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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第七章 狡猾な管理者
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無限の軍勢

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 前回まさかの投稿遅延が発生してしまい、心の中では「はじめてのお休み」という最悪の状況に切迫した記憶があります。そんな事にならないように今後気をつけていきたいと思います。せっかくここまでお休みがないので、完結まで絶対に休みたくありません(´;ω;`)

 ちなみに、この物語で用いられている「管理人」と「管理者」はそれぞれこの物語のラスボス格の2人を示しています。推理好きの人はぜひ探してみてくださいね。

 次回の更新は来週月曜日8月13日20時となります!興味がある方はぜひぜひどうぞ!☆(´ε`

 巨木のように大きな一本の触手が出現し、そこから枝分かれするように無数の触手が伸びている。そのグロテスクな光景は、イルシュルの記憶に強烈なインパクトともに焼き付けられることになった。

 その触手は、室内を侵食するようにさらなる広まりを見せ、まるで生きているかのような振る舞いをしている。自由気ままに空中に犇めき続けるそれは、確実にイルシュルの存在のみを捉えている。

 こんな状況であれば、首を縦にふるしかない。嘘を付くことも許されない。一瞬にしてそれを悟らせるものだった。


「ザイフシェフト滅亡による……票の確保です……」

「いい子ね。そうなの、ザイフシェフトをぶっ壊せばどんな票が稼げるのかしら?」

「25年前の事件を引き起こした街を滅ぼせば、過去より人間に恨みを持っている者たちの票を掻っ攫える。あとは今抱えている軍事力をすべて総動員させれば、はれてトゥール最高指導者様の爆誕、ていうことか?」

「詰めが甘いねぇ~、相変わらず」

「ザイフシェフトをふっ飛ばせば、彼ら独自に進んでいる研究とかその他諸々の経済効果も吹き飛ぶことになるが、それは見越しているのか?」

「ついでに言えば、人間に対して何らかの期待を示している連中をすべて敵に回すことになる。あまりいい案ではないことは間違いなさそうだけど、どうなの?」


 相変わらずボコボコにされてしまっているイルシュルは悔しそうな顔色で大きく息を飲む。


「やはり、具体的な功績を上げることを目的にしたほうがいいと思ったんです。もはや我々の実力では、メルディスに勝利することは不可能……だから、これを選択しました」

「素直なのはいいことだねぇ。でも、ちょっとやり方がおかしいところを見ると、精神的に相当お疲れのようねー」

「ということで、君の後釜になる人を用立ててはいかが?」

「つまり、クビにするの? 可哀想じゃないそれー」

「いや、役職の交代を」

「それについては国家側に委ねればいいじゃん。私達の管轄じゃない。ビアーズの言っている事はあくまでも一つの提案ってこと。こいつらの話を真に受けたら生きてけない」

「えっ、キャノン、それは私、傷つくぅ」

「ビアーズの言うことなんて99割嘘なんだから」

「良かったねビアーズ、限界突破だ!」

「えぇ……、ってそれはおいておくとして、これならメルディス側の目的と、宴側の目的も把握しておく必要があるが……メルディスはどこにいる? 二家会議にすら顔出さないってことは相当な事があるんだろうなぁ?」

「これ99割のうちの一つです」

「うるさい!」


 そんな酷い会話を繰り広げられている会議室の扉が「お待たせてして申し訳ございません」という言葉とともにふいに開いた。

 そこにあったのは涼しい顔を浮かべているメルディスだった。メルディス側から見れば、臨戦態勢の化物3体がお茶会をしているようなものなのだから、さぞ狂気的な光景だろう。しかしそれを見ても、メルディスは一切表情を変えずにゆったりした仕草で腰を下ろす。


「老人なものでしてね。腰を掛けさせてもらいますよ。二家のお三方、改めておまたせしたことにお詫びさせていただきます。そういえば、メアリー様はご不在なのですね。フィリックス様、なにか、ありましたか?」


 そう問われたフィリックスは、首を横に振り、やれやれといった調子で笑う。

「その理由については、そちらが語るのが先でしょう? メルディス様~」

「最高権力者の前で馬鹿な会話して申し訳ないですねぇ」

「いえいえ、それについてはフィリックス様のお言葉の通りでございます。実は、幾らか、ネズミが入っているようでしてね。それの調査をしているうちに二家会議にすら遅れてしまいました」

「ほう、ネズミ、とな?」

「素敵な響きねぇ……ネズミ、どちら様かしら?」

「ま~た面倒くさそうな……」


 二家の3人は各々の反応を見せた後、メルディスは「ネズミ」のことについて言及する。


「ノアが、再びコミュニティで動いているようです」

 その人名を聞き、3人は驚くような表情を浮かべた後、笑いながら語り始める。


「ハッハッハ……まさか次元の違う化物が動くなんてねぇ」

「面倒なものに懐かれたな。エノク解放の重罪をやらかした怪物が今になって顔を出すなんて、何を企んでいるんだか」

「アレが関わるんなら、ベルベットは逃げようかな。βの封印式を担当したうちとしては、ヤツに相当な恨みがあるからな」

「それなら復讐すれば?」

「そんな事できたらもうしてるわ。あんなのに歯向かえば命がいくつあっても足りねぇだろう」

「言えてるな。取引してサクッとトラブル解消してくれるならその方針でいてほしいな」

 相変わらずの老人会話に、メルディスがにこやかに口を挟む。


「あの、申し訳ないのですが……今回、そのネズミの中に、50年前に投棄されたエノクδが参加しているようです。これは、ビアーズ様のご子息、イレース様の報告にもありました。区域Aを襲撃した者は、δと見て間違いないでしょう」


 このメルディスの言葉に対して、ビアーズは真顔で感想を述べる。


「コミュニティ終わるんじゃね?」

「私も同様の考えです。もしかしたら、δはコミュニティに対して復讐をしようとしているのではないでしょうか」

「やっぱりδ投棄は間違ってたっぽいわな」

「二家は結局決断をメルディス様に丸投げしたからねぇ。あのときは申し訳なかったわ」

「いえ、それは仕方がないことですから。問題は、本当にδやノアが今回のトラブルに関わっているのであれば、どうやって解消するかです。特にδはコミュニティに恨みを持って行動している可能性も高く、真っ向から衝突すれば確実にこちらが敗北するでしょう。なんとかして対話の機会を設ける必要があります。はっきり言って、ノア側の戦力は桁外れですから、絶対に戦闘はしない方針で行きましょう。いいですね、トゥール様?」


 メルディスの言葉に、トゥールことイルシュルはただ首を縦に振る。

 そんなイルシュルを一瞥したビアーズは、失笑したようにメルディスの言葉に同意する。

「まぁ……落ち込むなよな。散々いじめておいてなんだけど」

 同情的なビアーズのセリフに対して、キャノンはゴミを見るような目で睨みを利かせる。


「ビアーズさぁ、今トラブルの最中そんなこと言えるなんてピンときてないんじゃない? δだよ? 耳大丈夫?」

「煽りが弱い。はじめて共同作業したアレだろ?」

「結婚式かな?」

 意味不明な3人の会話に、メルディスが補足を加える。


「δは確かに、その力の強さゆえ、二家が初めて共同での封印を担当した案件ではありますが、結局頓挫したのでしたよね? 私は学術の面、つまりはデータの側面でしか理解していませんが、どれほどのものだったんですか?」


 メルディスがそう尋ねると、ビアーズはくたびれた調子で語る。

「化物の一言だ。いくら封印しようが、即座にそれをぶち壊すんだからたまったもんじゃない。持ち合わせるエネルギー量もエノク史上最高で、何より魔と天のエネルギーの比率が常に一定だから、物質であれば何でも作り出す。この性質のせいで、実際に封印できたのは、たった2回だけ。無理だってあんなの封印するの」

「というと?」

「簡単に言えば、δ本体に対して何かしらの危害、本体が生理的にそう判断した時に出現する生命体に阻まれて全く駄目」

「その生命体、恐らくはδが自分を守るために生み出した存在だったんだろうねぇ。体は完全にこっちと同じような感じで、しかも一体一体スポアの触手も使う。個体から派生する軍勢だわねぇ」

「食い止めるだけでも精一杯だったもんなぁ。最初は2体だけだったけど、その時点でかなり強いし、それに時間が経つごとに増えるし、負け試合だってーの」

「思い出しただけで虫酸が走るな。こっちも揃えられるだけの軍事力揃えてたのにー」

「しかし、あれが意識を持って行動し始めたって相当まずいだろう。もし仮に、本当に復讐目当てで行動していたら勝ち目なし。全力で手もみするか?」

「手もみで済んだらいいねぇー」


 三人の想定する事柄に対して、メルディスは苦笑いを浮かべつつ進行させる。

「δのことについては軍事力での解決は望めません。コクヨウの者たちに接触を命じて、トラブル解消を考えています。二家の皆様はなにか打開策はありますか?」

 メルディスがそう告げると、ビアーズは挙手をして発言する。

「二家が直接的に介入する方針で行く。流石にこれほどの大物が絡んでいるとなると、私達も動かなければならないだろうからな。とりあえず、コクヨウには私が指揮を執ろう。それでいいな? トゥール様?」

「え、えぇ……ビアーズ様がいいのであれば、お願いしたいですね」

「キャノンはベルベットとともに、最悪の事態に備えておけ」

「了ー解」

「まぁ仕方がないね。うちらも正式に参加することになりますな」

 

 ある程度方針が明確になったところで、メルディスはすぐさま立ち上がり、その場をあとにする。

「方針が決まったところで、早速行動しましょう。それでは、失礼します」

 そそくさと出ていくメルディスの後を追うようにイルシュルも出ていってしまう。どうやら、二家会議はお開きのようだった。

 いつも以上にあっさり終了してしまった会議に、残った3人は顔を見合わせる。


「あらら、脅しすぎちゃったかな?」

 そう呟いたキャノン以外は、全く気にしてなさそうな調子で会話を続ける。


「知るか」

「まぁ、イルシュルはメルディスことベヴァリッジに比べると見劣りするところは多いわね。あの出来の悪いちびっ子、もうちょっと頑張ってほしいわ」

「うちも、イルシュルに頑張ってほしいけどね、ベヴァリッジはちょっと秘密主義な感じが嫌い」

「そうだねぇ。底知れない怪物、そんなところかしら」

「どっちにしても、こっちも行動するぞ。平穏を壊される前にな」

「もう壊れている気がするけどねぇ。私はイレースの所によっていくから、2人は帰ってて」


 キャノンはそう言いながら、会議室を後にする。

 残った2人も即座に行動を開始しようと重い腰を上げていく。


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