して、被疑者は現在旅行中のイェル、アロマ、ベリアルの3人と、時計塔に避難しているミライと廻、そして行方知れずのマリウスの6人。冷静に見ればマリウスかな。旅行に行ってないし、しかもどういう目的で不在なのかわからないし」

「マリウスの可能性は相当高いな。でもそれなら、他の2人は誰だ?」

「うーん……現情報だとそれを決めることは不可能だろう。それなら、カーティスの写真から分かる情報を辿ったほうがいいかもしれないね」

「それもそうだな」


 方針を決めたルネ、ミラ、アイザックは3人揃って食い入るように写真を眺めている。一方のストラスは、すっかり戦線離脱したようで、3人のお茶くみ係に徹している。


 写真には、ベッドに眠っているカーティスが写っており、その体には幾つもの配線に繋がっている。しかし、それ以外のものが写っている様子はなく、ただカーティスの安否を確認させるために撮られた写真のようだ。それを見ていたルネは自らの気づいたことを述べていく。


「これだけだったら、何がなんだかわからないね。でもこの配線を見る限り、動いてなくても機能不全を起こすことはないだろう。逆にそれは、ある程度の設備がある場所でもあるっていうことだ。このベッドを見るに、かなり頻回に体位交換をして褥瘡を防いでいる。相当厳重に、カーティスの事を管理しているみたい」

「それなら、体位交換をする人は誰なんだろう。褥瘡を防ぐなら、最低でも2時間単位で体位交換しなきゃいけないし、肉体に高栄養の食事をさせなきゃいけない。場所は相当限られるし、行える人も限られる。この写真から、おおよそのあたりを付けることができるかもしれないな」

「それだけじゃなくて、この写真を撮った意味についても考えたほうがいいだろう。これだけ徹底しているってことは、仕組んだ者は少なくともセフィティナ以外にいるだろう。細かく緻密な人物であり、俺達に近い人物……だいぶ限られそうだな」

「この写真を撮影したのは、恐らくアイザックへの信用獲得だろうね。じゃなきゃこんなものを撮影する意味なんてないし」


 そんなこんなで話している3人を眺めているストラスは、相変わらずな3人の会話に介入することなく、澄ました顔で自らが淹れたお茶を啜り、ゆっくりと3人が結論を出すまで休憩に入る。

 勿論、そんなストラスを一切気にすることなく、話は進む。


「ただ、この写真のおかげでかなり場所が絞られたな。立地的には、セフィティナが勤めている場所からさほど遠くなく、ある程度の設備が整っている場所。場所的には相当絞られたはずだ」

「それは一つ可能性を排除している。もし仮に、マリウスがセフィティナ側についているのならば、少なくともグルベルト孤児院から遠くないという仮定は誤りだと思う」


 ミラとルネの会話にとある前提を加えるように、アイザックは釘を刺すように、自らの考えを述べる。


「二人共、前提として、セフィティナもマリウスも常識の通じないダウンフォールであることを忘れてない? 物資の問題も物理的な立地もすべて、あの二人の前では大した問題じゃなくなるからね」

「そうだった……あの二人、あの佇まいでなんて能力を……」


 ルネが渋い顔をして言うと、ミラとアイザックは冷ややかな視線とともに「お前が言うな」とツッコミを入れる。それに続いて、お茶を飲んでいたストラスは、3人に向かって「お前らもだよ」と釘を刺す。

 しかしそんなことを聞いているものはおらず、更に3人はすぐにこれらの前提を加えて考え直す。


「でも、その前提を組んでも、無闇矢鱈にその力を行使していないだろう。一応は元専門家がいる前でそんな事するほどセフィは馬鹿じゃない。そこだけは無駄に警戒するし」

「警戒する場所が違うと思うんだけど」

「いっちゃ悪いけど馬鹿だからこうなってるんだと思うぞ」

「否めないけど、徹底的にマルチタスクができない性格なんだよね、あの人。だから嘘ついたらすぐわかるし、それわかるから嘘もつかないし」

「俺たちはあんたの下僕の話でも聞かされてるの?」

「ミラ、これはノロケってやつだよ」


 話が露骨に意味不明な方向に向かい始めたところで、アイザックが議論を円滑にするために、一つの議題を提示する。


「真面目な話に戻そう。話が混沌としているから、まずカーティスが失踪した理由の方から進めよう。まず何が考えられる? セフィが僕に”ちょっと借りるから心配するな”、という言葉の意味についても考えたほうがいい」

「冷静に考えたら、そんな事言うなんておかしいよね。こっち側に情報をみすみす流すことになるし、言い方の中途半端さがなんとも理解できない。そもそもセフィティナが言っている辺り、その意図が論理的一貫性を持っているとは正直思えない」

「そうだね。セフィは感情に突き動かされるタイプだから、この発言の意図は”僕を説得できないと踏んで、とりあえず心配させないために吐いた一言”であると推測するほうがいい」


 それを聞いたミラは一つに話をまとめる。


「つまりこういうことか? セフィティナは何かしらの目的を持って、その目的遂行のためにはカーティスが必要だった。だけど、アイザックを説得できるほどのものがなくて、それで、一先ずその言葉を残して計画を進めたって言うこと?」

「恐らくね。次に、その目的が何かを議論しよう。その計画はなにか、目的はなにか、そしてどうしてこのタイミングでそれを実行したのか。疑問は尽きないね」


 アイザックが提示した議題について、ルネが話し始める。


「僕からいいかな? 今回の色々なトラブルにその計画を紐づけするのはタイミングだと思う。セフィティナらが動いたタイミングでこれほどまでに多くの、正確に言えば魔天絡みのトラブルが起きるのは少々考えにくい。このタイミングだったからこその意味があると思う。どうだろう?」


 ルネの話に対して、二人は首肯しつつ、各々の考えを述べる。


「それについては僕も同感。このタイミングで不自然なことが多発したのはどうにも考えにくい。どちらかがトリガーになった可能性が高いだろう。でもそれを考える上で重要なのは、どちらが先にその因子を作ったのか……それが大切になると思う」

「僕も同じ考えだ。でも、この2つのトラブルを巡る関係は本当に乏しい。そのことから考慮すると、どちらも別の因果を持つと言える可能性も出てきている。主題は、魔天コミュニティ、それとセフィティナ、どういう関係で動いているのかだ」

「セフィティナの計画、天獄を潰そうとする者たち、魔天コミュニティ、この三組がどこまで関わっているかのかだな。どういう関係があるのか今の所検討もつかんが」

「これについて確定させることは現状不可能だ。カーティスを見つけて、どういうことだったのかを吐かせる。それが最短ルートだ。で、カーティスを見つける手段の一つとして、この写真なわけだけど、この背景とか誰か見たことない?」


 ルネの言葉に、アイザックは写真を舐めるように眺め、自らの記憶を全力でたどる。


「この壁、かなり時間が経っているように見えるし、傷だらけだ。何かしらの廃屋だと思うんだけど、それだとこんなに機器を用意することがかなり辛くなる。一から機器を用意することも考えられるけど、現実的にそんな資金があるとも思えない。つまり、元からそこにあった機器を利用した可能性が高い。仮に壊れてしまっていても、セフィなら自分の能力で欠損パーツとか作って、流用することができるかもしれない」

「ちょっと待て、いくらセフィティナがダウンフォールだからって、そこまで行けば相当工学的な技術が必要となるぞ?」

「実は結構工学的知識と技術に精通している。適当に医療知識とか齧れば、その場にあった電子機器くらいは使用可能にできるさ。それか、一切の機器を使用していない可能性もある」


 アイザックの言葉に、ミラはとある可能性をぷつりと呟く。それは自然神が絡む可能性だった。


「……自然神か」


 この天獄で最も親しい自然神は、時計塔で暮らしている生命力を司る力を持つ「鳳凰」と呼ばれる種だ。「鳳凰」は生命力を他の生命体に流すことができるため、機械を行使しなくても機能不全を防ぐことができる。

 3人は、ダウンフォールに加えて自然神の力まで混じっている可能性を考慮して、辟易とさせられる。


 しかし、その可能性を否定したのはルネだった。


「自然神の力が絡んでるとは思えない。なんていうか、今回の計画を主催しているのはセフィティナでしょう? ついでにマリウスも絡んでいるなら、ダウンフォール2体が関わっていながら、カーティスという一人の人間が必要だった。なんとなく、やっていることが噛み合ってない。まるで、自らの力を行使することを避けているようだ。それに、こそこそこんな計画立案すること自体がおかしい。天獄には、ストラスやイェルみたいに、高い潜在能力を持つ人材がゴロゴロいる。時計塔まで含めれば使えるマンパワーはかなり大きい。それらの人材を一切使わず、こんな遠回りをしているってことは、少人数で行動しなければならない理由があった。もしくは、カーティスでなければならなかったとかね。それなら自然神が絡むとはちょっと言えない。確定ではないけど、より人間的な方法をとっていると考えるのが無難だと思う」

「なるほどねー。そういえば、俺たちにまで話さないっていうことも一つのヒントだな。そうせざるを得ない理由があった、そう推測するのが妥当だ」

「ここから先は完全に憶測だけど、セフィティナらは何らかの影響で力を行使できない理由があって、その現象を止めるために行動しているんじゃないのかな。それで、中核的な役割を持つことができるカーティスを使うことにした。だけど、それを説得できるほどの材料がなかったから、僕らには言わずに事を進めることにした……どうだろう?」


 それを聞いたアイザックは、顔を顰めてとある単語を口にする。


「テンペスト……もしかしたら、テンペストじゃないか?」


 その言葉に、その場にいた全員が大きく反応する。

 その中でひときわ強く反応したルネだった。

「テンペストって……何?」

「魔天やダウンフォールのエネルギーが特定の空間に飽和するとき、その特定の空間のなかで様々な原子に影響する現象、だったはずだ。観測されたのは25年前、ザイフシェフト内の中で異常現象が多発した時があった。その現象は一貫性が乏しく、どんな事が起きるのかわからない。でも、原子力発電所で事故が起きかけて、全域の原子力発電所が停止に追い込まれた。つまり、僕らの住環境に極めて強い影響を与える可能性がある」

「……その現象って……どうやって止めるの?」

「テンペストの根源は、一定単位の空間の中で、魔天やダウンフォール、ついでに親和性のある自然神の力が行使されることで濃度が上がることだ。つまり、一定期間それらの使用を避ければ、ある程度は抑え込めると思うけど……」

「これ臭いな……。セフィティナの机の中のメモにも、テンペストの言葉があった。もしかしたら、セフィティナたちはこのテンペストを止めるために動いているのかも」


 アイザックは、セフィティナのメモがどんなものだったのかを知るために、ルネに尋ねる。


「そのメモの内容、わかる?」

「あぁ、これがメモの内容をそのまま書き留めたものだよ」


 ルネは、自らのメモをアイザックに渡し、アイザックはそれを凝視した。

 そして、自分が可能な解釈でメモの意味をまとめる。


「これは、これからの行動方針のメモだろう。ウロボロスっていうのは、魔天コミュニティで使われている周縁DADエリア、つまり魔天コミュニティという国土の周りに魔天エネルギーを無力化するDADエリアを組み込んで、クーデターを防ぐための防衛システムとして使われているものだ」

「それなら、ウロボロスを起動させることが、セフィティナたちの目的? 起動させれば、少なくともテンペストの危険性はかなり減りそうだし」

「そう考えるのが無難だ。この方舟っていう単語はわからないけど、セフィティナの目的がわかっただけでも御の字かもしれないね。で、どうする? これからのこと」


 セフィティナが動いている目的を悟った3人は、各々どうするかを述べる。

 一番最初に意見を述べたのはアイザックだった。


「僕としてはこのままカーティスを探し出して、そんで計画に参加する。息子を巻き込まれるよりは数倍マシだ」

 それに対してルネは疑問を呈する。

「アイザックがカーティスのことを心配しているのはよく分かるけど、必要性がある以上は何かしらの鍵となっている可能性が高い。そう上手くはいかないと思うよ?」

「どっちにしてもカーティスを探し出さないと進展しない。話が大幅にずれたから修正するけど、この写真から場所を割り出さないといけない」


 アイザックが強制的に話をもとに戻したところで、ミラは写真を手に取り、呟くように口走る。


「そういえばここ、なんとなく25年前の事件で見た実験棟に似ている気がするな」

「実験棟って、今のグルベルト孤児院ってこと?」

「いや、実践訓練闘技場だったかな。地下の方の」

「それってつまり、グルベルト孤児院の地下!」

「まだ決まったわけじゃないが、調べてみようか」


 グルベルト孤児院は、25年前に使われた実験棟を改造して作られているが、その地下には使われずに放置されている施設が沢山存在する。というのも、過去ザイフシェフトは戦争特需により発展する前、敵国に侵略されることを警戒して地下に主要な研究機関を作ったという歴史的背景があるため、街の地下が一つの都市のようになっている。その中でも、グルベルト孤児院地下は特に異質な存在であり、過去の軍事研究機関の中枢となっている。

 場所的にも、写真の事柄とも十分整合する場所で、ミラの言っていることは見当違いではなさそうだ。それを確信した全員が、ミラの記憶に従ってグルベルト孤児院に向かおうとする。

 しかし、それを止めたのはストラスだった。


「で、公共交通機関がちょうど今終了したけど、どうするの?」

 ストラスの一言に、3人はキレイにフリーズし、その日のうちにグルベルト孤児院に戻ることは不可能だった。


「……ま、明日だな。ルネ、帰るぞ~」

「アイザックはどうするの?」

「僕はここに泊まっていくよ。久々に、ストラスとも話したいしね」

「おー泊まってけ泊まってけ~」


 そんなこんなで、この日も終局することになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ