代弁者
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
この物語はあと数部で終わりとなります。ちょうど年末に終わるイメージで投稿しているので、本当にスッキリ終われるような気がします。まえがきについてはもう書くことはありませんね。この物語についてはあとがきの方でたっぷり書くスペースがあるのでそちらのほうでしたいです(´・ω・`)
次回の更新は今週金曜日
・同刻 アーネスト邸宅
アーネスト邸宅のエントランスにて、先に戻ってきたミラとルネ、ペリドット、ネフライトは他のメンバーが集まるのを待っていた。
ペリドットが情報を流していたからか、各所に散っていたセフィティナやクリスタル、サファイアもアーネスト邸宅に戻ってくる。特にセフィティナは疲弊した顔である。それを見たミラは、吹き出すようにけたけたと笑いながら話しかける。
「どうやらその調子じゃ、最後の最後で巻かれたな? セフィティナ」
「結局ミラまで出てきたんじゃ、俺たちのやったことは失敗だったな」
「俺は別に、最終的に最良の落とし所に持っていければ別に問題ないさ。だけどなセフィティナ、お前覚悟しておいたほうがいいぞ。彼らの実力が伴ってたから良かったが、下手すれば数人の首が吹っ飛んでた可能性だってある。その危険な戦場に息子を引きずり込んだんだからな」
「それについては覚悟しているさ。だが、俺も流石にイレースとカーティスの鬼気迫る態度を潰すことができなかったのが痛いところだ」
「カーティスもこれに参加することを望んだ、そう言いたいのか? どっちにしても、お前は監督者としては失格だな」
「本当な……、だけどカーティスに“自分の出生がどうしても知りたい”なんて言われて、おまけに“25年前の事件の真相を知りたい”まで付け加えられたらもうやるしかないだろ」
セフィティナの言葉にミラは首を縦に振りながら同情的な言葉を述べる。
「それは素晴らしい話だ。元々25年前の事件の真実は俺たちとしても重要な要素の一つだが、それを差し引いてもこれは相当に危険な賭けだったはずだが?」
「だからこっちとしても手を回していたが、その中でも特に厄介なやつがいたんだが……残念だけど、そいつは見事に痕跡を消しておさらばしてたって話だ」
「パールマン……、奴がここまで姿を隠し通せたのは確実に、俺たち諸々が動きすぎたからだ。奴はこっちのことを体よく隠れ蓑して行動しているからな」
「この世のには完璧なんてものはないと思っていたが、ここまで徹底して煙みたいに消えれば若干心が折れそうになるよ。今まで見た本じゃ、今存在している知的生命体は二律背反だと見たはずなんだがな」
「証拠がないんじゃないさ。どれが証拠なのかわからない、状態になっている……まさか資料まで影武者を使って全部同じ名前をつけてるなんて思わなかった。木の葉を隠すなら森の中、鉄の約束事を置くことでここまでの状況を作り上げた。恐ろしい人物ではあるが……、そういえば、ノアはどこに行った?」
「変態の行方なんて知らん」
「……なるほどな?」
セフィティナすらもわからないノアの行方に対して、ミラはなにかに気づいたように手を叩く。
「どうやら……パールマンについては問題ないだろう」
「まさか、ノアが?」
「ここでバックレる理由がそれ以外ないな。まー、それについては俺達の範囲外、後は事を面倒にした奴に尻拭いさせようぜ。面倒くせー厄介事はこれ以上はなしだ」
「そうしたいところだが……アイザックは、怒ってる?」
「ここまでして怒ってないなんてマジで思ってるわけじゃないよな?」
「……仕方ない話だが、弁明もできなそう?」
「爆発寸前の大噴火を前にどこまで釈明できるか見ものだな?」
「全くもって、笑えない話だ。いや本当に」
「さーって俺たちはとっとと帰らせてもらうぞ」
セフィティナの言葉を盛大に無視してそう言い放ったミラは、ルネの手を引きながら直後に現れた廻に声をかける。
「そっちも終わったんだ、廻父さん」
「あぁ~、厄介ごとはひとまず蹴りをつけている頃だろう。俺たちの出番は終わり、お家に帰ろう。ルネも大丈夫か? 怪我はない?」
「うん……廻は、大丈夫だったの?」
「面倒くさい厄介事に巻き添えを食らったくらいだ。さー、お家に帰ろう帰ろう」
ルネの言葉も若干意味深に受け流した廻は、とっととミラたちをルイーザに送り届け、残されたセフィティナ、そして即座に出てきたマリウスとともに2人に詰め寄る。
「とりあえず、事件は収束した、それで大丈夫か?」
「廻さん、こっちとしても収束していると思っているが、あと一つ不安要素が残っている」
「それについてはさほど問題もないだろう。俺たちの出番は完全に終了だ」
廻がそう言うのと同時に、アーネスト邸のドアが開き、先程二家会議に参加していなかったフィリックスとメアリーがそれぞれ顔を出し、その後ろにはキャノンもやつれた表情で佇んでいる。
「今度はそっちがトラブルを収束させる番だ。ベルベット、アーネストの諸君ら」
「言われずともそうさせていただきます。図らずとも、創造神たる貴殿の協力を受けることができ、我々にとってまさに最高の恩寵でしょう」
仰々しい言い方をしたフィリックスに口添えするように、後ろにいたキャノンが話し出す。
「ビアーズももうすぐこっちにつく。さっき連絡があったが、ベヴァリッジとこれからのことを決定するっていう話だ。廻さん、ここまで来たっていうことは、僕らが駆けずり回っていたのは功を奏したっていうことで、いいんですよね?」
「あぁ、第三の組織としての行動は傍若無人な天才のおかげで、こっちが完全勝利~、って事になったのはまず間違いない。だからこそ、今度はそっちの領分だ。だが、今回についてどうやって落とし前をつけさせるのか、それが此処から先の議題だ」
「勿論です。我々二家としても、今回の事件は些かコミュニティ内の影響も著しく、加えて国の最高権力者たる我々すらも巻き込んだ。その落とし前は必ずつけさせてもらう。なぁ? メアリー、キャノン?」
「僕もフィリックスに賛同だね」
「同じく、ビアーズにしても同じ意見を出すだろう」
ビアーズを除く二家がある程度意見を一致させている時点で、それから下される処遇はなんとなく廻にはわかったが、その前に廻は歪に笑いながらメアリーを問いただす。
「……とりあえず、意見が合致したのは素晴らしい話だが、メアリー・ベルベット、アンタがうちのカーティスたちにしたことは覚えているぞ。釈明だけでも聞こうか?」
「あっちゃー……まさかまさか見られてたなんてね。流石全知全能の神さま、いい釈明は……そうだね、彼らがどれほどの力を持っているのか、試したくなった、そんなところかな?」
「ほう? それを調べる妥当性については、今回は不問ということにしておこうか」
「そう言っていただけると最高に嬉しいね」
「うちの息子、いや孫はそこそこやれたか?」
「正直、余裕で僕らとタメを張れるくらいには強いと思うよ。かなりの実力者だ」
「それならいいか」
「意外に子煩悩なんですねー」
「俺は自分の子どもたちが大好きだからな」
「マジの子煩悩だったね」
「子煩悩っぷりならそっちのキャノンっていう人もやばいよ」
「幼馴染だからって容赦しないからな……」
いつもどおり収束のつかなくなっていく会話のなかで、それを制したのは後ろから現れたベヴァリッジとビアーズだった。
「しっかしお前ら無駄話が好きだな。よくまぁ藤浪廻の前でそんなことが言えるよ馬鹿らしい」
「ビアーズ・アーネスト、ようやく戻ったか。ベヴァリッジもいるのか?」
「あぁ、そっちにいるちゃんといるさ。それで、今回の件についての処遇だろう?」
「こっちとしても相当お膳立てをしたと思うんだがな。一つ聞かせてほしい、どうして今までパールマンを野放ししている理由はなんだ? もっと早くやつを対処していれば、こういうことにはならなかった、そうじゃないのか?」
廻が辛くそう言うと、ビアーズ含む全ての二家が気にした調子もなく言い放つ。
「残念だが、俺たちはその辺の人事については関与しない。俺たちが関与するのはあくまでも、国家崩壊に関わる重大な危機に対しての事柄のみだ。日常的に行われる基本的な業務や行政、軍事、司法等々を監視し、相手から要望に受ける形で助言をするのみだ」
「なるほどな? あくまでも、“こういう事態にのみ”対処するのがお前たちの仕事だということだな? 人様の行動に口出しできるほど真っ当な時間を過ごしてはいないが、ここまでの事態に発展したのはお前たちの怠慢じゃないのか?」
「それについては反論の余地なしだ……。パールマンについては、俺たち以外に権力を持つブース家の後ろ盾があったからだろう。現トゥールことイルシュルの推薦もあったんだろうがね」
「ただ、ヤツが実際にこれらの事件に関わったという明確な証拠がまぁまぁない」
「あんだけ好き勝手に暴れてるのにか?」
「好き勝手に暴れるからこそ、大量の影武者に書類作成諸々をやらせて誰もわからない状態にしてたって話さ。それだけでも十分やばいが、何より正体あやふやになったのが問題だな」
「まぁ、今回のことで責任を取らせることができる。なにせ、今回のことは間違いなく国家的危機といってもいいしね」
その場にいた全員の意見が一つの方向に向かったとき、ベヴァリッジが沈黙を破り挙手を行う。
「皆様、たしかに今回の事件は誰かの首を飛ばさなければならないことはわかります。そしてそれがパールマンらにあるとしても、私は事件の実質的な発端を作りました。私にもそれ相応の処分を下していただきたい。今回の事件では、上層の者が当事者として大きく関わっています。二家が動くことは、皆様の道理にも反していないと思いますが?」
ベヴァリッジの言葉に、ビアーズはけたけたと笑いながら手を叩く。
「確かに、この状況であれば我々が動くことは確定的だが……、俺達は代理人を立てることを許されている」
「というと?」
「ここまで事態が悪化している以上、第三者としての存在では明らかに不適切だ。今回の収束をお前に任せることとする。それが二家としての判断だ」
「……どういうことでしょう? 私は今回の首謀者といっても差し支えないほどの重罪を犯しています。そんな私に復興を?」
「むしろ役不足に思えてならないね。君の信頼性と技量については多くの者が推して知るべし……、そうでしょう?」
「ていうか、責任を取るのが君の仕事ならば、尚の事以降のコミュニティの長として君臨するべきでは? 君がこの国を高レベルまで昇華させたのは間違いないしね」
二家のメンバーが順繰りそう言うと、更にとどめを刺すように廻が言う。
「まぁ、お前らしい責任のとり方じゃないの? 他の責任はぜーんぶ、もう片方の権力者がつけてくれると思うし」
「これを期に、権力者を一人にまとめてもいいんじゃないのかな?」
「それについては、まぁ後々決めていけばいいだろう。一先ずやらなきゃいけないのは、すっかり混乱状態のこれを収束させることだ」
「あー、終わっても面倒事は山積みだねぇ」
メアリーが面倒げにそう言うと、二家それぞれがその場から蜘蛛の子を散らすようにそそくさとどこかへと行ってしまう。取り残されたのはベヴァリッジと廻、セフィティナ、マリウスのみであり、各々が解散を始める。
その中で、ベヴァリッジはセフィティナに声をかける。
「セフィティナ様、本件ではご迷惑をおかけしました」
「……それはこっちのセリフだ。それに、アイザックのことをあんな目に遭わせたのはアンタじゃないし、同じ被害者だったはずなのに、思い込みであんなことをして悪かった」
「止めることができなかった、その時点で私は貴方から恨まれて当然です」
「だが、話はこれで終わり。サイライから続く地獄はようやく終わりだ」
「私たちは、随分と長い間、理解の届かない悪夢に踊らされ続けていたのでしょう……一度すべて収束し、ひとまず休みましょう。いずれ起きるであろう、災禍に備えて」
「今度新しいトラブルが出るときは、協力関係としてお近づきになりたいところだな」
セフィティナはそう言いながら廻に近づき、死んだような顔色で「アイザックのところまで」と笑う。
無論、これに廻は「お安い御用で」と笑いかけてセフィティナをルイーザへと転送する。取り残された廻は、最後にベヴァリッジにこう問いかける。
「ベヴァリッジ……他の連中に言い残す事はあるか?」
「遺言でも託せばいいのですか?」
「冗談が言えるほど本調子になったんなら問題ないな。俺はこれで失礼する」
「であれば、一つ、ミラさんにお伝えしていただきたい。“とても楽しいひと時であり、止めてくれて感謝いたします”、とね」
「……分かった。伝えておこう。お前の方はもういいんだな?」
「結構。大切なものはもう、受け取りましたから」
ベヴァリッジはそう残してそそくさと邸宅を後にする。残された廻も、全てを収束を終わらせたことを実感してその場から消えてしまう。




