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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十九章 不条理成る管理人
157/169

-15

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 15節目です。説得という部分を書くのはこれが初めてだったのですが、一番大切なものとして人間力が挙げられますね。人間力が残念だとあんまりいいものにならないことが今回よくわかりました。人間的にレベルを上げてもう一回作りたい…。なんとなくこう、ご都合的になっているのが悲しいです(´・ω・`)


 次回の更新は今週金曜日22日22時となっております。ポッキーの日の亜種的な日に更新されます!


 勿論、リユニオン跡地やルイーザの地下施設から出てきた情報のほとんどは、「方舟の管理はパールマンである」とまで推測させる情報ばかりだった。

 そこから急に、ベヴァリッジが方舟のことを管理できていることを前提としているイレースの推論に至ることは難しい。ある程度話をさせてから最終的にそれを指摘するところが実にベヴァリッジらしい。

 イレースがそう感じながらも、今までのパールマンの動向についての疑問を指摘する。


「勿論です。貴方は当初、方舟の権限を持ってはいなかった。貴方はその権限を交渉により受け取っていたのでは?」

「交渉? 誰と?」

「どうしてこの厄介事に、全く参戦してこないんですか? コミュニティのもうひとりの管理者、パールマンは……」

「……根城であるコミュニティの危機に、パールマンがだんまりを決め込むことはありえない。そう言いたいのですね?」

「えぇ。パールマンに動かれれば貴方も厄介事を被る可能性が濃厚だ。だからお互い最初に取り決めをした。方舟の権限と相手は沈黙を貫くこと、その2つに釣り合う対価を貴方は支払っているのでは?」

「贅沢な取引ですね。パールマンにそれらのことを要求すれば、私は一体どんな対価を支払わなければならないのですか?」

「例えば、25年前の事件の証拠の隠滅やあの事件への関与を不問にするとか、方法はどうだっていいんです。結局は、パールマンのコミュニティでの立場が変わらない限りはね」

「イレース様、随分とパールマンのことを甘く見ているようですね。あの人はその程度の交渉では動きません。なぜなら、彼にとって立場を悪くせず、あの事件との関与の証拠を回収するなんて容易いこと……わざわざ交渉する必要性はない。故に、私が方舟の権限を受け取ることはできない……。貴方の推論は、根底から覆ることになります」

「果たして本当に、パールマンの手のみで証拠の隠滅は成し遂げられるのでしょうか?」


 ベヴァリッジの淡々とした言葉に、イレースは冷静に矛盾を指摘する。


「……今度はこちらから質問をさせてください。パールマンはどうして、方舟という巨大な産物を、25年も放置して今回の事件の発端となったのか……」

「さぁ、私には皆目見当も付きませんね」

「えぇ、そこには論理的かつ合理的な意図はありません。恐らくは、ですが」

「貴方にしては、随分と確証のない話ですね」

「そうです、確証なんてない。いわば、あの水爆は放置されることに意味があったんです」


 イレースの言葉に、ベヴァリッジは表情一つ変えることなく「アリバイ作りですか」と口にする。

「そうです。方舟を放置すれば、確実にどこかで老朽化が進み、パールマンすら想定しないタイミングで爆発することになる。パールマンは貴方そのものを警戒していたんですよ。真実のみで貴方を騙し切るつもりだった……」

「よく、意味がわかりませんが……」

「パールマンが意図するタイミング、つまり、時限爆弾として設置しては確実に“意識してしまう”。その微かな意識でも、貴方は看破してくると判断したからですよ。パールマンは貴方のことを徹底的に警戒している。そのうえで、貴方に恩義を売ることはこの上ないメリットだ。十分話は整合する」

「……なるほど、貴方は十分、パールマンの見立てができていた、ということですね。素晴らしい考察です」

「ありがとうございます……では、僕の言った内容で、お間違いありませんか?」


 これを聞き、ベヴァリッジは少しだけ微笑みながら、「最後の質問です」と口火を切る。



「一連の行動が真実だとしましょうか。でも、それを私がする理由はなんですか?」

「……そこが一番の問題でした。貴方ほど高潔で、優しい方はいない……そんな貴方が、どうしてこんなことをしたのか……」

「そんな素晴らしい評価をいただけるほど、私は自分のことを過大評価してはいませんが、どうにも利益にそぐわない事はできない性分でしてね……。貴方の推論は確かに素晴らしい、それでも動機がなければ、根底からそれが崩れてしまう」

 ベヴァリッジの淡々とした言葉に、イレースは小さく名前を呼ぶ。


「グルベルト、その名前を聞いても、同じことを言うのですか?」


 その言葉を聞き、ベヴァリッジは露骨に表情を変えた。

 先程までの神妙な面持ちではなく、微かで悲しそうな笑みをこぼして、「貴方もその名前を口にするのですか?」と切り返す。その声色は先程までのベヴァリッジのものとは程遠く、まるで機械のように冷たい音だった。


「……貴方も、とは?」

「心のなかで、私に問いかけてくるんです。メルディス様とトゥール様が……、“本当に今していることは正しいのか?”とね」

「やはり……貴方が……」

「イレース様、私はもう、許すことができなくなったのかもしれません。メルディス様とトゥール様の作り上げたこのコミュニティは確かに素晴らしい国家であると思っています。しかし、そこからトゥールらの台頭により、この国は腐っていく……それが明確になったのが、25年前のあの事件だった」


 そこから、ベヴァリッジは狂ったような面持ちで話し始める。


「あの事件は、トゥールとならず者のケルマータが組んだ事による、コミュニティの巨悪でした。彼らは、“同胞を人質にとって人間を支配する”……たったそれだけのことで、仲間にまで手を掛けた。そして、あの一件でグルベルトは死んだ。彼がこのコミュニティのなかで、最初の犠牲者だった」

「……それまで、貴方が守ってきた。同族殺しが、それにより破られたんですね?」

「えぇ、グルベルトは本当に優しい子でした。彼の本当の力はその高潔な精神と卓越したセンスでした。遠くにスポアの扱いは群を抜いていて、最盛期のトゥール様すらも超える力があったはずです。私の目に狂いがなければ、と添えておきましょうか」

「彼は……貴方の、教え子だったのですか?」

 イレースがそう尋ねると、ベヴァリッジはさめざめと涙を流しながら言う。


「あの子は私の境遇と似ていた……。親もなく、誰も信じる気になれなかった。それでも献身的な周りの支援によりようやく彼自身の幸せを取り戻す事ができた。それなのに……それは簡単に踏み潰された」

「……だから、復讐を……?」

「決意するのは一瞬でした。全てが収束した日……、私は彼のことを迎えに行きました。そこにあったのは、あまりにも無残な彼の遺産でした。肉体すらもそこにはなく、残っていたのは彼が生きていたとされる微かな残骸のみ……。感じたこともない、“怒り”でした。メルディス様がいなくなったときも、信頼していた仲間に裏切られたときも、こんな感情が生まれることがありませんでした。凄まじい……怒り、怒りでした」

「貴方に復讐を決意させたのが、その時……だったのですか?」

「復讐って、何なんでしょうね。論理的でもない、合理的でもない、誰も得をしない、あるのは後悔と罪悪の残滓ばかりだというのに……」


 ベヴァリッジの悲痛な言葉はイレースの表情に強烈な罅を与え、その心中を察して拳を握りしめる。

 しかし、ここまで来た以上はベヴァリッジの行動を止めなければならないという意志のみが、イレースを突き動かしていた。


「ベヴァリッジ様……」

「わかっています。貴方が言いたいことはとてもよく……、ですが気持ちがどうしても抑えきれないのです。この怒りはどこに抑え込めばいいのでしょうか? どうして、犠牲者がいて、加害者がなんの報いを受けることなく生を享受しているのでしょうか。私はもうわからないのです」

「……それでも、復讐はすべきではない、貴方もよく分かっているはずです。怒りが収まる場所がないなら作ればいい、だからこ我々がいるんです」

「えぇ……きっと貴方は、その優しさで受け入れてくれるのでしょう。でも、そのたびに思ってしまう、“また”貴方を失ってしまえば、今度はきっともっと大きな復習に出てしまう。それが分かるんです。だから、私は復讐を完結させる」


 ベヴァリッジはそこでなにかに取り憑かれたように席を立ち、端末の前に移動する。

 その行動から、イレースはベヴァリッジが次に何をするのかを理解し、すぐさま叫ぶ。


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