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前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
14節目です。次の次くらいで19章はおしまいでしょうか。正直なところ、ここから先の部分からは個人的にあんまり納得のいかないものになっています。それを言えば全体的にこの物語は納得のいかないものではありますが、その中でもラストというのはそういう印象を受けがちな気がします。
元々の目的として仕方がないことはありますが、どっちにしても惰性でやるのって良くないですね…
次回の更新は来週月曜日18日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです!
・管理塔-W メルディス居室
二家会議から単身抜け出たベヴァリッジは、やつれた面持ちで机上に設置されている端末の前に座り込み、両手を組みながらそっと背もたれに凭れ掛かり、楽しそうにほくそ笑む。しかしながら、その笑みには深い切迫と恐怖に駆られていた。
既に意志は決しているはずだった。それでもベヴァリッジは、己がやろうとしていることへの決断ができずにいた。あそこまで啖呵を切った以上、そして第三の組織を止めるには、この3日間のうちに方舟を起動させるしかない。いくらエノクδといえども、20メガトンの水爆の爆発に耐えうるとは思えない。だからこそ、ミラたちが拠点に戻った時点で水爆を起動する。それが、ベヴァリッジが構築した唯一の方法である。
そして、その手段を用いるべく、端末を立ち上げて水爆起爆の準備を行った。その間、大いなる逡巡が常にベヴァリッジの思考を満たしていて、迷いが常にその影を追っていく。
だが、それでも「実行」のキーを叩くことは簡単ではなかった。憎しみと怒りの対価を満たす「実行」のキーであるが、それでもベヴァリッジは簡単にこの決断を行うことはできないでいた。それはこの場だけではない。ペリドットやアゲートを、第三の組織のスパイであるとわかっていながら、この国の重役として配置させた時点で、ベヴァリッジは苦悩していた。
ベヴァリッジが復讐を誓ったのは、ルイーザという国家とイルシュルを始めとするトゥール派の連中に対してだった。
ベヴァリッジはこれまで魔天コミュニティの国家設立まで多くの魔天に慈しみを持って接していた。その慈しみはトゥールにも平等に与えられていたが、数々の目に余る行動にほとほと呆れの感情も浮かんでいた。それは事実であり、それでもベヴァリッジがトゥールを見捨てることはなかった。
25年前の事件が起きた頃から、それは徐々に変質を始めた。
「失礼します。メルディス様……いえ、ベヴァリッジ様、お時間よろしいでしょうか」
「えぇ。何か、ありましたか?」
ベヴァリッジは結局「実行」のキーを押すことなく、端末から立ち上がりイレースに向かって会釈をする。
対してイレースも同じように頭を下げ、「今そこで、しようとしていたことをお話しいただけませんか?」と訪ねてくる。それを聞いたベヴァリッジは、全てを察したようにほほえみ、手のひらを応接椅子に向けて「お座りください」と返してくる。
それを受け入れたイレースは、お辞儀をしながら椅子に腰を下ろす。ベヴァリッジも真正面に座り、小さく口火を切る。
「さて……何を……、いえ、どこからお話すればよいのでしょうか?」
「……僕は、貴方にとって、どういう存在なのでしょうか?」
それを聞いたベヴァリッジは、目を丸くしながらいう。
「意外ですね……、私にとって貴方がどのような存在であるか、少し考えてみましょう。最も愛する存在、といえば少し臭いでしょうか?」
「……それは、僕の中にある者への感情ですよね?」
「どういうことですか?」
「ここまで来てはぐらかすのはなしでしょう。貴方が僕の記憶を消したこと、僕が気づかないとでも思いましたか? 僕自身の真実を、知らないとでも?」
鬼気迫る言い方のイレースに対して、ベヴァリッジは初めて笑みを崩して、真剣な面持ちでイレースのことを見据えて話し出す。
「……イレース様、私は……」
「貴方にそんな言われ方をしたくはない。僕は……そんなに高潔じゃない」
「いえ、貴方は高潔な方です。死してなお、大いなる災禍から多くの者を守ろうとしている。そしてそれは今も同じだ。“私から”、彼らを守ろうとしていますよね?」
ベヴァリッジの宣戦布告に対して、イレースも一切動揺することなく、あくまでも毅然とした表情で見据える。
「えぇ。これまでも、今までも同じように守ります。同じ志を持って、貴方が隣りにいてくれると嬉しく思います」
「……貴方には、私がなにをしたのか分かっていてそんな言葉をかけてくれるのですね」
「貴方はまだ何もしていない。少なくとも、実害が出ることはできていないはずです。それを実行するかしないかは、貴方自身に掛かっている」
「イレース様……」
ベヴァリッジは苦しそうに言葉を選ぶ。
「一つお聞かせください。貴方はどこまで、私がこの件に関わっているのか。どこまで知っているのですか?」
「知っているわけではありません……、僕らができるのは推測のみ。それでもこれまで貴方が暗躍していたことは、断片的にでも読み取る事ができる」
「ぜひ……お話しいただきたい」
それを聞き入れるように、イレースは拒絶も何もすることなく、ひっそりと話し出す。
「最初に、貴方はトゥール派がルイーザ側に侵攻して25年前の事件の証拠隠滅と人間に対していい顔をしない連中の票稼ぎをしようとしていることを気取った。その時点で、貴方はルイーザ共々、侵攻したトゥール派を吹き飛ばそうとしたのではありませんか?」
「質問をするのはまとめてさせていただきましょう。続けてください」
「わかりました。そこで貴方は、同時期に第三の組織の影があることを知り、それがコクヨウのリーダー・ティエネスまで参加していることも把握していた。まともに衝突すれば厄介事は更に増大すると踏んだ貴方は、第三の組織自体を利用することを決意する。だから、スパイであるとわかっていながらネフライトやアゲートをコミュニティに入れた。それと同時進行で、貴方はルイーザ側にある厄介な存在、ストラスたちが抱える“天獄”に対して、少なくとも動きを封じるアクションを起こした。それが、ゲリラ団体宴を利用した社会的に天獄を封じる作戦だ。大方、プラン自体を貴方が作成してそれを宴経由でトゥール派に伝えれば、貴方が動いたことなど気づかれない。実際に貴方が行動すればもっと慎重に動いたはずだ。誰も、貴方が宴と組んでいたなんて信じないし信じられないだろう。まんまと天獄側の動きを封じた貴方は、同時に第三の組織の首謀者が僕であることを気がついたことで、そのまま僕の記憶を消し去った。これが、僕が記憶を失って取り戻すまで、貴方が裏でしていた行動だ」
「なるほど……、私や他の者の行動から、そして完全に0の状態でそこまでの推測を行ったこと、流石はイレース様といったところでしょうか。しかし、幾つかお聞きしたいことがあります」
ベヴァリッジはそう言いながら、一つ一つ疑問を口にしていく。
「まず、私がスパイである貴方たちを見過ごした理由はなぜでしょう? いくら隠れ蓑したかったとはいえ、流石の私もエノクδ筆頭に精鋭ぞろいをスパイとして放置するのはリスキーすぎる。おまけに、このコミュニティには直近で生まれたエノクε……レオンまでいる。火種を増やすのは、なんの力も持たない私にとっては愚行では?」
「確かに、単純に考えて数多の怪物を受け入れるのはリスキーだ。だが、貴方はレオンのことすらも利用していた。トゥール派がレオンの力を欲している事に気がついていた事、そして宴にトゥール派閥と結託していることを知っていたのなら、確実にトゥール及び宴はレオンの力を狙う。そして第三の組織は各々の目的達成に尽力する。それぞれが全く別の方向を向いていれば、貴方なら確実にそれらをコントロールできるはずだ。特に、最初に時点で宴はトゥールと結託してレオンのことを狙っている。そこで、貴方は宴の襲撃の直前に区域-Bに出向いた。宴に未だ協力していると錯覚させるためにね。でも、それはその本当の目的は別にある。貴方はレオンに宴を始末させるつもりだったんだ。既に天獄の動きを封じて切った宴はもう用済み、むしろ危険因子でもあった。だから貴方は他の者に殺させたんだ」
「なるほど……違和は先程よりも少ないですね。ですが、未だ幾つもの疑問が残ります。どうして、私は方舟の管理権限を持っているのですか? 方舟は元々トゥール派が管理しているはず……私がその権限を握っていると、どうして思ったのですか?」
ここに来てベヴァリッジは、最も根本的な質問を行いイレースを翻弄しようとする。




