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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十九章 不条理成る管理人
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 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 11節目、次の12節目で大きな区切りが付き、後半戦へ移ります。改めて、どんだけ長いんだと思いながらこれを作っているのですが、現実でこの物語はほとんど書ききれているので完走はほぼ確実です。その時はまた、現在停止しているブログの方に今後を書きたいと思っていますが、今は油断なくお話に打ち込みます。


 次回の更新は今週金曜日8日22時となっております。次回もご覧いただければ幸せです。



「……よくわかりましたね。こんなところがどうなろうが、知ったことじゃない」


 その言葉に、ミラとベヴァリッジを除く全員が度肝を抜かれた。

 それは、今まで最重要の目的として行動していた「コミュニティの支配」をどうでもいいと切り捨てたのは、かなりリスキーなことであり、下手をすればすべて瓦解しかねないことだった。

 それでも、ミラはそれを選択し、更に畳み掛ける。


「俺はね、この子と一緒に自分の家で暮らして、適当に美味しいもの食べて時々旅行に行って、楽しい生活ができればそれでいい」

「素敵な生活ですね」

「でも、その前に俺はこの子に辛い思いを強いた、貴方たちを許すことができない。どうしてこんなに回りくどい方法をとったのか……、貴方はそう聞きましたね? 今一度聞きましょう、どうしてだと思いますか? 貴方の弁を借りるのならば、聡明で、合理的で、とにかく目的のために行動する俺が、内部からコミュニティを引っ掻き回して今ここにいる。貴方の考えが聞きたい」

「…………合理的かつ論理的な話ではなく、私自身の考えで答えろ、貴方はそう言いたいのですね?」


 この言葉は、先にベヴァリッジが答えたものではなく、あくまでもベヴァリッジの解釈と考え方で組み立てたもの、つまりベヴァリッジ自身の考えで話せというものだった。

 やや曖昧な言い回しであるが、ベヴァリッジはしっかりと言葉を咀嚼して、少し迷いながらもそれに答えていく。


「人の感情を代弁するなんて器用なことはできませんが、私なりに貴方たちがどうしてこんな回りくどいことをしたのかを考察させていただきます」

「貴方の考え、俺好みであればいいですね」

「これは私好みの考えでもあります。貴方がしたかったのは、コミュニティ内部を引っ掻き回してこっちに恐怖を抱かせること、ではないのですか? 乗っ取ることが目的ではない、しかし復讐はしたい……そして今回の一件で我々は相当に苦しい選択を何度も迫られた。今この時点もそれは同じです。ルネさんのエネルギーは極めて大きく、我々を容易く潰すことができる。ですが貴方はそれを小出しにしてこちらをじわじわと追い詰めた……、少なくとも全員が恐怖したはずです。いつ殺されるかわからないという間の恐怖をね。その恐怖そのものが、貴方が望んだ我々への復讐、そうでしょう?」

「素晴らしい回答ですね。実に俺好みの答えだ」

「そうであれば貴方は本当に恐ろしい人だ。人が持ちうる恐怖を与えることに実に長けている……我々はたしかに、恐怖し……そして今なおその力に怯えることになる。それは常に我々の感情の後を先回るのでしょう?」


 ベヴァリッジがミラにそう尋ねると、ミラはケタケタと不気味な笑いを浮かべながら吐き捨てる。


「恐怖してくれましたか? 十二分に、畏怖してくれましたか?」

「えぇ、この上ない恐怖と絶望を現在進行系で感じていますよ。そして、貴方の気は微かでも晴れましたか?」

「さて、それについてはそちらの解釈に任せることにします。ですが、これからの貴方の振る舞いを見て、俺の絵空事(もくてき)も幾つか変えていきたいと思います」

 ミラが楽しそうにそういえば、ベヴァリッジは同じようにニッコリと笑い、ミラの言葉の裏側を話し出す。


「なるほど……つまり、こちら側の行動を試す、ということですね?」

「えぇ、ぜひ楽しませてください。ただし忘れないでください。俺たちはいつでも、貴方たちの牙城を潰すことができる。それはぜひともお忘れのないように」

「ならば、我々がこれからのアクションは、真剣に考えなければなりませんね」

「早速おっしゃってください。貴方たちはこれから、我々に対してどのような対策を行うのか、とても気になりますね」


 これは今までの会話から、最もベヴァリッジにプレッシャーを掛ける言葉だった。

 一連の会話は、あくまでもベヴァリッジが中心となって議論を重ねていたに過ぎず、全面的にベヴァリッジに負荷がかかることではなかった。実際に行動するのは自らを含む全体で行われ、それに対して第三の組織がどのようなレスポンスをするのかが非対称的である。それに対して、ミラが今ベヴァリッジにかけた言葉は、宣戦布告であるのと同時に、「ベヴァリッジが下した決断に明確な評価がある」という違いがあった。

 これは、ベヴァリッジ自身が相当な賭けに出ることを強いられる。今までの会話から、ミラが「恐怖を与えるという目的を欲していること」、「それに対して徹底的にねじ伏せるという姿勢を崩していないこと」などから、ミラの人格を考えて最良の決断を迫られることになる。

 そして、状況的に他の者の意見を求めることはできない。完全に一人でその決断を行う必要である。加えて、今までの徹底的な圧力とは対照的に「気に入った対処が出されれば、撤退する」というこれまでとは180度異なる意見を示している。それが尚の事、ベヴァリッジの思考を歪ませる。


 無論、これら一連の言葉の重みは、ベヴァリッジも承知するところである。

 更にそれを後押しするように、ビアーズが話に割って入ろうとする。


「ベヴァリッジ、一人で決断するのは危険だ」


 その加勢を待っていましたと言わんばかりに、ネフライトは先程見せたドーム状のスポアを形成し、完全に外部の情報を遮断してしまう。

 完全に孤立した閉鎖空間の中、ベヴァリッジは完全に一人で決断を強いられる。それを確信させられたベヴァリッジは、手のひらを合わせながら肘を付き、今までで一番大振りな笑顔で笑い話し出す。



「……私一人で、決断してもよろしいのですか?」

「勿論、俺は貴方に向かって行っている。他の意見はいらない。貴方の意見を聞きたい」

「それなら、私個人の意見として、貴方に言わせてもらいましょう。無論、今から表明することは確実に実行させます」

「ほう?」


 「実行させます」という言葉とともに、ベヴァリッジは笑みを崩さず途端に表情を変えた。それは、明らかな覚悟を決めた表情であり、露骨な空気の変化にミラも総毛立つ。

 そして、ベヴァリッジは何事もなく、聞き飛ばしてしまいそうな空気で第三の組織への対処を述べる。


「全面戦争をしましょう。こちらもそちらも、全勢力を持ってお互いのことを叩き潰す、本気の戦争を」

「……なかなかクレバーなことを仰るんですね」

「貴方はクレバーととるんですね。私共からすれば、無謀な戦いであることはまず間違いない。ですが、それを貴方が望むのであれば、それが最大の贖罪でしょう」

「贖罪により捧げられるのは、人命ですが?」

「勿論、ただしむざむざと殺させはしません。必ず、貴方たちを止めるすべを探して、必ず勝ちます」

「なるほど、随分と自信満々なんですね」

「何を仰る……、見つけるしかないのですよ。私たちは絶対に貴方のことを止めます。何があろうとも……」


 ベヴァリッジの対処に、ミラは内心で「勝ち」を確信する。

 これにより、ベヴァリッジは「真正面から戦う」という決断を下した時点で、ミラらが一番に目指す目的である。なぜなら、ベヴァリッジの下した決断は第三の組織に対してコミュニティが圧倒的に戦力で劣っていることを自覚している。このことから、ミラはすぐさま次にベヴァリッジが言うであろう言葉を察知できた。

 恐らく、ベヴァリッジは確実に「一定日数準備期間を要求」するだろう。そして、その間に確実にこちら側を滅ぼす手段を講じてそれを実行に移そうとする。ここまでお膳立てをすれば、ほぼ確実にベヴァリッジは方舟の起動を選択するだろう。




「3日間、時間をください。こちら側で体制を整えて貴方たちを迎え撃ちます」

「……俺たちはまだ駒を出し切っていない可能性もある。それでも、戦うと?」

「実に、貴方好みの答えでしょう?」


 完全に読み通りの答えに、ミラはしっかりと笑みを浮かべて椅子から立ち上がる。


「3日後、逃げないことを祈っていますよ」

「勿論です。それでは3日後、よろしくおねがいします」


 ベヴァリッジはそう言い終えて、ミラに対して握手を求めながら深く頭を下げる。

 無論、これに対してミラも同じように頭を下げながらけたけたと歪に笑い、「楽しみにしていますよ、全面戦争を」と言い残してその場からさろうとする。

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