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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第六章 復讐と厄災
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不条理なる管理人

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 やっとここに来てタイトルを回収することができました。しかし、まだ終わりまでは長く続きそうです。ココらへんから連載の厳しさを身にしみていますが、頑張って休載せずにすべて終わっていただきたいものです。

 この部分は若干力尽きている感じが否めないので、近い内に改稿が入るとは思いますが、大筋は変わらないので、記憶の片隅に残っていることを切に願います(´・ω・`)

 次回の更新は来週月曜日7月16日20時となります!興味がある方はぜひぜひどうぞ!☆(´ε`

 それは、ルネの夫であり、このグルベルト孤児院の院長であるミラだった。

 ミラは呆れた調子で笑いながら、気配を殺してルネの肩をぽんと叩くと、ルネはビクリと体を震えさせて背部に忍び寄ったミラを見て、大きくため息をつく。


「びっくりした……もう、まじ怖い……」

「お前も懲りないやつだな。散々今回のことから手を引けって言っただろうに」

「ケイティさんの話を聞いたら、尚更後の引けないよ」

「あの話を聞いた時点でこうなるとは思ったけどな、いざこうなるともう面倒くさくなってくる」

 面倒くさそうに顔を顰めたミラに対して、ルネは申し訳なさそうな表情を窄めて言う。


「わかってるんならさ……あれ、なんでケイティさんの話の内容知ってるの?」

 ルネが読み飛ばしてしまいそうな疑問を尋ねると、ミラは一切躊躇せずに答える。

「お前たちがあの暗号に気づいたときお茶をしていたから」


 その解答を聞き、ルネは途端に表情を翻し、怪訝な素振りでミラを見据え、一番最初に浮かんだ言葉をそのまま吐き出す。

「…………浮」

「仕事だ。お前がここに来たって聞いたから、先回りしようとして、彼女とコンタクトを取っただけ。この街を潰そうとしているんだろう? 魔天コミュニティが」

 間髪入れずにそういったミラに、ルネはホッとした笑みを浮かべたのとほぼ同時に、その逆の表情に戻し、表情を右往左往させる。


「知ってるなら、もうちょっと僕を頼っても、いいんだよ?」

「勝手に動くだろ。それに、今回は俺らの出る幕じゃないさ。傍観者に徹しよう」

「どういうこと?」

「カーティスの失踪、今回の事件、ついでに魔天コミュニティでのトラブル、どこが発端であったかは知らないが、恐らくは何かしらのアクションを起こしたんだろう。誰かがな」

「誰かって?」


 混乱しているルネに対して、ミラは一つ一つ自らの考えを述べる。

「知らんが、色々な勢力が交錯しているのは確かだろう。動くためにはもう少し情報が必要だし、今は待機でもいいんじゃないのって話。俺らは仕事があるしな。ていうか、この仕事のせいでアイザックが使い物にならなくて大変なんだよ。カーティスの件だけでも解決してくれ」

 仕方なさそうにそういったミラに対して、ルネは少し安堵した。その言葉が、今回の件に介入することを許したことになることを理解したからだ。


「アイザック……息子なんだもんね、ほとんど」

「さっき教壇に立たせたんだけど、学者時代の言葉遣いで抑揚皆無だからみんな爆睡してんだよ。なんとかしてくれよ」

 酷すぎる状態のアイザックの話を聞き、ルネは苦笑いしつつもそれに同意する。

 そしてミラに対して情報開示を求める。

「それなら、君だって情報提供してよ。何にも知らないの?」

「だからないって」

「じゃあテンペストとかウロボロスとか、方舟とかは?」

「何言ってんだお前」

「茶化してるんじゃないよ。セフィティナの机の中にあったメモに書いてあったんだ。何か知らない?」

 まさかの暴挙に出ているルネに対して、ミラはひっそりとデコピンし、知ってそうな人物を挙げる。


「お前何勝手に開けてんだよ。まぁセフィティナは絶対に何か知ってるな。うーん……テンペストとウロボロスは知らないけど、方舟についてはなんか聞いたことある気がする」

「知ってんじゃん!」

「だからよく知らねって。アルベルト・ミラーが言ってたんだよ。この街には、朽ち果てた方舟があるってな。でもそれが何であるかは知らないらしい。クリーピーパスタ的なものだろうが、どういうものなのかすら知らない。名前くらいは流布してる程度だな」

「そっか。わかった。何かわかったら連絡頂戴ね」


 ルネの言葉にミラは仕方なさそうに肯定した後、ルネの頭をぽんぽんと叩き「気をつけろよ」と言い残して職員室を後にする。

 残されたルネは、得た情報をメモし、次の目的地をカーティスの新居に向かった。



***



 ルネがグルベルト孤児院の職員室を漁っている途中、その光景を視認し、深々とため息をつく者がいた。それは、この孤児院の用務員的な存在であるサファイアという青年で、面倒くさそうに2人のことを一瞥した途端、すぐにグルベルト孤児院を後にして、とある場所に向かい始める。


 そこは、カーティスの新居となっている瀟洒なマンション「グラナダ」の一室である。そこには幾人かの人影が先にあり、サファイアは遅れての参戦となる。


「面倒事発生だ。ルネとミラが本格的に動き始めてる。このまま行けばメチャクチャにされかねんぞ」

 サファイアは扉をぶち破る勢いで室内に入っていき、そのまま室内を視認する前にそうぶちまける。

 すると、それを聞いた4人の少年たちは笑いながら話し合いを開始する。


 一番最初にそういったのは、不気味なポンチョのようなものを羽織っている少年で、肉体の節々に気味の悪い入れ墨が入っている。少年は笑いながら一人ひとり点呼を取り始める。

「待って笑いすぎて腹痛いから〜。さ、とりあえず点呼を取ろうか。エノクγ、挙手」


 少年の声に対して挙手をしたのは、やる気のなさそうな少年である。美術館に展示されていそうな天使のローブを身にまとい、絵に描いたような金髪を指でいじり、眠たそうに挙手をすると、点呼を取る少年は続ける。


「じゃあ次、ベリアルこと瑪瑙(アゲート)

「はーい。いまーす」

 瑪瑙ことベリアルは、ストラスに黙ってここにいることを若干詫つつ、すぐにサファイアのことを一瞥する。

 しかし少年の点呼はまだ続く。

「次、軟玉(ネフライト)

「いるよー」


 ネフライトは少年の声に対して大きな声で返事をする。

 そのネフライトは、魔天コミュニティの中でもかなり重要な役職であるコクヨウに所属していたネフライトと同一人物である。

 それを視認すると、少年は最後に「橄欖石(ペリドット)は潜入中、次に青玉(サファイア)」と叫び、慌ただしく室内に入ってきたサファイアが手を挙げる。


「うんうん、全員いるね。水晶(クリスタル)は次の潜入の準備をしているから、完璧だね」

 リーダー格の少年がそう言うと、アゲートは嘲笑を含んで一切名前を呼ばれることのなかった「紫水晶」の名前を口にする。


「その場にカウントもされない紫水晶(アメジスト)についてどうですか?」

「知らないよ〜。方舟の場所だって未だに捜索中、挙げ句アイザックに悟られるようなことしでかすし、アヤツは事の重大さを理解できてないな。もう二度と仕事をすることはないぜ」

「悲惨な言われようだねぇ。でも、僕もストラスに言わずに今回のトラブルに巻き込まれちゃったし、気持ちはわかる。で、どうして僕ら一旦戻されたの? 特に深い理由なく戻されてるのなら怒るからね」


 アゲートの辛辣な言葉遣いに対して、少年は苦しく笑い、会話を続けた。

「あーん、やめーてー、おっちゃんショタに嫌われたら生けてけなーい」

「早くして」

「実は紫水晶がアイザックに情報を漏らしたせいで、今回のプランに若干陰りが生じ始めている。というのも、今回のプランは一歩間違えばこの街ごと消し飛ぶことになる。そのフォローアップってことで、今回のことをプランに組み込むことにしたんだよね。で、そのプランっていうのが、キーマンとして使っていた”アーロン・ベック”だ。とりあえず、魔天コミュニティ側に入ってる”あの子たち”のフォローも含めているし、紫水晶が余計なことをしないようにするのもある。それに、”不条理な管理人”が想像以上に厄介だから、今のうちに手を打っておく。っていう感じなだけど、どう、アゲート? ちゃんとした理由だったでしょう?」

「まぁそうだけどさ〜、こうなることなんて分かってたよね? なんで、ルネたちの協力も仰がなかったのさ。十中八九、今のこと説明したら協力してくれたはずなのにさ」


 アゲートが最もなことを尋ねると、リーダーの少年が面倒くさそうに一つの名前を上げる。


「厄介なのは管理人だけじゃない。天獄に忍び寄っている厄介な奴らもいるしね。彼らはいわば囮っていうふうな使い方を望んでたんだけど、彼らの放置はおっそろしく危険な爆弾だったわけだねヤッホー」

 その言葉に対して、いち早く意見を述べたのはγだった。


「それなら今からでも説明したほうが良くない? これ以上余計な介入されると、マジで手遅れになるよ」

「それも素敵なアイディアなんだけど、いろいろと問題もある。彼らに伝えると、彼らのご機嫌に依存するようになっちゃうから、よほどの問題が生じない限りはこのままのプランで行こうと思うんだけどいかが?」

「よっぽどの問題って何かな?」

「”彼”に、辿り着かれたらアウト」

「なるほどね〜、アウトだねー」


 アゲートの言葉を聞き、リーダー格の少年は話をまとめ上げる。

「まぁということで、このプランを伝えたから、一旦もとの役割に戻ってもらう。役割を確認するね。瑪瑙はイレースたちの護衛を、軟玉はそのままコクヨウについて情報収集、青玉は”彼”のケア、僕と水晶はアーロン・ベックを使ってフォローアップ、γは物資供給、はいおっけー?」


 その言葉に対して、全員がゆっくりと首肯して各々の役割に戻るために行動を始める。

 しかし、その中で唯一アゲートのみ、リーダー格の少年に話しかける。


「ねぇノア、僕は僕の目的もあるから、それに即して行動してもいいかな?」

「あぁ、君のパピーとマミーのこと? いいよいいよ〜。存分に探してきなさいよ。まぁ、護衛の仕事は全うしてね?」

「わかってる。ヘマはしないよ。僕も家族のことは大事だからね」

「……その中に僕は入っているのかな?」

「ん?」

「悲しい」


 そんなこんなで一旦作戦会議を終え、各々は散会することになった。

 その中で、ノアと呼ばれたリーダー格の少年は、カーティスの日記を持っていて、それをポケットにしまいこんで、自らの役割を遂行するために行動し始める。



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