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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十九章 不条理成る管理人
155/169

-13

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 13節目です。あと3回位で第19章はおしまい、20章が最後となります。なんとなんとようやく現実でこれを終えることができたので、これからツイッターでの告知は止めさせていただきます。

 このお話が終わるまで現実で結構イベント山積みだったのですが、無事に終わる事ができて嬉しいです。書き終えた感想とかはブログとか、もしかしたらこっちでも後書きとして書かせてもらうかもしれませんが未定です。


 現実では終わっているので気分が切り替わりませんが、更新そのものはもう少しだけ続くのでこれからも最後までご覧いただければ嬉しいです!


・魔天コミュニティ 区域B



 会議室で戦闘が開始されたのとほぼ同時期、アイザックの導きのもとキャノンはカーティスの肉体を探すために空っぽになった区域Bを訪れていた。

 閑散とした区域Bは本当に静かであり、カーティスがこんなところにいるのか疑問に思うほどだった。

 しかし、キャノンの疑問はそこに現れた2人の少年によりすぐに確信へと変わることになる。


「やっぱりここを探しに来ましたか……」

 分かりやすく何かを探しているキャノンに対して、背部から現れた少年は感心するようにそう呟く。それに気がついてキャノンが振り向くと、そこには金髪碧眼の美少年が立っており、穏やかな笑みを浮かべている。すると、更にその奥からもうひとりの少年が現れる。


「誰の入れ知恵だ? ここに来るなんて随分と物好きじゃないか」

「……どちら様ですか?」

「それは僕らの質問ですよ。と言っても、貴方は有名人ですね。キャノン・アーネストさん、ですよね?」

 金髪の少年の言葉に、キャノンは臨戦態勢に入るように背部からスポアを2本繰り出す。

 しかし、それに対して少年は楽しそうになだめる。


「僕らは別に殺し合いに来たわけじゃありません。危害を加えるつもりもないですし、むしろ僕らは貴方のことを迎合しています。ね? サファイア~?」

「俺は戦闘向けの性能をしているわけじゃないから、戦闘になったらお前に任せるぞ、クリスタル」


 お互いの名前を呼びあったことで、キャノンは金髪の少年が「クリスタル」、もうひとりの黒髪の少年が「サファイア」という名前であることを知る。

 名前を知ってもなお、キャノンは怪訝さを強めて更に尋ねる。


「……何者なのかが知りたいんだけどね」

「これは失敬、僕らは貴方たち風に言えば、第三の組織の小間使い……僕はクリスタル、こっちの不良こじらせてる子がサファイアです」

「不良じゃない。大体小間使いってなんだ」

「まぁそれ以外の形容が浮かばないんだけどね。それは置いておくとして、僕らがここにいるのはあくまでもここを監視するためだ。だけど、もし一人で二家の人物がここに来れば、逆にカーティスのことを明け渡すように言われている」

「それなら、カーティスはここにいるの? ていうか、なんでそんなことを?」


 キャノンがそう尋ねると、意外なことにクリスタルはつらつらと話し始める。


「それを話し始めるには、一つの前提がある。貴方はここに、誰の助言で来たのでしょう? 僕らとしては、アイザック・マクグリンからの指示でなければ、今の話はなかったことにしたいのですが」

「……最初から、アイザックさんからの指示であるとわかって話したんですよね?」

「勿論、だってその状況に至るのは、ルイーザとコミュニティにいて、かつ僕らのことを王側の人の中で彼一人だけなんですもの」

「つまり、僕がここに来た時点で、僕は君たち側の立場にあることが証明されるのか……」

「えぇ、アイザックではなく貴方がここに来たということが最たる証拠でしょう? 救出が目的なら、アイザックが来るに決まっている。恐らく、第三の組織と貴方たちはベヴァリッジという存在に対抗するために協力関係を結ぶことになった、という感じじゃないですかね?」


 かなりの確度で話を言い当てているクリスタルの言葉に、キャノンは「一体誰がそんなことを?」と尋ねる。

 すると、クリスタルはサファイアに目配せしつつ、第三の組織がなんのかということを語りだす。


「そもそも、第三の組織とは、何だと思いますか?」

「なんだと? どういうことですか?」

 あまりにも抽象的なクリスタルの言葉に、キャノンは言葉を反復する。一方、それに補足するように、サファイアが話し出す。


「言い方が悪いぞ。具体的に言えば、アンタは俺たちが何を目的に動いていると思っているんだ?」

「何って……ウロボロスの起動?」

「それはあくまでもプロセスの一つだ。必要なのはその先で、俺たちはそれを誤認させていることを目的に行動している。アンタは、本当の目的がなにかわかるか?」

「本当の目的……」


 同じように言葉を繰り返したキャノンは、最悪の想定に行き着くことになる。

「もしかして……、このコミュニティの制圧とか!?」

「そうやって勘違いさせることが僕らの目的なんです。でも、そうやって誤認していただけるなんて、僕らの演技もそこそこ何じゃないかな~」

「……え、目的はエノクδによる復讐じゃ……ないの?」


 キャノンは最悪の想定から急に安堵へと叩き落され、鳩が豆鉄砲を食ったような顔のまま立ち尽くす。

 対してクリスタルは、キャノンの言葉を聞き吹き出したように笑う。


「あっはは……残念ですが、エノクδは復讐なんて不幸を呼ぶことはしないですよ」

「それに、アンタたちエノクδが誰かわかってるのか?」

「……ペリドットが、エノクδじゃない……?」

 キャノンのこの言葉を聞き、クリスタルとサファイアは大きく首を縦に振り、「意外に僕らもいい線いってるじゃんない?」など楽しそうに話し始める。すると、すぐにサファイアが話し出す。


「申し訳ない。あまりにもこっちの思い通りに進んでいるみたいで少し安心しただけだ」

「エノクδはね、僕やサファイア、本体だと思いこんでくれてるペリドットを作り出した本体が別にあるんだ。僕らは本体から生まれた、いわば目的のために存在する分身さ」

「分身!? でも、ペリドットはエノクδの能力として挙げられていた生命体を作り出すことができたはずだけど……?」

「分身と言っても、僕らが扱える力はそれぞれ異なります。ペリドットは、本体みたいに分身を作り出し使役する事ができる能力があるんです」

「ペリドットは完全に戦闘向けのタイプだし、もうひとり侵入しているネフライトも相当な戦闘狂、特に後者は話が通じる相手じゃない」

「だからこそ、僕らがここでフォローアップをしているわけです」


 まさかまさかの話を聞き、キャノンは呆気にとられながらも、本物のエノクδの所在と目的について尋ねる。


「……本物のエノクδはどこにいる? 何が目的なんだ?」

「質問責めですね。まず最初の質問ですが、本体は僕らがしていることについてあんまり知らないはずです。なにせ、僕らは本体の意識とは別の次元で行動しています。故に、本体はどちらかというと真相を求める貴方たち側、もっと言えばアイザック側であると言えるでしょう」

「なんだって? それなら君たちは、誰の指示を受けてこんなことをしたんだ?」

「僕ら分身を統率するのはペリドットの役割なんだけど、僕らはエノクδから出現したのは確かですが、同時にほとんど人としての自我意識と思考能力を持っています。つまり、独立した意思を持って動いているといえば端的ですかね?」

「つまり、君たち一人ひとりが人間に近い形の行動をするっていうことだよね? それなら、なおのことその後ろで誰か指示する者がいるんだよね?」

「僕らの発端からお話しようか。サファイア、ほら話して」

 話を振られたサファイアは首を縦に振りながら話し出す。


「一番最初に話を通されたのは俺だった。それが発端となったイレースからの依頼で、街の下に凄まじい水爆があるからそれを一緒に止めてくれ、っていうものだった。恐らく、観測されたエネルギーの中でルネの……あ、本体のエネルギーに似ているものを探して俺のところに来たんだろう」

「なるほど……イレースはそれで君たちのところに来た、それで、その目的は?」

「実はその時点から難題だった。話は簡単に点と線が繋がるようなものじゃなく、もっと複雑で厄介なものだ。まず、状況を整理する。①ルイーザには25年前の遺物である水爆がある、②そして水爆はテンペストという現象のおかげで誤爆する可能性がある、③同時進行でコミュニティではルイーザへ侵攻する計画が進んでいる、④一方でベヴァリッジはトゥール側諸共復讐したい、全体を通せばこんな感じか?」

「ごめん、既に理解が追いつかない」

「この4つをいい感じにまとめる手段として、イレースが立てていた計画は、第三の組織への対抗策としてウロボロスの起動を行い、その時点でベヴァリッジの動向に合わせてイレースが内部でトントンさせる予定だったんだけど……」

「曖昧すぎませんかね……?」

「イレースもその辺りはアドリブだったんだろう。だが、ベヴァリッジはイレースの行動に勘付いた……そして、イレースのエネルギー回避を目的としてヤツは記憶を消して話をリセットした」


 それを聞き、キャノンは首を縦に振りながら言う。

「……記憶を消されたイレースが、急激に記憶を取り戻せば暴走もあり得る」

「イレースはこの計画が実施される直前、自らの記憶が消される可能性を考慮して以降のプランをノアに任せる手引をして記憶を失った。自分の行動すらもプランに組み込むようにしてな」

「そこまで読んでいたのか……でも、目的の根は変わらないんじゃないの? 最終的には説得する気だったんだろう?」

「これはなんとなくだけど、イレースが本当にやろうとしたことは説得じゃなく、ベヴァリッジが持っているカードをすべて砕いた上で、少しずつヤツの気持ちを変えることだっただろう。それほどの行為でなければ、ベヴァリッジは変わらないと踏んでの行動だったんだろう」

「それが、今の段階で事態は急激に悪化した。強硬手段としてベヴァリッジを説得しなくてはいけなくなった、そういうこと……?」

「あぁ、正直事態はイレースの技にかかっているな。俺たちはその点の成功の確率を上げるために、今から大切な鍵を渡す。キャノンさん、そこのカプセルにカーティスの本物の肉体がある。今すぐ、管理塔-Wに運んでほしい」

「Wに? 今彼らがいるのはMの方だよ?」

「イレースたちは既にそこへ向かっている。会議の方で上手くいったのなら、確実にベヴァリッジは方舟の起動を行うだろう。移動時間をみれば、恐らくは……もう少しで本当の終結が始まるだろう」


 サファイアの話を尻目に、クリスタルはせっせとカプセルの中にあるカーティスに衣服を着せて、細身でありながら凄まじい腕力でカプセルを担いでキャノンの前に置く。


「残念だけど、僕らは残念無念このまま撤退する。後は貴方に任せます」

「……ここに来てどうして丸投げするのかな?」

「やだなー、僕らがこれ以上チョロチョロすれば警戒されるじゃん! 僕らはお家に帰るよ~」

「はい?」

「俺たちが動けば意味がない。コミュニティ内部で頑張っていただけなきゃ、ベヴァリッジは止められない。後は頑張ってくれ」

「僕らは草葉の陰から応援しているよ!」

「なるほど……君たちが参加できるのはここまでって言うことね……」


 なんとなくながら理解したキャノンは、すぐに巨大なカプセルを担いで早速その場を後にしようとする。

 しかし、カプセルを担ぎながらキャノンは、2人に一つ質問をした。


「君たちは……どうしてこんなことを?」

「どうしてですか?」

「エノクに対して、我々は確かに最低の愚行を行った。君たちほどの力があれば、真正面からこのコミュニティを潰すこともできたというのに」

 物哀しげにつぶやくキャノンに対して、クリスタルもサファイアも首を傾げて顔を見合わせる。そして、ひとしきり疑問符を浮かべた後、笑いながら話し出す。


「それはつまり、なぜ復讐をしなかったか、ということですか?」

「直接的に表現するのなら、そうなるね」

「逆に問いましょう。どうして、“復讐なんて”面倒なことをしなければならないのですか?」

「せめて利益が伴うものじゃない限り、そんな無駄なことに徒労するなんて馬鹿らしい」

「とまぁ、僕ら基本は本体の人格に依存しているところがあって、本体が“復讐なんて無駄”って思ってるから、意味がないんですよね。僕ら、利益と主人の安否くらいにしか興味ないんで」


 クリスタルとサファイアの楽しそうな会話をききながら、キャノンは苦笑いを浮かべながら「あっそう」と笑いその場を去った。


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