演会の釁隙
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
若干歯切れの悪いところで終わっていた前回の続きなので、見にくい冒頭ではありますが、楽しめる人が少しでもいれば幸せです(^q^)
ここから辺から徐々に私の趣味が滲み出てきていますが、完結済みのプロットに向けて頑張っていきます。まだ先は長いですが、お付き合いいただける方が一人でもいれば更に原動力になりますね。
次回の更新は今週金曜日9月7日20時となります!興味がある方はぜひぜひどうぞ!☆(´ε`
2体の化物を見据えるヴェルタインは、鎌を用いて大振りななぎ払いを行い陽動に出る。その意図を組んだアレクシアはその直後にスポアを展開し、なぎ払いを行ったヴェルタインの影に隠れるような形で分身を見据えつつ、攻撃の準備を行う。
一方、攻撃された分身はそれを最小限の動きで回避し、すぐさま全身の体を覆っている流動的な皮膚を変動させてヴェルタインに向かって槍を突き立てる。しかし、その攻撃は行動を読んでいたアレクシアにより切断されることになる。
完全に切断された分身の断面は、相変わらず不気味な畝りを見せながら、再生していく。しかし、再生中は完全に動きを止めていて、残っている四足歩行で動く分身のみが動いている状態だった。その四足歩行の分身は天井に張り付いていて、がぱりと大口を開けて液体状の細胞をだらだらと垂らし、床に伏した液体が固形に変形し、ヴェルタインらを襲う。
その光景を見たヴェルタインは、一瞬悩んだ瞬間、アレクシアに「逃げろ!」と言いながら、治療中のオフィリアを背負ってすぐに液体から離れる。すると、液体は一瞬にして幾千の槍となって、まるで剣山のごとく床に乱立した。
それを回避し終えたヴェルタインらはすぐに、最悪の光景を目の当たりにする。先程攻撃を当てた分身の再生が完全に復活し、相変わらず不気味な蠢きを見せてこちらを見据えていた。
「とりあえず治療はできたんだけど……勝ち目あるの……これ?」
オフィリアは若干諦めたような調子でヴェルタインに話しかける。
すると、ヴェルタインは深刻そうな顔で言う。
「時間は稼いだ。あとは攻撃をかわすことに徹しましょう」
ヴェルタインの真意はわからず、その場にいた全員が首を傾げた。
一方の、2体の不定形の分身を従えるペリドットは、睨みつけてくるエンディースとミアを不気味に嗤笑していた。
「全く、こんなところでバレるなんて計算外だったけど……取引といこうじゃないか。どこまで知っている? それを吐いたら、命くらいは……」
そこまでペリドットが話した瞬間、今度はミアの触手が飛んでくる。
ペリドットはそれを液状のスポアを使って弾き飛ばし、ゆっくりとエンディースらを見据えて、再び大量の液体をだらだらと指先から垂らし始める。
「……決め台詞くらい言わせてよ。まぁ、こういう一方的な虐殺は僕も好きじゃない。別に殺戮好きなわけじゃないしね。改めて取引といこうよ。君たちを殺さない代わりに、君たちのプランを知りたい……元々はそれが僕の目的だったからね。君たちのプランを知ることは、僕らのプランに貢献する」
「貴様……何が目的だ?」
今の時点で、エンディースはこの取引に対してのメリットを考えていた。
勿論、ここで計画を吐露することは少なからずいいことばかりではない。しかし、相手が何者か、相手のプランについて少しでも知ることができれば逆にメリットのほうが多くなるかもしれない。
そのためには、とりあえず話を引き伸ばす必要がある。
その思惑どおり、ペリドットは話し始める。
「目的についてはノーコメント。大体、話すわけないだろ。話さないなら今すぐ殺してもいいんだよ?」
「待て。取引に応じないとは言ってない。お前だって、むざむざと殺すよりは情報搾り取ったほうが利口だからな。だからこそ、対話が必要だ。そうだろう?」
エンディースは、あくまでも冷静に駆け引きを始める。
そして、それを聞いたペリドットは少しだけ思考した後、首を縦に振り話し出す。
「ふむふむ……確かに君の言いたいことはよく分かる。どうやら、情報を絞り出したいらしいけど、僕もそこまで暇じゃない。無駄口を叩くなら、全員ぶっ殺して元のプランに戻るだけ」
「……否が応でも、こちらの情報のみが欲しいということか?」
「当然だ。こちらはお前たちを瞬殺できるほどの力を持っている。力の差は歴然だ。要求するものがまず間違っている」
あくまでも自らのスタンスを崩さないペリドットに対して、エンディースはミアにアイコンタクトを取り、アーマーを作り出す。
それは、交渉を放棄し、真っ向から衝突することを表明することと同意義だった。
臨戦態勢に入っていくエンディースを見据えたペリドットは、小さく微笑みながら、自らの手のひらを翳すように突き上げ、そこから大量に落ちてくる黒色の液体をゆらゆらと携え、その隙間にあるアーマー状態のエンディースを捉える。
「後悔するぞ?」
ペリドットの言葉を皮切りに、2人は視認することが困難なスピードで動き始める。
最初に攻撃が着弾させたのは、エンディースの方だった。
ほぼ真っ向から迫ったペリドットに攻撃したと認識していたが、攻撃が着弾したのは分身の1体で、先程のオフィリアの時と同様、カウンターを狙っているようだった。それを見逃さなかったエンディースは、めり込んでいる腕のアーマーを変形させ、今度は内部から分身を破壊にかかる。
すると、思惑通り分身の1体は奇怪な音を立てながらどろどろに溶けていく。一応は攻撃が通っているようだった。しかし、破壊された分身は、液状となって再びペリドットの方へ回収されるばかりで、再び分身として形成されそうな状態だ。ほとんど危機は脱していないと言えるだろう。
一方のペリドットは、分身が破壊されることを想定しているのか、そのまま液体を纏った利き腕でストレートを決める。そのストレートは、一切勢いを緩めることなくエンディースの背部に直撃した。
エンディースの背部には鋼鉄に匹敵するアーマーが備えてあり、襲撃こそ緩和せずとも致命傷には至らないようになっている。しかし、攻撃が着弾した数フレーム後、エンディースの背部のアーマーは、ごぎゃりと鈍い音を上げながら、強烈な罅を残した。
一瞬、エンディースは自らに起きたことが理解できなかったが、すぐさま何が起きたのかを理解する。
先程自らが相手の分身に行ったことをそのままやられたのだろう。アーマーの内部は外皮に比較すればかなり脆い。そこを突かれたのだ。
思わぬ攻撃を受けたエンディースはすぐさま背部へと体の方向を変えるものの、先程の戦闘のダメージにより反応は相当鈍い。それが災いしたのか、完全に方向転換する前に、エンディースは拘束されてしまった。
気がつけば、3体の分身が自らの肉体を縛り上げていて、完全に拘束されている状態だ。
この絶体絶命な状態に、エンディースが感じたことは相手への称賛だった。
これほどまでに、自らの手足のごとく分身を出したり消したりすることは、正気の沙汰ではない。ここまで圧倒されれば、相手に残っているのは称賛のみである。
「……ここまでとはな」
「お褒めの言葉、素直に受け取っておくよ。さようなら」
ペリドットは、そう言いながら、自らの手のひらから生まれた槍のような物質をエンディースに突き立てる。そして、それは一気にエンディースの肉体に向かって放たれる。
しかし、それは着弾することなく、液状となって地面に伏した。
「…………簡易DAD、完成させていたか」
ペリドットはそう言いながら、震える指先を一瞥した後、今度はヴェルタインをにらみつける。
そこには、何かの起動装置を持ったヴェルタインがあった。その他の分身も、同じように液体に変化していて、力なく床に寝そべっている。
「貴方が裏切っていることはわかってた。だけど、ダウンフォールのエネルギーを抑え込むには、貴方の残存エネルギーが最低になるときじゃなければならなかった……油断したわね」
ヴェルタインはそう言いながら、ペリドットの眼前に起動装置を投げ捨てる。
「……僕の体に仕込んだな。魔天エネルギー無力化システムの簡易版……こんなもので……」
ペリドットは、そう言いつつ、自らの力を振り絞り、撹乱するように液体を大きく波打たせ、その隙に一気に出口へと向かう。
「今日のところは引き上げてやろう。ただ、邪魔をすれば殺す。それは言っておこう」
ペリドットはアニメのような台詞を残してアジトを後にする。
嵐が過ぎ去ったような簡易集会場は、多くの者の息遣いだけが残されていた。暫くの間響いた呼吸音を切り落としたのは、簡易DADを作成したヴェルタインだった。
「リーダー、これからどうするんです?」
問いかけられたエンディースは、もの一つ考えるようにため息を付いた後、ゆっくりと言葉をつなぎだす。
「……我々の目的は、ルイーザ全体を滅ぼすことだ。そのために、トゥールとメルディス両方利用してきたが、エノクがここまで動いているのなら、俺達だけで行動するのは死を意味する。それなら、先にエノクを潰す」
「潰す? 本気で言っているの? あんな化物を潰せると思うの?」
ヴェルタインの反論に対して、エンディースは先程のヴェルタインが行ったDADによるエネルギーの無力化を指摘する。
「ある程度消耗させた状態ならば、ダウンフォールであろうがDADの影響を被る……この情報は有用だ。そして、このコミュニティには周縁DADシステム、ウロボロスがある。可能性は十分あるだろう。ただそれをするためには、ほとんどの軍事力を保有するトゥールに接触する必要がある」
その言葉に反応したのは、エンディースの側近的な存在であるミアだった。
「……大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だ。俺たちがメルディスを語ったことについては、トゥール側はまだ気づいていないはずだ。こちらはあくまでもエノクεを確保する動きで貫けば十分だろう」
あくまでも冷静に口にしたエンディースに対して、ヴェルタインは説明を求める。
「それについては聞いていないわね……あなた達、何をしていたのかしら?」
「ルイーザの天獄の話はお前たちも知っているだろう? トゥール派にしても、メルディス派にしても、あの便利屋集団については警戒していた。だから、メルディスを語ってあいつらを潰そうとしたのは宴だ。時限爆弾を仕掛けてはいるが……どうなることやら」
「時限爆弾?」
「ホリスとタウンゼントに、ルイーザの中枢となる銀行から金を強奪させている。その金を、奴らに仕込んでおいた。もうそろそろ、ケイティ・ミラーが警察に連絡し、あいつらは社会的に失墜することになるだろう。うまく事が進んでいればいいが、今の所ルイーザに仕込んでいる連中がいないから、それを確認することができない。だが、オフィリアの報告によれば、芳しくないだろうがな」
「……これについて、知っていなかったのは私だけなのかしら?」
ヴェルタインは、すべての話を聞いて苛立つように他のメンバーを一瞥した後、エンディースに視線を戻す。
すると、エンディースは申し訳無さそうな顔で続ける。
「お前とペリドット、もといエノクδは新入りだったからな。同時期に加入したこともあり、スパイを疑っていたんだ。結果として、お前はこちら側だったようだがな。お前のおかげで助かったよ」
「……まぁ、疑われても仕方ないわね。ペリドットとパートナーだったから尚更ね……」
「でも、どうしてペリドットを?」
疑念の正体を探るミアに対して、ヴェルタインはペリドットの悪行を続ける。
「エノクεの確保をする際の独断や、それ以外に一人で行動することが圧倒的に多かったから、あの人の体に簡易版のDADを仕込んでいてよかった。まぁ、それがあったからここで尋問したんだけどね。彼の能力から、エノクδの可能性があったのは最初から気づいていたから。でも、とりあえず信用してもらえたのは嬉しいわね」
「あぁ。お前の功績は大きい。そうと決まれば早速行動しよう」
エンディースはここでようやく安堵した調子で全員にそう言うと、ゆっくりと集会場を後にする。
その一番後ろから、ヴェルタインは満足げな顔で嘲笑っていた。
***
アジトを後にしたペリドットは、疲れたような表情で寄宿舎付近のベンチに座り込み、大きくため息をつく。
ベンチには、イレースらの護衛をしているネフライトが座っている。
ネフライトは、ペリドットに向かって「お疲れ様」と声をかける。
「……ここまではプラン通りだね。たく、演技なんてやったことなかったから、これで大丈夫なのかもわかんないよ」
「まぁいいじゃん。ヴェルタインを自然な感じでスパイにすることできたんでしょう? 大丈夫だって」
「軟玉さ、多分エンディースと遊んでたのは君でしょう? テンペストのことは聞かされているはずだけど、どうしてそういう事するのかなー」
「楽しかったからね。こんな楽しいことは久々、橄欖石も楽しいこと、好きでしょう?」
「煩いなぁ。僕はあんまり戦うことは得意じゃないんだよ。ほら、僕は一旦ノアのところに戻るからね。しっかり頑張ろう」
「はーい」




