選択されなかった駒
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
そろそろここに書かれることも乏しくなってきたところで、私の家の周りが豪雪で埋め尽くされていることを書きたいと思います。誰も得をしないのでこの辺でやめておきます(´・ω・`)
次回の更新は今週金曜日13日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです。
「そっか……でも、良かったね。両親が分かって!」
アイザックの気遣いに溢れた言葉に対してベリアルは笑いながら続けた。
「まぁーね。とりあえず両親がわかって嬉しいような……こう複雑というかなんというか、あんまりいい気分ではないのが悲しい話だ」
「まぁ言いたいことは分かるけど」
「でも僕だったら喜んじゃうなー。両親がそんな尊敬の的なんていいなー。僕の父親なんて最低の犯罪者だからね」
「そうだねー……、そういえば、アイザックの父さんって、サイライの創始者的な人だったよね……」
「半分正解だね。僕の父親はサイライの次期総統みたいな感じだったから」
「えっ、ちょっとそれはショック」
「僕が天才科学者だからいいでしょ!?」
「それを自分で言っちゃうのもちょっと引く……」
「え」
かなりカオスな展開に、ベリアルは半笑いを浮かべつつも未だ閉ざされた現状を憂うようにアイザックに尋ねる。
「それについてはどうでもいいけど、ここでただ黙って待つだけなのも癪だね。方舟の方も、完全に撤去された感じじゃないし」
「今、方舟の解体を廻さんがしているらしいけど、どうして最初から彼が動かなかったんだ? この非常事態に、彼が動かないなんてありえないと思うんだけど」
率直なアイザックの疑問に、ベリアルは「知ってそうなくせに」と質問を質問で返した。
すると、アイザックは薄笑いのまま答える。
「スパイ検定ごっこってこと? まず、方舟は指定した座標からずれればそのまま起爆する。廻はたしかに、特定の空間をそのまま別次元に飛ばすことのできる、それならば方舟そのものを別空間に飛ばせばここまで面倒くさいことにはならなかった。それをしなかったのはできなかったから……。つまり、廻の力で別空間に飛ばしたとき、ルイーザにも影響があるくらいの爆発を起こすか、爆風ごと飛ばしきれるかが曖昧だったから廻はそれをしなかったんでしょう? そして、一連のお話の中で、方舟の座標システムはなくなっていたことから、ようやく廻が大手を振って爆弾解除に赴いた……そんなところかな?」
「なーんだ、僕からの説明なんてやっぱり不必要だったじゃん」
「冗談じゃない。セフィティナは今どこにいるの? ついでに、もうひとりの運送屋、マリウスは?」
「前者はすっからかんのコミュニティで資料探し、後者は廻にくっついて補助さ」
「待ってよ。どっちもよくわからないよ。後者はともかく前者はなんの必要性がある?」
辛い態度で問い詰めるアイザックに対して、ベリアルは「もうひとり、詳細不明の怪物がいるはずだ」と考えを促す。
すると、アイザックは呆れた面持ちで首を振る。
「なるほど……実質的なすべての黒幕、パールマンか」
「そういうこと。これから話を聞けることを期待しているけど、ベヴァリッジはパールマンと何かしらの取引をした可能性が濃厚だ。流石に、今回の事件について僕らが引っ掻き回したんだから、パールマンとしても知られたらまずいものが転がっていてもおかしくないからね。そっち側を調べてもらってる。でもこの時点で連絡がないあたり、徹底的に自分が何者であるかを隠しているね。嫌なヤツだな」
「そうだね~」
「ただ、パールマンは今回の事件に噛んでいないんだろう? 名前くらいはポロポロと出てたけど」
カーティスがそう言うと、アイザックは首を傾げながら言う。
「いや、噛んでいないというのは少し無理がある。今回のことをすべてベヴァリッジが行ったのなら、パールマンがこんなに息を潜めているわけがない。これほどの行動に出るためには相手側との取引も行っていたはずだ。今回の事件にはそう考えなければ不自然な点があまりにも多い」
アイザックが指摘した瞬間、口を挟むようにすっかり回復したベヴァリッジが顔を見せ、アイザックの言葉に同意する。
「そうですね……私は確かに彼と取引をしました」
「ベヴァリッジ様、それについてはぜひお聞きしたいのですが……もうよろしいでしょうか?」
ベヴァリッジの言葉に返したアイザックは首を傾げながらそう尋ねる。
すると、ベヴァリッジの影からひょっこりと顔を見せたイレースは楽しそうに笑う。
「ごめんね皆、お話は終わったから、ここから先は僕らも協力するよ! ベヴァリッジ様、パールマンの正体と、この件の関与をお話ください」
「えぇ、話させていただきます。パールマンは最初の発端である宴のペリドットさんが襲撃した際に、有給消化をトゥール派に申告していました」
「まさかリフレッシュ休暇だったりしない?」
「そうしていただけると素晴らしいですが、パールマンはそういう人じゃない。あの人は自分のしたいように行動する……こっちの厄介事なんて無視して動くタイプの人物です。有給取得なんて自分がしたいように行動するためのこと、だから私はとりあえず厄介な動きをしないように、現存するザイフシェフト事件の証拠の隠滅を行い動かないようにはしていました。まさに、イレースの言ったとおりです」
それを聞いたイレースは露骨に顔を赤める。
一方、一連のイレースの動きを見ていたカーティスは微かに冷ややかな視線をぶつけ、同時に呆れた面持ちでベヴァリッジに言葉を返す。
「……それで、そのリフレッシュ休暇野郎はどこにいるんです?」
「素晴らしい着眼点です。どうせ裏でコソコソなにかしていたのは事実ですが、恐らくこの魔天コミュニティにはいないでしょう」
「どうしてそう思うんです?」
「少なくとも、あの人は直前までこのコミュニティの中にいたはずです。なぜなら、トゥール代表のイルシュル様の表情に心理的な安定があったからです。非論理的と言われても仕方がないですが、イルシュル様は、パールマンが近くにいるときといないときでは露骨に態度に出るんです。証拠などなくても、ある程度の当たりをつけることができるくらいにはね」
「ここに来てまさかの判断材料に軽く絶句ですね」
アイザックが苦笑いを浮かべながらそう言うと、ベヴァリッジも同様に笑いながら続ける。
「そうですね。彼はポーカーフェイスという言葉の対極にある方です。途中までパールマンの関与がなかったのですが、宴に天獄の機能停止にするプランを渡したときに介入を確信しました。宴にはオフィリアというスパイを入れていましたから、彼らの動向はある程度明確に理解することができました」
「というか、やっぱり天獄を潰しにかかっていたんですね?」
何気なくプランを吐露したベヴァリッジに、ベリアルは怖い笑みを浮かべながら詰め寄る。すると、ベヴァリッジは手のひらを見せながら「皆さんなら、いなすことくらい余裕でしょう?」と微笑む。
しかし、同時に申し訳無さそうな表情も呈して謝罪する。
「それでも、皆様には申し訳ないことをしました。私の罪業は、必ず償わせていただきます。その前に、私の持つ責任責任を果たしてからにさせてください。私が立案した天獄の機能停止プランは、貴方たちの知るように、ルイーザ中央銀行から強奪した金で天獄に依頼を行い、そして通報する。私の組んだプランでは、それらの行動を適当な人間に金を掴ませるか、それか自分で行うかケースバイケースで判断してほしいというものでした。ですが、これを宴は“ミラー家の令嬢”にさせた……恐らくはパールマンがどこで私のプランを組み替えて伝えたのでしょう。これが、パールマンが行った明確な妨害です」
「ちょっと待って下さい、口頭で伝えたんですよね? どうして途中で情報を変えることができたのですか?」
イレースがそう質問すると、ベヴァリッジは「勿論口頭でしています」と口添えした後、その後の可能性についても言及する。
「一方で、宴がパールマンと同じようにこちらと接触していたのならば、変化を伝えることは比較的容易でしょう。宴は、目的を果たすためには誰とでも手を組みますし、社会的な立場についても融通がききますからね」
「その宴はなんと言ってるんですか?」
アイザックの質問に、管理塔-Mから戻ってきたエンディースが扉を開けつつ答える。
「残念だが、俺はアンタから聞いたプラン通りに実行しただけだ。その後、信書で送られてきた指示書に計画の一部変更があったっていうことくらい。今考えれば、あれを仕込んだのもパールマンだったんだろう」
「そうですか……ですがこれで、パールマンは確実に本件に絡んでいたということは明白です」
「ベヴァリッジ様、口を挟むようで申し訳ないのですが、事態は一旦収束を見せました。今一度二家に赴いてこれからのことを決めてみてはどうでしょう?」
すっかり混乱状態の最中、イレースは慎ましくそう提案する。
すると、ベヴァリッジはそれに対して好意的な意見を示す。
「そうですね……状況的に見てもそれが最良でしょう。どっちにしても、これから先の事柄は私の権限でそれを行うことができないでしょうし、一度二家の判断を受けましょう」
「勿論です! とりあえず、カーティスたちはルイーザに戻って欲しい、転送装置はこっちで用意するから」
イレースとベヴァリッジの言葉に対して、カーティスは反発するような声を上げる。
「ちょっと待て、ここまで突き合わせておいて最後は自分たちでってのは無しじゃないか?」
「それについては本当に申し訳ないんだけど、これからはコミュニティの問題になる。僕を含めて、カーティスにできることもないよ」
「なんとなく分かるがそれでも!」
カーティスは更に反発するような声を上げるが、これを制したのは隣りにいたアイザックだった。