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不条理なる管理人  作者: 古井雅
終章 管理者
162/169

愛息より

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 実は換算的に、この物語は年内ギリギリ終わるか終わらないかという感じなんですよね。ということで、年末に怒涛の投稿ラッシュが起きる可能性があります。現在ブログの方を改装中なので、そこらへんとご相談という形になっております。


 次回の更新は来週月曜日9日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです。


・管理塔-W エントランス


 イレースを残してベヴァリッジの居室を抜け出したカーティスは、管理塔-Wのエントランスホールにまで戻り数日ぶりにゆっくりと椅子に腰を下ろすことができた。

 わずか数日あまりの出来事でありながら、目まぐるしく動いた今回の事件にひたすらに感じた「疲れ」を癒やすために椅子に座り眠りに落ちる。久しぶりに自分の体に帰ってきたところで余計に疲れがどっと出てしまったのだろう。


 すっかり眠り込んだカーティスだったが、1時間も経たないうちに爆睡状態のカーティスはその場に駆けつけたアイザックとアゲート改めベリアルにより叩き起こされることになる。


「カーティス! 起きなさい!!」

 完全に父親補正の入ったアイザックの言葉に、カーティスは半分意識の途絶えた状態で飛び起きる。


「はぁ!? 父さん!?」

「カーティス……そうだよ……心配したんだ。本当に……」

 カーティスの身長よりも低いアイザックは、届ききらない手でゆっくりとカーティスの頬を撫ぜる。そのかすかな手のひらに、カーティスは緊張の糸が切れたように笑みをこぼして、ただひっそりと「ただいま、父さん」とだけ返して小さな父親を抱えあげる。


「ちょっと! 抱っこしてくれなんて言ってないよ!?」

「いやー、俺が父さんのこと抱っこしたいだけ」

「この歳になって息子に抱っこされるなんて恥ずかしい」

「ごめんごめん、なんか30年くらい会ってないんじゃないかって思って……」

 カーティスは今までの中で一番の笑顔で笑いながらアイザックのことをアスファルトの上に下ろす。すると、アイザックは気恥ずかしそうに「カーティスの人生よりも多いじゃん」と顔を背ける。

 しかし、それでもカーティスが無事だったことに相当安堵したのか、アイザックは露骨に涙を浮かべる。


「……良かった、本当に無事で良かった。こんな事に巻き込まれてたなんて、最初想像もしてなかったから……本当に心配した」

「それは本当に悪いと思ってるよ……でも……あれ、そもそもなんで俺、こんな面倒な役をやろうと思ったんだろう」

「え? わからないの?」

「いや、最初にちょっとトラブルがあって、記憶が曖昧で……でもまぁ、無事に戻ってこれたんだからいいか」

「いいわけ無いだろ!! 今回の件は、どうせカーティスのことを巻き込んだセフィにガッツリヤキ入れてやるからな!」

「え、セフィティナ可哀想だからやめな。父さんに叱られたらマジで泣くからあの人」

「一生泣かせとけ、なんで自分の息子を鉄火場に駆り出さなきゃいけないんだ!」


 いつになく凄まじい勢いで怒り狂っているアイザックを止めるすべはなく、とりあえずカーティスは話を逸らす方向でベリアルに話しかける。


「それより、ここにいるって言うことは、貴方も第三の組織のスパイだったんですね。アゲートさん……?」

「カーティス君、無事だということは、ベヴァリッジさんは説得できたということかな?」

「それはイレースに聞いてください。ただ、見た感じ作戦は成功だと思います。一歩間違えれば本当に方舟が起動していたでしょうが……」

「イレースさんを信じましょう。元々、ここまでの窮地から番狂わせを起こしたのは彼の知略と洞察がないと無理だった。ノアもそこは認めていたしね」

「あ、そういえばあのショタコン野郎もそっちサイドでしたか……ぜひ盛大に爆発してほしいところですね」


 かなり怒りが入った様子のカーティスに、その場にいた全員が肯定しながらベリアルは更に話だす。


「そうですね、同じくどっかで痛い目にあっていてほしいけど、今回のことはアレがいなかったらここまで出来なかったのもまた事実だと思うからとりあえず許してほしい」

 このフォローに対しても、特にアイザックは怒りを顕著に表す。

「いやセフィと一緒にヤキ入れてやる。アイツらは絶対に許さないからな……」

「バカどもの制裁はアイザックに一任するけど、状況的に僕らは加勢が必要じゃないんだよね?」

「入らないほうがいいですね。確実に」

「それならここで待機していたほうがお得な感じですね」

「そうですね。ということで、俺たちは御暇しても構わないんですかね? アゲートさん?」


 カーティスはすっかり帰ろうとして荷物をまとめている。無論、これにはアイザックも同意してそそくさと身支度を始める。

「勿論だ! 僕らはとっとと家に帰るから、後始末はベリアルたちでやっておいてね」

「あれ、この人ベリアルっていう名前なの?」

「2人とも、別に帰るのは構わないけど、どうやって帰るつもり?」


 アイザックの言葉に対して冷静に反論するベリアルだったが、これにカーティスは満面の笑みで問い返す。


「……あれ、ここから出る方法って?」

「コミュニティがここまで混乱しているんだから、正規の手段でルイーザには帰れないだろうね。僕らが運送屋にしていた2人も今は各々の仕事をしているだろうから頼れないし、暫くは僕とともに行動してもらうよ」

「父さん? どうやってここに来たんだ?」

「…………その運送屋の一人に送ってもらった」

「その人は今?」

「お仕事…………」

「待つしかなさそうだな!」


 残念ながら即座に帰ることができないことを悟ったカーティスは、半ば呆れながらもカーティスの帰りを待つとともに、今まで散々振り回してきたアゲート改めベリアルに尋ねる。


「それなら、暇つぶしがてら質問に答えていただきたいね」

「それは、僕に対して?」

「アンタ以外に誰がいるよ? アゲートさん……じゃなくてベリアルさん? まず貴方、何者ですか?」

「随分とストレートな質問ですね」

「イレースももっと早く気づくべきだったな……、アンタ、最初に俺たちの前に現れたとき、あえてレオンに名前をつけさせた。そこでイレースも何も思わなかったのが中々ポンコツだが、エノクの発達にかなり影響を与える“名前をつける”行為をあの時点で勧めた時点で、アンタは第三の組織側だったってことだ」

 カーティスが睨むようにそう言うと、ツッコミを入れる形でアイザックがため息をつく。


「いや、それお前もなんで気づかないのさ……。ベリアルは記憶を失くしたカーティスたちの記憶を揺らすような行動だったはず。見事にふたりともそれをスルーするなんてベリアルも想定外でしょう?」

「想定外でしたが、結果としてレオンを2人側につけることができたのはなかなかいい動きだったと思いますけどね~」

「ベリアル、君はいつまでイレースの人格でいるつもりなの?」

「おっと、もう別にいいんだったね。忘れた忘れてた」


 アイザックの言葉にベリアルはようやく慇懃無礼な態度をやめてけろりと笑みを浮かべる。

 その様に、カーティスは別人のように変わったベリアルに露骨に怪訝な態度を示す。


「……主演男優賞も夢じゃありませんよ、貴方」

「お褒めの言葉は嬉しい限りだよ。騙した形になって悪かったと思っている……でも、僕らとしても方舟が起爆するのはあんまりいい話じゃない。それに、僕には僕の目的もあって動いていたしね」

「ベリアル、そういえばどうして君がノアたちについて行動していたの? ストラスにまで言わないでここまでのことをやっていたのも疑問っていうか……」

「ちょっとまって、この人とストラスさんとどういう関係があるんだ?」


 ご尤もなカーティスの言葉に、アイザックはそそくさと「パートナーだよ」と返して更に話を促す。


「ストラスと、目の前にいるベリアルはパートナーであり、仕事の同僚っていう間柄かな。その仕事っていうのが、グルベルト孤児院でも結構お世話になっている天獄だ。今回の事件の発端的なところでもある」

「あ、ルネ先生が普段働いている場所だろ? ストラスさんってそこで働いてたのか」

「そーそー、だから今回の事件は、天獄でも若干内部分裂してたってことだ。それで? 聡明な君が一歩間違えば愚かしいことをしでかしたのはなんで?」

「そこ聞いちゃいます?」

「僕ら親子で巻き添え食らってるんだけど? それくらい教えてくれてもまだマイナスだと思わない?」


 アイザックの言葉にかなりもの言いたげなベリアルはかすかに沈黙を貫いた後、すぐに考え直して答えを返す。


「…………まぁ、別に減るもんじゃないからね。僕は自分の親を探しに来ただけ。どうせ故人だけど、墓に花を手向けることくらいできるだろう?」

「どうして死んだなんて思うんだ? 魔天は死なないんだろう?」

「生半可なことでは死なないだろうけど、僕はサイライに捕らえられていた記憶しかないから、そう思ってた……だけど、それは違ったみたい」

「はい?」

 カーティスは訝しげにそう返した瞬間、「サイライ」というワードを聞きすぐにベリアルの言葉の真意に気がつく。



「まさか……アンタが、メルディスとトゥールの……?」

 カーティスの呟きに対して、アイザックも耳ざとく反応する。

「カーティス? どういうことだ? ベリアルが、あの英雄たちの息子だって?」

「2人の子どもは、出産直後に行方不明になり、最終的にサイライに捕らえられていたということを聞いた……それが、アンタだって言うのか?」

「その可能性が濃厚らしい。実際のところ、僕もあんまり信じられないけど、もしそうなら、君のバディが僕の父親たちなら、僕はとんでもない皮肉を背負わされたことになる。僕は第三の組織で、彼のことを義務的に守ることを使命としていた……楽しい皮肉だよ」


 かなり自嘲気味に話したベリアルに、カーティスはどう言葉を返していいのかわからず沈黙を強いられる。一方、アイザックは驚いた様子を隠せないようだったが、それでも態度は変わらず、手を叩いてベリアルに言う。


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