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前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
10節目です。この部分もようやく後半戦、こういう口で攻めつつ守りつつっていう感じは書いてて一番楽しいですね。なんとなくですが、頭脳系のお話は書くのが好きですね、自分の頭の足りなさが露呈するのですが(´・ω・`)
次回の更新は来週月曜日4日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです!
「25年前、ザイフシェフトで起きた事件、よもや知らないとはおっしゃいませんよね?」
「えぇ。しかしそれについては、私たちも被害者の一人です」
「俺たちも同じです。あの事件で、ルネはその力を利用された。そして、ルネの力を止める唯一の手段として、孤児だった俺が選ばれた。そこから先は、この子と二人っきりで生きてきた……その日々にどんな地獄があったか、ご存知ですか?」
「……それについては、謝罪するしかありません。貴方は……、エノクδに選ばれた人間、そういうことですか?」
「正直なところ、俺自身もそれについてはよくわからない。だけど、あの事件から、ルネは心身ともに傷つき、今では俺がいないと他者とコミュニケーションをとることすらままならない……」
ミラは演者としての振る舞いを徹底し、再びルネに同情を買うような設定を加えると、ルネは内心呆れた気持ちをいだきながらも、表情に必死に出さないように大衆から顔を背ける。
しかし、この仕草が見事にミラの付け加えた設定とマッチし、ベヴァリッジすらもそれが本当であると判断する。ルネの仕草まで織り込み済みでこの設定を加えたことが吉と出たと確信したミラは、更に追い打ちをかける。
「……勘違いしないでほしいが、俺は確かに今までの生活は地獄だった。だが、それでも俺はこの子のことを愛している。ともに地獄を乗り切るたびに、この子への想いは比例して強くなっていった。そうなれば、俺はこの子の代わりに復讐を企てるしかない。そう思った」
「つまり……目的は復讐である、と?」
「えぇ……、貴方だけじゃない。あの事件を引き起こすことになったこのコミュニティに、今度は復讐する」
「今度は、ということは……既に人間には復讐をしたと言うことですか?」
うまく話の誘導にかかっていることを理解しつつ、ベヴァリッジの頭の回転の速さを十分に警戒してミラは更に続ける。
「あの事件が起きてすぐ、協力者を作ることができましてね。それが、貴方たちが恐れているノアという怪物ですよ」
「なるほど……だから今度は、コミュニティを潰そうとした……」
「いい解釈をなさる……、ですが、潰すということは少し違う。貴方はそこまで、見切っていますよね?」
ミラは、ベヴァリッジの高い頭脳を信頼してそう言葉を投げる。
すると、ベヴァリッジは顔を顰めながら、その言葉を噛み締めて尋ねる。
「潰す、ではなく、乗っ取る……それが貴方の目的ですね?」
「流石ですね。我々がしたいのは、このコミュニティを乗っ取り我がものとすることだ」
ミラがにやりと歪な笑みを浮かべるとともに、先の戦闘で大ダメージを負っていたビアーズが話に入ってくる。
「ちょっと待て! 何を根拠にそんなことを言っている!?」
「ビアーズ様、どうして先程の交渉にてペリドットさんがあそこまで目的を話すことを拒み、ウロボロスの起動を主訴として恫喝を続けていたんでしょう? その目的を合理的に考えれば話は自然と見えてくる……、彼らにとって、コミュニティの住民を殺しては意味がない。自分たちの手足となって動く、優秀な手駒と王としての地位が彼らの主訴だったんです。ウロボロスの起動を最初に行おうとしたのも、自分たちの意のままに操りやすく力を無力化させること。だから戦闘を行ってまでその目的を隠そうとした。ウロボロスの起動まで話が進めば、我々はもう抵抗することができず、新しい国王の誕生を見るしかありませんからね」
「なかなか素晴らしい頭脳をしていらっしゃる。俺たちの目的、寸分違わず今貴方が仰ったとおりです」
「お褒めの言葉はとても嬉しいのですが、もし貴方たちの目的がこれであれば、我々ができることは本当に、貴方たちと全面戦争をすることになる」
「俺たちはそれでもいい、と思っています」
完全にミラ含む多くの人物の想定通りに話が進んだことで、風向きは確実に好転し始めている。だが、ミラは一切油断することなく、この状況を打開しかねないベヴァリッジの一手を予想しており、それを強く警戒していた。
そして、ベヴァリッジはすぐにミラの言葉に対してこう返す。
「……それは、貴方が心の底から望むことなのですか?」
「どういうことでしょう?」
「少なくとも、私には貴方が本気でこんなことをしようとしているなんて思えない」
「俺が聖人にでも見えますか?」
「言葉を変えます。貴方が本当に望んでいることは……、このコミュニティを手中に収めることなどではない」
「面白い話ですね。貴方は、俺の心のなかでも読めるんですか?」
ベヴァリッジは、ミラの予想通りの厄介事に話を持っていこうとしている。
確かに、ミラが打ち出した目的は、今までの第三の組織の行動と整合こそするが、それが「エノクδ及びミラが望んでいること」に直結しないことが穴になる。それを的確に突いて話を丸めていこうとしているのだ。その布石として、ベヴァリッジは先に投げた幾つもの質問にある。
先にベヴァリッジがミラに質問を投げたのは、「第三の組織の本当の目的の可否を問うこと」だけではなく、突如現れた第三者であるミラやエノクδ本体であるとはいえ、今回の事件とさほどの関わりのないルネが、これまでの行動に関わってきたという事実を問うことでもある。そして、これだけ大それたことをしたという事実と、それを実行に移すまでの動機、そこまでが線として繋がる必要がある。
この急ごしらえの内容では、すべての事実と動機という点が線につなげることは難しい。勿論のこと、ルネやミラが本当にコミュニティを乗っ取ろうとなんてしていないし、第一その目的自体、今までの行動と帳尻を合わせるためにでっち上げたものだ。
此処から先、ベヴァリッジが幾つもの洞察により得られる事実から、ある種取り調べのような状態になっていくだろう。
ミラが想定したベヴァリッジの打開策はまさにそれであり、正真正銘、真正面からの舌戦となる。
「人の心は、解釈でしかありませんから、さほど当てになるものではないでしょう? 貴方も同じような見解であると思っています。だからこそ、私は貴方が先に掲げた目的を達成する必要のないこと、だと思えてならない」
「今の所……、論理的な根拠が一つも出てきていませんが?」
「それではお聞きします。どうして、貴方はこのタイミングで、私との交渉に現れたのですか? タイミングに違和感を覚えます」
「そうでしょうか? 俺たちとしては、できる限り貴方たちに生きていてもらわなければ困る。なぜなら、俺たちが抱えた地獄は死などでは償えない……生きていてもらわなければ、苦しむこともできないでしょう?」
「確かに、貴方のノルマが“我々を生かした状態でこのコミュニティをコントロールすること”ならば、一見このタイミングが最良に見えるでしょう。では、一つ質問します。なぜ貴方は、スパイをいれて徹底的に我々を追い詰めるなんて回りくどいことをしたのですか?」
「…………なるほど。つまり貴方はこう言いたいのですね? 最初から、エノクδの力をちらつかせて交渉に出るのが最良だった、と」
ベヴァリッジとミラの読み合いは、互いに一歩も引かずに舌戦を繰り広げる。
そして、ミラの言葉にベヴァリッジはニッコリと笑う。ミラはベヴァリッジの表情が「余裕の笑み」ではなく、「窮地の表情」であることに気づき、同じように笑う。
「えぇ……、率直に疑問なんですよ。貴方は聡明な方です。合理的でもある。どうして、最短ルートを取らずにここまで回りくどいやり方を取ったのかがね」
「どうしてだと思いますか?」
「私の考えを一つ言わせてください。私は、到底貴方が先に述べた目的に向かっているとは思えない。全てはミスリード、貴方たちには隠された本当の目的がある……一連の動きと貴方たちの目的の乖離はこれによるところが大きのでは?」
「俺たちが復讐をかなぐり捨ててまで選択する目的、そんな物があると思いますか?」
「あると思います。貴方の言動、そしてルネさんとの関係性がそれを物語っている。貴方がここに乗り込んできた目的は唯一つ……、貴方とルネさんの生活に何かしら危機に瀕していて、それを何とかするためにここに来た。そしてその危機は、今までの第三の組織が起こしてきたアクションに符合する」
「どうしてそう思うんです?」
「分かりますよ……、だって貴方、本当はこのコミュニティがどうなろうが知ったことではないでしょう?」
ミラは、ここに来てベヴァリッジが突きつけてきた「自身の本音」を隠しきれているのかが不安だった。
ベヴァリッジの言っているミラの真意は驚くほど当たっていた。ミラにとって一番大事なのはルイーザ直下の水爆・方舟を解除することのみであり、正直なところこのコミュニティが吹き飛ぼうがどうでもいいのだ。強すぎるその真意を隠そうとすれば、ベヴァリッジほどの人物であれば簡単にそれを察知するだろう。
あくまでも真実のみで挑まなければ確実にミラが押されてしまう。それをしっかりと頭にいれて、ミラは話し出す。




