不合理な管理者-2
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
この話、丁度30日で終わりますね。あとがきをセコセコ作っていこうと思います。
「一つ一つ順を追って僕の考えを述べよう。幾つか謎めいていることがあるけど、その中でも特筆して君について、僕らがわからなかったのは動機だ。それがわからないのも無理はない。なぜなら、君がやろうとしていたことは、“イルシュル・ブースを我がものとすること”、でしょう?」
「どうしてそう思うんです?」
「さっき、こっちの連れが水爆内部で魔の死体を見つけた。その死体を調べた結果、死体はイルシュルの父親、アダムスのものだった。アダムスを殺害した理由については、連れも一緒に色々議論したんだけど、一番納得のいく答えは、仲間割れ、だった。だけど理由がこれにしては殺すのはあまりにもハイリスクだ。君がコミュニティ内でも相当な情報通であり、かつ嘘情報を流布させることも容易いのならば、殺すなてリスクを取る必要はない。この答えによっては、僕の回答は大分異なるものになる」
「なるほど、これだけは答え合わせをしたいっていうこと?」
「別に君がここで遊びを終わらせるって言うならそこまでだ。だけど、さっきの話から考えてそれはありえない。だって君がここに取引しに来たのは、自分たちの身の保証をするため……、“遊び”で身を滅ぼすことは絶対にありえない。さぁ、答え合わせてだ。僕の答えは、正解かな? それとも不正解かな?」
「なるほどねー……」
パールマンもこれ以上の挑発は危険と判断したのか、素直に言葉を返す。
「素晴らしい回答だ。流石、コミュニティから目の敵にされている重犯罪者だ。凄まじいね」
「ということは、僕の回答はどうやら模範解答に花丸がもらえたようだね」
「そう……僕はイルシュルを自分のものにできればそれでいい。今も、25年前もね」
「ヒントもくれるおまけ付きなの? それなら話は更に簡単だ。今までの君の不自然な動き、全て説明がつく」
ノアはそう言いながら、すぐさ最初の不可解な行動について言及を始める。
「さっきの動機で言えば、君がリスクを犯してまでアダムスを殺した理由も頷ける。ただこれは、僕にしか気づくことのできなかったことだ。アダムスはイルシュルに対して過剰な英才教育と、魔天コミュニティを支配するための思想を植え付けてきた。イルシュルにとっても、アダムスは完全に毒親だった。君はそれがどうしても許せなかったし、確か君のことをイルシュルのパートナーとしてふさわしくないって思ってたよね? 恐らく、その辛みもあって殺した……。そういうことだろう?」
「勿論……、僕にとっても、イルシュルにとってもアイツは邪魔でしかなかった。25年前の事件である程度活発に活動していた奴を仕留めることはさほど難しくなかったし、水爆と一緒の場所に放置すれば高い確率で塵も残さず消し飛ばせると踏んだんだが、コミュニティでの貴方たちの評判を聞いてトラップを仕掛けずにはいられなかったよ」
「それで、君はこれまで徹底的に真実ばかりを提示してきたのにも関わらず、一つだけ嘘をいれた。それが“方舟の逆セーフティを外した”というものだった。これであれば、廻が力を使って水爆を飛ばしたとしても、爆発してしまう可能性により、もしかしたら爆風にルイーザを巻き込む事ができると踏んだ。もし仮に、逆セーフティに気づかれても、今度は廻の行動を遅延できる。それに、これまで嘘をついてこなかった“パールマンなら”、嘘はつかないだろうと踏むはず……それを狙った巧妙で卑劣なやり口だ」
「花丸ですな。見事に僕の計画したものを述べているようだ。でも、そもそもの動機として“イルシュルを我がものとする”という言葉の定義があやふやだね。僕は具体的に何を目的に行動していたんだ?」
パールマンは更にノアに質問する。
しかしその一方で、ノアはこれに呆れた調子で話し始める。
「そこまで、僕らは今までわからなかった。どうして君が、こんな訳のわからない行動をするのか……そしてそこに合理的な意図があるのか……、でも一つあったんだ。君の行動をある程度整合させる目的がね」
「それは……なに?」
「これはあえて結論を最後に言わせてもらおう。今回の事件において、君はまずベヴァリッジと取引をしていたね。そこで君は25年前の証拠をもみ消してもらう代わりに、今回は静観を貫くという契約だ。だが、残念ながら君はすぐにこの契約を破棄して、早速行動に出る。僕が知っている中で、君がしてきた行動はベヴァリッジが宴に伝えた天獄への制裁を狂わせること、コクヨウの2名にベリアルたちを襲撃させたこと、大別するとこの2つだ。一見繋がりがないようなこの2つは、とある共通点を持っている」
「共通点?」
「極めて単純だ。これらすべて、“実行すれば回り回ってイルシュル・ブースを窮地に立たせる策”、ここまで言えばあとは語る必要はないよね?」
ノアが戯けた様子でけたけたと笑う。
「君の目的は最初っから、イルシュル・ブースを失脚させることが目的だった。そうだろう? 途中からこれについては考えていたけど、どうにもわからなかった。でも答えはもっと単純な話だ。君は仕事ばっかりにうつつを抜かすイルシュルが嫌いだった。自分だけを見てほしい、自分だけのものにしたい、そういう歪んだ思念がこんなふざけたことをやりだした。そうだろう?」
「……なかなかぶっ飛んだ推測ですね」
「そのぶっ飛んだ理由でこんなことまで仕出かした人が言うなんて思いもしなかったね。今までいろいろな人を見てきたが、君ほど他の人命をゴミみたいに扱う奴はレアケースだ。今すぐ文字通り首をぶっ飛ばしても吝かじゃないけどね、君みたいなやつが何もせずにここに来るとは考えにくい。だから不利と思われるここに来たんじゃないの?」
「これはこれは、そこまで完全に把握されていれば、小細工はほとんど必要ないね。ストレートに取引をしようか」
すべてを見透かされたようにパールマンは笑い、取引の内容を話し出す。
「取引は簡単だ。その端末は唯一、方舟を無力化する事ができる。後はそれに管理パスを入れるだけ。勿論管理パスはここにある」
すると、パールマンは管理パスの書かれた紙を見せる。それをテーブルの上に置くと、ノアにこう提示する。
「僕らに対してこれ以上深追いしないことを約束すること、勿論、天獄の方々もね」
「なるほどねー、つまり報復はするなっていうことね? 確かに今回のトラブルに関わった全員からぶっ殺されてもおかしくないもんね」
「全員から復讐にあったら確実に死んじゃうからね。対策は練っておかないと厳しい」
「でもよくこんな取引をしようと思ったね。かなり難しい取引になるのはまず間違いない。僕はこれを蹴ることだってできるし、第一これに同意したところでどうやって君の安全を担保できるの? まさかここまで来てそれはお宅に一任しーますっていう話?」
「問題はそこだ。だから、あえてひとつ僕らに関する情報を流す。貴方が危惧しているリスクですよ」
これに対してノアは、つらつらとパールマンの言おうとしたことを話し出す。
「大方、君を殺したら水爆みたいなまた別な兵器も起動するっていう話でしょう?」
「素晴らしいね。以降の詳細は言わないけど、良くないことは起きる、程度にしておこうか」
「それについては予想済みだ。ここまで派手に行動したんだ。保険をかけない理由はないし、自分に対して危機が迫ることくらい君は推測済み……つまり、僕は最初から君の取引を仕方なく飲むためにここに来たわけだ」
「そう言っていただけるととっても嬉しい限りだね」
「その代わりに、推測じゃなくて君の口から真実が聞きたいね。どうしてこんなことをしたのかをね」
取引を適当にあしらったノアからの質疑応答に応じたパールマンは、「どうぞどうぞ」と手のひらで話を促す。
「僕の話したことは正解? それともニアピンくらい?」
「完璧な答えだよ。僕は最初から、イルシュルを失墜させるために行動していた。ただ、それを思いついたのは割と最近だ。イルシュルのやつ、メルディスとの権力争いにかまけて仕事に突っ走り過ぎたし、忠告も聞かずにルイーザに侵攻するなんてアホなことしでかそうとしたから、もう正直呆れもあったから失墜させてまぁ楽しく隠居生活でも送ろうと考えていたんだけどね」
「なるほどね。自分が失墜させたと知られれば関係が崩れかねない。だから、完璧なプランを装いつつも部分的に綻びを残し、最終的にすべての責任を取らせる腹積もりだったっていうことね?」
「そー、正直なところ、僕自身この魔天コミュニティは好きだ。ここでの戦いは実に香ばしいし、ベヴァリッジもイルシュルも、僕の大切な家族さ」
「イルシュルは兎も角、ベヴァリッジは願いさげだろーよ、悪趣味極まりないね君」
「悪趣味の度合いについては変態ショタコン野郎には言われたくないね。でも、コミュニティのことを大事に思っているっていうのは本当だ。流石にルイーザに侵攻なんてすれば本当の全面戦争になりかねないし、貿易やビジネスに於いて人間はなくてはならない存在であることは間違いない。イルシュルも相当焦っていたんだろうが、流石にこれは容認できなかった」
「若干被害者ヅラして悪びれようとするのよしてよ。イルシュルも揃いも揃ってポンコツだね」
「残念だけど悪びれるほど善人じゃないんだ。他の有象無象がどうなろうが知ったこっちゃないしね」
「凄まじい屑だね、それじゃあとっとと取引すませて帰ろうかなームカついてくるし」
「そうだね。でも、僕が嘘の管理パスを入力する可能性もある。だからここで僕が入力して、別な人に解除してもらってよ。いるんでしょう? 他に方舟を解除することができる人がいるんでしょう?」
パールマンはそう提案し、ノアは更に呆れた表情で端末を渡す。




