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不条理なる管理人  作者: 古井雅
終章 管理者
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箱の中から見る

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 ここ最近連続して風邪を引いてしまい、明らかに日常生活に支障が出ています。かなりきついのですが、それでもなにか書きたい衝動に常にさらされてしまっています。もはや依存症と言っても過言ではないですね。


 次回の更新は今週金曜日6日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです!


 白骨死体を一瞥したケイティは困惑した面持ちで言う。


「これは……一体どういうことですか?」

「さて、どこから話そうか?」

「とりあえず、ここが方舟の二重構造の内部ですね?」

「あぁ、目の前の死体は恐らく、現在のトゥール派トップのイルシュルの父親にして25年前の事件の根源でもあるアダムス・ブースだ」

「行方不明になっていたはずのアダムスが、どうしてです?」

 ケイティの疑問に対して廻は「簡単な話だ」と言いながら白骨死体に残された独特な傷跡を指差した。

 それを見たケイティは、すぐにそれが人間によってつけられたものでないことを理解する。


「もしかして、アダムスを殺したのは同じ魔天の一種である、と?」

「そういうことだ。俺の見立てじゃ、こいつはパールマンだろう。ここに死体を置くためには、少なくともパールマンに親しい魔天、もしくは本人であることが濃厚だろう。パールマンの性格的に考えても、恐らくやつは個人で行動している。邪魔になったのか、或いは仲間割れか、色々考えられるはあるが、ここに死体を放置したのはなかなかエグい考え方だな」

「ここに行き着いた時点で、本来なら方舟が勝手に起動する。そうしたら死体もろとも証拠を消し飛ばすことができるし、見つかる心配もない。見つかったとしてもそのまま吹き飛ぶ……最低な考えですね……」

「パールマンってやつはそういう性格だ。目的のためなら本当に手段を選ばない。人道的な行動なんてものはやつの思考の範疇には入らないのさ」

「とことんゲス野郎ですね……」

「厄介な人物だが、どうにもアダムスの殺害は合理的な意図があって行われたものではないような気がするんだ。理由もさっぱりだし、パールマンにとってもリスキーな行動だったはずだ。パールマンはこれまである程度感情的な行動を控えてきたはずだ。それなのに、こいつはどうにも感情的だ」

「確かに、リスクと目的が噛み合っていないのは間違いないな。そこにどういう意図があったのか……よくわからないな。それよりも先に、こっちのほうが先だろう」

「水爆の解除ですか?」

「解除はしない。そのままどっか別の場所へ吹き飛ばす」

「……20メガトン規模の爆発が起きても問題ない場所があるんですか?」

「爆発しても問題ない空間そのものを作ればいい」

「さっきから人智の及ばぬ領域になっていってますね」


 ケイティが笑みを浮かべたような面持ちでそう言うと、廻は端末を操作して最も懸念していた設定を確認する。

 方舟の端末はパスワードなどが存在しているようだが、端末の情報の確認については基本パスの入力のみで行うことができるようだ。ただし水爆そのものの解除については、専用のパスコードと特定の生体情報が必要になるようだ。水爆はオフライン状態であり、どんなことがあっても廻が使用している端末のみでしかコントロールすることのできない状態になっていた。

 これは、水爆を作成したパールマン自身ですら解除することができない状態になっていることと同意義である。端末は常にオフライン状態に設定されており、そして端末を操作するためには確実にこの二重構造の中に入らなければならない。無論それは、水爆の起動スイッチを押すことになり、廻のようなイレギュラーな力を想定していなければ、「端っから水爆の起動を目的にしていた」ことがわかる。


 そして、一頻り端末を操作した廻は、表情を変えながら「だめだな」とつぶやく。

 勿論のことこれに対してケイティは疑問符を浮かべる。


「どうしたのですか?」

「まだ逆セーフティが消えていない。どうやら、ミラたちがリユニオンで見つけた資料はこちらを油断させるためのトラップか……パールマン、最初から俺たちのことを想定していたな」

「一体どういうことですか?」

 廻の理解不可能な言葉に対して、ケイティは納得できない面持ちで続ける。

「もし仮に、貴方のことを想定したとして、どうしてこんなことを?」

「まず、構造上俺のような特殊な能力がなければ、方舟が起爆することなくこの端末に触れることはできない。そして、リユニオンにあった資料によれば、水爆の座標データがずれた瞬間に起爆する逆セーフティがかかっている。もし、資料通りこれがなくなっていたと俺たちが判断してそのまま手はず通りぶっ飛ばせば、五分五分の確率で街は焦土だったな」

「つまり、パールマンはそれを誘発させるためにそんな資料を残したんですか? それならば、最初から今回の件で貴方が絡むことを予見していたということになりますが?」

「ノア含め、俺たちの情報は結構コミュニティに割れている。そういうことも考慮しておいたんだろうな」

「それなら、パールマンは完全に廻さんを嵌めるためにこのトラップを作ったっていうことですか?」

「大方そういうことだろうな。どっちにしても、このままじゃ水爆は解除できない。爆破する確率が1%でも残っている状態で解除はできないな」

「ならば……どうすれば?」


 ケイティの疑問符に対して、廻はすぐさま判断に出る。


「ひとまず、俺は他のメンツを迎えに行く。そこから手段を考える。君はここで得てきたことをアルベルトに報告してほしい。どういう反応をするかわからないが、ここそのものがアルベルトにとって都合の悪い事実であることは変わらない」

「……そこから、どう行動するかは私にかかっている、そういうことですね?」


 ケイティは冷静にそう答えたものの、心の中は穏やかなものではなかった。

 確かに、父親であるアルベルトは25年前の事件に加担して利潤を得た犯罪者であり、今回の件で関わった人物の殆どから目の敵にされてもおかしくない状況である。そして、ケイティ自身もそれについての償いをしてほしいと思っている。

 だが、廻が突きつけてきたものは、「自身の手によりアルベルトを償わせる」という最も直接的なものだった。それには、娘であるケイティ自身の覚悟が十分になければすべて逆効果に終わってしまう。この時点でそれは水爆が起動する可能性もあり、廻はそれを考慮しながらこの決断をケイティに投げたのだ。


「解釈と行動は君に任せる。指定がないなら、グルベルト孤児院の前に飛ばすが?」

「それなら、私の自宅にお願いします。蹴りは自分でつけます」

「そのあたりは君に任せる。それでは、そのまま君の家まで飛ばす。一瞬で終わるが、とりあえず転送が終わったらすぐにガスマスクを外したほうがいい。街の中でガスマスクを付けた少女が突然現れれば大分不思議なことになる」

「多分間に合わないので別に構いません。ではお願いします」


 ケイティの言葉を聞いた廻は、「健闘を祈る」と微笑みかけながら神々しい光をケイティに向かって放ち、そのまま完全に転送されたことを確認して自身も魔天コミュニティへと赴く。

 廻が向かった場所は、ノアとマリウスらが事態を観察している管理塔-M屋上だった。しかし、ノアはおらず、マリウスが退屈そうに背伸びをしている光景にぶち当たる。そのさまをみた廻は、呆れた面持ちでマリウスに声をかける。


「あんまりいい雰囲気じゃないな?」

「あ、父さんここに来てたんだ」

「プラン変更の通り、俺が方舟をバラそうと思ってルイーザに出向いたんだが、どうやらまだ逆セーフティが残っていたみたいだ。だから、一旦こっちに来て仕事の進捗状況を知りたくてね」

「ミラがいい感じにまとめてくれて、イレースたちは説得しやすい状態になってると思う。ていうか、まさに現在進行系で説得中さ」

「いい感じにトントン進んでいるのなら、どうしてノアがここにいないんだ?」

「それなんだけど、さっき電話が来てどっか行っちゃった」

「期待はしていないが、誰からの電話だったんだ?」

「知らなーい」

「だと思ったが、誰だと思う?」

「僕に聞かれてもねー……、でも、声はどっかで聞いたことがあるような気がするね」

「曖昧すぎるだろ。それを聞きたくて俺はここに来たんだがな」

 廻が苦言を呈すると、マリウスは大あくびをしながら続ける。


「どっちにしても、ここまでくればある程度は安心でしょう?」

「大方マリウスは、あの水爆が爆発すればどういうことになるかわかってないだろ」

「知らなーい。興味もあんまりないかな」

「人間にとっても重要なターニングポイントになった兵器の一種だ。人間は性懲りもなくバカみたいに兵器ばっかり考えるからな」

「儲かるんでしょうよ。僕も儲け話は大好きだよ。アロマは僕の数十倍は大好きだし」

「まぁ、時代が違えば兵器じゃなくて石器が取って代わるし、原始的になっても物が拳になるだけで争いは延々さ。どこかで何かが変わらない限りな」

「そのなにかって、随分と破壊的なニュアンスを感じるんだけどね~」

「そんなことは神が決めればいい。俺たちにとっては全くもって考えるに値しないものだ」

「冗談いうね。父さんはそういうこといろいろ考えちゃうくせに」

「お前にも言っておくが、利益のないことはできる限り考えないほうがいい。頭が痛くなる」


 廻がそう続けた後、すぐに踵を返してどこかへと向かおうとする。当然これにはマリウスも「どこに行くの?」と在り来りな質問を投げる。

 すると、廻は「事態の説明さ」と残してそそくさと出ていってしまう。それを黙ってみていたマリウスは、再び暇そうに欠伸をした。


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