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不条理なる管理人  作者: 古井雅
終章 管理者
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不合理な管理者-1

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 この物語は年末までに終わるように調整しています。年末調整ってね、とかいうくだらなすぎるギャグが浮かびました。本当に無残。


・ルイーザ ティルネスショッピングモール サン-クレーター



 ティルネルショッピングモールのオープンテラス、「サン・クレーター」は比較的多くの人間が利用する人気カフェである。そんな人気カフェに、イレギュラーな客人が一人、カウンター席でミルクをグラスの中で転がしながら楽しそうに人を待っていた。

 暫くすると、その人物の隣に、その人物以上に似つかわしくない佇まいの少年が背の届いていない体躯でカウンターに腰を下ろす。少年は楽しそうに笑いながらマスターに注文を取り付ける。


「あ、マスター、僕あれがいいなー、ハーブ系のやつ!」

「失礼ですがお客様、身分証明書はお持ちでしょうか?」

「ほらー僕小人症なの! もうソクラテスの時代から生きてるんだよー? お酒なんてよゆーよゆー!」

「……畏まりました。カンパリをストレートですね?」

「はーい!」


 何かを察したようなマスターは、毒々しい鮮血をグラスに注がれているカンパリをノアの前に差し出して何食わぬ顔で業務へと戻っていく。

 一方で、隣に座っている20代そこそこの男性は、ミルクを飲み干してノアに話しかける。


「それ、どんな味なんです?」

「香ばしいね。ハーブティに爆薬を混ぜたような味かな~」

「それ、本当なんですか? なんだろう、とてつもなく嘘くさいですけど」

「僕がそんなに嘘つき者に見える?」

「嘘つきには敏感なんですよ。嘘つきはね」

「なるほどね……僕も相当な嘘つきを自認しているけど、君ほど大胆な嘘つきは今まで見たことがなかったよ。ね? そうでしょう? 区域A.B職員のフーさん、いえ、パールマンとお呼びしたほうがいいかな?」


 ノアがそう尋ねると、区域Aでイレースらに協力的な態度を示していたはずのフー改めパールマンが嘲るように笑う。

「それじゃあ、パールマンでお願いします。やー、久しぶりに自分の名前を読んでもらって嬉しいですね」

「それなら秘密主義者とかやめて普通に善良な行動をすればいいのに」

「“僕”の存在を知るものはイルシュルだけでいいのさ」

「ふーん、それ世間じゃヤンデレっていうらしいよ」

「人間世界の俗世なんて知らないね。第一、善良な一市民なら、この街の下にとんでもない規模の水爆を作って放置したりしない、そうでしょう?」

「イルシュル大好きな秘密主義者は、どうして僕なんかと茶話会を楽しんでるのかなー?」


 嘲りを見せるパールマンに対してノアも若干の皮肉を込めながらそう言うと、パールマンは「そうだそうだ」と笑みを浮かべながらパソコンを起動して続ける。

「話はとっても単純です。ノアさま、僕と取引しませんか?」

「国家がテロリストと対峙するときの対応をご存じない? テロリストとの交渉はしない、徹底されているだろう?」

「僕は国家と話しているのではない、貴方と話しているし、ついでに言えばお互いにハッピーなウィンウィンの関係でありたいとも思っている」

「すご~い、口から出ること全部信用できないなんてさすがだと思うよ」

「勿論、信用されたいなんて思ってないし、僕を信用するなんて底なしのお人好しか真性のバカだけだろう。そういうことを考慮して僕はここに来たんだ。さて、素敵な素敵なノアさま、どうして僕が貴方のような極めて厄介な人物と取引をしようなんて思ったのは、なぜでしょう? 僕はとっても、論理的かつ合理的に行動していますよ」

「んなことは言われるまでもないね。君が不合理を犯すときは、感情的にイルシュルのことを守りたかったりするときだろ?」

「そうだねぇ~、僕は彼以外のことは本当にどうでもいいからさ」

「真性のクズだったね笑う」


 なかなか凄まじい物言いをするパールマンに対して、ノアは呆れた面持ちそう言い放つ。

 しかし、パールマンはかけらも同様を見せることなく更に笑う。

「貴方だってそうでしょう? 貴方のパートナー、クリストファーのことは知っているんですよ?」

「おやおや、まさかアイツのこともまで調べてるなんて、お宅は興信所かなにかか?」

「あれ、貴方も感情的になることあるんですね」

「……まぁ、僕のパートナーの話なんてどうでもいい話だ。大方僕をここに呼んだのは、この事件以降僕らからの追跡を回避するためだろう。僕らはほぼ確実に、時間をかければ君たちのことを探し出せる……それを危惧した君はここで僕らの動きを停止させることを目的として、取引を持ちかけた、そういうことかな?」


 ノアがそう続けた瞬間、パールマンは楽しそうに追加のミルクを頼みながら大きく首を縦に振る。

「流石ですね~……僕の思惑すべて的中していますよ」

「君の考えそうなことなんてだいたい分かるよ。でも、どうしてそんな無茶な取引を持ちかけたのか、それはわからないね。僕の力……クリスの名前をしているのならば知らないわけじゃないだろう?」

「勿論です。この世の森羅万象を司る程の力を持つ貴方なら、僕なんて一吹きで塵にされてしまう。だから先手を打つことにしました。僕らに危険が迫らないようにするためにね」

「なるほどね。端的に言えば僕と取引をしたいっていうことだね? でもよくそんな取引をしようと思ったね。逆鱗に触れてぶっ殺されてもおかしくないレベルのことをしてきたと思うんだけど?」

「でも、貴方はそうはしない。だってとても聡明で、合理的な方だから、むざむざと方舟を起動させることはしないはずだ」


 パールマンはそう言いながら自らの前に置かれたパソコンを操作しながら、その画面をノアに見せながら更に続ける。

「僕の端末からは、水爆を起爆させることができる。勿論、この場で起動させることもできる」

「……刺し違える覚悟でここにいる、って言うわけじゃなさそうだね」

「えぇ。刺し違えるなんて馬鹿げた考えはなし……、僕がやってきたことから信用はないでしょうから、行動で示させていただきます。今からこの端末を貴方に渡します。ただし、制御パスが必要になるので貴方から解除することも、起爆することもでできません」

「起爆することも……ね」


 パールマンの言葉に、ノアは首を縦に振りながら納得する。

 あえて「起爆する」という選択肢を入れたのは、ノアがあえて爆発し、ノア自身の力により爆発ごと消し飛ばすことができると踏んでのことだった。つまり、ノアにのみできる「唯一の水爆解除手段」がこれにより失われたのだ。勿論、それはノアが意図したタイミングで起爆できるから可能なことであり、およそフレーム単位となる起爆から被害が及ぶまでの短い時間で介入sることはかなり難しい。つまり、自らの手で起爆することができるこの時点を除いて、ノアが想定した解除手段を実行することはできない。

 パールマンはそれすらも考慮してこの提案を行ったのだ。それは完全にノアの手の内を理解し、かつそれらに対して対策をねっているというパールマンからの挑発でもあった。


「……どうやら、僕のことについてはリサーチ済みってことね。まぁそれならそれでいい、別に構わないしね。じゃ、この端末は僕が貰っておくよ」

「どーぞどーぞ。さて、取引は簡単です。第一ステップとして、僕はこれまでどうしてこんな行動をしてきたのでしょうか? 単純なクイズです」

「なーに? こんなとこまで駆り出されてふざけたクイズをさせられるの?」

「気になるでしょう? 僕がやってきたふざけた行動の理由が……」

「僕にとってはどうでもいい話だが、僕はとてもスウィートで優しい性格だから答えてあげる。君の意味のわからない行動をね」


 ノアが声たかだかにそう宣言すると、パールマンは歪な笑みを絶やさずに「ぜひとも、聞かせてほしい」と気味悪く言った。

 無論、ノアはそんなパールマンを汚物でも見るような目で蔑んだ後、ゆっくりと語りだす。


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