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不条理なる管理人  作者: 古井雅
終章 管理者
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エピローグ

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 最後です。あとがきでお会いしましょう。




・ルイーザ旧国境区 天獄



 事件が始まって3日間、ようやくすべてが終わったルネとストラス、若干気まずそうな顔をしているベリアルと素知らぬ顔で爆睡しているマリウス、ルネの膝を枕にして目をつぶっているミライがそれぞれ散見される。

 その場の空気感は最悪である。なにせ天獄の経済状況は本当に無残で頼みの綱の報酬も皆無であるという事実、それらすべてはストラスの苛立ちに繋がっていることは明白だった。しかし、そんな空気感をぶっ壊すように扉を蹴破りノアが高価なジェラルミンケースを持って入ってくる。


「やーやー皆、なーに顔が死んでるじゃんー! もっとハッピーにいかなきゃ」

「どの口が言ってんだボケ、報酬の方はちゃんと用意しているんだろうな? じゃなきゃ本気で挽き肉にしてやるからな」

「きゃー怖い。待って待って、ちゃーんとここに報酬を用意しているから! ね~?」

 ノアは大振りな仕草でストラスの前にジェラルミンケースを叩きつけるように置いた。

 無論、これをストラスはぶんどるように中身を確認しようとロックを解除する。しかし、この後に悲劇が起きる。


 大きなジェラルミンケースを開けると、そこにあったのは大金などではなく、銀行の封筒に入った数枚の札と小銭が少し入っていた。封筒にはそれぞれルネとストラスの名前が入っていて、「57600円」とだけ書かれていた。

 それを見たストラスとルネは途端に真顔に変わり、にっこにこなノアを一瞥する。このときに関しては普段温厚なルネすらかなりの怒りをはらんでいた。ストラスに至っては凄まじく鋭利で硬いスポアを携えて今にもノアを八つ裂きにしてしまいそうな勢いである。一方のルネはそそくさとジェラルミンケースの封筒を回収し耳をふさいだ。


 ストラスはルネの行動を確認した後、机に置かれているジェラルミンケースをノアに蹴り返し、おまけと言わんばかりに槍状のスポアを2本ジェラルミンケースに突き刺した。


「てめぇ本当にいい加減にしろよ。次ふざけたこと抜かしたらジェラルミンケースの二の舞になるぞ」

「いやーん、服に刺さってるー!」

「ノアさん……体まで貫通しなかったのはストラスの温情だと思う。これ一体どういうこと……あ」

 ルネは呆れた調子でそういうと、何かを察したように表情を暗くする。それを見たノアは「あたり~」と笑い、ルネに解説を求める。


「ルネはわかったでしょ?」

「ストラス、ルイーザの最低賃金、800円だったよね?」

「……ぶち殺す」

「72時間分で57600円……、僕ら最低賃金で雇われてたっていうことだよね?」

「はいせいかーい!」

「てめぇ今すぐ八つ裂きにしてやる!」

「ノアさん流石にこれは殺されても文句は言えないですよ」


 ルネが心底失望した面持ちでそう言うと、ノアはストラスから射出された大量のスポアを美しく回避しながら言う。

「だーって、僕はこの国の法令に則って正当な対価を決めたつもりなんだけど?」

「ガキの使いじゃねーんだよ。お前の体で黒ひげ危機一髪を催してもいいんだぞこの野郎……」

「ちょちょちょ待って待って、あ、ルネー! 助けて!」

「いや待って僕に言われても……ていうかストラス、早く黒ひげして。早く見たい」

「ヘルプー! あ、ルネ、お土産があるんだほら」


 ストラスからの猛攻を避けながら、ノアはルネに高価な佇まいの桐箱を渡される。桐箱には「ザ・マッカラン」と書かれており、それを見たルネは途端に目の色を変えて桐箱を回収し手のひらを返す。

「これは……マッカラン!!」

「ルネが大好きそうなヤツ、仕入れてきたよ!」

「ストラスストップ!」

「ふざけんな酒好きはここで一人だけじゃボケ!!」

「ノアさん大好き!」

「やったぜーショタを丸め込んだぜぇ」


 何気なく買収されたルネはすっかり桐の箱を持って鉄火場とかしたリビングからマリウスとミライを回収して別の部屋へと逃げてしまう。

 しかしそんなことはどうでも良くなったのかストラスは更にノアを殺す勢いで暴れまわる。

「野郎俺たちを最低賃金で雇おうなんていい度胸だな!!」

「助けてー!」

「ぶっ殺す!!」


 ストラスがノアの首根っこを掴んだのとほぼ同時に、いつぞやからどこかに行っていたアロマらが楽しそうに天獄へと戻ってくる。


「なんだなんだ~? 店の中がメチャクチャじゃねーか。おいストラス! なん何だこれは?」

「あ!? このポンコツが俺たちを最低賃金で雇いやがったんだよ、てめぇに言われたとおり報酬をふんだくろうしてるんじゃボケ!」

「あーストラス、それについてはこっちもある程度利益を上げてるから問題ない。そいつを釈放してやれ」

「どういうことだ!?」


 ストラスが鼻息荒くそう言うと、アロマは天獄用の通帳を投げ渡した。

 それを見たストラスは、3日前と比べて数十倍に膨れ上がった預金に驚愕の声を上げる。


「は!? お前これどういうことだよ!?」

「お前むしろなんで疑問に思わなかったんだ? いくら政府にとって良くないことがあるからって、20メガトンの水爆が爆発寸前で政府が絡まないわけ無いだろ」

「え……確かにそうだけど……じゃあこの金ってなんだよ?」

「今回のことが表に出ちゃ困るゴミクズ野郎どもに交渉したんだよ! 内密かつ確実に水爆を処理するから報酬をよこせってな!」

「あ!!?」

「お前もルネも立派な俺のコマとして動いてくれてたってことだな!」

「……お前、お前よぉ……マジで……おい」


 アロマの科白にストラスは思わず言葉をなくしてしまったようで、同じ言葉を反復する。

 しかしアロマはまったくもって気にすることなく更に追い打ちをかける。


「まーこれで、見事見事に経営難を救ったっていうことでいいな~。お前はとりあえず、ノアからのお小遣いをもらっておけばいいんじゃない?」

「ちょっと待てや! 俺の気持ちはどこに向かわせればいいんだ!?」

「そのへんのクッションにでもぶち当てとけばいいんじゃない? さー、とりあえず割のいい仕事だったし、新しい事業でも考えるか」

「お前謝罪もないのかよ!?」

「謝罪? むしろ感謝をしていただきたいくらいだね。経営難から救ってやったんだから!」



 アロマの傲慢な態度に辟易とさせられると、とりあえず怒りを押し殺してそのまま自室に戻ることにした。

 すると、自室にはベリアルが申し訳無さそうにストラスに頭を下げてくる。


「ストラス、色々と、本当にごめん」

「……もういいって、なんだろう、個人的にさっきのことで割と何もかもどうでも良くなった感じがする」

「アロマのことはわからなかったんだけど、流石にそれはちょっと、申し訳無さが強いよ」

「たっく、んなこと言うなら最初から全部話してくれればよかったんだよ。でも本当にもうどうでもいいよ。とりあえず、お前になんにもなくて本当に良かった。とりあえず水爆も完全に解除されたらしいから、結果万々歳だ」

「ストラス、本当にごめんね」

「それよりお前、両親のことはもういいのか? とりあえずは会えてよかったが……」


 ストラスが話を翻すと、ベリアルは首を縦に振りながらストラスの隣に腰を掛ける。

「勿論、ちゃんと両親と会うことができたんだ。おまけに話までできたのは、本当に幸運だったよ。でも一番嬉しかったのは、ストラスを紹介することができたことかな」

「嬉しいこと言ってくれるな。俺はお前に釣り合ってるのかなおのことわからなくなったな。ちょっとこう、ほらあの伝説の英雄の息子だったなんて本当に気が引けるわ」

「別に知らないさ。釣り合いとかに関したら、僕だって気が重いよ。本当に……」

「絶対俺のほうが気が重いだろ!」

「気が重いっていう話なら、僕は君の両親にまだ挨拶に行ってないよ! 別格でしょ!」

「うわー挨拶に行きたくない、俺が」

「いや行かせてよ。僕は今回の事件で君の両親どちらも見ているからね。話してもいるし」

「性格悪かっただろう?」

「そんなことはないって! ぜひ紹介されたいな!」

「はいはい、考えておきます!」

「考えておいてよ、絶対ね!」


 ストラスとベリアルは、そんな話を一頻りしたあと、いつもの日常へと戻っていく。

 今回の事件で、多くの者の関係が変わり、進退を繰り返す。仮初とも言えるほど繊細な日常は、次の綻びが生まれるまで続いていくことになる。


 多種多様な関係の中で、人の気持ちは乖離しているからこそ繋がっていく。少なくとも、ストラスは今回の件でそう強く心に刻まれることになった。



おしまい




 ここまでご覧いただいた方がいましたら、心からお礼申し上げます。2018年から書いていたこの物語はこれを持ちまして終了となります。当初はここまで長丁場のお話になるとは思わず、割と軽い気持ちでこのお話を始めたのですが、こんなに大変になるとは正直思ってもいませんでした。それでも、終わらせることができたのは皆様のおかげだと思っています。


 正直なところ、この物語は「人に読ませること」を前提にしていない構成で作られています。理由としては、自分の趣味趣向をメインにすれば、必然的に小説家になろうのターゲット層と合っていないことは明白でした。

 そしてこれを書いている最中、現実ではかなり忙しい状態で、プロットの部分では完走できるのか若干危ういところがありました(それでも想定の数倍になりましたが)。なので、基本的にこれは「自分の息抜き」としての部分が強く、それ以外ではほとんど書いていません。なぜ公開したのかと言われればただの気分の部分が大きいです。正直ブックマークもつくなんて思わなかったのですが、最終的に5人もこの物語に興味を持ってくださった人がいたのは驚きです。喜びよりも驚きのほうが強かったのは間違いありません。


 このような経緯ゆえ、この物語の自己評価は高くても30点ほどでしょう。書ききれていないところも多いですし、プロットの時点で手直しが必要なものが多く、何より冗長な部分が多いお話です。その分、この物語に登場したキャラクターの掘り下げができて、そういう部分では100点でしょう。

 諸々の部分で自分が楽しかったので全部丸く収まったような気がします。一人の自己満足の虚構に付き合っていただき、改めてお礼申し上げます。また新しい物語を投稿する際はよろしくおねがいします。お付き合い頂きありがとうございました。

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