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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第七章 狡猾な管理者
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肉壁の作り手

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 全体的にこの物語は視点切り替えが多すぎるというのは一つの課題だなと思って書いております。ちなみに、なろうで公開しているこの「不条理なる管理人」は、完結後に非公開にし、完成版を作成する予定です。今から改善点がぽこぽこ出てきているのはちょっとアレですが(´・ω・`)

 次回の更新は来週月曜日9月3日20時となります!興味がある方はぜひぜひどうぞ!☆(´ε`


・魔天コミュニティ-簡易集会場



 魔天コミュニティ郊外の進入禁止エリアは、トゥール派が管理している演習場だった。一般市民が立ち入ることはできず、基本的には軍人のみが使用するが、トゥール派と繋がっている宴は主にそこをアジトとしており、定期的な情報交換が行われている。

 今回のトラブルにおいても、それは変わらず、宴のメンバーは一旦この場所に集まり、情報収集を始める。


 集まったのは、コクヨウのネフライトに甚大な被害を被ったエンディース、ミア、ホリス、タウンゼントと、それに合流したオフィリア、アレクシア、ヴェルタイン、ペリドットである。なお、先程交戦し負傷しているホリスとタウンゼントは、現在療養室にいるため、情報交換には参加できない。

 宴はこの8名で構成されている。もっと言えば、これらの人物以外に、各々のメンバーが人材を引っ張ってきてマンパワーを補うようになっている。中核にある人物たちは、できるだけ情報を漏らさないようにするために少数精鋭を基本として、情報の流動性を少なくしているのだ。


 そんな情報交換のなかで最初に議題となったのは、「天獄への攻撃情報」だった。

 指揮をしているエンディースが、天獄への攻撃を担当しているオフィリアらに説明を求めた。


「オフィリア、アレクシア、天獄はどうなっている?」


 それに対して答えたのは、オフィリアだった。


「予定通り、ケイティ・ミラーが今回のことを天獄に持ち込み、盗品の金を渡すことに成功したようですが、バレたようです。既に計画通りにはいかないでしょう。行動しているのはアーネストのストラス、そして正体不明の事務員です。目下ストラスは、我々の戦力では到底及びません。かなりの強敵であると言えるでしょう。事務員の少年は全く情報がありませんが、そこまで気になることはないでしょう。ただし、分かる通り天獄はかなり活発な状態になっています。早急な対策が必要であると思います」

「わかった。俺たちはεの確保に奔走しているが、コクヨウの少年に阻まれた。これについては、ホリスから聞いてほしい。だがそれ以上に……ペリドット、説明してもらおうか? どうして、あのタイミングでイレースを襲ったんだ?」


 エンディースは、話の矛先をペリドットに向ける。

 ペリドットは、一番最初にイレースらを襲撃した、いわば宴がこのタイミングで行動する事になった原因である。これは、ペリドットの独断であり、それについての説明責任を要求することは当然だった。

 一方のペリドットは、それを聞かれても一切表情を変えることなく話し出す。


「あの状況で襲撃することで、イレースを監視するためって言うことと、本人の警戒心を軽減させることが目的だ。僕は全然、あのときの対応がミスってたとは思わないんだけど」

「お前の意見はわかったが、どうしてそれを報告しなかったんだ? 確かに、お前はエノクεを確保するときにフォローアップを行ったが、それ以外のお前の行動はこの組織の利害とは逆行するものだ。これほどまでに、俺達に対して反逆的な行動を取るのは、なぜだ?」

「今回のトラブルには、厄介な人物が多く参加している。だから単独行動になりすぎたところは謝るけど、決して組織に背こうとなどしていない」


 あくまでも冷静に対処しようとするペリドットに対して、異議を唱えたのはパートナーであるヴェルタインだった。


「……ペリドット、それならどうして私にも言わずに実行したのかしら?」

 それに対して、エンディースは耳聡く反応する。


「どういうことだ? 二人一組で行動する時は、必ず双方の同意が必要なはずだ。組織に背いていないと、よく言えたものだな」

「あのときは即座の判断が求められた。ヴェルタインはちょうど、偵察を行っていたし、すぐに同意を得ることは不可能だった。状況によっては、このルールを無視しても構わない、それは明文化されていたはずだが?」

「それならばどうしてヴェルタインと行動しなかった? お前の行動は、独断的すぎるんだよ」


 追い詰められたペリドットは、重い溜息を付きつつ、両手を上げながら嗤った。


「……パートナー制度、なかなかいい手段だと思う。ヴェルタインは殺しておくべきだったかもしれないな」


 ペリドットはその言葉とともに、腕からとろとろと不気味な液体が溢れ始める。

 ついに本性を現したペリドットに対して、その場にいた全員が臨戦態勢に入り、ペリドットから一度離れ、全員でスポアを出現させる。


「やはり……ノアの手先か」

 エンディースの言葉を聞いたペリドットは大きく首を傾げる。


「どこまで知っているのか……知りすぎているのなら、ここで始末しておこう」

 ペリドットはその言葉とともに、体中から大量の液体を出現させ、辺り一面を黒色の液体で満たしていった。

 その液体たちは次第に、奇怪な唸り声を上げて人型を成していく。やがて、それは完全な、4体の人型となった。うねうねと鈍い動きをしている4体の人型は、笑うような音を上げながら、すべてが不気味に臨戦態勢に入るように、体中から畝るスポアを出現させる。

 その様を見ていたエンディースは、ペリドットがエノクδであることを確信する。


「お前……エノクδか!?」

 エンディースの言葉に、ペリドットは嗤笑するように口を開く。

「判断は任せるよ」

 そして、その言葉とともに異次元のスピードで距離を詰めてエンディースを蹴り飛ばした。明らかに判断力が鈍っているエンディースは、ペリドットの攻撃を避けることができず、大きく吹き飛ばされてしまった


「……どうやら、かなり消耗しているようだな。ホリスもタウンゼントもいないようだし……どこで遊んできた?」


 挑発的なペリドットの台詞の直後、オフィリアが自らのスポアで攻撃を開始する。その攻撃は背部から行われ、かなりの破壊力と同時にスピードも備えていて、ペリドットが反応することはできない領域のものだった。

 しかし、その攻撃はペリドットに着弾することはなく、代わりに何か不吉な感触を持つものに着弾した。


「こいつ……」

 オフィリアは着弾したそれを理解するまでに数フレームほどかけてしまう。

 攻撃を受けたものは、ペリドットが作り出した人型の分身である。ちょうど、胸部にスポアで強化された利き腕が突き刺さってしまっている。しかし、人とは言い難い形質を持っていた先程までの分身とは異なり、既にそれは完全な人と化していた。そして、体内にめり込んでいるオフィリアの利き腕は大きく締め上げられるような感触を覚え、それと同時に目の前に迫っている狂気の映像に身を震わせることになる。


 着弾している分身の胸部が大きく歪み、まるで波打つように皮膚が変化し始めていた。それはやがて、幾千もの槍のような形状に変形し、一気にオフィリアに向かって突き立てられる。


 それを視認したオフィリアは、自らに迫った危機にようやく気づき、すぐに腕を引き抜こうとする。だが分身の肉片は侵食するようにオフィリアの腕を締め上げ、離すことができない。その状態から、攻撃を回避するには利き腕を犠牲にするしかなかった。

 その数秒後、オフィリアは自らの利き腕を切断することで窮地を脱する。しかしそれを行ったのは、オフィリアではなくヴェルタインの方だった。


 ヴェルタインは、自らの腕を大鎌のように変形させ、最小の動きでオフィリアの腕を切断し、すぐに分身から引き剥がす。

「すぐに止血して再生して。貴方ならすぐできるはずでしょう!?」

 鬼気迫るほどの勢いで尋ねられたオフィリアは大きく首肯するものの、ヴェルタインはそれを視認する暇もなく、眼前に迫っている2体の分身を見据える。


 片方の分身は、オフィリアの切断された腕が未だに突き刺さった状態で、全身から流動的な槍のようなスポアを伸縮自在に伸ばして、鈍い動きのままこちらに迫っている。

 もう片方の分身は、四足歩行の動物のような佇まいで、ぎこちない動きの揺らめきとともに、背部から大量のスポアを出現させている。


「全員、この場から逃げることだけを考えろ! 相手はδだ!」


 ヴェルタイは、蠢き続ける分身を一瞥し、すぐにそう叫んだ。

 それに反応したのは、オフィリアとアレクシアらであり、今すぐにでも簡易集会場から抜け出そうとする。特にアレクシアは、負傷してしまったオフィリアを抱えあげ、最も近くにある出入り口に近づくものの、それよりも早く四足歩行の分身がスポアを射出し、出入り口を塞いでしまう。


 それを見たヴェルタインは、溜息をつくように小さく嘲笑い、嫌味っぽく口を開いた。

「一体でも殺すしかないのね……用意周到なこと……」

 最悪な状態の中で、ヴェルタインは不気味に動く2体の分身を見据え、できるだけオフィリアの再生を待って畳み掛けることにする。

「アレクシアも参加して。私一人じゃ捌き切る自信ないし! その間に、オフィリアは全力で腕を治して」

「今治してる!! あと3分くらい」

「3分生き残れれば……幸運ね……」


 ヴェルタインはそう言いながら、自らの腕を構えて、眼の前の2体を見据える。



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