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不条理なる管理人  作者: 古井雅
終章 管理者
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不合理な管理者-3

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 どんどんとこのコーナーが適当になっていっていますが、とうとう物語自体はこれでおしまいです。次回はエピローグとあとがきです。色々積もる話はありますが、それについてはまた後日(*´∀`*)


 最後の更新は来週月曜日30日となっております。最後までご覧いただけるととっても幸せです!


 すると、パールマンは素知らぬ顔で管理パスを入力し、それをノアに差し戻す。しかし、ノアはこれを拒絶する。

「なんかちょっと嫌な予感がするから君がやって」

「ここにいて水爆が起動すれば僕まで塵になるんだけど?」

「それでも、ほら、ジジィはコンピュータ苦手だから」

「はいはい」


 拒絶したノアに対してパールマンは笑みを浮かべながら端末を弄り、1分もかからずに逆セーフティを解除する。

「はいできました。どうぞどうぞ、解除してください」

「……ねぇ、ぶっちゃけ君、僕らについてどれくらい知っているの?」

「どれくらいって、正直全然知らないけど? コミュニティ内にある情報は、人智を大きく逸脱した能力を持つっていうことくらいだしね」

「君さー、もしかしたら僕らのことを知りたくてこんな取引持ち出したっていうことはない? なんとなく、君もこう、アイザックとかベヴァリッジみたいにマッドサイエンティスト感があるんだけど」


 ノアがそう苦言を呈すると、パールマンは初めて表情を翻し、驚いた様子で話し始める。


「流石……すごいですね、僕の気持ちを全部覗かれてるみたいな、そんな感覚だ」

「全く、どうしてアイザックもそうだがどうして詮索するのかな。でもまぁ、哲学を語る上でこの世の森羅万象と人間の学問の関係は重要な要素だ。それこそ、どうしてこの世界は存在しているのか、そんあ究極的な問もあるくらいだからね」

「まったくもって同感だ。この世は本当に、謎しか存在せず、現象としてものが存在するばかり……謎という誘惑にとりつかれた者がこぞってその真理を探そうとする、そうでしょう? 今出揃っている人物の中で、貴方たちが一番真理に近いところにいるのはまず間違いない」

「僕らが真理に最も近いだって? それはとんだ思い違いさ。この世の真理っていうのはね、それ単体で独立した領域なのさ。僕らはその断片を垣間見えるだけで決して触れることは敵わない」

「そこまで人智を超えた力を持つのに? それではどうやって貴方はそれを扱っているのです?」

「知らないね」


 ノアが断言した瞬間、どこからともなく廻が現れ、ノアの言葉に補足する。


「俺たちは事象や概念と同化した人間に近い。つまり、能力の行使は同化したものから借りるような形になる。だから、どうやって使っているのか、どういう原理があるのかさっぱりわからないっていう話だ」

「そういうこと、だからこれ以上僕らについて詮索しても意味がないし、モルモットになる気もない。お話はこれでおしまいさ。それで廻、ここに来たのは与太話をするためじゃないだろう?」

「勿論だ。ちゃんと解除してきたさ。まるごと俺の空間に保存している」

「いいねー、使いみちが出たときにでも取り出そう」

「それについては考えておこう。それで、こいつはどうするんだ?」

「殺したら悪いことが起きるらしい、とりあえずはこのまま放免で構わない」

 ノアの決断に対して、廻はパールマンを睨みつけながら言う。


「正気か? こいつは25年前の事件から、もしかしたらサイライ事件にまで噛んでいたかもしれないんだぞ?」

「だから、“今は”、無罪放免お咎めなしで構わないだろう。ただし、これから一生執行猶予がつくと思えっていう話さ。次、ふざけた事件を起こしたら何が何でも始末させてもらうよ。それでも構わない?」

「勿論ですとも、これ以降、神の逆鱗に触れることはやめさせてもらう」

「殊勝なことだね。それじゃー、僕らはこれで失敬するよ。これ以上ここにいる意味もないしね」

「それあそれはどーも、僕も御暇させてもらおうか」


 この言葉とともに、パールマンはノアの飲んだカンパリの分まで会計を済ませてそそくさと店を後にしようとする。

 そして扉の前で歩を止め、にこやかに2人のことを一瞥しそっと会釈をしてどこかへと消えてしまう。



「始末しておかなくてよかったのか?」

 完全にパールマンが去った後、廻はノアに尋ねる。

 すると、ノアは興味なさそうに垂れ流しになっているワイドショーを眺めながら言い放つ。

「別に? 今すぐ殺す必要性もないし、危険な橋を渡る必要性もない。大方、彼の言ったことはハッタリだろう。流石に今の技術を持って、殺した瞬間に何かがあるっていうのは厳しいだろうし、情報だったら丸め込むことはできるしね」

「それなら始末すればいいんじゃないのか?」

「……まぁ、そうだねぇ。なんだか重なるんだよ、昔の僕と……」

「なるほどな? 確かに、ヤツとお前はどこか似ているな。だが今は似ていない、お前はもう“あぁいう奴”じゃないさ」

「だったら、少し待ってみるのも面白いのかなってね」

「本当の執行猶予、ってことだな?」


 廻の言葉を聞き、ノアは大きく首を縦に振りながら、「さぁ行こうか」と話しかけてサン・クレーターを後にする。




 ノアとパールマンの取引により、大勢の人物を巻き込んだ「方舟事件」は収束することになる。勿論のこと、この取引についてノアが他言することはなく、ひっそりと事件は幕が引かれた。その一方で、事件の舞台となった魔天コミュニティとルイーザは双方環境が大きく変わるような変革が起きることになる。

 ルイーザでは、経済にまで多大な影響を与えていたミラー家は、娘であるケイティによる内部告発によりその権威が失墜、同時に政治の内部にすら浸透していたミラー家の権力を払拭するため政権を握っていた多くの人材が総じて辞職することになった。これにより経済的な支援を受けていたグルベルト孤児院も相当な被害を被る事になったが、グルベルト孤児院の実績と高い教育機関としての能力を買われ多くのスポンサーがつくことになり、より高い社会的地位を築くことになる。事件が収束し戻ってきたカーティスとセフィティナは例に漏れることなくアイザックからかなりの説教を食らい、2人してタダ働きをさせられる羽目になった。

 天獄では、ケイティの知略により銀行から奪われた金はしっかりと戻され、社会的に失墜することなく事なきを得る事ができた。しかし経営が上向きになったグルベルト孤児院とは逆に経営難を強いられ、肝心な金を得ることはできずに厳しい状態に立たされることになる。


 対して魔天コミュニティでは、トゥール派のゲリラ団体との癒着や危険行為によりトゥール派が全面的に責任を負うことになり、イルシュル・ブースやパールマンは辞任することになる。後釜としては情報分析の専門家のハミルトンが置かれ、よりクリーンなトゥール派の建設がなされることとなった。その高い透明性においてはベヴァリッジからも信頼があるとかないとか、少なくともパールマンがトゥールを支配していたときよりはマシであるという判断がくだされたようだった。

 メルディスことベヴァリッジはというと、イレースを筆頭パートナーとして人為的に初めてのエノクであるレオンを引き取り、再び最高権力者としてコミュニティの頂点に君臨することになる。また、軍事においてもエノクの取り扱いに関して議論されることになった。再建こそ程遠いものの、コミュニティは確実に良い方向へと向いつつある。


 しかしながら、辞任することになったイルシュルとパールマンの消息は不明である。


・北部大都市-セリーン



 ルイーザから遙か北東部にある大都市・セリーンは、もともと別々の国が合併して作られた巨大な国家である。

 その片田舎、パールマンとイルシュルは人里離れた場所に居を構え、新しい生活に出ていた。


「いいね~、とっても僕好み……そう思わない?」

「確かにお前好みだな、特にこのアンティークがね」

「でしょう? このベッドも、抱き合って寝るには最高だと思うんだ」

「……そうだな」


 適当な会話の中、イルシュルはかなり元気のない調子で会話をする。

 それに気がついたパールマンは、冴えない顔色でイルシュルの飛びついた。


「そんなに、魔天コミュニティにいたかった?」

「そんなことは……だけど、お前くらいには、カッコいいところを見せたかっただけだよ」

「もう十分カッコいいって。僕は、イルシュルと一緒にいられるだけで嬉しいよ」

「……ありがとう。ずっと、お前に助けられてばっかりだから、せめてこういうところでカッコつけたいって思ったんだけど、駄目だった」

「いいんだよ。もう、これからは二人っきりだから、ね?」


 パールマンはイルシュルに抱きつきながら不敵な笑みを浮かべていた。

 イルシュルはというと、それに気づくことなく優しくパールマンを抱きかかえるのみだった。


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