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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十九章 不条理成る管理人
154/169

-12

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 第12節目です。ここで一旦区切りが付き、最終盤に進みます。第19章はここで大体3/4来たところでしょうか。全体的に本当に長いお話でしたが、現実でもほぼほぼ終わりです。今度は短いお話を書きたいですね!


 次回の更新は来週月曜日11日22時となっております。次回もご覧頂ければ幸いです!

 計画通りにことが進んだ状況でありながら、それでもその場にいた全員が一切の油断も見せず、各々の役を演じる。最初に口を開いたのはノアだった。ノアは、笑みこそ浮かべているものの、ミラに対して殺意満々で尋ねる。


「ねぇ~ミラ、約束が違うような気がするんだけど?」

「ウロボロスの件か?」

「それ以外に何があるのかな。まさかタダ働きをさせようって魂胆じゃないよね?」

「さぁな、今から離脱してもらっても構わない。もうアンタに用はない」

 ミラがニヤつきながらそういった瞬間、ノアは右腕から立体的な異形の文様を出現させ、ミラの体を覆うように更に圧力をかける。その声色は、今までのノアとは全く違うもので、これまでにはない強い言葉遣いだった。

「調子に乗るなよ。お前なんて簡単に潰せる……その点をよく理解できていると思ったんだがな」

「……冗談さ。こいつら全部ぶっ殺して起動すればいい、楽しんでからでも遅くないだろう?」

「コイツらに死なれたら困る……、どうせ起動にはコイツらの持っているパスワードが必要だろう」

「それも全部、こっちで仕入れてやる。それでお互いにハッピーさ。その程度でいいか? ノアさま~?」


 嘲笑的なミラの言葉遣いに、ノアは少しだけ考えた後に文様を体の中にしまい込み、表情を翻してニコニコと笑みを戻す。


「まぁ~、それでもいいかな。僕としては、ウロボロスを起動さえできればそれでいいんだから」

「そーそー、ガキの冗談に翻弄されるなんてアンタらしくないぜー」

「ふふ~ん、君みたいなクソガキ大好きだよ~」

「そいつはどーも、ベヴァリッジさん、貴方との対談は面白かった。今度は戦場で会いましょう。楽しみにしていますよ」



 ミラはそう言い残してそそくさとルネを連れて会議室を出て、そのまま徒歩で管理塔-Mを後にする。

 室内は混乱と焦燥に包まれ、暫くの間誰も言葉を発することができなかった。無論、それも一つの演技なのだが、特にエンディースは本当に全面戦争をするのかと思い込み、恐らくは演技とは程遠い恐怖に苛まれていた。

 一方、ビアーズは内心「ここまでやるか」と感嘆の声を上げつつも、すぐに一連の事柄がノルマであることを思い出してベヴァリッジに食って掛かる。


「ベヴァリッジ……、正気か?」

「今必要なのは時間です。第三の組織の首謀者であるあの男は、恐らく本気で我々に恐怖を与えて、掌で踊らせることが目的です。口から出てくることの殆どがでっち上げに近いでしょうが、奥底にあるこちらへの怒りは本物です。こっちを無秩序に追い込むことが目的であるとするのなら、彼は確実に自らの手で審判を下す方向を望むでしょう。これ以外の選択肢では、我々は既に細切れになっているところです」

「だからといってその決断はリスキーすぎる」

 ビアーズの尤もな言葉に、ベヴァリッジはため息を付きながら、鬼気迫る調子で答える。


「冷静に考えてください。我々はローリスクを選んでいる暇はないでしょう。既に我々の命は相手の手中であると言っても過言ではない。ここから先重要なのは、どうやって彼らを止めるのかという方法のみ……それを構築すること、そして実行することに何かしらのリスクが有る場合でも、我々はそれを実行しなくてはならない。そうでしょう?」

「タイムリミットは……さっき言った3日しかない。その短い時間の中で対策を練られるのか?」

「考えるほかありません。これ以上の先延ばしは相手を刺激する可能性もあった。今我々がミンチになっていないのも、あの男の気まぐれの範疇であることを忘れないようにしましょう」

「説得はできないぞ?」

「さて、それをこれから模索することにしましょう。それでは失礼します」


 ベヴァリッジはその場にいた全員に会釈してゆっくりとその場を後にする。その時、ベヴァリッジはしっかりと、いなくなっていたイレースらを確認していた。

 一方、ある程度すべてのことが達成された今でも、ビアーズを始めとする多くのものが沈黙を通すことしかできなかった。



 その頃、凄まじい舌戦を繰り広げたミラとルネ、ついでにネフライトは管理塔-Mからほど近い遊歩道を歩いていた。そんな中ルネは、大丈夫だと言わんばかり「なにか言ったら?」とミラに話しかける。

 すると、ミラは真顔でこう告げる。


「完全勝利になにか不服か?」

「残念だけど、僕にはさっぱりちゃんさ。大体、ネフライト、君は一体ここで何をしてたの? 君もペリドットも、ついでにクリスタルもサファイアもどうして誰一人として僕にお話をしてくれないのかな」

「僕らはミラのためにしか行動できないから!」

「一応、僕は君たちの本体っていう立ち位置のはずなんだけど!?」

「本体のために行動するのは別途料金だから」

「何この人達、いい加減にしてほしいんだけど」

 ルネがそう悪態をつくと、ミラはネフライトの頭を撫でながらルネのことをなだめる。


「ルネもそう言うな。多分ネフライトは、俺たちを水爆から守るためにやってくれたことだと思うぞ」

 そのミラのフォローにも、ルネは頑なである。

「いや、そうだと思うよ。だけど、それならそうと言ってほしいし、こっちだって、全部察してねーでフォローできるほど優秀でもないんだよ。ていうか、もういい加減振り回すのやめてほしい」

「それはまぁ、君の言う通りだけどさ~、こっちとしては、十分善処したと思うんだけど?」

「善処するのは素晴らしいけど、僕らに説明がなかったのはどういう理由かな? 過激な嫌がらせ?」


 ルネがかなり苛立った調子でネフライトに尋ねると、ミラもそれについては疑問だったようで首をかしげる。


「そういえば、どうして俺たちに何も言わずにコソコソ動いてたんだ? そこについては合理的な理由がないならゲンコツものだぞ?」

「えっと……それについては、その……」

「何、僕はおろかミラにも言えないの?」

 すっかりやさぐれたルネの言葉に、ネフライトは露骨に狼狽しつつ、ちらりとミラのことを一瞥して言いづらそうに話し出す。


「実はさー、この話を持ってきたのノアだったんだけど、当初のプランってミラたちを囮にする方向で話が進んでたんだよね……。だから、みんなに話が回れば相手に警戒されちゃうし、そういう話から、こういう感じになりました」

「どういう感じだよ。ていうか、僕ら知らん間に巻き添え食らってんじゃん。被害者じゃん僕ら」

「まー確かにそれはあるけど、相手が相手だったし間違った選択ではないんじゃないか? ベヴァリッジなら、もしかしたらルイーザ側でのこっちの動きが割れてしまってもおかしくない」

「ミラの言う通り! 僕の過失はないよ!」

 ネフライトは塩らしくそう言い訳をした。無論、これにはルネも呆れた面持ちでもの言いたげに黙り込む。

 そんな中、ミラは特段気にした様子もなく、すっかり戦いが終わったように背伸びする。


「まぁ、説教をするのはネフライトだけじゃないさ。後は完全に話が収束するのを待とう。どうせ今頃、本当の首謀者がなんとかしてくれているさ」

「それって、イレースさんとカーティス君のこと?」

「その二人以外に誰がいるんだ?」

「いや、別に信用していないとかじゃないけど、本当に説得っていう方法で大丈夫なのかな」

「冷静に考えて、ここまでのことをやらかしておいて、説得で解決するっていうのに不安が残るのは重々承知しているが、恐らくはそれでしかヤツの復讐心を止めることはできないぞ」

「……そもそも、なんでベヴァリッジさんはこんなタイミングで復讐なんて選んだのかな」

「というと?」


 ルネの言葉に、ミラは疑問符を浮かべてそう尋ねる。

 するとルネは、ベヴァリッジの心境を考慮しながらも少し落ち込んだように話し出す。


「だって、ベヴァリッジさんが一番大切にしていたものをなくしても、それでも復讐に走ることはなかったのに……、なんで今になってルイーザを滅ぼそうなんて思ったのかずっと疑問だった」

「……気になるのか? ヤツがここに来て急に全部吹き飛ばしてやろうとしたのが」

「僕だって、復讐してやりたいって思ったことは何度もある。だけど、その度に相手にも大切な人がいるんだって言い聞かせていたんだ。そして、今が一番大事だって思うようになって、もう復讐したいなんて考えはない。きっとあの人も同じだと思う。それなのに、どうしてなのかな……って」

「なるほどな。お前の考えも尤もだろう。復讐ほど愚かで非合理的なものはない。だけどなルネ、復讐ほど……人格を持つ者の心を納得させるものはない。それもたった一時の自己満足とその次に来る強烈な焦燥、相手から受ける強烈な殺意を代償にしてな。時々、俺もそれをしてみたい気持ちになる。お前を傷つけたサイライとかは尚の事な」

「そういうものなのかな……」

「人は、人が思うほど強くない。いくら自分が冷静だと思いこんでいても、怒りや憎しみに苛まれてしまう。そして、それらの感情に苛まれてしまう……それくらい俺たちは弱いんだ」

「そして……それはベヴァリッジさんもそうだったの?」

「あぁ……ヤツも、失い過ぎてわからなくなったんだろう。なぜ、自分が生かされているのか、どうして大切な人ではなく、自分だけ生き残ってしまったのか……そういうことを考えるうち、そいつを整合させることに全力を注ぐのさ」

「そう……なのかな」


 ルネの悲しげな声に、ミラは宥めるように「まぁ、そう思えるのはお前が優しいからだな」とフォローをしつつ、適当に自分らが飛ばされたアーネスト邸に向かった。



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